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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 26

「…この男が、高見さんの会社に、最近、顔を見せるようになったはずです…」


 米倉は繰り返す。


 私は米倉のスマホを食い入るように見た。


 たしかに、スマホの画面に映ったのは、水野の顔だ…


 しかし、微妙に違う…


 一体、なにが、違うのだろう…


 私は考える。


 雰囲気だ!


 私は気付いた。


 私の会社に現れた水野と、米倉のスマホの画面の水野は、違う…


 同じスーツを着ているが、ちゃらくないのだ…


 水野のちゃらちゃらした雰囲気が皆無…


 真剣な表情で、こちらを見ている。


 まるで、履歴書の写真のようだ…


 「…どうですか? 高見さん? 見覚えはありますか?…」


 私は米倉の質問に、どう答えていいか、わからなかった。


 「…ハイ…見覚えがあります…」


 と、答えれば、いいのか?


 それとも、


 「…いえ、知らない顔です…」


 と、答えればいいのか?


 いや、米倉は私が勤務する会社が、あまり大きくないことを知っている。


 そこへ、水野が、出入りを始めた状況を、どこからか、聞き込んできた…


 ということは、私が、ここで、


 「…いえ、知らない顔です…」


 と、答えることはできない…


 なぜなら、そう答えれば、私のウソがバレバレだからだ…


 「…どうですか?…」


 米倉が、再度訊いた。


 私は、悩んだ挙句、


 「…ハンサムですね?…」


 と、答えた。


 「…ハンサム?…」


 米倉が以外そうな顔をした。


 「…たしかにハンサムですが…」


 米倉が戸惑ったように言う。


 私はそれを見て、ちょっとばかり、米倉をからかってみたくなった…


 「…米倉さんは、ご自分と、この写真の人物と、どちらがハンサムだと思いますか?…」


 「…ボクと…ですか?…」


 米倉が当惑する。


 戸惑う。


 思ってもみない質問だったのだろう…


 米倉は、しばし、考え込んだが、


 「…彼ですね…」


 と、ポツリと言った。


 「…どうしてですか?…」


 「…彼の方が、身長が高い…」


 「…身長が高い?…」


 「…そうです…ボクは、170㎝そこそこ…対して、彼は、180㎝はあります…男も女も、身長はボクや高見さんよりも、あった方がいいでしょう…」


 米倉が言う。


 米倉は四十代…


 私も三十代…


 ゆえに米倉の言葉を冷静に受け止める…


 これが、私も米倉も、もっと若ければ、違ったのかもしれない…


 自分の身長が、明らかに不利=欠点なのに、認めない…


 あるいは、認めたくないひとたちが、必ず一定数存在する。


 少なくとも、米倉の発言から、私も米倉も、そんな若さからは、すでに抜け出した…


 別の言い方をすれば、


 若さがなくなったとも言える…


 「…さらに、若い…彼は、ボクよりも10歳は若いです…」


 米倉が補足する。


 「…男も女も若ければ、若いほどいいとは言いませんが、40歳の男と30歳の男を比べれば、普通誰もが、30歳の男を選ぶでしょう…」


 私は米倉の言葉に同意した。


 激しく同意した。


 しかしながら、それには、答えず、


 「…この写真の人物と、米倉さんは、会ったことがありますか?…」


 「…あります…」


 米倉が即答する。


 「…良くも悪くもライバルですよ…」


 「…ライバル?…」


 「…我が米倉一族の宿敵といっては、大げさですが、目の上のたんこぶです…」


 「…目の上のたんこぶ?…」


 思いがけない米倉の言葉だった。


 私は米倉の言葉に衝撃を受けた。


 と、同時に、私は米倉が、

 

 「…高見さん…誰か好きなひとでも出来たんじゃないですか?…」


 と、先日、電話口で、私に米倉が言った言葉は、もしかしたら、水野のことを指しているのでは? と、ようやく思い至った…


 米倉は水野を知っている。


 そして、ただ知っているだけではない…


 おそらくは、水野が、容易に人の心を掴みことができる人物だということを知っているに違いない…


 それゆえ、米倉は、

 

