↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/100

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 16

物事には表と裏がある…


 なにを言いたいかといえば、今の私、高見ちづるが置かれた状況がそう…


 当てはまる…


 私は溝口から、米倉を紹介され、見合いをした。


 だが、実際は、見合いではなく、米倉は、私、高見ちづるの能力を見た…


 評価した。


 見合いは、口実…


 それが、表と裏という意味…


 この場合の能力とは、仕事うんぬんではなく、諸般の対応能力…


 米倉が、わざと、有名企業の名刺を何枚も見せて、私が、どういう対応をするのか、試した…


 ある意味、初対面の相手に、わざとからかうような真似をした。


 私は、それを面白がった…


 初対面の、テレビや映画で、お目にかかるようなイケメンが、トランプのように、有名企業の名刺を何枚も見せることを面白がった…


 自分が、どこの誰かを証明する手段が名刺の役割…


 それを、わざと有名企業、無名企業と、混ぜて、私に見せた。


 自分が、どこの誰か、わからせずに、私の反応を試したのだ…


 有名企業の部長ならば、OK…


 無名企業の課長ならば、NG…


 大抵の人間が、そうだろう…


 まして、これは見合いだ…


 自分の結婚相手が、社会的に成功しているのが、重要だ…


 しかし、私は自分で言うのもなんだが、天邪鬼の一面があり、他人と同じ反応を示すのが嫌だった…


 それゆえ、わざと、米倉の対応を面白がって見せた。


 そうすれば、米倉が、どういう反応をするのか、見たかったのだ…


 いわば、米倉が私、高見ちづるを試したように、私もまた米倉を試したのだ…


 その結果、合格した。


 米倉のお目がねに、叶った…


 私が、米倉の対応を怒るのではなく、面白がったことを評価したのだ…


 そして、自宅に招き、自分の家族に会わせた…


 その家族の誰かが、米倉の会社の金を盗んでいる…


 不正をしているという…


 それが、誰だか、私に探って欲しいというのだ…


 なんだか、荒唐無稽な話だ…


 米倉の会社の社員でもない私がなぜそんなことをするのか?


 いや、なぜ、私にそんな依頼をするのか?


 しかし、どんな荒唐無稽の話でも、あのお屋敷に招かれ、米倉の家族と引き合わされた今、その話が、私、高見ちづるにとって、荒唐無稽の話ではなくなった…


 どんな荒唐無稽の話でも、あのお屋敷に招かれてしまっては、誰でもそうだろう…


 まるで、戦前のお金持ちを連想される豪邸…


 映画やドラマの舞台にふさわしい豪邸だ…


 普段、お金に興味のない人間でも、あの豪邸に招かれれば、考えが変わる…


 守銭奴とは、言えないまでも、もしや、この豪邸の住人になれるのでは、と、考える。


 ありていに言えば、金持ちと結婚できる夢を見てしまうものだ…


 私が、そこまで、考えたとき、


 「…高見さん…」


 と、上司の亀沢が、私を呼んだ。


 いや、正確には、自分の考えに没頭して、亀沢が呼んでいることに、気付かなかった。


 近くの席の中村君が、


 「…高見さん…亀沢課長が呼んでますよ…」


 と、小声で、教えてくれたので、気付いた。


 私は、


 「…ハイ…」


 と、言って、席を立ち、亀沢の席に行った。


 「…課長…なんでしょうか?…」


 「…いや、用というほどのことじゃないんだが…」


 亀沢が、遠慮がちに言う。


 「…溝口さんがね…」


 「…溝口さんが、どうかしましたか?…」


 「…高見さんのことを心配していてね…」


 「…私のことを心配…ですか…」


 意外な亀沢の言葉だった…


 いや、そもそも、私に米倉のことを紹介したのは、溝口…


 なにか、あるのかもしれない…


 私は考える。


 「…この前、溝口さんと、取引で、打ち合わせになったとき、溝口さんの口から、ポロッと、高見さんの話題が出てね…」


 「…」


 「…ほら、以前、中村君が、仕事で、ミスって、高見さんといっしょに、溝口さんのところへ、謝りに行ったことがあるだろ…あれ以来かな…」


 「…なにが、あれ以来なんですか?…」


 「…あれ以来…時々、溝口さんは、電話でも、なにげに高見さんの話題が出ることが多くなって…」


 「…」


 「…最初は、溝口さんが、高見さんのファンだからと思ったけど、なにかあるのかな…一度、高見さんも、溝口さんに会いに行けばいい…」


 「…私が、ですか?…」


 「…そうだ…高見さんが、一人で行くのが嫌なら、中村君を連れて行けばいい…そうすれば、以前は、うちの中村が迷惑をかけて、スイマセンでしたとか切り出して、話を繋ぐころができるだろ…」


