第57話「掌くる~♪」
ぎゃー!
うゎぁあ!!
見る見るうちに戦線が食い破られているのが分かる。
城壁の外にいくつか設けられていた堡塁が次々に陥落。中にいた兵士が我先にと逃げ惑っている。
「な、なんたること!」
アークス議長も、口を開けたままわなわなと震えている。
このままでは遅滞戦闘どころではないのは明白だ。それどころか、避難民の収容もままならない。なにせ外では城壁の補修作業さえやっているのだ。
「ぐぬ! オーク対策で主力が不在とはいえ、脆すぎる! こ、このままでは──……アークス議長! 時間稼ぎに冒険者を出撃させては?!」
「な、ならん! 状況もわからぬまま出したとて餌食になるだけじゃ!」
それはそう。
「し、しかし、このままミスミス──……」
樽爺も歯噛みするほど戦況は最悪だ。
実際一部ではオーガが城壁にとりつき始めている。さらには郊外に展開した一部のオーガが岩やら丸太やらを次々に投げてくるではないか。……その威力よ!
「わ、わかっておる! じゃ、じゃが、一つだけ手がないこともない……」
へー。
なにか秘策があるんだ? なんだろ────……って、なに?
「え? どしたん? 急に頭下げて……ポテチ?」
もう、あげないよ?
さっき一袋あげたじゃーん。
「いや、ポテチの話はしとらんわ! そ、そうではなくだな。うむー……。虫のいいことを言っているのは分かるが、ナガセよ。お前の力を今一度貸してもらえんか?」
はい?
え? まさか、打つ手って…………私のこと?!
「いや、いきなり言われてもなー」
そりゃ、手を貸すのはやぶさかではないけどさー。
……頭をガシガシ。
「んー。報酬ケチったり、証言台に呼んだり、クソアマ呼ばわりしたり、あげくルルちゃんを悪しき様に言われてるしなー」
「おーい。我のことが抜けとらんか? 結構、クソドラゴンとか、我もぼろくそ言われとるんじゃが……」
おめぇ、いいんだよ。
自業自得なんだから。
「ぐっ! そ、そのことは謝る! 報酬ももちろん払う! 議会の予算が降りねば──ワシの個人資産で何としてでも払う! じゃから!」
「うん、まぁ……議長さんは頑張ってるからいいんだけどさー」
なんだかんだで、この子は嫌いではない。
ちょっと傲慢だけど、話が通じないタイプじゃないし。
「そうじゃなくてさ……。こんな時に言うのもなんだけど、私らに謝るべき人は、もっと他にいるんじゃな~い?」
じーっ。
「ぐ、ぐぬ……」
うん。
主に、そこで、ぐぬぬ……とか言ってる樽体系の爺さんな。
「む、むぅー、確かに……。のう、副議長どの」
「いやです」
あーん?
「いやだと言ってるんですよ! なーんで、こんなチッコイ女に謝らにゃならんのです? こっちは何一つ間違ってませんぞ!」
「お、おい……! 今そんなことを言っている時では──」
慌てるアークス議長に、
まったく頑固な樽爺。つーか、チッコイのは関係ねぇよ!
「ふんっ! 悪くないものは謝らん! そして、そんな時だというなら、そこなクソアマに言うべきでしょう! 街の危機に、謝罪だ金だなどと良く言えたもんだ!」
いや、
それ全部お前だからね? 超ブーメランだからね?
「ぬ、ぬぅー……。そ、それはそうじゃが……」
いや、折れるな折れるな、アークスちゃんや。
そいつの、そういうのを見過ごしてるから舐められるんだぞ。
「の、のう、ナガセ──いや、ナガセ殿?」
「なにー」
鼻くそ、ほっじー。
「そ、その……ワシに免じてとかじゃダメ、かの?」
「んー……。そうしたいのはやまやまだけどさー。一回、すでに『獣の王』の討伐報酬をうやむやにしようとしてるよね?」
前科がある以上、議長さんの言葉だけじゃなー。
まぁ、この子は個人資産ででも払うって言ってるけどさ。
「そ、それは──議会の承認がじゃな……もごもご」
じゃ、ダメじゃん。
その爺、絶対またあとで難癖付けるでしょ──お、デッカイの取れた。
「ふんっ! そ、そんな女に頼らずとも、我が国の精鋭をもってすればオーガがごとき──」
ズズーーン!!
「(わっぁあ! 城壁が崩れるぞぉぉ!)」
「(誰か矢を寄越せ、はやくー!)」
「「(に、にげろぉぉぉおおお!)」」
「──精鋭ってあれ?」
なんか、民兵にしか見えないんですけどー。
しかも、たった今、壊滅したのか、持ち場を放棄してほとんどが逃散している。
「ぐぬー! わ、わかった! 金なら払う!! いくらでも予算がつくようにしてやる!!……って、なんか鼻くそ飛んできたんですけどぉー!!」
「って、いってるけど、できるの?」
アークス議長を振り返る。
……あと、副議長さん。鼻くそはスマン、わざとではないぞ、うん。
「い、いくらでもというのは無理じゃが、働き相応は払おう」
「キッチリした金額を言ってほしいけど、まぁ、いいかな」
あとは。
「ちゃんと謝って」
「んが!」
私はもちろんだけど、ルルにね!
「ほら!」
「くっ……。こ、言葉が過ぎたことを……謝罪、する」
うむ。
……つーか、そんな血の涙を流しそうになるほどか?
