第61話「防御準備期間」
わーわーわー♪
うぉぉおおおお♪
城壁から盛大な歓声を受けながら私たちは帰還した。
念のため、夕刻まで燃えた森を見張っていたが、オーガの大半はさらに奥へに逃げ散ったのか、ほとんど姿を見せなかった。
しかし、多少なりとも接触を続ける気はあるのか、少数のグループが燃えた森をかき分けながらこちらをじっと見ているのが実に不気味だ。
「……城壁の連中は大喜びだけど──アンタのいう通り、オーガの連中まだまだやる気っぽいねー」
「当たり前よ。この前のベヒモスといい、獣の王といい──なにやら魔物どもが不穏な動きをしておるからの。それを読み解けばあんな中途半端な攻撃など、陽動か威力偵察と見てよかろう」
ほーん。
アホっぽいわりに、こいつ結構頭が切れるな。
まぁ、竜人族だかなんとかいう連中は長生きなんだっけ? それでかな。
「つーか、その通りだとして、このあとどうしようかなー。……チハたんで夜遠し見張る?」
「それもいいが、おそらく連中は夜襲はせんじゃろう。負傷個体も多かろうし、なにより夜目の効く種類もおるにはおるが、連中の大半は人間より多少見える程度じゃて。わざわざ得意でもない夜戦で危険を冒すとは思えんわい」
ほうほう。
でも、多少見える程度でも、ある程度夜目が聞くってことじゃね?
だけど、大群で攻めるなら多少だと大差ないか。
「とはいえ、警戒は必要じゃろうな。……おそらく、オーガナイトシーカーという種が見張りにつくじゃろうが、まぁそれくらいよ」
「なるほどねー。ま、乗り掛かった舟だし、やることはやるよ」
つーか、ナイトシーカーってなに?! かっこいいな、おい。
「真面目じゃのー」
「……真面目っていうか、日本人の性なんだろうなー」
こう、もう少しでなんとかなりそうなことを、途中で放り出すのはなんか気持ち悪い的な?
「変わった国民じゃの?」
それはそう。
「……ま、報酬も貰わないとダメだしね」
ただ働きは絶対いやー。
「あー。そういや、我も屋根代をチャラにしてもらわないといかんかったわ」
そうそう。
アンタはそれがあるから絶対に働けよー。
「──つーわけで、帰ってきましたー」
「お、おぉー! ナガセよ! よくぞやってくれた!」
城門付近まで行くと、満面の笑顔で出迎える気満々のアークス議長がいた。
そして、不満そうな顔の樽爺こと副議長やその他議員のほか──あ、なんかギルマスもいるやん。
「わざわざ皆でお出迎えご苦労~!」
ふんぞりー。
「……そ、そこはちょっとは謙虚にできんのか?」
「いやー、そうしたいのは山々なんだけど、アンタらすーぐ舐めた態度とるじゃん?」
とくにそこの爺。
「ぐぬ。な、舐めてはおらんわ!」
「うそつけ。なんか言いたくてしょうがない顔してんじゃん」
どうせ、森の木がー! とか言うんでしょーが。
「ふん! 当り前だ! 貴様は町に何の許可もなく貴重な資源である木をだなー」
「あーあーあーあ、わーわーわー! ナ、ナガセ! よくやってくれた!! た、たいしたもてなしはできないが、議会で晩餐会を催そうと思うが──どうじゃ!」
あーん?
晩餐会~?
慌ててフォローに入るアークスちゃんに胡乱な目つきを向けちゃう私。
だってねー……。
「んー、なんか面倒だし、パース。その分、ご飯代頂戴~」
「くれー♪」
ずるー!
