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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


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19/100

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 19

…米倉正造…


 私の頭の中から、その名前が離れない…


 いや、名前だけではない…


 もっと、言えば、米倉だけでなく、あの豪邸に住む、米倉一族すべてが、私の頭の中から、離れない…


 それは、なぜか?


 今まで、私、高見ちづるが見たことのないお金持ちだからか?


 …それもある…


 が、一番の理由は、おそらく違う…


 本当の理由は、あの豪邸で、出会った人間の濃さだ…


 キャラクターの濃さに他ならない(笑)…


 一度会っただけで、強烈に脳裏に残る人物だらけだ…


 正造…


 直一…


 澄子…


 好子…


 そして、新造と、一度会っただけで、忘れ得ぬ人物たち…



 本人たちに自覚があるかどうかはわからないが、それぞれが、キャラクターが立っている…


 まるで、テレビやマンガの登場人物のようだ…


 それぞれが、わかりやすい特徴を持っている…


 私は、一度訪れただけの、米倉の豪邸で、出会った人間たちを思った。


 あのとき、わからなかったのは、正造の父、平造と、その妻…つまり、正造の義理の母であり、好子と新造の産みの母親だけだ…


 いや、平造は、息子である、正造を食わせ者と呼んだことで、図らずも、息子を信頼していないことがわかった…


 ゆえに、ある程度は、人間性がわかったとも言える…


 あの家で、言葉を交わしたのは、数えるほどだったが、それでも、平造の人間性の一端は、垣間見えた…


 まったくわからないのは、その妻である、好子と、新造の母親だけだ…


 私は考える。


 私が会社で、自分の席で、考え込んでいると、


 「…どうしたの? 高見さん…」


 と、誰かがいきなり、私に声をかけた。


 私は声のした方を反射的に見る…


 そこには、課長の亀沢の顔があった。


 「…どうしたの…高見さん…最近、仕事中でもボーッとしていることが多いね…」


 「…すいません…最近、色々考えることが多くて…」


 私は反射的に謝った…


 ボーッとしているのは、事実…


 あの米倉の豪邸を訪れて以来、大げさに言えば、いつも私の頭の隅には、米倉の一族のことがあった…


 さらに言えば、先日、溝口に、米倉一族のことを探って、自分に報告してくれと言われたことで、余計気になった…


 私は考える。


 課長の亀沢は、私に近付くと、小声で囁いた。


 「…高見さんの悩みって、溝口さんのことかい?…」


 私は唖然とした。


 考えてもいない、亀沢の質問だった…


 「…いや、この前、高見さんが、溝口部長の元へ訪れて以来、様子がおかしいんで、ボクも心配して…」


 亀沢の質問には、私の方が、驚いた。


 まさか、亀沢が、そんなに私を心配しているとは、思わなかった…


 「…それとも、まさか、高見さん…溝口部長に口説かれて、悩んでいるとか…」


 「…違います…」


 私はつい大声で言った。


 おかげで、同じ課の人間全員が、私と亀沢に視線を向けた。


 「…すまない…冗談だ…高見さん…溝口さんは、用心深い…他社の女に手を出して、出世をふいにするような人間じゃない…」


 亀沢は、周囲を見回しながら、声を潜めて言う。


 「…米倉のことか?…」


 いきなり、亀沢が口に出した。


 私の目が点になった。


 まさか、亀沢の口から、米倉の名前が出るとは、思わなかった。


 私の思いが、私の表情に出たのだろう…


 「…高見さん…そんな顔で、ボクを見ないでくれ…これでも情報の切れ端ぐらいは持っている…」


 「…切れ端?…」


 私は、亀沢の言葉に、絶句する。


 …情報の切れ端とは、言い得て、妙…


 まさに、言い得て、妙な言葉…


 大きな情報を得てはいないが、その情報の切れ端程度なら、知っている…


 切れ端=断片ならば、知っている…


 しかし、所詮、断片ゆえに、全体を掴めない…


 ゆえに、全体=なにが起こっているのか、わからないということ…

 

 それが、情報の断片という意味…


 が、本当にそうか?


 目の前の亀沢は、そういう意味で言ったのか?


 それとも、亀沢は、情報の断片どころか、全体を知っていて、あえて言ったのか?


 なにが起こっているのか、知っているのか?


