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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 39

「…高見さん…最近イライラしてませんか?…」


 会社で、私の机の隣の席の内山さんが言った。


 「…イライラ? …私が?…」


 私の口から、とっさに、そんな言葉が出た。


 「…そうです…いつも落ち着いた印象の高見さんが、イライラして…なにか、あったんですか?…」


 「…別になにもないわ…」


 私は言った。


 即座に否定した。


 自分でも、そう見られているのが、嫌だった…


 癪(しゃく)に障った…


 だから、よけいに、即座に否定したのかもしれない…


 「…高見さん…」


 「…内山さん…なに?…」


 「…バレバレですよ…」


 「…なにが、バレバレなの?…」


 「…水野ですよ…水野…」


 「…水野がどうかしたの?…」


 私は努めて、平静を装って言った。


 「…高見さん…ごまかしてもダメですよ…」


 「…なにが、ごまかしてもダメなの?…」


 自分でも、ビックリするくらい強い声が出た。


 その声で、オフィスの他の人間が、私を振り返った。


 思わず、恐縮した。


 首をすくめ、小さな声で、


 「…なにが、ごまかしてもダメなの?…」


 と、内山さんに繰り返した。


 「…高見さんが、イライラし出したのは、水野が、会社にやって来ないようになってから…高見さんが水野に惚れてるのは、バレバレですよ…」


 内山さんが、小さな声で、言った。


 しかも、ニヤニヤと笑いながら、だ…


 私の顔が、思わず紅潮するのが、わかった…


 「…わ、私は、べ、別に…」


 とっさに言い訳が出た…


 が、考えた。


 言いながら、考えた。


 この内山さんは、勘が鋭い…


 24歳にもなるのに、外見は、現役の女子高生のよう…


 女子高生の制服を着れば、誰もが、本物の女子高生と見間違う…


 しかし、その中身は、鋭い、の一言…


 決して、敵に回してはならない人間だ…


 私はそれを思い出した。


 「…ごめんなさい…内山さんの言う通り…」


 私は小声で、内山さんに詫びた。


 「…好きか、どうかは、わからないけど、気になる男であることは否定できないわ…いえ、気になって、気になって…仕方がないの…」


 私は内山さんに、小声で呟いた。


 内山さんに、語るのは、危険な賭けだが、私はそれを承知で、賭けに乗った…


 なぜ、内山さんに、話すのは、危険な賭けなのか?


 それは、内山さんが、誰と繋がってるか、わからないからだ…


 「…やっぱり…」


 私の発言に、我が意を得たりとばかりに、内山さんがニヤリとした。


 「…高見さん…その歳になっても、恋愛は苦手ですね…」


 私は、内山さんの言葉に苦笑いを浮かべる以外なかった。


 「…高見さんが、美人だから、いけないんですよ…」


 「…私が美人だから? …どうして?…」


 「…美人だから、いつも男に口説かれてばかりで、自分から、口説く必要がない…美人だから、大勢の男に口説かれるから、必要以上に用心して、ガードが固くなる…その結果、婚期が遅れる…」


 内山さんが、ズバリと指摘する。


 その言葉に誤りはなかった。


 私は絶句する。


 わずか24歳の内山さんに、33歳の私が、やり込められた。


 まさか、そんなことがあるとは、思わなかった。


 これでも、私、高見ちづるは、しっかり者で通ってきた…


 それが、自分よりも、9歳も年下の、現役の女子高生と見間違える女のコに劣るとは…


 水野に恋したのと同様に、もはや、自分自身を顧みて、笑っていいのか、泣いていいのか、わからなかった…


 同時に、年齢ではない!


 また、学歴でもない…


 そんな能力にあらためて、気付かされた。


 人は、誰でも、学歴や、会社での地位で、能力を判断しがちだが、それは一面…すべてではない…


 現に今現在、私が、水野に心惹かれていると、気付いたのは、この営業所で、内山さん、一人だけ…


 後は、誰も気づいたものはいない…


 二十人以上、いる、この営業所で、気付いたのは、内山さん、ただ一人だけだった…


 これは、幸運?


 あるいは、不運?


 考える。


 私が、33歳にもなって、初めて、恋をした事実に、気付いたのは、内山さんだけ…


 これは、ある意味、幸運…


 幸運なのは、内山さん、ただ一人しか、その事実に気付いていないこと…


 そして、不運なのは、その内山さんが、有能なこと…


 現役の女子高生と見間違えるほどの幼い印象の内山さんだが、その実、使える人間であることは明らか…


 その内山さんに、私の恋=33歳にもなって、初めて、人を好きになった事実を知られたのは、弱みを握られたのも同じ…


 その弱みを、この内山さんが、どうするか?


 私を脅すか?


 それとも、私を使おうとするか?


