第58話「出撃」
『『『グゥォォォオオオオオ!!』』』
うっひょー!
いるいる!
こっちみて吠えてるー!
剥きだしの戦闘室からは外がよく見えるし、咆哮もビリビリ響く。
しっかし、多いなー!
装甲越しに見えるのは、巨大なオーガが、ひーふーみー……いっぱい、いっぱい!
「お、おい、ナガセ! どうすんじゃ?! 周り中オーガだらけぞ!」
「わかってるよ! とりあず、城壁の奴を引っぺがすから、アンタは周辺警戒よろっ!」
「こ、心得たー!」
ん。
よろしい。
「ルルはー?」
「ルルは、これ! 近接火器で支援よろしくー」
「んっ!」
ズチャキ! と重々しくも渡したのは、九六式軽機関銃の銃剣付き & いつもの九七式自動砲~♪
それを軽々担いだルルが、戦闘室の防盾に据えるようにして構えた。
「で、でっかいのー……我もそーいうのがいいのぉ」
「アンタ、銃使えないでしょ。今度教えたげるから、今はその中古品で我慢しな」
「中古品て……」
ジッと手元の剣をみるルーフデス。
『獣の王』の鵜封印場所から回収した聖剣と神剣とやらだ。
「……一応、伝説装備なんじゃがのー」
そう言いつつも、まぁいいかと二本を構える。
……うん。アンタはそれが似会ってるよー。
「で、どうするんじゃ? 現状、城壁はオーガがとりついとるし、森の方からは続々増援が来とるぞ? ついでにいえば──……」
ズバンッ!
「──こっちにも来よったわッ!」
グルァァ! と叫んで飛び乗ろうとしたオーガを逆袈裟で切り上げたルーフデス。
さすがは聖剣──!
中古とはいえ、オーガごときを膾切りにするには十二分すぎる威力だ!
「わかってるよ! まずは、城壁を払って──それからは……うん、出たとこ勝負だよ!」
「ほっ! 相変わらずノリで生きとるわ!」
当然っしょ!
さーて、そーいうわけで城壁のオーガをパパッと払いますかー!
「二人は近づくオーガを排除して! こっちは砲に専念するから!」
「任された!」「あーい!」
よーし、この二人ならオーガの波状攻撃もなんとかなるな。
ならば私はこっち!
「主砲装填! 弾種──」
ガコンッ!
「うぉい!? ガコーーンって、ナガセ?! お、お主、まさか城壁に向かって大砲撃つつもりじゃないだろうな?!」
「ん?……そのつもりだけど??」
何言ってんのこのガキ。
だって、ほら──。
「今の城壁って、ゴキブリがびっしりとこびりついた壁みたいになってるじゃん?」
「いやな例えをするな! まぁ、わからんでもないが──チハたんの主砲で撃ったら城壁なんぞ、ひとたまりもないぞ?!」
そりゃね!
伝説の魔物の『獣の王』を下した砲だ。現地の人間がこさえた石造りの壁と比べるまでもない。
だが問題なーし!
「いいから、アンタは自分の仕事をする!」
「し、しかしのー!」
うっさい!
「それよりも、装填続行──弾種、」
──九〇式榴散弾ッッ!
「信管、05!!」
ガコーーン!!
「うぉぉおおおい!? ほ、本当に撃つ気か?! 城壁にあてたら屋根の破壊より不味いことに────あ、や、やめぇっぇえ!」
うるさいなー。
お前も私に向かって炎ふいたことあるやろがい!
「──いいから、伏せる!」
目標正面、城壁!!
「……ってぇぇええ!」
ズドォォォオオオオオン……!
砲撃指示と同時に、一式砲戦車の75mm砲から長大な炎が噴き出す!
直後、砲身から飛び出した九〇式榴散弾!
それが──……!!
ボーーーーーン!
と、何もない空中で猛烈にさく裂した。
……しかし、なにもないからこその飛散!
そして、悲惨だ!!
直後ッ!
「頭を下げてッ!」
「ぬぉ?!」「あぅ?!」
ギリギリまで近接戦闘をしていた二人の首根っこを掴む。
すると、すわっ! 今こそ乗り込むチャンスとばかりに周囲に群がっていたオーガが突っ込んでくるが──……立ち上がったが最後!