ルルと一緒に手を差し出すと、昭和チックにずっこけるアークスちゃん、
「ド、ドケチか、おのれは! どこの主婦じゃ!」
「ぬははは! だって、こっちのご飯ってイマイチなんだもん。普通にメガモールでお惣菜買って食べたほうがおいしいし──あとさ、」
うん。
ちょうどお歴々もいるし、いい機会だし言っておこう。
「──なんか、まだ全然勝ってないっぽいよ? さっきのはただの威力偵察で──主力すら来てないってさー」
……って、ルーフデスが言ってた。
「「は、はぁぁぁあ?!」」
その言葉に口をポカーンと開けたのは議長と副議長ズのふたり。
見事にシンクロしとるわ。
「うむ。竜人族大使として、我も証言してもよいぞ。明日以降も攻撃はあろうな」
そして、ルーフデスの言を受けると、思わず二人して顔を見合わせてもう一度──。
「「はぁぁぁああああああ?!」」
口パッカーと間抜け面。
(……いや、二回も驚くなや)
そうだって言ってるでしょ──……知らんけど。
「ま、まぁまぁ議長殿に副議長どの、その辺の話はあとで……」
そこに割って入ったのはさっきから口を利かなかったギルマスだ。
なんか、メガモールの制服が板についてきたけど、そっと二人に耳打ちして、なにやら物知り顔で苦笑いしている。
さらには、私と目が合うと軽くうなづいて見せた。
(……ってことはたぶん、ギルマスはドミトリさんあたりから情報を手に入れてるんだろうなー)
まぁ、
高ランク冒険者たちは私たちより先に迎撃に出ていたというし、そのへんに感づいていてもおかしくはないか。
「──というかお主らは、な~にを驚いとるか。国の長なら軍事の基本くらいは抑えとけぃ。あんなものはオーガどもの本気ではないぞ。お主らも見ての通り、ジェネラルもロードもおらんんだろう」
さらに追い打ちをかけるのは、小バカにしたようにため息をつくルーフデス。
こいつはこいつで煽るなー。
まぁ、一回、竜人族の大使といって信用されなかったからことがあるから、意趣返しかな?
しっかし、忸怩たる思いがあるのはわかるけど、露骨すぎー。
……報酬下げられるぞ。
「ぬぅぅ……。あ、あれで威力偵察とな?」
「そんな馬鹿な! 今までだってあんな規模のオーガを見たことありませんぞ!ど、どうせでたらめです」
馬鹿言ってんじゃないよ。
「そんなすぐにばれる嘘ついて誰の得になるんだが……。むしろ、嘘つくなら、なんも言わずに報酬だけもらってさっさと国を離れるっつーの」
「ぐぬ」
私の鋭い突っ込みに、二の句の告げない副議長。
つーか、コイツじゃ話にならない。ここは一応話せる議長さんがだね、リーダーシップを発揮したまいよ。
「……というわけで、議長さんや。その辺もろもろ話したほうがいいんじゃな~い? 晩餐会とかやめてさー」
実際、飯食ってる場合じゃないよ?
私ももちろん、報酬分は働く気でいるけど──……数で押されたら、どうにもならないからね。
「ぬぅぅ……そ、そうじゃな。すまんが、お前たち、もう少し付き合ってもらうぞ」
「いいけど、報酬弾んでねー」
「わかっておるわ!」
というわけで、場所を変えて作戦会議をするらしいけど──……これ、悠長にやってて間に合うのかね?
※ ※ ※ ※ ※
「──……以上が、わが軍の状況じゃ!」
バンッ!
図面に落とし込まれた軍記号の前で、偉そうにふんぞり返るアークス議長。
その隣には、なんか軍人っぽい服に着替えた副議長もいるね。
っていうか、なんで私までこの会議室にいるんだろ?
戦うのはいいけど、知識を求められても困るぞ?
「(その辺は我に任せておけ)」
「(ん。しくよろー)」
珍しく頼もしいルーフデスが、知識面でサポートするという。
ならばここはお言葉に甘えて、ノンビリさせてもらおうかね。
「チョコとアメとクッキーあるけど、どれ食う?」
「全部」「ぜんぶー」
はいはい。
うちの子たちは食いしん坊だねー。
「はい、どーぞ。飲み物はクーラーボックスから──」
「って、そこぉぉぉおおお! さっきから、バリボリ、ごくごくと、うっせーーーーんじゃがぁぁあ!!」
「あ、ばれたー」
えへへ。
アークス議長ちゃんが怒髪天だ。
「だってぇ、みんな真面目な顔してぇ、会議してるからぁ、退屈でぇ」
「そのイラつくしゃべり方やめーい!……せめて全員分、用意せんか! まったくもー」
「あ、食べるのはいいんだ。ん──いっぱい持ってきたから、食べていいよー。……あ、バイトさん、配って配って」
そこなモールの店員さんや。
「いや、私も要人扱いでいるんだけどね──……はぁ、わかったよ」
モールの制服が似合うエルフさんこと、ギルマスにお菓子袋をおしつけると、再び、バリボリ……。
「って、だから、せめて、音を出すな音をー!」
「えー……注文多いなー」
口は閉じて食べてるじゃ~ん。
「アメをかじるな、アメをぉ!──はぁ、話が進まんからおとなしくしとれ」
「してるしてる。つーか、私いる? 行けって言われたところにいくよ?」
つーか、アメって齧りたくならない?
