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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 32

私を紹介した黒幕は、米倉平造だった…


 私は考える。


 が、冷静に考えれば、平造は、私を知らない…


 当然のことながら、面識はない…


 これは、米倉とて、同じ…


 息子の米倉正造とて、同じだ…


 つまり、私を紹介したのは、あくまで、溝口…


 溝口本人だ…


 溝口は、おそらく、平造あるいは、正造、または、双方から、頼まれ、私の写真を見せて、見合いの形をとって、米倉の交際相手として、紹介した。


 そう考えるのが、自然だ…


 が、ここで、考えるべきことは、あくまで、溝口は受け身…


 受け身の存在であるということだ…


 しかしながら、本当にそうか?


 溝口が、別の誰かから、指示を受け、受け身の存在ではなく、溝口が主導して、私を、平造、正造の父子に、写真を見せた…


 その可能性も捨て切れない…


 私は考える。


 そして、それが、水野なのでは?


 とんでもない発想だが、好子が水野の名前を口にしたことで、いきなり、閃いた…


 が、好子の口から出た言葉は、違った…


 「…水野は、水野財閥の後継者…」


 「…財閥の後継者…あの水野さんが?…」


 私は驚いた。


 たしかに、背は高く、すらりとしてカッコイイが、あの水野が、財閥の後継者とは、どうしても思えない…


 軽すぎるのだ…


 まるで、お笑い芸人とまでは、いかないが、軽すぎる。


 「…あの人は、正真正銘のお坊ちゃまよ…」


 「…お坊ちゃま?…」


 「…私たち、米倉一族よりも、遥かに、大きく、歴史のある名門の一族…戦前は、金融、セメントを中心にした財閥の流れを組む名門で、今も米倉よりも、よっぽど大きいわ…」


 「…そんな名門のお坊ちゃま…だなんて…」


 私は驚いた。


 しかしながら、お坊ちゃまという言葉には、なんとなく納得させられた…


 水野の言動は、なんとなく浮世離れしているというか、生活の匂いが感じられない…


 どんな人間も生きていく上で、お金とか、その他諸々の苦労があって、今がある…


 つまり、それぞれが、生活の苦労を背負って生きている…


 が、水野には、それがない…


 まるで、テレビの中の、アニメの登場人物のように、生活感がない…


 それゆえ、水野が、お金持ちのお坊ちゃまと、言われると、なんとなく納得してしまう…


 しかし、同時に、気付いた。


 水野との不倫騒動で、好子が、深窓のご令嬢といった見出しで、好子の素性がバレたのに、水野に至っては、なにも語られていない…


 これは、一体なぜ?


 「…でも、あの記事では、水野さんの素性は…」


 私は呟いた。


 「…そうね…アレには、私も驚いた…」


 好子が同意する。


 「…私の素性だけ、明らかになって、水野の素性については、なにも触れられていない…」


 好子が悔しそうな表情を浮かべる。


 「…どうしてですか?…」


 「…普通に考えれば、水野か、水野の周辺の人物が、手を回したのでしょ…」


 「…手を回した?…」


 「…今も言ったように、水野は、この米倉よりも、遥かに、大きく、歴史のある名門の一族…マスコミにも顔が利くわ…」


 好子があっけらかんと言った…


 私は、唖然とした。


 そして、好子の目的を思った…


 …一体、なぜ、好子は水野と密会したのか?…


 その目的を、だ…


 どう考えても、不倫が目的とは思えない…


 今さっき、好子は、この家から、腹違いの、姉兄の澄子と、正造を追放すると、言った…


 それに関係があるのでは? と、思った…


 なにより、タイミングが良すぎる…


 好子が、水野と密会したタイミングが良すぎる…


 いや、それだけではない…


 水野が私の職場、金崎実業に現れたのも、最近…


 ほぼ同じ時期だ…


 これが、偶然と呼べるだろうか?


 ありえない…


 普通に考えて、偶然はありえない…


 なんらかの力が働いている…


 そう考えるのが、普通…


 そして、その力の原因は、米倉一族の内紛にあるのではないか?


 私は、そう思った…


 「…米倉一族の内紛は?…」


 「…父は私と新造と同じ…私たち四人は結束している…」


 …四人は、結束している…


 …ということは、残りの三人、直一、澄子夫婦、正造とは、敵対しているということか?…


 「…直一さんは…」


 思わず、私は口に出した。


 直一は、米倉の後継者の一人…


 正造が後継者でなければ、直一が後継者となる…


 が、その直一も敵となると、米倉の次期当主は誰なのか?


