恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 13
「…好子さん…立ち話もなんだから、中に入れて頂けませんか?…」
私は言った。
私と米倉、そして、好子の三人は、好子の部屋の入口で、立ったまま、話をしていたからだ…
私の言葉に、好子も、
「…どうぞ…」
と、言って、私と米倉を部屋に招いた。
さすがに、私を部屋に入れないのは、大人なげないと思ったのだろう…
そして、なにより、好子がどうして、私、高見ちづるを嫌っていたのか、米倉にわかったことで、好子も、肩の荷が下りたのかもしれない…
米倉が好子の疑似恋人だったことに、気付いたのだ…
実際、米倉と好子は、年齢こそ、十歳違うが、それを除けば、お似合いのカップルだった…
共に爽やかで、一目見て、誰もが好感を持てる印象を持っている…
共にルックスは最高…
惜しむらくは、ただ、二人とも、身長が高くないことだけだ…
米倉は170㎝、好子は155㎝と、決して、身長が高くない…
今の時代、男も女も、もっと身長が高い…
っていうか、もはや、イイ男の定義も、イイ女の定義も、まずは、身長ありきの世の中の風潮だ…
極端に言えば、女で、言えば、水着審査で、優勝してこそ、世間で、イイ女と認められる…
どんな美人であれ、身長が低ければ、イイ女とは認められない時代なのかもしれない…
つまり、顔よりカラダといってはなんだが、首から下が重要になっている…
具体的には、胸が大きく、脚が長く、かっこよくなければならない…
ゆえに、身長が必要になってくる。
その目標とするところは、水着姿が似合う外人の金髪の女性なのだろう…
カラダが大きく、胸も脚もお尻も大きい…
それが、目標とするところなのだろう…
私は考える。
私の脳裏に、ふと新造が甦った。
新造は、米倉よりも5㎝高い、175㎝…
顔も悪くない…
だが、肝心のオーラがない…
米倉も好子も、ルックスはもとより、一目見て、誰もが感じる爽やかな雰囲気=オーラを纏っている…
それがないのだ…
残念というしかない(笑)…
私はそんなことを、考えながら、好子の部屋に入った。
いや、入るところだった。
その背後から、
「…好子ちゃんも、正造クンも、どうしたの?…」
という声が聞こえた。
私はその声のする背後を振り返った。
いや、私だけではない…
米倉も、好子も振り返った。
そして、振り返った先には、直一の姿があった。
「…お義兄さん…」
米倉が言った。
「…二人とも、どうしたの? 相変わらず仲がいいね…」
それから、少し間を置いて、
「…高見さんもいたの?…」
と、驚いた。
先に、好子の部屋に入った、私の姿が、直一のいる場所からは、見えなかったらしい…
「…これは驚いた…」
私は、直一の言葉に驚いた。
なぜ、驚いたのか、知りたかった。
「…お義兄さん…どうして、驚いたの?…」
好子が、訊く。
好子は美しいが、その目は、冷たかった…
いや、厳しかったと言った方が、いいのかもしれない…
直一は好子の言葉に気圧されるように、少し、間を置いた。
言葉を選んだといってもいい…
「…好子ちゃんが、高見さんといっしょにいるとは思わなかった…」
直一が、好子の反応を見ながら、言った。
「…どういうこと?…」
「…二人とも、同じタイプの美人だから、互いに反感を持つと言うか…うまくいかない感じがしてね…」
…なるほど、うまいことを言う…
「…それはお義兄さんが、そう思うだけよ…」
好子が言った。
その口調は、きつかった…
直一を見る目もまた、厳しかった…
私は直一と好子を交互に見た。
好子は、美しいが、冷ややかな目で、直一を見ている。
一方、直一はというと、好子の態度に明らかに、圧倒されていた。
そして、直一もまた、どことなく、遠慮するような態度で、好子に接している。
これは、なぜだろう?
