↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/100

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 14

「…高見さんは、ホントに正造クンと付き合ってるの?…」


 直一が廊下で、足を止めて、私に繰り返す。


 私は、


 「…もちろん、付き合ってます…」


 と、返した。


 それから、少し置いて、


 「…だって、考えて見て下さい…」


 「…なにを考えて見るの?…」


 「…こんな立派なお屋敷に住む、男のひとに付き合ってくれと、言われて、拒む女なんて、普通いませんよ…」


 と、言って、笑わせようとした。


 が、直一は笑わなかった。


 口元もそうだが、目が少しも笑っていない…


 その白い肌と神経質そうな顔で、私、高見ちづるを、正面から、見据えた。


 「…たしかに、高見さんの言うことはわかる…だけど、高見さんは、そういうタイプの女性には、思えない…」


 「…そういうタイプって、どういうタイプですか?…」


 「…こう言っては、身も蓋もないが、金目当てに、男を選ぶ女性には、見えない…」


 直一が、メガネの奥から、真剣な目で、私を見ながら言った。


 私は一瞬、どう言い訳しようかと悩んだが、すぐに、


 「…それを言えば、直一さんだって、お金で、女性を選ぶ男のひとに見えませんよ…」


 と、返した。


 暗に、このお屋敷の住人である、米倉の姉の澄子さんと、結婚したことを、皮肉った。


 その皮肉に、直一もすぐに気付いたようだ…


 当然だ(笑)…


 「…ボクの場合は…」


 と、言ったきり、黙ってしまった。

 

 私は、これ以上、直一に皮肉を言うつもりはなかったし、直一も、これ以上、私にこの話題を振るとは、思っていなかった。


 要するに、話はこれで終わりだと思った…


 が、違った。


 「…ボクの場合は、澄子が使えるから…」


 と、直一が続けた。


 私は、直一がこの話題を続けることに、驚いた。


どうするか、一瞬、悩んだが、その会話に乗ることにした。


なにより、澄子が使えると言った直一の言葉…


澄子がどう使えるのか、興味があった…


 「…澄子さんが使えるって、どういう意味ですか?…」


 「…ボクは、自分で言うのもなんだけど、トロくてね…」


 「…トロいって?…」


 「…要するに、周囲の空気を読むとか、そういうことができない…」


 「…」


 「…自分で言うのもなんだが、高校までは、勉強ができ、大学もそれなりのところに行ったけど、いざ、就職すると、職場が合わなくてね…そこで、助けてくれたのが、澄子だったんだ…」


 「…」


 「…だから、高見さんが、澄子が、こんな大金持ちのお屋敷のお嬢様だから、結婚したんだろうと、ボクを揶揄するけど、それは、半分正しくて、半分間違ってる…」


 「…半分正しくて、半分間違ってる…ですか? …」


 「…そうだ…ボクも澄子がこんな金持ちの娘だと知って、驚いたし、結婚を決めるのに、澄子の実家を考えなかったわけじゃない…だけど、それがすべてじゃない…」


 直一が激白する。


 たしかに、直一の言うことはわかる…


 どんなに、相手がお金持ちでも、美男美女でも、嫌な相手は嫌だ…


 お金やルックスがすべてではない…


 だが、お金があったり、ルックスもいい方が、いいに決まっている。


 だから、半分正しくて、半分間違ってる…


 つまり、お金やルックスにも惹かれるが、それだけではない…


 相手の人柄や、自分に合うかどうか、考えた結果、結婚を決めた…


 そう言いたいのだろう…


 私は思った。


 「…澄子はなんでもはしっこく、ボクの前を行く女だった…」


 「…前を行く…ですか?…」


 「…そうだ…」


 私は直一の言葉を聞きながら、米倉が、澄子について言った評価…


 …勘の鋭い女…


 …使える女…


 …抜け目のない女…


 と言った、言葉を思い出した。


 たしかに、澄子は使えるのだろう…


 今また澄子の夫である、直一もまだ、同じ言葉を口にしている…


 「…前を行くって、どんな…?…」


 私は、直一に訊いた。


 言葉としては、わかるが、具体的に、どういうふうに前を行くのか、知りたかった…


 私の質問に、直一は少し考え込んだ…


 しばし、考え込んでから、口を開いた。


 「…例えば…」


 「…例えば、なんですか?…」


 「…今、ボクと正造クンの勤める会社で、誰かが、悩みを抱えていたとする…もちろん、それが、会社の悩みなのか、家庭の悩みなのか、あるいは、友人の悩みなのかは、わからない…」


