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第56話「百鬼夜行」

「な、なんっじゃあ貴様、騒々しい!」


 突如として、わらわらと武装した兵士が駆け込んできた。

 それを見てギョっとする議長と、目を輝かせる一部議員たち。


「おぉ! ようやく来たか! な、何をしている──さっさとその部外者を追い出せーい!」

「え? 私……?」



 「そーだそーだ!」

 「ちょっと遅いわよ!」

 「来年度は警備部門の予算を蓑さねばなりませんぞ」



 うぉーい……。


 兵隊が来た途端に強気だな。つーかマジで警備兵呼んでたの?


 ……別にいいけどさー。


「くくくっ、小娘がぁ、調子に乗ったツケを払ってもらうぞー。まずは拘束して、取り調べてやるぞー」

「いや、小娘って……。こう見えてアタシャ、アラサーだよ」


 まぁ、若く見てくれてサンキューね。

 あと、なんだその手つきは……いやらしい取り調べでもするつもりかい?


「ま、待て待て! 英雄を拘束なぞまかりならんぞ!」


「んな?! い、今頃なにを言っているんですかアークス議長! ドラゴンを伴い、魔族をつれた女ですぞ! まさにバケモノです! 今ここで捕えずしてどうするのです?!」


 くぉら! 誰がバケモノじゃーい。


 そして、そのバケモンをどうやって捕えるつもりなんだよ。矛盾してんだろうが……。


 しかし、なにやら雲行きが怪しくなり始めたので、念の為コントローラーを用意して、チハたんを遠隔起動しておく。


 さらには、ホルスターの九四式拳銃に弾倉を入れて、安全装置を外す──……一応、まだ初弾は装填しない。音が物騒だからねー。

 あと暴発が怖いし。


 ちなみに私がとやかく言う前に、ルーフデスはさりげなく聖剣とやらの柄に手をかけているし、

 ルルに至っては何も言わないで、「んしょ」と小さく呟いて百式短機関銃の具合を確かめている。



 ──なんと頼もしい我がファミリーよ!



「い、いえ! 我々は警備というわけでは──……そ、それより議長殿、それどころではありません! 急ぎ、こちらを! たった今、調査に送り出していた高ランク冒険者が帰還──彼らよりの至急電です!」


 会議室の様子に戸惑った顔の兵士であったが、職業意識だけで議長に駆け寄ると書状を差し出す。


 どうやら警備ではなく、本当にただの伝令だった様子。

 ……ちなみに、本当の警備は会議室の前で直立不動のまま動いていない──こっちの睨みが効いているのだろう。


「なに、調査隊が戻ったのか? よかろう、会議は一時休止──まずは状況の確認を…………って、な、なんじゃとー?!」


 書状を呼んでいた議長が会議に休止を宣言しつつ、文面を追っていたのだが、突如目を見開く。


 そのうえで表情がみるみる青ざめていくことから、どうやら相当にヤバいことが書かれていたらしいのだが、果たして──……。



  カンカンカンッ!

   カンカンカーンッ!



「ん? なにこれ?」


 頭に響く音に思わず眉を顰める。

 お昼の音にしてはうっさいなー。


「……こ、これは警鐘か? な、なにごとですかな、アークス議長?!」


 警鐘?


 ……あぁ、防災ベルみたいなもんか。ってことは何か異常事態かな?


「何事もなにも……。こ、これはまずいぞ! 各議員の各々は至急各部署に戻られたい!」

「は? ですから、これはいったい……」


 書状を副議長たる樽爺に「読めっ!」と、叩きつけたアークス議長は、今度こそ指示を飛ばす。



 そして、叫ぶ!!



「一体もなにもない! 群れじゃ!! また、魔物の群れじゃ! 強襲ぞ!! 大群の第二派じゃぁぁあ!」

「……え? 第二派って──なに? また来たのー?」



 どうやら、マジでこの街ヤバいらしい。



※ ※ ※



 かーんかーんかーん!

  かーんかんかんかんかーん!