 私は、亀沢の話を聞きながら、溝口のことを考えた。


 そもそも、私と、米倉を引き合わせたのは、溝口…


 その溝口ならば、なにか知っているのかもしれない…


 当然の事ながら、私の知らない米倉についての情報を知っているに違いない…


 私は考える。


 「…わかりました…」


 私は言った。


 「…中村君を連れて、この前のように、溝口部長のところへ伺います…」


 「…よかった…今日ならば、溝口部長は、一日中、会社にいるらしい…」


 亀沢が言う。


 …そういうことか?…


 私は思った。


 …要するに、亀沢は、今日、私に溝口のところへ、行かせるべく、あらかじめ、溝口と示し合わせて、この話を持ち出したということか?…


 「…わかりました…これから、早速、中村君と溝口部長のところへ、伺います…」


 「…そうしてくれ…」


 亀沢が言った。


 私は軽く亀沢に頭を下げ、中村君の席へ、向かった。


 「…中村君…」


 「…ハイ…」


 「…これから、また溝口部長のところへ行くわよ…」


 「…これからですか?…」


 「…そう…これからよ…」


 「…でも、亀沢課長に了承を得ないと…」


 「…その課長命令よ…」


 「…課長命令ですか?…」


 「…そうよ…」


 中村君が、亀沢を見た。


 「…この前のときと同じですね…」


 「…この前のときって?…」


 「…高見さんが、ボクのミスで、溝口部長のところへ、詫びに言った時ですよ…」


 そう言って、中村君が笑った…


 やはり、覚えていたか?


 真っ先に、そう思った。


 いや、


 忘れろといっても、容易に忘れられるものではない…


 なにしろ、その中村君のミスこそ、この高見ちづるが、米倉と会うきっかけだった…


 本当は、中村君が、仕事上で、ミスをして、溝口部長を怒らせたのは、ウソで、中村君が、溝口部長に頼まれて、ミスをしたことにして、中村君の同僚である、私を同行させ、呼び寄せる罠だった…


 つまり、あらかじめ、溝口は、亀沢にも、知らせず、極秘に、私を呼びよせたことになる。


 なぜなのか?


 私はあらためて、そう思った。


 「…さっさと支度(したく)して…」


 私は、中村君に言った。


 私自身、ロッカールームに行き、私服に着替える。


 そして、着替えながら、溝口の目的を考えた。


 溝口は今、亀沢と共謀して、私を呼びよせようとしている…


 その目的は、米倉絡みと考えていい…


 私は考える。


 私服に着替えてから、一度、職場に戻ろうとしたが、すでに、職場の入り口に中村君が待っていた。


 「…中村君…早い…」


 私は言う。


 「…男は、女のひとと違って、上着を着るぐらいですから…」


 中村君が言う。


 私はその通りなので、


 「…」


 と、黙った。


 「…それより、溝口部長も待ってます…急ぎましょう…」


 中村君が言う。


 私はなんだか中村君にも、急かされている気がした。


 まさか…中村君もまた、溝口部長の仲間?


 そんな気がした。


 あくまで、一瞬だが、そんな気がした…


 やはり、疲れているのだろう…


 米倉の豪邸を訪れたのは、二週間前のことだが、あれは、精神的にかなりのショックだった。


 いや、


 ショックというのは、正しくないのかもしれない…


 精神的に疲れたという言葉の方が正しいだろう…


 世の中には、私など、これまで、お目にかかったことのないお金持ちがいるものだ…


 当たり前のことがわかった…


 私が、33年間生きてきて、想像もしていない世界の住人たちと接触した。


 私自身、視野が広がったと思ったが、それだけだった。


 生きてゆく上で、視野が広がる=世間を知るということは、とても大切なことだ…


 しかし、だからといって、私とは縁もゆかりもないこと…


 私が、33歳になり、漠然と結婚を意識することが、最近、多くなったが、さりとて、米倉と結婚することはありえない…


 この平凡な高見ちづるが、あんなお金持ちと結婚することなどありえない…


 テレビや映画ではない…


 これは現実なのだ…


 物事には、限度というものがある…


 いや、


 身の程を知るという言葉が適切か?


 ひとは皆、生まれながらに、それぞれ、能力や境遇が異なる。


 お金持ちの家に生まれるか、貧乏な家に生まれるか?


 美人に生まれるか、そうではないか?


 イケメンに生まれるか、そうではないか?


 身長は高いか、低いか?


 頭はいいか、悪いか?


 性格はいいか、悪いか?