 「…」


 「…でも、問題は、悩みを抱える当人が、なにか悩みがあるんじゃないかと、周囲の人間が、気付く中で、ボクが一番遅い方だということだ…」


 「…」


 「…澄子は違う…職場で、真っ先に気付く人間だ…いや、気付くだけじゃない…その先のことを考えて、あれこれ、手を打つことができる人間だ…」


 「…手を打つ? …どう手を打つんですか?…」


 「…例えば、会社なら、その人間が仮に辞めた場合は、後任者をどうするかとか、すぐに先のことを考えて、あれこれ行動することができる人間だ…」


 …なるほど…


 …前を行くというのは、そういうことか?…


 私は、直一の言いたいことが、よくわかった…


 …たしかに、直一の言うように、学校の勉強と仕事とは違う…


 …いくら、勉強が出来て、いい大学を出ても、周囲の空気を読めない人間はいっぱいいる(笑)…


 …極端な話、勉強が出来て、仕事が出来ても、周囲の空気が、まったく読めない人間も稀にいる…


 要するに、与えられた仕事を忠実にこなすだけ…


 それに意識が集中してしまう…


 ゆえに、周囲の空気を読むことができない…


 直一は、その事実に早くに気付いたのだろう…


 そして、それが、おそらく直一の致命的な欠陥…


 人間としての致命的な欠陥だ…


 その欠陥を埋めるために、直一は澄子と結婚したのでは? と、私は考えた。


 誰もが、自分にないものを持っている人間に惹かれるものだ…


 なにより、生きて行くのに、自分にないものを持っている人間を自分の人生のパートナーにするのは、有利…


 自分の欠点を、パートナーが補ってくれるからだ…


 直一は、おそらく、澄子が金持ちのお嬢様ということよりも、澄子の才能に惹かれたのではないか?


 私は、そう思った。


 自分の欠点を自覚はしても、その欠点を、自分の力で、埋めることは、中々できない…


 それが、普通の人間だ…


 仮に頭が良い人間でも、どこへ行っても好かれない人間は、やはり好かれない…


 好かれる努力をしても、限界がある…


 それならば、例えば、誰からも、好かれる人間をパートナーにするのが、一番、自分が、好かれる方法だ…


 その人間は、嫌いだが、そのパートナー=具体的には、夫なり妻なりが、好かれる人間ならば、その人間に好感を持つ場合も多い…


 その夫なり妻なりと、会えば、嫌いだった人間の印象が変わるからだ…


 要するに、あんな、感じのいいひとと、結婚しているぐらいだから、そんなに悪い人間じゃないかもしれないというわけだ(笑)…


 ある意味ルール違反というか、ズルい、やり方だが、好感度を上げるのに、もっとも、簡単で、有効な手段だ…


 とりわけ、政治家がこれに該当する…


 私は考える。


 「…澄子は、ボクなんかが、どうあがいても、できない能力を持っている…それに惹かれた部分も大きい…」


 直一が、私の思った通りのことを、口にした。


 「…だけど、高見さんは、ボクとは違う…」


 「…どう違うんですか?…」


 「…高見さんが、正造クンに惹かれる理由がわからない…正造クンが、高見さんに惹かれるのは、例えば、好子ちゃんに似ているからと、考えれば、理解できなくもない…だけど、高見さんが、正造クンのルックスに惹かれたとも、このお屋敷に惹かれたとも、考えられない…失礼ながら、高見さんが、そういうことに惹かれる人間とは、どうしても思えない…」