 「…そう…恋です…高見さん…誰か好きなひとでも出来たんじゃないですか?…」


 と、言った。


 私が、それを否定すると、


 さらに、

 

 「…じゃ、気になるひとが出来た…」


 と、言葉を変えた。


 つまり、水野が私の職場に現れたことで、私が恋に落ちるとまでは言わなくても、水野が気になる存在になるであろうことを予見したわけだ…


 なるほど、たしかに、米倉が、水野のことを知っていれば、ならではの発言だ…


 私は考える。


 同時に、週刊誌に出た、米倉の腹違いの妹、好子のことを思い出した。


 水野が私の職場に現れたこと…


 そして、


 好子が、週刊誌にスクープされた時期が同じ…


 ほとんど同時期だ…


 ということは、なにかある?


 なにか、あの豪邸に住む、米倉の一族にあった?


 私は、考える。


 「…どうですか? 見覚えはありますか?…」


 再度、米倉が私に訊いた。


 「…ハイ…」


 私は悩んだ挙句、素直に認めることにした。


 今さら、隠すことはできないと、観念したのだ…


 「…会社で、人気者です…」


 私は言う。


 「…人気者?…」


 私の言葉に、米倉が一瞬、唖然としたが、すぐに、破顔一笑、爆笑した。


 「…彼らしい…」


 米倉は実に、楽しそうだ…


 「…まあ、彼なら、どこへ行っても、スーッと人の中に入れるし…それにしても、高見さんは、どうして、最初から、彼を知っていると言ってくれなかったんですか?…」


 私は、米倉の質問に、


 「…」


 と、黙った。


 どう言い訳していいか、わからなかったのだ…


 「…惚れましたね?…」


 米倉が、ズバリと指摘した。


 「…そんなことはありません…」


 と、言い返したかったが、できなかった。


 惚れたとまでは言えないが、気になる存在であることは、明らかだからだ…


 「…高見さんの気持ちはわからないではない…」


 米倉が、続ける。


 「…しかし、アイツも、女の好みが同じと言うか?…」


 米倉が笑う。


 「…女の好みが同じ? それはどういう意味ですか?…」


 「…好子の不倫記事ですよ? 高見さんも週刊誌で見たでしょ?…」


 いきなり、米倉が言った。


 「…好子さんの…」


 私は言う。


 たしかに、私は、好子の不倫記事を見た。


 しかし、それが一体なんだと言うのだ?


 私は一瞬、考え込んだ。


 それから、直後に閃いた。


 「…それって、まさか?…」


 「…そのまさかです…」


 米倉はニヤリと笑った。


 「…高見さんの会社に出入りを始めた、水野こそ、好子の不倫相手です…」


 「…好子さんの…」


 私はそう言ったきり、しばし絶句した。


 まさか、好子の不倫相手が、水野だとは思わなかった…


 いや、私は心の中で、必死に、好子の不倫の記事を思い出していた。


 週刊誌では、好子の顔は、目の部分が、黒く線が引かれ、顔がわからないようにしていた。


 だったら、相手の男はどうだったか?


