恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 51
…好子さんが、自殺?…
ありえない報道だった…
テレビも新聞も、普通ならば、米倉好子の自殺をニュースで流すことは、ありえない…
なぜなら、米倉好子は、一般人だからだ…
いかに、お金持ちといえど、一般人が、自殺した報道を、テレビで流すことはない…
しかしながら、米倉好子は、先日、あの水野と、不倫騒動で、世間に知られ、その後、婚約の報道まで、流れた。
しかも、それは、米倉と水野の合併の布石というか、序章に過ぎなかった…
それで、世間に知れた…
有名になった…
ゆえに、一般人とはいえ、テレビで、流す価値があったと判断したのだろう…
米倉好子の自殺報道が、瞬く間に、世間に流れた。
私は、ただ驚いた。
唖然とした。
米倉好子さんと、つい先日、会ったばかりだ…
あのとき、好子さんに、悩みがあることは、わかった…
ただ、その悩みがなんであるかは、わからなかったし、それを聞くことは、できなかった…
単純に、好子さんと、それほど親しい間柄ではないからだ…
誰もが、さほど親しくもない人間に、
「…なにか、悩みがあるんですか?…」
と、直球に質問するひとはいないし、仮にそれをしたとして、相手が答えるわけはない…
当たり前のことだ…
また、もし仮に、そんな質問をしたら、
…なんなの、この人?…
と、誰もが内心思うに違いない…
何度か、会ったばかりの人間に、そんなことを聞かれる筋合いは、ないと、思うからだ…
それが、普通というか、大方の人間の対応だろう…
私は、考える。
しかし、考えながらも、もし、あのとき、
「…好子さん…なにか、悩みごとはあるんですか?…」
と、直球に質問すれば、よかったのか、悩む。
仮に、そんな質問をしたとしても、好子さんが、答えるわけはないし、もし、仮に、答えたとして、私にできることは、なにもない…
話を聞くだけだ…
もっとも、これは、誰もがそうだろう…
相談に乗れば、解決できる悩みなど、滅多にないのが、普通だ…
大半は、ただ、話=悩みを聞くだけだ…
それだけに過ぎない…
しかしながら、悩みを他人に訊いてもらうだけで、スッキリすることは、ある…
悩みを吐露することだけで、軽減できる悩みもある。
私は、それを思った。
私は、米倉好子について、悩んでいたが、さりとて、米倉正造に電話をかけるのも、躊躇われた。
米倉正造は、私が唯一、スマホの電話番号を知る相手だ…
しかし、米倉好子同様、さほど、親しい間柄ではない…
私がテレビの報道で、米倉好子の自殺報道を見て、気軽に電話できるかと問われれば、返答に詰まる…
そういう間柄だ…
なにより、前回、米倉好子に会った時、すでに、腹違いの兄の正造と、好子が、血が繋がってない事実を私に打ち明けた。
そして、その事実を父の平造から聞いたと、告げた。
平造は、正造を排している。
いや、
当初から、正造を認めていなかった…
私が、初めて、あの米倉の豪邸に行ったとき、平造は、正造を評して、
「…あの男は食わせ者…」
と、私に告げた。
私は実の父親が、自分の息子のことを、こうも悪しざまに言うことで、ただただ驚いたが、後に、米倉好子の口から、聞いたように、二人の間に、血の繋がりがないならば、納得できる。
自分と、血が繋がってなければ、誰もが、冷静に、その能力をはかることができる。
血が繋がっていれば、そうはいかない…
仮に、誰が見ても、才能がなくとも、オレがやれば、子供の才能を伸ばすことができると、考える。
要するに、なんでも、自分に都合よく考えるわけだ…
親バカの一言(笑)…
しかし、子を持つ親の目から見れば、笑える話ではない…
誰もが、そうだからだ…
そうでない親の方が稀だ…
子供の能力を冷静に見ることができないのだ…
米倉平造は、血が繋がってないゆえに、正造の能力を冷静に見極めたに違いない…
そして、なにより、その事実を、好子さんから、聞いたということは、正造は、あの米倉の豪邸にいない可能性が高い…
すでに、平造は、米倉を水野と合併させようとしている。
