恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 25
…水野…
私の取引先のイケメン…
聞けば、水野は中途入社…
それでなければ、私の勤務先、金崎実業に現れるわけはない…
というのは、金崎実業の取引先は限られていて、新規の取引先は、あまりない…
だから、私の勤務するオフィスに、出入りする人間は、顔馴染みというか、新陳代謝があまりない…
異動等で、取引先の担当が変わるだけだ…
なにより、私の勤務するオフィスも、オフィスとは名ばかりで、いわゆる雑居ビルの一室にある。
だから、当然、同じビルには、他の会社もいっぱい入っている…
中堅の商社の一支社という位置づけにふさわしい待遇というか…
いわゆるドラマの舞台にふさわしいオフィスの真逆の位置にあることは、確かだ(笑)…
オフィス自体は、汚かったり、小さかったりすることはないが、よくテレビに出る、高層ビルとは、無縁の建物…
よくも悪くも、就職氷河期に、入社できた、会社にふさわしい(笑)…
私自身は、今のこの会社に不満はない…
以前も言ったと思うが、私の同世代の人間は、就職氷河期で、就職できない人間も多かった…
生まれた年で、就職ができない人間が、多数産まれるのは、誰がどう見ても、不公平極まりないが、そんな不平を洩らしても仕方がない…
現実に、私の友人の中でも、就職できず、アルバイトに明け暮れる者も、少なからずいた…
私にとって、幸運だったのは、一にも二にも、美人に生まれたこと…
美人に生まれたことにより、面接で、落ちることはなかった…
ただし、学校が、中堅校だったので、その先で、つまずくこともあった(笑)…
要するに、顔頼みの限界だ(笑)…
一次面接は通っても、二次、三次と進むうちに、明らかに、私よりも、優れた学校の人間が、数多く現れ、私はそこで、脱落した(笑)…
といっても、採用してくれる会社は、一つではなかった…
とりあえず、受かった中で、この金崎実業が、会社の規模では、一番大きかったに過ぎない…
勤務先も、自宅から一時間前後だったので、勤めるのに、楽だった…
そんな状況だったし、私自身は上昇志向もあまりない人間だったので、現状に満足していた。
ただ、変化がないのが、不満といえば、不満だった。
年齢も33歳になり、職場で、居心地も悪くなってきたことも大きい…
さすがに、今の時代でも、露骨に退職強要はしないが、それでも、なんとなく居心地が悪くなってきたのは、明らか…
何度もいうように、私は美人だから、とりあえず、露骨な退職強要はなかったが、周りを見れば、女子について言えば、わざと自宅から、遠いところへ、転勤を命じたりする、露骨な退職強要があった…
つまり、自宅通勤が原則の女子にとって、わざと通勤がかかる職場に移動させて、自分から辞めるように仕向ける。
とりわけ、女は年齢が高くなると、不利…
私も正直、あと何年、今の会社にいられるのか、わからない…
いくら、ルックスに自信があっても、歳には勝てない…
誰もが、33歳の美人より、22歳のかわいい女のコを選ぶのが、大半だ…
私も数年後には、露骨に退職強要されるだろう…
それもあって、溝口の話に乗ったのが、米倉と関わった一因だった…
しかし、それも、この水野と出会って、変わった…
変わったといっていいか、わからないが、会社が以前より、楽しくなった。
水野自身が、陽気なキャラで、たやすく周囲に馴染むことができる人物…
これまで、私の周囲に、水野のような人間はいなかった。
水野のように、180㎝を超える大柄なイケメンはいなかった。
そのイケメンが、ちゃらい(笑)…
誰にでも気さくに話しかけ、周囲におどけて見せる…
面白い男…
それが、周囲の水野の評価だった。
まるで、テレビに出る柳沢慎吾のようなものだ…
しかも、長身のイケメン…
中身が柳沢慎吾でも、外観が、30代前半の長身のイケメンでは、周囲の反応が違う…
残念ながら、それが、真実…
取りたてて、取り柄のない、私、高見ちづるが、子供の頃から、周囲にチヤホヤされたのも、美人に生まれたからというのと同じだ(笑)…
私の中で、水野の存在が、ドンドン大きくなった…
いや、水野自身は、私を意識せずとも、私が一方的に、水野に興味を持ったというのが、真相だった。
そんなときだった…
米倉から、休日に、またウチで、会わないかという誘いの電話が、やって来た。
私が、あまり気乗りのしない様子だったのが、米倉にもわかったのだろう…
「…どうしました? 高見さん…あまり元気がない様子ですが?…」
「…そんなことはありません…」
私は即座に否定して見せたが、気乗りのしない様子は、電話を通じてもバレバレだった。
「…風邪でも引きましたか?…」
「…いえ…」
「…それでは、恋はどうですか?…」
「…恋?…」
あまりにも、突飛な米倉の言葉だった。
「…そう…恋です…高見さん…誰か好きなひとでも出来たんじゃないですか?…」
「…まさか?…」
そう言ったもの、思わず、その通りかもしれないと思った。
「…じゃ、気になるひとが出来た…」
これは、まさにその通りだった…
私は、
「…」
と、無言になる。
私の様子から、電話の向こうの米倉も、
「…これは当たらずといえど、遠からずですね…」
と、笑った。
「…高見さんのような美人のハートを射止めた男とぜひ会ってみたいですね…」
米倉が、私をからかう。
私は、それでも、
「…」