 私は考える。


 私は、考えながら、ふと、別の場所から、私を見る視線を感じた。


 私は、その視線の先を見た。


 そこには、中村君の姿があった。


 そして、先日、溝口部長の元から私と帰って来るクルマの中で、中村君が、


 「…亀沢課長も役者…」


 と、言ったことを思い出した。


 溝口部長と、中村君は縁戚関係にある…


 血の繋がった叔父と甥…


 しかし、それは、溝口の会社でも、私のいる会社でも、秘密…


 知っている人間は、ごく一部の人間のみ…


 そのごく一部の人間に、亀沢は入っていない…


 にもかかわらず、亀沢は知っていると、中村君は言っていた…


 そして、中村君の言葉にウソはないと思いたい…


 しかし、だとすると、それまで、凡庸と考えていた亀沢の評価が、間違っていることになる…


 今の会社に入社して、十年…


 それまで、さまざまな社内外の人間と接してきた…


 自分なりに、さまざまな人間と接して、揉まれてきた自負もある…


 が、それが、すべて間違っていたということか?


 私は考える。


 「…まあ、高見さんが、最近悩みを抱えているようで、心配だったから、声をかけたけど、問題ないのなら、それでいい…」


 私は、亀沢の言葉で、我に返った。


 「…課長…」


 「…元気ならば、問題ない…元気が一番…」


 亀沢は、まるで、アントニオ猪木のようなセリフを言って、私の席から離れた。


 私は唖然とする。


 亀沢の行動の真意がわからなかったからだ…


 一体、亀沢はなにをしに私の元へやって来たのだろう…


 私のことを心配で、私の元へやって来たとは、どうしても思えない…


 普通に考えれば、オレも高見さんが、今どういう状況であるか知ってるよと、言いたいのだろう…


 つまり、意図的に、自分でも、そういう情報の切れ端ぐらいは持っていると、自慢したいのかもしれない…


 私は考える。


 私は、考えながら、先ほどから、視線を感じている中村君の元へ、視線をやった。


 私の視線を感じた中村君は、慌てて、私から視線をそらした。


 私は、それで、確信した。


 中村君もまた、気付いていると…


 米倉正造から連絡があったのは、そんな日の夜だった。


 私のスマホに米倉から着信があった…


 私は、一瞬、どうするべきか、悩んだ…


 米倉に連絡するのは、簡単だが、なんだか、これ以上、米倉と関わるのは、マズイ気がした。


 直感と言うか、これ以上関わるべきではないと思った…


 最初は、いい暇つぶしになると、考えていたが、そんなどころではないことに、ようやく気付いた。


 米倉の豪邸に招かれたときは、その大きさと、その豪邸に住む、米倉の家族に興味津々だったが、それも、溝口と会うまでだった…


 溝口との会話で、米倉が、溝口の会社の社長人事まで、口を出せる大物だということを知った…


 それは、まさに衝撃だった…


 私、高見ちづるにとって、青天の霹靂といっていい出来事だった…


 私の勤める中堅の商社の取引先であり、私の勤める会社の何倍もの大きさの溝口の会社…


 その会社の社長の人事まで、口を出せる一族…


 それが、米倉だと考えると、なんだか、これ以上、関わるのが、怖くなった…


 恐ろしくなった…


 自分のような平凡な人間が関わるべき、一族ではない…


 自分のような凡庸な人間が、関わるべき、人間たちではないと思ったのだ…


 それが偽らざる本心だった…


 が、反面、怖いもの見たさと言っては、なんだが、米倉ともっと関わりあいたかった…


 米倉と結婚したいのではない…


 この米倉という一族が、どんななのか、もっと見たかった…


 誰が不正をしているのか、知りたかった…


 怖いもの見たさと言ったのは、そういうことだ…


 私は人生に退屈していた。


 就職氷河期に、現在の会社に就職して、今現在に至っている…


 率直に言って、現在の生活になにひとつ不満はない…


 大学の同級生の中には、うまく就職できなかったものや、就職しても、本人の実力からしたら、ありえないような小さな会社に就職した友達もいる…


 それに比べれば、自分は恵まれていると思う…


 しかしながら、平々凡々な人生に退屈していたのは、明らか…


 もっと刺激が欲しい…


 ドキドキしたい…


 それには、結婚…


 結婚に憧れているわけではないが、自分の人生を変えるきっかけになる…


 それに、私は今33歳…


 すでに、三十路を過ぎている…


 小さい頃から、キレイだとか、カワイイとか、言われてきたが、それもだいぶ衰えてきたのは、自分でもよくわかっている…


 容色の衰えは明らか…


 すでに、二十歳の女のコと張り合って勝てないことは、自分でも、わかっている…


 それゆえ、結婚したいと思った…


 なぜなら、結婚には、まず年齢…


 こんなことを言っては、身も蓋もないが、一歳でも若いに越したことはない…


 男は、若い女を好む…


 これは、事実…