そして、自分と血の繋がった好子さんを、水野と結婚させようとしている。
それを考えれば、平造と血の繋がってない澄子と正造に、あの家で、居場所があるとは、思えない…
すでに、家を出て行った可能性が高い…
私は考える。
だから、正造自身も、もしかしたら、私同様、テレビで、好子さんの自殺のニュースを見た可能性も高い…
いっしょに、暮らしていなければ、情報が入らない…
会社もそうだ…
正造が社長候補だったと言っていたが、すでに、会社に出社しているかも、微妙なところだ…
普通に考えれば、会社でも、正造の居場所はあるまい…
いうなれば、正造の進路は、完全に閉ざされた…
ゲームオーバーだ…
私が、悶々と悩んでいると、スマホが鳴った。
着信があった。
が、表示された電話番号は、見たことのない番号だった。
私は、悩んだが、電話に出ることにした…
が、
自分からは、名乗らない…
わざと、相手から、名乗るように、あえて、自分からは、声を出さなかった…
相手は、電話が繋がったが、私が、なにも言わないので、戸惑ったのだろう…
「…もしもし…」
と、最初、声がした。
それでも、私がなにも言わないと、
「…米倉新造です…これは、高見さんのスマホですよね?…」
と、確認するような声が、スマホから、流れてきた。
…新造さん?…
私は驚いた。
と、同時に、すぐに、米倉新造本人だと思った。
私のスマホの番号を、なぜ、新造さんが、知っているのかは、わからない…
しかし、私のスマホに電話をかけてきて、米倉新造と名乗るからには、本人の可能性が高い…
いや、普通に考えて、新造本人だろう…
私は思った。
だから、急いで、
「…ハイ、高見です…」
と、電話に出た。
「…高見さん?…」
新造は、驚いたようだ…
「…スイマセン…見知らぬ電話番号だったから…本当に、新造さんか、どうか、わからないので…」
私は言い訳する。
が、
電話の向こうの新造は、冷静だった…
「…それはそうです…見知らぬ電話番号の相手から、突然、電話がかかってきたわけだから…」
新造が、ゆっくりと、答える。
新造は前に会ったときと、同じだった…
新造のまわりは、いつもゆったりとした空気が流れているようだ…
「…新造さん…私の電話番号を誰から…」
「…好子です…姉の…」
「…好子さん?…」
思わず、大声を出した。
本当ならば、真っ先に、好子の自殺について、聞きたいところだ…
しかし、それを聞いていいのか、悩むところだ…
新造もまた、姉の好子さん同様、決して親しい間柄ではない…
私は、なにを言っていいか、わからず、一瞬、沈黙した。
が、それを察したのだろう…
新造が、先に、
「…姉は、好子は…死んでません…」
と、いきなり、言った。
「…エッ?…」
思わず、声を出した。
「…でも、ニュースでは?…」
「…自殺したのじゃなく、自殺未遂です…」
「…自殺未遂?…」
私は、驚いたが、なにより、好子さんが生きていることがわかって、ホッとした。
先日、会ったばかりの、好子さんが、私と会った直後に自殺報道があったのは、驚いたが、それが、間違いであることに、安心した。
「…でも、まだ、意識がありません…」
「…意識がない?…」
「…自分の部屋で、ひとりで、酒を大量に飲んで、睡眠薬を大量に飲んだんです…それで、倒れて、救急車を、呼んで…だから、正確には、自殺未遂なのかもわからない…本人に確認してないから…」
「…そんな…」
私は、絶句する。
本当は、
「…そんなバカなことを…」
と、言いたかった。
自殺未遂の報道が流れた直後、私は当然のように、首を括ろうとしたとか、ナイフで、自分の手首を切ったと、思った。
不謹慎ながら、そう考えた。
それが、まさか、自宅で、お酒を大量に飲んで、大量に睡眠薬を飲むとは…
バカバカしいというか…
愚かというか…
言葉がない…
なにより、大量にお酒を飲んでの行動だから、自殺の真相がわからない…
突発的というか、衝動的に、自殺しようとしたのか、それとも、大量に、お酒を飲み過ぎて、意識が飛んで、わけがわからなくなったのか?