 生まれたときから、大抵決まっている。


 個人の努力で、左右できるものではない…


 与えられた能力で、生きるのが、人間だ…


 これは、どんな人間も変わらない…


 そして、大抵が、その人間が、生まれた境遇と、大差ない、境遇で、人生を終える…


 これが現実だ…


 無名の人間がスターや有名な経営者になる可能性はゼロではないが、通常は限りなくゼロに近いのが、現実だ…


 なにが言いたいかといえば、身の程を知れということだ…


 私、高見ちづるが、どうあがいても、お金持ちになることはありえないし、お金持ちと結婚できることなど、ありえない…


 私は市井(しせい)の平凡な人生を終えるのが、似合っているし、それ以上は無理…


 また野心もない…


 私は自分自身に言う…


 自分自身に言い聞かせる…


 そうしないと、夢を見てしまうからだ…


 自分自身、上昇志向は、ないし、平凡な人間だと、自分を思っている。


 にもかかわらず、夢を見てしまう。


 調子に乗ってしまう…


 つまり、これが、精神的に疲れる、の正体だった…


 できもしない夢を見、できもしない夢を真顔で語る…


 私自身、そんな人間を、心の底から嫌悪してきた…


 できもしない夢を語るのが、嫌なのではない…


 できもしない夢を語る人間に限って、頭も性格も悪い人間が大半だったからだ…


 頭が悪いから、自分の能力がわからない…


 自分の能力がわからないから、できもしない夢を真顔で語る。


 自分自身が、そういう人間と、同じになるのが嫌だったのだ…


 誰もが、それまで、自分が嫌悪してきた人間と同じになるのは、嫌だろう…


 そういうことだ…


 私が、考え込んでいると、


 「…高見さん…なにを考え込んでるんですか?…」


 と、中村君が声をかけた。


 「…なんでもないわ…」


 私は中村君に言う。


 「…なら…いいですけど…」


 私は中村君の言葉を聞きながら、社内を歩いた。


 「…中村君…」


 「…なんですか?…」


 「…私のこと…どう思う?…」


 私の口から、自分でも意外な言葉が出た。


 中村君もまた、ビックリして、足を止め、私を見た。


 「…どう思うって、どういう意味ですか?…」


 「…ゴメン…深い意味はないの…ただ最近、少し、真剣に結婚を考えるようになって…」


 「…高見さんは、キレイですよ…それに、今は、三十過ぎても、結婚していない女のひとは、ゴマンといますから…」


 「…そう…中村君の言う通りね…」


 私の言葉に、中村君が、ハッと気付いた。


 「…わかりました…高見さん…」


 「…なにが、わかったの?…」


 「…高見さん…溝口さんから、見合いを勧められたでしょ? それで、今日会えば、その後どうなったとか聞かれるから、悩んでいたんでしょ?…」


 私は、唖然とした。


 …たしかに、言われてみれば、その通り…


 考えもしなかった…


 それに、なにより、前回、中村君のミスを餌に、溝口に呼び出されたときに、同行したのは、この中村君…


 そのときに、溝口から、私が見合いを勧められたのを、間近に見ている…


 いや、積極的に、溝口の肩を持って、私に見合いを勧めた。

 

 だから、当たり前といえば、当たり前の発想だった…


 私が、ビックリして、中村君を見ていると、


 「…きっと、溝口さんも、その後、どうなったか知りたいんですよ…」


 と、意味深に笑う。


 「…どうなったかね…」


 私は言った。


 「…誰だって、そうでしょ? 自分が勧めた見合いです…その後、どうなったか知りたいと思うのが、人情じゃないですか?…」


 そう言った後、一区切り置いて、


 「…でも、高見さんのその様子じゃ、うまくいかなかった様子ですね…」


 「…どうして、わかるの?…」


 「…だって、うまくいってれば、そんな悩むような表情はしないでしょ?…」


 …言われてみれば、まさにその通り…


 「…かといって、まったくうまくいってないわけでもない…」


 「…どうして、わかるの?…」


 「…だって、そうでなければ、私のこと、どう思うの? なんて、ボクに聞かないでしょ?」


 …たしかに、言われてみれば、これもその通り…

 

 …うまくいってなければ、他人に聞く質問ではない…


 いや、


 うまくいっても、他人に聞く質問ではないのかもしれない…


 自分がどう思われてるのか、知りたい質問だ…


 要するに、相手にどう思われているか、知りたい質問だ…


 それを知りたいということは、この場合は自分が米倉にどう思われてるか、知りたいと考えればいい…



 普通は、そう考える。


 しかし、私、高見ちづるにとっては、米倉ではなく、同居する米倉の一族全員が、気がかりというか、気になっていた…


 当然、中村君は、それを知らない…


 「…溝口さんの紹介した見合い相手って、どんな男だったんですか? …教えて下さいよ…」


 私は中村君の質問に、一瞬悩んだが、


 「…イケメンよ…」


 と、正直に答えた。


 「…金持ちのイケメン…」


 私の言葉に、


 「…金持ちのイケメンなんて、高見さん…玉の輿じゃないですか?…」


 と、中村君が叫ぶ。


 「…やりましたね…その美人のルックスを生かした…と、言いたいところですが、違いますね…」


 と、一気にトーン・ダウン。


 「…どう違うの?…」


 「…だって、それなら、悩む素振りは見せないでしょ?…」


 …その通り…


 「…なにが、問題なんですか?…」


 「…家族よ…」


 「…家族って、結婚後は、ダンナの家族と同居しろとでも言われて、高見さん…悩んだんですか?…」


 「…まあ、そういうことよ…」


 私は中村君に説明しても仕方がないので、そう投げやりに言った。


 「…それは、嫌ですね…ボクが高見さんでも、嫌だ…」


 私の返答に、中村君は、一人納得する。


 私は、そんな中村君に、


 「…さあ、こんなところで、立ち話をしていないで、早く、溝口部長のところへ行きましょう…」


 と、中村君に言って、溝口の会社に向かった…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。