──死神はすぐそこにいた!
『『『ゴギャァアア!?』』』
悲鳴、悲鳴、悲鳴!
誰も彼も何が起こったかもわからないうちに、オーガどもの悲鳴が響く!
それと同時に、血と猛烈な運動エネルギーを秘めた何か鉄片のようなものが、ザァァァ! と、降り注ぐ不気味な音が周囲に響きわたった。
「な、なんじゃぁぁあ?!」
「まだ伏せてなさいっ!」
キン、カンッ!
思わず顔を上げようとしたルーフデスのそれを抱きしめるようにして伏せさせる。
その頭上でも、防盾に金属が跳ね返るいや~な音を聞きつつ、恐る恐る顔を覗かせると、周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
「ひ、ひぇっぇえ……」
「あっぶねー……。さ、さすがにゼロ距離射撃は危険だねー」
九〇式榴散弾は、大量の弾子を内包した空中でさく裂するショットガンのようなもの(※厳密には違う)だ。
それを75mm砲弾で撃つのだからその威力は絶大のひとこと!
さらには、そいつを発射と同時に最短信管がさく裂──0.5秒のそれなど、砲口から出た直後に炸裂するのと変わらない。
オマケに、発射方向に9割! 残り一割は明後日の方向に飛んでいくのだ!
味方すら巻き込むほどの勢いで放たれたそれは、軟目標に対しては凶悪なんて一言で片づけられるものではない。
「あ、あっほぅ! し、死ぬかと思ったわー!!」
「アンタなら大丈夫だって!」
ば、馬鹿たれー!
「当たったら、刺さらなくても痛いんじゃー!」
「刺さらないならいいじゃん……」
「いくねーわ! だいたい、壁に向かって撃つとか正気かお主はー!」
正気も正気!
超正気だよ!
「いいから見てみ」
ルーフデスが、なにやらぎゃーぎゃーと、うっさかったが壁を破壊するわけないっしょ!
「む! こ、これは……」
遅る遅る、防盾から顔を出したルーフデスと私たちの眼前に広がる光景。
──それは、まさに死屍累々。
周囲には無数の弾子をばらまく榴散弾が直撃したのか、バラバラになったオーガや瀕死のオーガ多数。
さらには、城壁にとりつきよじ登っていたオーガの無防備な背後を強襲したのか、直撃を食らった奴等はもはや原型を留めないほどにズタズタになっていた。
壁に残るはそのシミのみ……。
「…………いや、こっっっわ!! ナ、ナガセ、おまえ──こっわぁぁぁあああああ!」
さすがに仰天したルーフデス。
まぁ、気持ちは私も同じ。頭のなかでは取りついた害虫を払うくらいのつもり──せいぜいバルサンを炊くつもりで撃ったが、まさかまさかの威力だ!
完全に無警戒かつ開けた場所にいたので、オーガの群れはまさに大損害であった。
「た、たははは、ちょっとやりすぎたかな〜?」
というか、城壁にも無数の弾痕があるし──確かに、こっわぁ……。
これ、下手したら城壁上にも被害がでるとこだったよー。
「ま、まぁ威力は折り紙付きってことでー」
「アホぉ! 一歩間違えれば、こっちの首が吹っ飛ぶわーい!」
アンタなら大丈夫だって。
「それより、一発じゃ足りないね! 壁についた害虫を払うのに、もう二、三発!」
「はぁぁ?! まだやる──……ッちぃ!!」
──ゴァァァアアアア!
言い合いをしているうちに肉薄してきた残余のオーガが躍りかかってきた。
それを一刀のもとに切り伏せるルーフデス。
「あはっ! 向こうはまだ、ヤルってさ!」
「くっ! やむを得んか! ナガセ、やるなら一気にやれ! 城壁にとりついても無駄だとわからせてやるのじゃ!」
「言われなくとも──ルル! 合図同時に頭を下げるんだよ!」
「ん!」
振り返るなり、ぐー。
ルルはこのへんよくわかっているから心配ないとして、問題は城壁上の兵士達だよなー。
巻き込まないようするのは至難の業だぞ──……だけど、やるしかないか!