わからない…
自殺したい衝動は、内心あったに違いないが、それと実際に、自殺するというのは、違う…
明らかに違う…
天と地ほども違う…
要するに、やるか、やらないかの違いだ…
誰もが、
「…死にたい…」
と、考えることは、あるし、冗談で、口にする人間は、いる。
しかし、実際に自殺しようとする人間は、少ない…
そういうことだ。
私は考える。
すると、
「…高見さん…聞いてますか?…」
という声が、スマホから流れてきた。
私は、反射的に、
「…聞いてます…」
と、即答した。
うっかり、自分の考えに入り込んで、しまった。
あるいは、新造さんが、なにか、言ったのかもしれないが、聞いてなかった。
だから、とっさに、
「…聞いてます…」
と、答えたわけだ。
本当は、聞いてないから、
「…聞いてます…」
と、答えたわけだ(笑)…
「…実は、オレが、今日、高見さんに電話したのは、姉が…好子が言ったから、なんです…」
「…好子さんが?…」
…どういうことだろう?…
私は考える。
「…好子が、姉が…いいづらいんですが、高見さんが、オレのことを好きだと言っていたから…私になにかあったら、高見さんに、相談しろと…」
「…私に相談…」
私は驚いた。
が、
同時に、以前、好子さんと会ったときに、私は、新造さんが、好きだと、好子さんに、言ったことを思い出した。
新造さんのゆったりとした空気というか、雰囲気が好きだと…
それを聞いた好子さんは、まるで、我がことのように喜んだ…
私は、それを思い出した。
「…姉は、好子は…いつも、オレのことを心配して…」
電話の向こうで、新造さんが、すすり泣いているというか、嗚咽している様子が、わかった…
「…だから、高見さんには、迷惑かもしれないけど…」
新造が、ゆっくりと、呟く。
普段でも、ゆっくりと話す新造さんの言葉が、いつもにもまして、遅くなった…
「…迷惑かもしれないけど…」
電話の向こうで、新造さんが、繰り返す。
私は、胸が痛くなった。
他人のことで、こんな感情を抱いたのは、初めてだった。
「…新造さん…」
思わず、その名前が、口をついて、出た。
「…好子さんの意識が回復するのを、待ちましょう…」
私は言った。
事実、することは、それしかなかった…
私は医者ではない…
神でも悪魔でもない…
できるのは、好子さんの意識が回復するのを、待つのみだと思った…
「…高見さん…」
新造さんが、私の名前を呼んだ。
私の脳裏に、米倉新造の背が高いが、なんとなく、ひ弱なイメージが蘇った。
同時に、信頼できる人間であるとも、思い出した。
新造さんと接したのは、わずかの時間だったが、短時間で、この男は信頼できると、判断した。
それが、正造との決定的な差だった。
あるいは、正造と比べるから、余計に、新造が、信頼できると、考えられるのかもしれない…
正造は、平造が、言うように、
「…食わせ者…」
だった。
そして、それを否定できなかった…
しかしながら、それがわかっていて、正造に付き合った…
正造が、金持ちのボンボンだということがある。
誰もが、そうだが、米倉正造のような金持ちと知り合って、自分から、縁を切る女は、滅多にいない…
あわよくば、自分も玉の輿に…
と、願わない女はいない…
私、高見ちづるも、その一人だということだ(笑)…
だが、それだけではない…
米倉正造もまた、顔だけではない、独自のひとを惹きつける魅力があった。
顔だけ…ルックスだけ、いい人間は、飽きられるのも早い…
男女を問わず、顔=ルックスだけが、いいだけの人間は、退屈だ…
中身がないといってしまえば、それまでだが、なにより、その人間と付き合いたいという欲求が起きない…
回りくどい言い方だが、米倉正造には、一言で言えば、魅力があるということだ…
そして、それは、あの水野もそう…
老若男女を問わず、他人を惹きつける魅力がある。
それに比べ、今、電話で話してる米倉新造の魅力は、乏しかった…
ただし、新造といると、その人柄の良さが、伝わってきて、安心できる。
新造には、悪いが、新造に取り立てて、魅力は感じない…
ただ、そのゆったりとした空気というか、落ち着いた雰囲気が、心地よかった…
そして、それが、米倉新造の最大の魅力だった…
私は、不謹慎ながら、そう思った。
米倉新造から、姉の好子さんが、自殺未遂で、意識不明だと聞き、心配しながらも、内心、そう考えた。
米倉正造、新造、そして、水野を脳裏に浮かべて、比べていた…
吟味していた…
我ながら、自分勝手で薄情な女だと、思った(笑)…