 いずれにしろ、用心しなければ、ならない事実に変わりはない…


 私は頭を、めまぐるしく、回転させる。


 「…どうしたんですか? 高見さん、急に黙っちゃって…」


 内山さんの声で、私は我に返った…


 「…なんでもないわ…」


 私は、平静を装って、答える。


 「…大丈夫ですよ…高見さん…」


 「…なにが、大丈夫なの…」


 「…高見さんが、水野に惚れてることは、誰にも言いませんよ…」


 内山さんが、ニヤリと笑って言った。


 私は絶句した。


 …こちらが、なにを考えてるか、瞬時にわかる!…


 …容易に見破る!…


 あらためて、そう思った…


 あるいは、誰でも、そんなことはわかるかもしれないが、自分のことだと、すぐにパニクる…


 混乱する…


 わけがわからなくなる…


 傍から見れば、私がなにを考えてるか、誰もが、手に取るようにわかるかもしれないが、自分ではわからない…


このときが、まさに、そうだった…


 「…そう…ありがとう…」


 一瞬、間を置いて、そう答えるのが、精一杯だった…


 「…いいえ、どういたしまして…」


 内山さんが、笑いながら、そう言った…


 私の中で、何かが弾けた…


 というか、敵に弱みを握られたといえば、いいのか?


 とにかく、これまで経験したことのない事態に当惑した。


 ただ、自分の弱みを他人に握られたのは、これまで、あまり経験のない出来事だった…


 私は、自分でいうのもなんだが、幼いときから、しっかり者で通ってきた…


 だから、他人に弱みを見せた記憶もないし、他人に弱みを握られた経験もない…


 33歳のこの歳まで、そんな経験がない…

 

それが、事態を面倒というか、ややこしくした…


例えて、言えば、私を、亡くなった野際陽子さんのようだと言うひとがいた。


私、高見ちづるは、野際陽子さんのように、知的で、上品な、たたずまいでは、当然ないが、彼女を連想すれば、わかりやすい…


野際さんが、誰かに弱みを握られてるとは、考えづらい…


 そういうことだ…


 私は、ただただ当惑した。


 「…高見さん?…」


 課長の亀沢に呼ばれた。


 「…ハイ…」


 私は席を立って、課長の亀沢の元へ行く。


 「…どうしたの? この書類だけど、ミスがあるよ…」


 私は亀沢の言葉に、


 「…」


 と、絶句した。


 「…高見さんらしくない…こう言っては、なんだけど、高見さんも、ベテランとまではいえないけど、会社では中堅なんだから、しっかりしてくれなきゃ…」


 「…申し訳ありません…」


 亀沢の言葉に、私は頭を下げるしかなかった。


 私の行動に、亀沢も驚いたようだ。


 「…高見さん、そんなに頭を下げることじゃないよ…高見さんが、ミスをするなんて、滅多にないことだから…ただ、これからは、注意してくれたらいい…」


 亀沢が、諭すように言う。


 それから、亀沢が席から、立ちあがり、私の耳元で、


 「…高見さん…なにかあったの? …米倉のこと?…」


 と、囁いた。


 私は、亀沢の思ってもみない言葉に、思わず亀沢の顔を見た。


 「…いえ…」


 言いながら、それは、ウソでもあるし、ホントだとも思った。


 ウソと言うのは、私の悩みは、米倉ではなく、水野…


 あのお調子者の水野だ…


 しかしながら、その水野は、米倉好子との婚約が、報じられてる…


 つまり、私の悩みが、米倉であることは、間違いない…


 正しい…


 だから、亀沢の言葉は、半分正しく、半分間違っている…


 「…とにかく、申し訳ありません…」


 私はもう一度、亀沢の前で、頭を下げると、逃げるように、自分の席に戻った…


 自分の席に戻った私に、


 「…高見さん…顔が赤くなってますよ…」


 と、隣の席の内山さんが、告げた。


 次いで、


 「…恋は盲目…美人でやり手と評判の高見ちづるを、無能のおっちょこちょいにする男に会ってみたいです…」


 と、私をからかう。


 私は、内山さんの言葉に、なす術がなかった。


 「…やめて、内山さん…もうこれ以上…」


 自分でも、自分の醜態が恥ずかしくて、仕方がなかった…


 まさか33歳にもなって、男のことで、悩み、それが影響して、仕事をミスるとは思わなかった…


 自分が、そこまで、動揺しているとは、思わなかった…


 …恥ずかしい…


 …この場から消え去りたい…


 そんな気持ちだった…


 そんな私に、


 「…人間誰でもミスはあります…気持ちは大きく持ってください…」


 内山さんが言う。


 もはや、お笑いだった…


 9歳も年下の現役の女子高生と見間違えるほどの幼い顔立ちの内山さんに、励まされるとは…


 顔から火が出る思いだった…


 それほどの屈辱だった…


 もはや、立ち直れないほどだった…


 我ながら、これまで、33年生きてきて、経験したことのない屈辱だった…


 人生終了とまでは言わないが、私の中で、再起不能なほどのショックを受けたのは、事実だった…


 それもこれも、あの水野が悪い…


 なぜか、私の怒りの矛先が水野に向かった…


 自分でも、理不尽な怒りだと思ったが、それが事実だった…


 水野が会社に現れないのが、悪いと思った…


 もはや、自分でも支離滅裂だった…


 恋をすることが、まさか、このような結末というか、精神状態になるとは、考えもしなかった…


 よもや、この高見ちづるが、こんな状態に陥るとは、自分でも、お笑いだった…


 恋は盲目…


 まさに、その通り…


 とっさに、そんな言葉が浮かんだ…


 周囲が見えなくなる。


 そして、周囲が見えなくなった結果、自分でも考えられないミスを連発した。


 もはや、なんとしてでも、一刻も早く、この状態から、抜け出す以外にない…


 そのためにも、私は一刻も早く、水野に会わなければならなかった…


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