やはり、直一は、この家の人間ではないというのが、大きいと思った。
直一は、米倉の実姉である、澄子の夫に過ぎない…
いかに、米倉の父が経営する会社の取締役とはいえ、遠慮するものがあるのだろう…
いや、それだけではない…
おそらくは、直一は、好子が苦手なのだ…
好子は、美しいが、同時に、気も強い…
直一には、好子が手に負えないのかもしれない…
なにしろ、好子は、小柄だが、美しく、金持ちの家に生まれている。
つまりは、他人が羨むものを、すべて持って生まれてきたわけだ…
当然、気も強くなるわけだ(笑)…
私は、そこまで、考えたとき、
「…高見さん、なにをしているの? 中に入って…」
と、好子が、言った。
私の思考が中断する。
「…すいません…」
私はとりあえず、謝って、好子の部屋に入った…
米倉が私に続く。
すると、
「…なにをしているの?…」
と、好子のきつい声がした。
「…いや、ボクが入って構わないのかと思って…」
と、直一の声…
「…いいに決まってるでしょ?…」
と、好子のきつい声が聞こえた。
すでに好子の部屋に入った私からは、二人の姿が見えない…
私が驚いて、米倉を見ると、
「…あの二人は、いつもああなんです…」
と、米倉が言いながら、苦笑した。
「…直一さんは、気の強い、好子が苦手で、つい下手に出る…それが、好子が気に入らず、すぐ突っかかる口調で、直一さんに言う…」
「…」
「…傍から見ると、漫才です…」
「…漫才ですか?…」
私は、米倉の言葉に当惑する。
「…ええ…漫才です…」
私は米倉の言葉を聞きながら、よくあることだと思った。
おそらくは、好子は、男らしい男が好きなのだろう…
好子自身、美しいが、小柄だから、背の高い、カラダの大きな、いかにも男というような男に憧れているのかもしれない…
気が強い女は、弱い男は嫌い…
弱いというのは、男らしくないという意味…
直一のように、エリート臭いが、マジメで、大人しい男が、本能的に嫌いなのかもしれない…
と、同時に、とっさに、新造を思った…
新造は、好子の血の繋がった弟…
しかしながら、新造を可愛がっている…
が、新造は、直一同様、誰が見ても、大人しいタイプ…
にも、かかわらず、弟の新造は可愛がり、他人である、直一は、毛嫌いする…
実に勝手なものだ(笑)…
私と米倉のいる場所からは、好子と直一の姿は見えなかった…
なにしろ、部屋が大きい…
まるで、畳にして、三十畳はあるかもしれない…
部屋の中で、何人生活できるか、思わず考えてしまうほど、広かった…
まるで、ヴェルサイユ宮殿といえば、大げさだが、やはり、大きい…
つくづく恵まれた人生だと思う…
こんな邸宅に、住み、美しく生まれる…
誰もが憧れる人生を送っている…
私は、内心、圧倒されながら、その広々とした部屋を見た。
当然のことながら、部屋は密室…
その高い天井を見るにつけ、余計に広さを感じてしまう。
例えていえば、軽自動車を連想すればいい…
ホンダのN―BOXに代表される屋根の高い、軽自動車に乗れば、横幅が、他の軽自動車と同じくらいに狭くても、天井が高いので、圧倒的に、室内が広く見える…
同じように、密室で、天井が高いと、部屋が余計に広く感じるものだ…
私はそんなことを考えながら、部屋の天井を見回していると、米倉が、
「…やはり、気付きましたか?…」
と、声をかけた。
私は、
「…」
と、無言で、米倉を見た。
「…高見さんも、天井が高いと思って見ているのでしょう?…」
「…ハイ…」
「…この家を作った男のマジックです…」
「…マジックですか?…」
「…そう…マジックです…少しでも部屋を大きく見せるための…どうすれば、少しでも部屋が大きく、立派に見せることができるか考えたのでしょう…」
「…たしかに…」
私は言った。
米倉の言葉に同意した。
が、次の米倉の言葉は、衝撃だった。
「…でも、ボクに言わせれば、こんな仕掛けを考えること自体、成金の発想です…」
「…成金の発想…ですか?…」
私は驚いて、米倉の顔を見た。
米倉は、驚いた私の顔を見て、楽しむように、私に笑いかける。
「…だって、そうでしょ? …お金があれば、ただ正々堂々と、家を建てればいい…それが少しでも、豪華に見せたいなんて、成金の発想です…」
私は米倉の言葉に、
「…随分、手厳しいんですね…」
と、答えた。
米倉は、無言で、笑った。
と、そこへ、
「…二人とも、なにを話しているの? 楽しそうだね…」
と、声がかかった。
振り返ると、直一だった。
「…お義兄さん…高見さんに、この部屋の天井が高いのは、成金の発想だと揶揄してね…」
米倉の言葉に、直一が、天井を見た。
「…正造クンの言うことはわかる…」
私は直一に、
「…直一さんも同じ意見ですか?…」
と、訊いた。
「…いや、ボクは違う…」
と、直一。
「…ボクは、この家を建てた人間と同じ発想だ…少しでも、豪華に…立派に見せたいと思う…貧乏人の発想かな…」
「…そんな貧乏人なんて…」
「…この論争に答えはない…要するに、正造クンは、お金持ちだから、変な見栄を張らないで、家を作れば、いいと考える…この家を作った人間は、少しでも豪華に見せようと考える…彼はそれをあざといと感じるのだろう…」
直一の指摘だった。
まさに、もっともな指摘だった…
私は納得する。
同時に、米倉が、直一を評価しているわけがわかった…