 直一が激白する。


 私は、うまいことを言うと思った。


 が、ここで、私が、直一に、米倉から、会社の不正をしている人間を探し出してくれと頼まれたことは、口に出せない。


 ゆえに、


 「…買い被り過ぎです…」


 と、答えた。


 「…買い被り過ぎ?…」


 「…そうです…私が、自分で言うのもなんですが、マジメな印象を周囲に与えるから、直一さんも、私をそう見るんです…私もまた、普通の女です…だから、人並みに、お金は好きですし、玉の輿を夢見ています…」


 私の言葉に、直一は、


 「…そうだね…」


 と、納得するものだと思った。


 が、違った。


 「…まあ、そういうことにしておこう…」


 と、自分自身を無理やり納得させるように、呟いた。


 私の言葉に納得していないのは、明らかだった…


 私は、驚いた。


 内心、恐怖したと言っていい…


 澄子のことを使えると、評していたが、そう言った直一自身もまた、十二分に有能…


 私の言葉に納得しないとは、思わなかった。


 いや、有能でなければ、次期社長候補になれるわけがなかった。


 私は、考える。


 私はこれ以上、直一と会話することが嫌だった。


 直一にこれ以上、根掘り葉掘りされるのは、困る。


 そのときだった…


 「…なにをしているの?…」


 と、背後から、声がかかった。


 私と直一は、声のする方を振り返った。


 好子だった。


 「…好子さん?…」


 と、私が言いかける前に、


 直一が、動揺した声で、


 「…好子ちゃん…」


 と、言った。


 明らかに、困惑していた。


 「…どうして?…」


 と、直一が続けた。


 「…トイレに行くって言って、ちっとも、部屋に戻って来ないから、どうしているのかと思って、探しに来たの…」


 好子が言う。


 直一は、


 「…」


 と、無言。


 私は、直一の顔をジッと見た。


 明らかに、直一の顔が引きつっていた。


 想像以上に、直一が好子を苦手にしているのが、わかる。


 それから、好子を見た。


 私、同様、小柄で、美しいが、いかにも、性格がきつそうだった。


 怒った顔で、直一を睨み付けていた。


 「…実は、高見さんと、立ち話に夢中になって…」


 「…部屋で、待っている人間の気持ちを考えたことはあるの?…」


 と、噛み付かんばかりの表情で、直一に食ってかかる。


 私は、直一に、これ以上、根掘り葉掘りされるのは、嫌だったので、いきなり現れて、私と直一の会話を中断させた好子に感謝したい気持ちだったが、直一と好子のやり取りを見て、さすがに、直一が哀れになった…


 好子の前で、まるで、頭が上がらないのだ…


 見るも憐れな光景だった…


 まるで、恐妻家の夫だった…


 私は思った。


 「…で、用事は済んだの?…」


 「…用事? 用事ってなんの?…」


 「…トイレに決まってるでしょ…」


 好子が噛み付く。


 「…それはまだ…」


 「…トイレに行くと言って、部屋を出て、こんなところで、立ち話に夢中になって、まだトイレにも行ってないの?…」


 好子が鬼の形相で、直一に詰め寄る。


 私は、唖然とした。


 これでは、まるで、夫婦だ…


 恐妻家の夫と、その妻だ…


 私は考える。


 見ようによっては、直一と好子が、一番親しい間柄にも、思える。


 「…申し訳ない…」


 直一が、頭を下げて、好子に詫びた。


 「…頭を下げれば、いいって、ものじゃないでしょ!…」


 好子が怒る。


 私は二人のやりとりを見て、要するに、直一のやることなすこと、好子が気に入らないのだと気付いた。


 この場合の解決策はただ一つ…


 顔を合わせないことだ…


 顔を合わせれば、好子は直一に文句を言うだろう…


 私はさすがに、その場にいるのが、耐え切れなくなった…


 「…トイレはどこですか?…」


 と、口を開いた。


 私の言葉に、


 「…お義兄さん…さっさと案内してあげて…」


 と、好子が金切り声を上げる。


 直一が、


 「…高見さん…トイレは、こっちです…」


 と、私に言って、私を誘導しようとする。


 私は直一の顔を見た。


 ホッとした表情だった…


 その表情は、まるで、恐妻家の妻から逃げる夫の顔だった…


 心底ホッとした表情だった…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。