 いや、男に限らず、女もまた若い男を好む…


 これはおそらくDNAのせいなのでは? と、最近思えてきた…


 男も女も本能として、歳を取れば、取るほど、若い異性を求める…


 これは、無意識に、人間のプログラムとして、脳に刻まれているのかもしれない…


 要するに、結婚するには、早いに越したことはないということだ(笑)…


 それもあって、私は溝口の示した見合い話に乗った…


 自分の生活を変える絶好のチャンスと考えたのだ…


 結果、米倉と会ってわかったのは、見合いではなく、探偵だった…


 米倉の恋人として、米倉の家族に接して、誰が、会社の不正に携わっているのか、探ってもらいたい…


 ありえない提案だった…


 しかし、私はそれを受け入れた…


 退屈だったからだ…


 自分の人生に刺激を与える絶好の機会と捉えた…


 と、ここまでは、なぜ私が米倉の提案を受け入れたのか、反芻しただけ…


 米倉の立場でいえば、米倉の経営する会社でも、当然、誰が不正をしているのか、米倉は部下に命じて、調べているに相違ない…


 私は考える。


 そこまで、考えたとき、再び、スマホに着信があった…


 またも、米倉からだった…


 私は、悩んだが、出ることにした…


 「…ハイ…高見です…」


 「…高見さん?…」


 スマホから、米倉の声…


 「…そうです…高見です…」


 「…米倉です…ご無沙汰しています…」


 米倉が言う。


 私は、少しドキドキした。


 これから、米倉がなにを言うか、一刻も早く知りたかった…


 私をどう誘うか?


 来週の土曜日か?


 あるいは、翌日の日曜日か?


 またあの豪邸で、会うのか?


 正直、少し気が滅入るが、やりがいはある…


 こう言っては、なんだが、会社の仕事より、遥かにやりがいがある…


 私は米倉の次の言葉を待った。


 「…高見さん?…」


 「…ハイ…」


 「…好子を覚えていますか?…」


 「…好子さんですか?…」


 あまりにも、意外な米倉の言葉だった…


 「…覚えていますが?…」


 私は一体、米倉がなにを言い出すのかと、思った。


 「…好子が高見さんに会いたいそうです…」


 「…好子さんが?…」


 あまりに意味不明な言葉だった。


 好子さんが、私に会って、どうするのだろう…


 好子さんは、私、高見ちづると同じタイプの美人…


 身長が155㎝の私と大差ない身長で、同じように、常盤貴子似の美人…


 ただし、好子さんの方が、私より若い…


 だから、厳密に言えば、私より、好子さんの方が、見た目は上…


 年齢が若いからだ…


 私が意味不明と言ったのは、好子さんが、私を嫌っているに決まっているからだ…


 男でも、女でも、自分と同じようなタイプの人間は、反発することが多い…


 性格や、頭脳では、そうではないが、これが、ルックスとなると、大抵が当てはまる。


 とりわけ、美人の場合はなおさらだ…


 要するに、これまで、自分が美人に生まれてきたことで、周囲からチヤホヤされてきたが、同じような美人が、近くにいると、自分が、以前のように、チヤホヤされなくなる。


 それが、悔しいのだ(笑)…


 しかも、私と好子さんは、同じタイプの美人…


 これが、美人でも、タイプがまったく違えば、まだいい…


 なぜなら、どちらが上か、判断するときに、それは、周囲の好みによるからだ…


 どちらのタイプが好みかは、人それぞれ…


 ゆえに、勝負の優劣は決まらない…


 しかし、それが、同じタイプとなると、話は変わる。


 勝ち負けがはっきりわかる(笑)…


 それゆえ、美人は、同じタイプの美人が嫌いなのだ…


 私は考える。


 「…高見さん…好子に会ってもらえますか?…」


 スマホから、米倉の声が聞こえた。


 私は、


 「…」


 と、躊躇った。


 好子の目的がわからないからだ…


 …どうして、私、高見ちづると会いたいのだろう?…


 なにより、好子が、私を嫌っているのは、わかっている…


 自分を嫌いな人間に、会いたい人間はいない(笑)…


 「…高見さん…どうしました? …聞いてますか?…」


 スマホから、米倉の声が流れた。


 「…ハイ…聞いてます…」


 私は答える。


 「…高見さん…好子に会ってもらえますか?…」


 スマホの向こうから、米倉が繰り返す。


 私は、しばし、悩んだ末に、


 「…ハイ…わかりました…」


 と、答えた。


 好子の目的はわからないが、米倉に勧められるままに、会ってみようと思った。


 乗りかかった船…


 ここまで、来れば、会わない理由はない…


 いや、会わねばならない…


 会わねば、米倉の意図がわからない…


 好子の意図もわからない…


 毒を食らわば皿までではないが、行けるところまで、行って見よう…


 そんな気持ちだった…


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