 まさか、新造ではあるまい…


 「…わからない…」


 好子さんは、首を横に振った。


 「…普通に考えれば、兄の正造を次期社長にしなければ、直一さんしかしない…」


 好子が、苦悩の表情を浮かべる。


 好子の美しい顔が、歪んだ。


 「…でも、父は、正造と澄子を追放する、私の考えに賛同している…でも、直一さんは、澄子の夫…自分の娘を追放して、その夫を次の社長に据えるなんて、できるのか、わからない…」


 たしかに、好子の言うことはわかる…


 直一は、人間的には、問題がないようだったが、なにしろ、澄子の夫…


 いかに、能力があり、適正があっても、自分の娘を追い出して、その夫を、自分の後継者に据えるのか? 疑問が残る。


 「…それで、私は水野に会った…」


 「…水野さんに?…」


 まさか、ここで、水野の名前が出るとは、思わなかった…


 「…水野さんにサポートというか、色々相談に乗ってもらおうと考えた…なにしろ、水野さんは、米倉よりも、大きな財閥…なにかあったときに、頼りになる…」


 「…頼りになる?…」


 思わず、口走った。


 たしかに、好子の言う通り、米倉よりも大きな財閥の御曹司が後ろ盾につけば、頼りになるだろう…


 しかし、それが、水野だとは?


 どうしても、笑いが出る。


 水野には、失礼だが、財閥の後継者という肩書と水野本人に落差がありすぎるのだ…


 同時に、考えた。


 好子は、水野に相談に乗ってもらうために、水野に会った…


 それを、深窓のご令嬢の不倫というタイトルで、週刊誌にすっぱ抜かれた…


 ということは、どうだろう…


 誰かが、水野と好子が会っているのを、外部に漏らした…


 いや、意図的に、週刊誌に持ち込んでネタにした…


 それは誰か?


 しかも、好子の名前のみ出て、水野の名前は一切出さない…


 普通に考えれば、好子を貶める手段に使われてる…


 あるいは、考えたくないが、週刊誌に売り込んだのは、水野本人という可能性もある。


 なにしろ、自分の名前が出ていないのだ…


 不倫であるにしろ、ないにしろ、一番、信じている人間が、真っ先に裏切ったということは、小説にしろ、現実にしろ、古今東西ありふれている。


 私は考える。


 「…水野さんに、好子さんは、恋愛感情はないのですか?…」


 私は言った。


 わかりきったことだが、どうしても確かめたかった…


 「…ないわ…」


 あっさりと、否定した。


 「…それにあったとしても、今はそれどころじゃない…」


 「…それどころじゃない?…」


 「…私にとって、澄子と正造をこの家から追い出すのが至上命題…それ以外のことを考えてる余裕は、今はない…」


 好子が断言する。


 私は、驚いた。


 なにに、驚いたかといえば、好子の態度だ…


 好子が、そのお嬢様然とした、日本人形のような美貌の持ち主にもかかわらず、激情型というか、以外にも、熱い心情の持ち主であることは、以前の直一との会話でわかっていた…


 直一に接する態度で、わかっていた…


 しかし、それが、澄子と正造を追放するという形になって、発揮されるとは、思わなかった…


 いや、それどころか、私と会った最初の時に、好子は、正造にまるで、理想の恋人のように、接していた…


 それが、今は真逆…


 この家から、追放しようとしている…


 これは、一体どういうわけだ?


 私は思った。


 謎がある。


 私は一瞬、好子にそれを尋ねようとしたが、止めた。


 いや、できなかった…


 好子の顔は、怒りに上気して、赤かった…


 こんな状態の好子になにか言っても、冷静に話ができるとは、思えない…


 なにか、訊けば、私に食ってかかる可能性が高いからだ…


 しかしながら、我ながら、随分、意外な展開になったものだと思った…


 好子の腹違いの兄である、米倉正造から、週刊誌に不倫を、すっぱ抜かれた好子を慰めて欲しいと頼まれ、この部屋にやって来たのに、慰めるはずの、好子は、その兄の正造を、この家から追い出そうと画策していた…


 そのために、水野と会ったことを、不倫だ、なんだと世間で、騒がれた…


 まさに、これ以上、滑稽というか、笑わせる出来事はない…


 あまりに荒唐無稽というか…


 まさか、不倫の真相が、米倉一族の内紛とは、誰もが思うまい…


 私は、考える。


 「…水野は、コングロマリット…さまざまな分野の会社を擁している…」


 「…コングロマリット?…」


 私は口に出した。


 聞き慣れない言葉だったからだ…


 「…つまり、三井や三菱のように、さまざまな企業を有しているということよ…」


 「…そんなに大きな…」


 私は絶句する。


 「…もちろん、三井や三菱に比べたら、遥かに小さいし、今やその名前を知っているものは、少ない…でも、確実に、さまざまな分野に水野の傘下の企業は、形を変えて、残ってる…それが、水野の力の源泉…」


 好子が説明する。


 ということは?