「ルルは聞いた?」
「きいたー。おっけー」
にーっ。
歯をを見せて笑うルル。
まぁ、この子はそんなの気にしないか。──半分は私のエゴだね。
「ん? 我の分はないのか?」
「アンタはまず屋根の修理代払ってから言いなさいよ」
そもそも、そんなに悪口言われてないっしょ。
「そ、そうであったな。うむ、人の長よ。……我の報酬は、屋根代チャラということでよかろう」
「なにちゃっかり乗っかってんのよ。しかし、まだあるけど──議長さんはともかくとして、アンタ諸々の約束忘れないでね!」
報酬はもとより、
ウチのルルの身元の保証とか特に重要だから!
「うむ。任せておけ──よいな副議長どの」
「む、無論だ」
ははっ。
まだまだ不服そうだけど、街がこんな状況じゃ掌返すしかないわな──ま、あんましいじめるのも私の趣味じゃない。
英雄なんてまっぴらだけど──……この街が嫌いってわけじゃないしね。
「そんじゃ、ちょっくら蹴散らせてきまーす!」
「お、おう。頼んだぞ……って、そこから行くのか?!」
ん?
あぁ、そそ。
「時間がないしね、いくよ────!」
そう言うが早いか、私は駆ける!
城壁の上を駆けに、駆けて────チハたんを呼ぶ!!
「よーーーーし、来いッ! ちはたーーーーーーん!!」
ブワッ!
私の声が虚空を掛ける!
すると、コントローラー越しにすでに待機状態にあったチハたんが、いつものようにエンジンを始動する。
すでに城壁外のメガモールの駐車場で暖機運転を済ませていたその車体がゴルルルン! と黒煙を吹、
車体正面の前照灯が、グポォン♪ と駆動音を鳴らすとそのまま驀進ッ!
そのまま一気に私たちがいる城壁に真下にまでやってきたー!
……そう。
並み居るオーガを蹴散らしながらッッ!
『グルォォォオオ?!』
『ゴァァァアアア!!』
あははは!
邪魔邪魔、邪魔ぁぁぁああ!
「いっくよー!!」
──たたたたたたっ!
軽快に賭ける私は、背後でアークス議長たちが息をのむのを感じながら、ルルを抱えて、ルーフデスの首根っこを掴んでそのまま、一気に駆け抜けるッ!
そう! まるで虚空の先に道が続くかのように、一気に、一気に──!!
……城壁の上、あの凸凹したやつ──正規式名称を狭間胸壁、またはバストルメントと呼ばれるそれに足を掛けると、一気にッッ!
「とぅ!」
そう、
一気に────飛んだぁっぁあ!
「──アイキャンフラーーーーーーーーーーーイ♪」
あはははははー。
「ちょ、ちょわぁっぁあああ! ナ、ナガセ、お前飛べたのかぁっぁああ?!」
「あはは──まっさかー」
人間は飛べません!!
飛び降りるだけです!
「つ、つまりその心は──?!」
顔を青ざめたルーフデス!
しかして、答えは決まっている。
「クッション、よろしくー!」
「んぎゃぁぁああああああああ! やっぱりーーーーーーー―――……あべ~~~~~しっ!」
ずずーん!
10mはあろうかという城壁を飛び降りた私は、ルルをお姫様抱っこ。
そして、ルーフデスをサーフボード代わりにして、見事に着地成功!
いぇい、ショートカット成功だぜぃ♪
「いっだいなー! 殺す気か、お主は!!」
「アンタ頑丈だし、大丈夫だって」
それよりも、
「お客さんだよ!」
『グォォオオオオオオオオオオ!』
「ぬぅ?!」
突如、私たちの間に割って入ってきたのは、巨漢の化け物!
人間で言えばアスリート並みの筋骨隆々のマッチョで、その体長はなんと3m!!
まさに巨人! まさにバケモノ! まさに鬼だ!!
『ゴァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
顔こっわっ!
「だけど、今は邪魔ぁぁぁ!」
スチャキッ!
腰のホルスターに手を伸ばすと、初弾装填、安全装置解除!
「ルルも撃ってー!」
「んっ!」
パンパンパンパンッ!
パパパパパパパパパパパンッ!
至近距離で放たれた九四式拳銃と百式短機関銃の8mm南部弾の連打がオーガをしこたま打ち続ける。
『ゴォォォオ……?!』
ずずんっ!
当然の銃火に驚いたオーガ。
そのまま、重々しく膝をつく──……って、膝だけかよ、
「うっそ、マヂ?! 連射を叩き込んだのに、ピンピンしやがる」
み、見た目通り、超タフー!
「当たり前じゃ! その皮膚は鋼鉄並みと聞くぞ!──……つーか、我を掘り出さんか馬鹿たれー」
あ、そうだった。
ルーフデス、埋まってたね。
「ルル」
「りょー」
ずぼー。
一々掘ってられないので、怪力ルルちゃんに引きずり出してもらう。
「いっだー! もげるもげる! く、首をそんな風に持つなー」
「でたー」
ナイス、るるー。
「そして、総員乗車ぁっぁあ!」
「あーい」
「むー。あとで覚えとれ」
はいはい。
あとでね。
そうしてこうして、オーガの群れに身を投じた私たち一行は、大勢のオーガの中でチハたんこと、一式砲戦車に乗り込むのであったー。




