第59話「時間稼ぎ」
『ゴギャ、ゴギャァァ!』
『ギガァァァアアアア!』
数匹の大型個体が仲間お撤退を支援しているのか、踏みとどまっている。
そこに降り注ぐのは、ようやく立ちなったらしい城壁側の攻撃だ。
ヒュンヒュン! と矢が降り注ぎ、
遅まきながら投石器も稼働を始めた。
しかして、相手は鋼鉄並みの皮膚を誇る大型のオーガだ。
矢なんて完全に無視しえ、投石器の攻撃もアッパーで破壊! そして、勝ち誇ったように吠える──。
『ゴルァァァアアアアアアアアアアア──……あびゅ』
ドーン!!
そこにすかさずルルの九七式自動砲がさく裂。
オーガの上半身を完全に吹っ飛ばしてやったぜー。
ズズンッ! と倒れ伏すオーガを見て城壁側から歓声があがった。
いえーい、見てるぅー。
「アホゥ! 調子にのっとらんで追撃せんか! 隙を与えると逆襲してきよるぞ!」
「わぁーってるよ」
ったく、軍師気取りかよ、ポンコツドラゴンのくせに。
「しかし、燃やすとはいってもどうする気じゃ!? 連中の殿もおるし、森は広大ぞ?」
「そんなの決まってるじゃん! こいつで焼くのさー」
ジャキンッ!
取り出したりますわ、一式砲戦車の主砲弾だ。
「ぬー? さっきの榴散弾というやつか?……威力は強力だが、焼くにはちと役不足ではないか?」
「ちっちっち。誰が同じ砲弾使うって言ったよ──これは、九〇式焼夷弾。つまり、燃やす専用の弾だよ」
「な、なんと! そんなものまであるのか!」
当然っしょ。
一式砲戦車の主砲の原型は日本軍の傑作野砲として知られる九〇式野砲を改造したものだ。
戦車に乗せるために駐退器や砲身、マズルブレーキに改良がくわえられているが、原型は野砲なので、各主砲弾が使える。つまり、砲戦車と名はついているものの、実質自走砲なのがこの一式砲戦車なのであーる。
「そんで、こいつをこうして──こう!」
ガコンッ!!
「装填ヨシッ!」
主導装填してみせると、ルーフデスに不敵に笑って見せる。
「ふふんっ、森を焼くのはあんただけの専売特許じゃないよー」
「いや、どや顔されてものー。そもそも焼きたくて焼いたんじゃないぞ?」
ご託はいいのさー。
「それよりも、敵さんの露払いをよろしく!」
「むっ! 心得た!」
遠距離で撃てるとは言っても周囲にはまだまだオーガが撤退中だ。
そいつらが死ぬ気で襲ってこないとも限らない。
「ルルは中距離のオーガを排除! ルーフデスは白兵戦闘用意用意用ー意!」
「りょー!」
「うむ!」
二人の声に、サムズアップで答えながら私はコントローラー越しに森を照準する!
そして、敵が逃げていく地域を目視で確認──……おおよその進路を見極めると、撃つべし、撃つべしっ!
「ってぇぇぇええええ!」
バクーンッ!!
主砲が火を噴き、九〇式焼夷弾が放物線を描いて飛んでいく!
そして、森の中腹に着弾──!!
ボーン!
と、オレンジ色の炎が上がるのが見て取れた!
「ぬー! なんじゃあの炎は!」
「あはっ! わかるんだ」
ルーフデスが目を見開いて火柱を唖然と見る。
「と、当然じゃ! われは炎のプロフェッショナルよ! あの炎……相当な熱量ぞ!」
「だね。中身はマグネシウムとか黄燐とか硫黄とか色々。テルミットっていう焼夷剤だよ」
「テ、テルミットとな……お、恐ろしい火じゃ。あれでは鉄すら燃やすであろうの」
正解。
テルミットやマグネシウムの発火温度は2000~3000度。つまり、くっそ高熱なのだー!
「しっかし、一発じゃさすがに森全体をいうわけにはいかないかー」
「当たり前じゃ! 何発も打てるなら畳みかけよ!」
オッケー!
放火の先輩がいうなら間違いないね!!
「目標正面! 大森林!……ってぇぇええ!」
バクーン!!
バクーン!!
バクーン!!
装填からの発射、
装填からの発射、
装填からの発射!
九〇式焼夷弾のつるべ打ちだぁぁあ!
「よーし! いいぞ! いい感じに火が回ってきよったわ!」
「あはっ! あんたのお墨付きをもらったなら間違いないね!」
さすがは森を焼きし竜!
とはいえ、全体を焼き尽くすには至らない。今は着弾付近を中心にバチバチよ立ち木に火が回り始めたくらいで、大火災というにはほど遠い。
「んー。さすが生木というのはそう簡単には燃えないかー」
「じゃが、十分じゃ! 時間をかければ徐々に燃え広がろう」
ん。
その時間があればだけどね。
「……悪いけど、向こうも背中を焼かれるのは嫌みたいだよ」
『ゴルルルル……!』
『ゴガァァァアア……!』
「そのようじゃのー」
スッ! と一式砲戦車から降りたルーフデスが周囲を取り囲むオーガに向き合う。
「援護は?」
「いらんわ」
あはっ。
さすがはドラゴン!
「……じゃが、そっちに向かう分までは相手できんぞ!」
「それこそ必要ないね!」
ジャキッ!
私は、砲塔上部にむき出しになっている対空機関銃にとりつく。
一式砲戦車は前方機関銃がないので、近接防御火器はこれだけだ。
だけど、十分!
「──なんたって、こっちにはルルがいるからね!」
「んっ!」
親指を立てたルルがニコリと笑う。
とても可愛らしいが、その手には九七式自動砲と九六式軽機関銃というとても少女が持っているとは思えない物騒なものが燦然と輝いていた。
「よーし、そんじゃああ、火が回りきるまで相手してやろうじゃないの!」
「おうよ!」
「ん!」
いうが早いか、頼もしい相棒たちはそれぞれの得物を構える。
そして、
『『『ゴルァァァァアアアアアアアアアアア!』』』
逃げ場を失ったオーガ十数体と私たちは激戦を繰り広げることになった。