 ということは、私の会社に出入りする、水野は、その会社が、水野財閥の関係する会社なのだろう…


 水野は、それに潜り込み、私に接触しようとした…


 だが、その目的はなに?


 私に接触して、どうする?


 好子の依頼を受けて、私を監視しようとした…


 あるいは、水野を通じて、正造から、引き離そうとした…


 あるいは、好子ではなく、正造に頼まれて、なんらかの目的を持って、私に接触しようとした…


 正造が、水野と面識があるのは、すでに、正造が告げている…


 ゆえに、好子ではなく、正造に頼まれて、私に接触した可能性もある。


 あるいは、さらにそれをきっかけに、水野自身が、なんらかの意図を持って、私に接触しようとした可能性もある…


 さまざまな可能性が、私の脳裏に浮かんだ…


 そんな私の顔を、目の前の好子が面白そうに見ているのが、わかった…


 私は単刀直入に、好子さんに訊いた。


 「…好子さん、何を面白そうに、私を見ているんですか?…」


 「…兄が、正造がどうして、高見さんを選んだのか、よくわかる…」


 「…よくわかる?…」


 「…高見ちづる…金崎実業の社員…美人で有名だが、男の噂ひとつない…会社での評価もそつなく、しっかりもので、通っている…なにより、ブレることがない…どんなことにも、首を突っ込むような、いわゆる、噂話が好きな女のように、浮ついたことはなく、常に自分を律している…それが、最大の長所…短所としては、その堅い性格ゆえに、面白みが欠けるといったところかな…」


 好子が言った。


 私は好子の突然の言葉に、目を丸くして、見た。


 まさか、好子が、いきなり、私の評価を口にするとは、思わなかったからだ…


 「…それを書いたのは、探偵さんかなにかでしょうか?…」


 「…当たらずといえども遠からずといったところね…」


 好子が意味深の笑みを浮かべた。


 私は好子の笑みを見ながら、考えた。


 探偵がいきなり、私の評価を知ることはできない…


 私の評価を知るものは、私の身の回りにいる人間のみ…


 会社ならば、人事部…


 普通に考えれば、人事に精通していれば、私の評価を知ることができる…


 しかし、私の場合は、会社は、全国に支部があり、私はその支部のひとつに、在籍するに過ぎない…


 大きな工場や、テレビでよく見る高層ビル丸ごとひとつが、すべて、その会社のような超大手の会社で、そこに人事部があれば、それも可能かもしれないが、私の属する会社は、それに当てはまらない…