「二人は防衛戦闘を、継続継続継続ッ!!──しかるに、こっちは主砲装填ッ!!」
弾種、信管──ともにおなーーーーじ!!
──ガコーンッ!
「ってぇぇええ!」
バクンッ!!
発砲と同時に頭を伏せる二人。
その頭上でさく裂する榴散弾……──相も変わらず凄まじい威力だ!
『『ゴギャァッァアア……?!』』
城壁の別の区画にとりついてオーガとその下にいた個体が、まとめて地面の染みになる!
「ひゅ、ひゅ~……相変わらず、すっげぇ威力」
「お、おぉ! ナガセ、奴等もさすがに驚いて逃げていきよるぞ!」
「お、マヂ?」
それは助かる!
榴散弾程度では、城壁は抜けないとわかっても……さすがに市民が大勢いるであろう壁に向かって撃つのは気分がよくない。なので奴らが撤退してくれたのは素直に喜ばしい。
「じゃが、あの分じゃと負傷個体を後送して、すぐに戻ってきよるぞ。……おそらく、こっちが手強いとみて、搦手で攻めて来よるはずじゃ」
「搦め手?」
っていうと、どういうこと?
「全包囲するなり、陽動をするなりして──お主を誘引するつもりじゃろうな?」
包囲?
誘引……??
「あーもう、分からん奴じゃな!! お主がおらんとこを攻めるために決まっておろう! 飽和攻撃が始まるぞ!」
「んな!」
そ、そーいうことか!
飽和攻撃……。
つまり、こっちの手が回らないくらいに色んな方向から一斉に攻撃するってことね!
「げー。それをやられるとまずいかも……」
「じゃから、やってきよるのじゃ。奴等は図体もデカいが頭もデカい。……見た目ほど馬鹿ではないぞ」
むむ。そ、それは困ったぞ。
チハたんは無敵の強さを誇るけど、一台しかないのだ。
今、一斉に攻めてこられると、必ずどこかに隙ができる──……これは参ったな。
「なら、どうしたら?!」
「ふんっ。我なら策源地をつくな──……つまり、あの森じゃ!」
策源地?
……あー、敵が出てくる場所ってことか!
ならそう言えよ、と思わなくもないけど──言ってることは正しいので黙っておく。
「……アンタ、それで前にベヒモスごと森を燃やしてたの?」
「無論じゃ。……なんじゃお主。我をただの放火魔とでも思っておったのか?」
うん。
「失敬な!! これでも、常識くらいもちあわせとるわーい」
「嘘つけ、アンタ問答無用で、こっちに襲い掛かってきたじゃん」
「戦車砲を100発も撃ちこむ奴に言われたくないのー」
あー、あったねー。
うんうん。
「……なにを懐かしがっとんじゃ、あれ、割とトラウマもんじゃからな?」
「それはそう」
そして、それは置いといて──。
「おいとくなや」
「うっさいなー。もうええやんけ」
それよりも、森を攻撃だっけ?
「どうすんの? アンタが焼く?」
一時撤退したオーガ達。
たしかに森の方に逃げていくので、あそこに火をつければ効果的だろう。
「無茶いうでないわ──ぺーぺぺぺっ。ほれ、この通り、火は出せ……あいだぁぁ?!」
ゴーン!
「どこに唾吐いてんのよ!」
「い、いや、ふりじゃよふり……おー、いてぇ」
こっちの拳の方が痛いっつの。
しかし、参ったな。そういやコイツの変身には大量のカロリーが必要なんだっけ。
「今から食ったら間に合う?」
「間に合うわけなかろうが! この体のサイズで元の姿になるには相当量の食いモンがいるわーい!」
むー。
なんて燃費の悪い奴……!
「しっかたないなー。んじゃ、こっちから砲撃といきますか」
「あーん? チハたんでか?」
おーよ、チハたんでですよ。
「つーわけで、主砲装填!」
さぁ、いっくよー!
貴重な森林資源を焼いて進ぜようかー!
環境?
はっ。寝言は寝て言え。