 好子に興味の大半がいき、相手の男の顔を覚えていない…


 しかしながら、好子の目に、黒い線を入れていた以上、相手の男にも、同様に、顔いや目に黒い線を入れていた、可能性が大…


 いや、大どころか、入れていた…


 そして、今、思い出すのは、相手の男の身長が高かったということだ…


 それだけは、思い出す。


 だとしたら、つまり、あの好子の不倫相手が、水野であっても、おかしくない…


 ただ、好子の不倫相手は、妻帯者であると、報じられていた。


 ということは、あの水野は妻帯者ということになる。


 どうしても、あの水野が妻帯者とは思えない…


 あのちゃらい態度の水野と、妻帯者のイメージが一致しない。


 私は考える。


 「…でも、好子さんのお相手は妻帯者の方では?…」


 「…水野は、妻帯者ですよ…」


 あっさりと、米倉が言った。


 「…妻帯者? …あの水野さんが?…」


 長身のイケメンだが、あのおちゃらけた態度からは、妻帯者であることは、想像ができなかった。


 同時に、たしか、週刊誌には、会社経営者と書かれていたことを思い出した。


 「…水野さんは、会社を経営している?…」


 「…それは、間違いです…」


 米倉があっさりと、否定した。


 「…彼ではなく、彼の父親です…」


 「…父親?…」


 「…そうです…」


 「…でも、週刊誌の記事では…」


 「…あれは、間違いです…」


 米倉が断言する。


 「…間違い?…」


 「…あの記事は、好子が裏切り者だったという格好の証拠になりました…」


 「…好子さんが、裏切り者…」


 米倉のいきなりの告白に、私は驚いた。


 唖然としたといっていい…


 「…どうして、好子さんが、裏切り者なんですか?…」


 「…どうして?…」


 「…だって、米倉さんの会社の金を不正に使い込んだ犯人を捜すのでしょ? 好子さんは、会社の経営に携わっていないんじゃ…」


 「…ボクは裏切り者と言っただけです…高見さん…」


 「…でも、裏切り者って…」


 「…裏切り者=会社の金を使い込んだ犯人じゃありません…」


 「…どういうことですか?…」


 「…会社の経営に携わってるのは、ボクと澄子、澄子の夫、直一の三人だけです…まだ若い好子と新造は、会社の経営に携わっていません…」


 「…携わってない?…」


 意外な米倉の告白だった…


 同時に、内心、思いつくものがあった…


 好子と新造だけが、兄弟の中で、会社の経営に携わってない…


 それは、つまり、別の言い方をすれば、米倉と姉の澄子だけ、会社の経営に携わってるということだ…


 腹違いの弟と妹だけ、経営に携わっていない…


 だが、それは、どうして?


 私は、


 「…どうして、経営に携わってないのですか?…」


 と、米倉に訊いた。


 「…父の指示です…」


 「…お父様の指示…」


 「…そうです…」


 「…なぜ、お父様は、そんな指示を…」


 「…それは、父でなければ、わかりません…」


 …たしかに、米倉の言う通りだろう…


 しかし、私の脳裏に、真っ先に、浮かんだのは、好子が、父の平蔵のお気に入りだということだった…


 お気に入りならば、真っ先に、自分の会社の取締役にでもなんでもさせるのが筋だろう…


 しかしながら、それとは、真逆に、会社の経営から遠ざけている…


 これは、一体どういうことか?


 考える。


 考えられる理由はいくつかある。


 米倉の父、平蔵が、好子と新造には、まだ会社の経営に携わるのは、若過ぎると考えたのかもしれない…


 三十前後で、会社の取締役に抜擢するのは、無理があると考えた可能性がある。


 なにより、周囲に波風を生じさせかねない…


 または、言いたくはないが、会社の経営が、思ったよりも、うまくいってない可能性がある。


 それゆえ、溺愛する好子を巻き込みたくないゆえに、あえて、会社の経営に携わせない…


 面倒なことに、巻き込ませたくない、親心だ…


 そして、以上は、平蔵が、好子を溺愛していると信じた場合…


 もしかしたら、平蔵が、好子を溺愛しているという話が、ウソの場合もある。


 この場合は、そもそも、嫌ってるから、会社の経営に携えない…


 関わりを持たせない…


 そうとも言える。


 私は考える。


 だが、それを、平蔵の妻は、どう思ってるのだろう?


 平蔵の妻は、好子と新造の母親だ…


 自分の腹を痛めた子供たちを会社の重役につけない事実をどう思ってるのだろう?


 謎がある。


 明らかに、謎がある。


 私は考えた。

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