 そんな大きな会社ではないからだ…


 私の評価を知る人間は、一番は、私に直接接した人間のみ…


 …亀沢?…


 とっさに、私の脳裏に、自分の属する課の課長である亀沢が浮かんだ…


 亀沢は以前、米倉のことか?と、私の耳元で、仄めかした。


 あのとき、どうして、いきなり、亀沢が米倉の名前を出したのか、疑問だった…


 私が、溝口に頼まれて、米倉正造に会ったのは、亀沢が知る由もないことだからだ…


 が、この好子が、亀沢に接触して、私の評価を訊いたのならば、それも納得できる。


 好子が、直接ではなくても、人を介して、亀沢に訊けば、それも納得できる…


 亀沢に訊くとしても、いきなり、私がどういう人間か、訊いても、答えないだろう…


 なぜ、私の評価を訊くのか、亀沢に教えなければならない…


 亀沢とて、バカではない…


 いきなり、接触して、自分の会社の社員の評価をアレコレ訊かれて、正直に答えるほどバカではない…


 が、そのときに、米倉の名前を出せば、亀沢とて、納得させることができる…


 亀沢とて、米倉が、自社の取引先の溝口が部長をしている大昭和の大株主であることは、知ってるはずだ…


 いや、例え、知らずとも、キチンと説明され、なにがしかの報酬を受け取れば、話す可能性は大きい…


 別段、犯罪かなにかに関わる問題ではないからだ…


 私は、考えた。


 「…亀沢課長ですか?…」


 私は好子に告げた。


 「…亀沢? …さあ、私は知らないわ…私が直接調べたわけではないから…」


 好子が言った…


 その通りだろう…


 好子の言う通りだろう…


 金持ちのお嬢様が直接探偵の真似事をするはずがない…


 人を介して、誰かに依頼したのだろう…


 その人物が、亀沢に当たったと考えるのが、妥当…


 そう考えるのが、妥当だ…


 いずれにしろ、この好子も私の身辺調査をしていたわけだ…


 当たり前といえば、当たり前…


 いきなり、腹違いとはいえ、同居する兄の交際相手として、私が、現れた…


 その素性が気になるのは、当たり前…


 当たり前だ…


 「…高見さん…アナタがいきなり、兄の正造の交際相手として、この家にやって来た…どんなひとか、気になるのは当たり前でしょ…」


 好子が言う。


 考えてみれば、当たり前…


 米倉正造は、うまく私をこの豪邸に潜り込ませようとしたが、当然、他の兄弟も、米倉の企みを見破っていたわけだ…


 いや、企み?


 そもそも、この豪邸で、米倉の一族の誰かが、会社の金を不正に懐に入れているのか?


 私は当初、それを探ってくれと、米倉に誘われた…


 だが、それは真実なのだろうか?


 いや、真実ではあるまい…


 私自身、内心、疑わしいと感じていた。


 初めて会ったばかりの人間に、自分の家族の誰かが、会社の金を使い込んだようだから、それが誰か探してくれと、言われて、鵜呑みにするバカはいない…


 なにか、裏があるのではないか?


 率直に言って、そんな予感があった。


 しかし、当然のことながら、それがなんであるか、わからなかった…


 好奇心丸出しといっては、なんだが、米倉にこれまで付き合ってきた原動力はなにかといえば、それだった…


 要するに、なにか、面白そうだから、付き合ってきた…


 ただ、それだけだ…


 他人がどう見るか、わからないが、それが、真実だった…


 たが、それを真実と思わない人間も存在する。


 溝口のように、私が結婚しない理由を、好きになった男がいないからと公言しても、私が美人を鼻にかけて、男選びに慎重になっていると、考える人間もいる。


 人間はひとそれぞれ…


 真実を語っても、それを信じない人間は、必ず一定数存在する。


 ただ、そういう人間は、自分もまた、他人に真実を語っていない可能性が高い。


 自分が真実を語らないのに、他人が真実を語るとは、思えないのだろう…


 常に他人の噂話が好きな人間は、いつも他人が自分をどう評価しているか、気になって仕方がないのと同じ…


 いつも、自分は他人の噂話をしているから、当然、他人もまた自分の噂話をしていると、信じているからだ…


 因果応報といってはおかしいが、他人を信じられない人間は、また他人に信じてもらえないものだ…


 溝口は、カラダが大柄で、いかにも、頼りがいがあり、周囲から信頼されていると、思われてるかもしれないが、そう見ていない人間も必ず存在する。


 行動に裏表があり、それを見透かしている人間が、存在する。


 私は眼前の好子を見ながら、少なくとも、好子の言葉にウソはないと信じた…


 いや、そもそも、お金持ちのお坊ちゃまや、お嬢様が、ウソつきとは思えない…


 生活に余裕があり、他人より、物質的に、充分に満足した生活を送る人間に、ウソつきがいるとは思えない…


 ウソつきや性格が悪い人間は、どうしても生活に苦労する人間に多い…


 こう言っては語弊があるが、経済的に苦労すると、生きてゆく上で、性格が捻じ曲がるというか…


 生きてゆく上で、経済的に苦労すると、性格が悪くなる人間が多いのも事実だ…


 ということは、もしかたら、溝口はあまり経済的に、恵まれた家庭で育ったのではないかもしれない…


 私は突然思った。


 が、だとしたら、澄子と正造の姉弟はどうだ?


 目の前の好子の腹違いの姉弟である、澄子と正造は、好子と新造とは明らかに違う…


 好子と新造に、性格の裏表は感じないが、澄子と正造には、それがある。


 腹違いとはいえ、同じ家庭で、育った姉弟なのに、この違いはなぜ?


 どうしてだ?


 単純に、母親が違うからか?


 それとも、別のなにかが、あるのか?


 私は初めて、澄子と正造の出生の謎を考えた。



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