「(にげろぉぉ!)」

「(城壁の改修組を中にもどせぇ!)」


  わーわーわー!

  きゃっぁあああ!


 町中に響き渡る警鐘に、どこもかしこもパニックだ。


「おーおーおー。大混乱ですなぁ」


 そして、そんな様子をのんびりと城壁上で眺める私──もとい私たち。


「大混乱ですねー、じゃないわぁぁ! まったく不謹慎ぞ!」

「いや、そー言われてもなー」


 私、外国人で部外者ですからー。


 城壁に腰かけつつ、バリボリとポテチを食い、大混乱の街を鑑賞するしかやることがない。


「ぬー。他人事だと思いよってからにー……ちょい、それよこせ!」

「ん。一袋あげるー」


 ポテチをひったくったアークス議長は、

 憤慨しながらもボリボリやりつつ、城壁から遠くの景色を見据えた。


「ぬー。あれがそうか……うまいな、これ」

「っぽいねー」


 前回ベヒモスが北森とは反対。切り開かれた森やら農地の方に巨大な影がチラホラと増え始めている。


 どうやらそれが今回の襲撃者らしい。


「……つーか、対策会議はいいの?」

「いま準備中じゃい!」


 あっそ。


 チラリと振り返ればなるほど。

 会議を中止するなり、場所を移したのは主だった面々。


 ここにいるのはアークス議長を始め数名で、

 そのメンバーは防御をかためた望楼を兼ねた議会専用の城壁の設備に移動を終えていた。


 どうやら、ここで陣頭指揮を執るらしい。


 確かにここなら、見晴らしがよく、指揮にはうってつけだろう。


 メンバーには防衛担当の議員やら、医療担当やら──例の副議長もいるね。


 そして、本部設立のため、議員たちだけでなく職員もバタバタと走り回り、

 アークス議長もあーでもないこーでもないとポテチ片手に口を出しまくっている。


(いや、それ邪魔なだけだぞー……)


 といいたいけど、グッと我慢。


 つーか、下っ端職員が率先して動いているのだから、上の物はどっしり構えていればいいのだ。


 上司が口を出す=現場を引っ掻き回すというのはよくあることだから、覚えて置きたまいよ、諸君(※読者の方を向いて指をさしています)


 しかし、なんだかんだととりあえず形になってきているね。


 机を合わせたり、

 ガラガラ~とどこからともなくローラー付きの黒板を引っ張り出してきたりと、


 あっという間に臨時の作戦本部の態勢を整えてしまったよ。


「おー、生徒会みたい」


 いやまぁ、

 生徒会とか参加したことないけど、なんとなくね……。


(しかし、なるほどねー。前回のベヒモス戦の時もここでみてたのかー)


 そりゃー、よく見えたことだろう。


「議長、準備が整いましたぞ!」


 お、樽爺も本部にいるじゃん。

 やる気満々だー。


 そーいや、こういうのって高校以来で何か新鮮だね。


「うむ。では状況報告を──第一報は!」

「はっ! 北に送り出した冒険者からの緊急の狼煙を確認! ギルドが斥候を出したところ、開拓村の避難民とかち合ったそうです!」


 ほうほう。


「他に情報は!?」

「先ほど帰還したドミトリ氏より、詳細がこちらに!」


 お、ドミトリさんかー。

 頑張ってるな。


「読め!」

「了解──我、魔物の群れに遭遇す、撤退するも、その数は不明。森が3分に魔物が7分! 以上です!」


 おぉー。

 つまり凄い数だな。


「また避難民より、細部情報確認! 敵は、敵は──……」



  敵はオーガです!!



「な、なにぃぃい!」

「ぐぬぅ、オーガだとぉぉ……」


 ざわっ!


 一瞬にして会議室に緊張が走る。あの樽爺も顔を青ざめていた。


「ん? オーガ?」


 オークじゃなくて?