瞬時に、誰もが、納得できる答えを出せる。
これが、なにより重要だ…
会社でも、学校でも、一番重要なのは、他人を納得させることができるか、どうかだが、直一はそれができる…
ゆえに、米倉は直一を評価するのだろう…
私は考えた。
「…三人とも、そんなところで、突っ立ってないで、さっさと中に入って…」
好子が言った。
私と、米倉と、直一の三人は、好子の言葉に従って、部屋の奥に足を進める。
部屋には、中央に、テーブルとイスがあった。
ただ、部屋の大きさが、あまりに大きいので、なんだか、そこにポツンとテーブルとイスがあるのが、おかしかった…
まるで、不釣り合いなのだ…
どんな場所にも、釣り合うか、否かがある。
私が、そんなことを考えていると、
「…さっさとして…」
と、好子が怒鳴った。
イライラした様子だった。
私は思わず、直一を見た。
明らかに辟易していた。
うんざりしていたと言っていい…
私は、そんな場所にいるのが、嫌なので、
「…すいません…トイレはどこでしょうか?…」
と、言って、部屋を出ることにした。
私の意図が、米倉と直一にも、すぐにわかったのだろう…
米倉が、
「…トイレの場所は…」
と、言いかけると、
直一が、
「…ボクが教えるよ…」
と、米倉の言葉を遮って言った。
米倉は一瞬、たじろいだが、
「…それでは、お義兄さん…お願いします…」
と、言って、直一に、譲った。
米倉もまた、これ以上、直一と、好子がいっしょにいるのは、よくないと思ったに違いない…
「…トイレは、こちらです…」
と言う、直一の言葉に導かれるように、好子の部屋を出た。
私は直一の背中を見ながら、廊下を歩いた。
155㎝の私から見れば、175㎝の直一は十二分に大きかった…
たしか、さっき会った新造も同じ175㎝ぐらいだったと思った…
二人とも、背中を見れば、その大きさは、同じ…
直一もまた痩せているので、どこか似ているようにも、見える。
しかしながら、好子は義兄の直一を嫌い、血の繋がった弟の新造を溺愛する。
随分、身勝手なものだ(笑)…
つくづく思った。
そう考えたときだった。
前を歩く、直一が、突然、足を止めて、背後の私を振り返った。
「…高見さん…ありがとう…」
と、突然、礼を言った。
私は、
「…」
と、無言だった。
「…高見さんが、部屋を出るきっかけをくれた…いや、それを言えば、正造クンにも、礼を言わないと…」
と、私に笑顔を見せる。
その笑顔を見て、私は遠慮なく言った。
「…直一さんは、どうして、好子さんの部屋に…」
「…偶然、部屋の前を通ったら、高見さんたちと出会ったね…」
「…そうでしたか?…」
…たしかに、あの場で、会ったら、そのまま通り過ぎることもできない…
…嫌でも、私たちに声をかけざるを得ない…
私は考える。
「…とにかく礼を言うよ…高見さんも今見たように、ボクと好子ちゃんは、お互いが苦手だ…だから、少しでも距離を置くのが正解だ…」
私は、どう返答していいか、わからなかったので、黙っていた。
「…とにかく、ボクは好子ちゃんが苦手で…」
直一が繰り返す。
「…あんなに美しいのに、ですか?…」
私は直一の愚痴をわざと笑いに変えるべく、言った。
直一は私の質問に戸惑ったようだ…
「…たしかに、好子ちゃんは美しい…」
直一は足を止めて、呟いた。
「…ボクも初めて会った時は、なんて、キレイな女だと、思った…だけど、ボクが気に入らないのだろう…なんにでも、ケチをつけてくる…」
直一が愚痴をこぼす。
「…いくら、キレイでも、堪ったものじゃない…」
直一が、言った。
当たり前のことだ…
「…その点、高見さんは違うね?…」
「…私ですか?…」
「…見た目は、好子ちゃんと、同じタイプの美人だけど、中身が違う…今日、初めて会った時は、驚いたよ…」
「…驚いた? …なにに驚いたんですか?…」
「…正造クンが、好子ちゃんと同じタイプの恋人を連れてきたのは、初めてだったからね…」
「…」
「…いつもは、派手な女のひとを連れてくるのが、多かった…」
「…」
「…これで、正造クンも、次期の社長狙いに本気になったということかな…」
直一が笑う。
「…次期の社長狙いって、なんですか?…」
「…正造クンが次を継ぐのが、普通だが、反対意見もあってね…」
「…そうですか?…」
「…別の人物を推す声もある…」
「…別の人物って、誰ですか?…」
直一は一瞬躊躇った後、
「…言いづらいが、ボクさ…」
「…直一さん?…」
私は驚いたが、少し考えて、それが当たり前のことだと気付いた。
米倉はすでに、何度も、直一のことを評価しているし、米倉自身が、自分の父親から、食わせ者と陰口を叩かれている…
米倉が、その事実を知らぬはずがない…
「…今日、高見さんを、この家に連れてきたのは、好子ちゃんを好きなお義父さんに気に入られるためと、ボクは考えたんだが…」
直一が独り言を呟く。
「…それとも、高見さんは、なにか、正造クンに言い含められて、この家にやって来たの?…」
「…そんな言い含められてなんて…」
「…そう…ならいいが…」
直一が一人納得する。
「…それとも…」
「…それとも、なんですか?…」
「…高見さんは、ホントに正造クンと付き合ってるの?…」
直一が訊く。
直一が、インテリ臭いメガネの奥から、目をキラリと光らせて、直球の質問をした。