あ、ならない派でしたか、そうですか。
「それは頼もしいが、見ての通り、わが軍の状況は絶望的じゃ……」
見ての通りって言われてもなー。
仕方なく図面に視線を移すと、なるほど……。青い凸記号っぽいのが味方表示らしいね。
そんで、赤の凸記号が敵の予想っと……。
「敵、多くね?」
「多いのー……ギルドで周辺偵察をして、その結果じゃそうだ」
あー。
なら正しい情報だね。この町の軍はウ〇コだけど、冒険者はあてになるからね。……ドミトリさんとかいるし。
「そんで、なんでこんなに味方が少ないの? 雑魚ばっかだけど、昼間はもうちょっと数が多くなかったー?」
「雑魚って……。ふんっ、まぁ、あながち間違ってはおらんか。大半が戦意喪失だそうじゃ……。もともと緊急招集で集めた町民じゃからの。ボウガンくらいは打てるが、こと近接戦闘では素人同然よ」
あー……。
どーりで。
「主力の帰還も急がせとるが、まだまだかかる……。デカい軍は動きが悪いんじゃよ」
「八方ふさがりだねー」
聞けば、万単位の軍がいるらしいが、各地い分散派遣して、その集合だけでも一週間はかかるそうだ。
首都の防衛は周囲の森林や山脈に守られているから手薄でいいと思ったのが運の尽き──まさか、敵軍ではなく、その守られているはずの天然の要塞から魔物が出現するのは予想外だったらしい。
「──……で、じゃ。一応、動ける人間で防衛隊を編成したが、オーガの群れにまともに当たれるとは思えん。城壁に頼った戦いになるじゃろうが、お主も知っての通り、城壁は補修中じゃ。そこをつかれると弱い」
ふむ。
「さらに言えば、そこに兵力を集中すれば、他が手薄になる。ベヒモスと違って、オーガどもは登攀能力が半端ないので、城壁もほとんど気休めじゃ」
あーらら。
「それ、詰んでない?」
「詰んどるのー」
認めるんかーい。
「あー……ルーフデスさんや。、なんか言ってやってくださいよー」
「いきなり振るでないわ。じゃが、まぁ……ゆえに我は疎開を進めとるんじゃ──まぁ、時間をだいぶ無駄にしとるから、今からでは間に合わんじゃろうがな」
そういや、アンタは最初からそれを進めてたっけ。
「ぬー。大使殿は簡単におっしゃるが、そう簡単に疎開などできるわけがない。女子供に老人の足では半日で追いつかれるのが目にみえとる」
オーガ早いしね。
馬車とかを総動員しても、絶対数が足りないだろうなー。そもそも、馬車だってそんなに早くないし。
「被害規模を考えれば、温子供に老人はあきらめるしかあるまい。生きて逃げられるものだけでも逃げい。それがもっとも合理的じゃ」
「いやいや、さすがにそれは無理っしょ」
言いたいことはわかるけどね。
そんな判断がトップにできるはずがない。……というかするくらいなら、男どもも死ぬ気で戦う方を選ぶだろう。不合理でもそれが人間だ。
「うむ。無理じゃな……。ゆえにこうして頭を絞っとる」
「ふむ……。ならば、死ぬ気で戦うしかあるまい。幸い、こっちには暴力系戦車女子がおるから戦力は多少期待してよいぞ」
ん?
「それ私?」
「ほかに誰がおる」
「屋根破壊系女子も数に入れてよろしくー」
「今は破壊できんわ! ただの頑丈系女子だっつーの!」
それはそれですごいけどな。
「──で、死ぬ気で戦うとして、ちょい地図をみせい」
そういってルーフデスは図面に向き直る。
そして、しばらく頭を悩ませた後、
「ふむ。……覚悟があるなら、なんとかなるかもしれんぞ」
「ま、まことですか?! 大尉殿!」「ど、どのような策で?!」
その言葉に目を見開く議長と副議長。
「うむ。女子供まで動員して、築城じゃ──詳しくは、この女の持ち物を参考にせい」
「へ? 私?!」
何を言い出すかと思えば、いつのまにかチハたんから持ち出していた数冊の本をポーイとテーブルに投げるルーフデス。
その表紙にはそっけなく一行。
『歩兵操典』『工兵操典』
どうやら、戦車の物入にあった帝国陸軍の野戦教範というやつらしい……。
(えー……イチからこれ読むのー?!)