と、無言でいた。
変に、なにか言うと、藪蛇になると思ったからだ…
「…まあ、冗談はここまでにして、ぜひまた休日にお会いしましょう…高見さんに頼みたいことがあります…」
「…頼みたいこと?…」
「…いえ、大したことではないのですが…」
米倉が思わせぶりに言う。
「…わかりました…お会いします…」
そう言って、米倉が、
「…ありがとうございます…」
と、言い終えるや否や、電話を切った。
電話を切るや否や、少しばかり後悔の念に襲われた。
なんというか、自分自身、あまりにも自分勝手に思ったのだ…
これまでは、米倉に夢中だったとまでは言わないが、興味津々だった。
それは、認めたくないが、やはり、米倉が金持ちだったからだろう…
私の年齢を考えたとき、どうしても、結婚が頭の隅にある。
そして、今の会社に10年勤めて、出会いがない以上、変化を求めるのが、当然…
その変化が、米倉だった…
米倉を見て、心が動いたといえば、大げさだが、あるいは、こんなお金持ちと結婚できれば…と、考えたことは、確か…
それゆえ、米倉の誘いに乗った。
だが、今、水野が突然、私の前に現れ、私は、自分でも思いがけず、水野に惹かれている…
すると、それまで、気のあった米倉のことを眼中にないとばかりに、素っ気ない態度を取る。
自分でも、そんな自分自身に嫌悪した。
恥ずかしくなった。
誰でも、そうだろう…
私と同じ立場に立てば、そうだろう。
いや、私よりも、もっと若く、美人であれば、違うかもしれない…
若さゆえに、周りを見ることができない…
そして、なにより、自分に自信がある。
自分のルックスに自信がある。
それゆえ、傲慢で、自分勝手になりがちだ…
まあ、同じルックスでも、性格は人それぞれ違うから、すべてが、同じ反応を示すわけではない…
しかしながら、歳を取れば、取るほど、少しは世間を見る目というか、色々なことがわかってくる。
私の場合は、私に良く似た美人の叔母が、いて、その叔母の口癖が、
「…今の時代、やっぱりもう少し身長があった方が…」
という言葉だった。
私自身、子供の頃は、叔母の言葉に、そんなものかと思っていたが、高校生の頃に、自分と同世代の、いわゆる、ナイスバディの友人を見て、考えが変わった。
私が水着になっても、貧弱…
子供が、水着になるようなものだ…
いわゆる年頃になり、胸の大きさとか、体型の変化を自分でも感じてくる。
事実、学校では、それまで目立たなかった女のコでも、中学生になると、胸が大きくなったことで、クラスの男のコにひやかされる女のコが出て来た。
しかし、私は小柄で、少女のようなまま…
正直、ルックスに自信はあったが、カラダに自信がなかった(笑)…
そういうことだ(笑)…
あるいは、この歳まで、恋愛に積極的になれない原因は、それかもしれない…
どうしても、カラダに自信がない…
自分で言うのもなんだが、ルックスに自信があるがゆえに、カラダが小学生のように、貧弱なのは、辛かった…
歳を取り、美人の叔母が言った、
「…今の時代、やっぱりもう少し身長があった方が…」
という言葉が、痛いほど、わかってきた…
いわゆる、周りを見る目が出来てきたということだろう…
私のカラダの貧弱さは、隠れたコンプレックスだった…
が、水野の存在は、そんな私のコンプレックスすら、はねのけるものだった…
今さらながら、水野を見て、お笑いは強いと思った。
いわゆる、ただの顔がいいイケメンよりも、身近に感じる。
誰にでも、距離感が近いというか、短い時間で、親しくなれる…
面白いということが、武器…
強烈な武器になっている。
そして、イケメン…
最強だ!
私は思った。
その日、私が、米倉と会ったとき、米倉は一目見て、私の心が以前とは、違ったことに気付いた。
「…高見さんは、変わりましたね…」
私は米倉の言葉に、
「…」
と、黙ったまま、肯定も否定もしなかった。
「…なにかあったんですね…」
米倉が、優しく言う。
決して、責める口調ではない…
あくまで、優しく接する。
私は心の中で、米倉がプレイボーイ=モテ男だということが、今さらながら、思った…
実感した…
目の前の女の心変わりを敏感に感じ取っても、愚痴や不平は言わない。
あくまで、優しく接する。
そうすることで、相手の心を容易に開かせようとしているのだろう…
それが、米倉のテクニックだ…
恋愛のテクニックだ…
私は考える。
私と米倉は、米倉の豪邸に行く前に、ファミレスで、会っていた。
米倉の依頼は断らないが、さりとて、乗り気でもない…
宙ぶらりんというか…
一言でいうと、我ながらズルい対応だった…
水野に心惹かれているが、金持ちの米倉との縁を切りたくはない…
そういうことだ(笑)…
ゆえに、今、米倉と会っている。
我ながら、自分が、こんなにズルい人間だとは、思わなかった。
内心、自分自身を嫌悪したが、さりとて、米倉と会うのを、止めるのも、正直、勇気がいる…
その勇気が、なかった(涙)…
「…私に頼みたいことと言うのは…」
私は、米倉の質問には、答えず、一方的に、米倉に質問した。
米倉は、私の心中を見透かしたのだろう…
あえて、自分の質問に回答しない、私を責めなかった…
「…ボクが、頼みたいことと言うのは、コレです…」
米倉は私にスマホの画面を見せる。
「…この男が今、高見さんの会社に出入りを始めたはずです…」
私は米倉の言葉に従って、米倉の持つ、スマホを見る。
そこには、水野の姿があった…