「なんじゃ、ナガセは知らんのか?」

「鬼なら知ってるけど、それ?」


 何やら分け知り顔のルーフデスが、ポテチを頬ばりながら軽く頷く。


「うむ。鬼と言えば、東方の呼び名じゃな。たしかに概ねあっておるよ。この街の北から東に賭けて、広く分布する大型の魔物じゃ──人を食らい、生き血を啜る凶暴な魔物よ」


 ひえー。

 人食い鬼かー。


「で、それが群れで来たと?」

「その様じゃのー。オーガも人類にとっては厄介な種じゃよ。数はゴブリンやオークほどではないが、森や山にそれなりの規模の集落をつくることもあると聞くし、そいつらが流れてきたのやも知れぬのー」


 へー。


 この前はオークで、先日がベヒモス。

 そんで、今日がオーガかー。


 この街、呪われてんねー。


「笑い事ではないぞ。オーガは凶暴じゃ。単体でランクB以上の冒険者相当と聞くのー。それが群れともなると、Sランクが束になってようやく──といったところじゃな」


「束になるほど、Sランクっていないでしょ」


 いたら、Sランクの安売りだよ。


 つーか、コイツ詳しいなー。

 もしかして人間マニア?


「じゃから焦っておるんじゃろ。とはいえ、オーガは本来好戦的な種族で、仲間同士でも殺しあうことがるでの──大規模な群れになる事例など聞いたこともないんじゃが……」

「それ最近よく聞くなー」


 ベヒモスも、群れをつくらないとかなんとか言ってなかった?


 つーか、今回のオーガも数多くね?

 森が3分にオーガが7分って……めっちゃ多いってことだよね?


「それがあるから、我が里より派遣されてきたのじゃ。オークが集落を捨てておった時点で、最近の魔物の動きがおかしいのは明白じゃったしの」

「あんた、厄介払いされただけでしょ。……でも、状況はわかった」


 結構ヤバい事態らしい。

 そもそも、城壁も確か周囲中じゃなかったっけ?


 まぁ、その分、オーク災害で散った冒険者が戻ってきて戦力は揃っているんだろうけど──……ま、私には関係ないか。


 っていうか、私たちここにいていいのだろうか?


(……なんか流れでこのままいるんだけど──、ま、いっか、まだ報酬もらってないしー)


 次々に入ってくる報告にてんてこ舞いの議員たち。

 こっちに目を配る余裕もないらしい。


「ぐっ! 数は推定で100以上じゃと!」

「詳細は不明で第一報がそれ(・・)です!」

「なんたる……!」


 真っ青な顔の議長。

 戦況は恐ろしく最悪なのだろう。


「ええーい、開拓村の防衛隊は蹴散らされたのか?! いったい、指揮官はなにをやっていたー!」


 ぎゃーぎゃーぎゃー!

  わーわーわーうぉぉお!!


「おーおー……修羅場ってるなー」

「のんきじゃのー」


 だってねー。

 他人事だしー。


「ルル。コーラとってー」

「んー」

「あ、我も飲むぞ」

「あーい」


 ポテチばりばり、

 コーラがシュワシュワ。


 こういうジャンクなのってなんで手が止まらなくなるんだろうねー。


 とりあえず、ダイエットコーラでささやかな抵抗をしつつ、皆でかんぱー……。


「って、貴っ様らーーーーーー! ピクニックならよそへ行かんかーーーっ!!」



  めぎゃーんん!!!



「あ、バレたー」


 ついにブチ切れた樽爺に、

 舌を出して可愛らしく、ごめんちゃ~いと言っておく。


「いや、バレたーで、ないわっ! なにをさっきから、ばりぼりしゅわしゅわ! やっとるかーーーーーー! 気が散ってしょうがないわ!」

「めんごめんご。なんかタイミング逃しちゃってさー」


 てへへ。


 突然怒り出したのは安定安心のクソ爺だけど。

 しまいには、さっさと出ていけーと罵れる始末ー。ちぇー、最初に会議で出ろって呼んだのそっちじゃーんとも言いたくなるぜー。


「ま、まてまて! お主らはそのままでよい!」


 ん? いいの?


「ア、アークス議長どの! 部外者ですぞ!」

「じゃが、英雄じゃ、万が一は予備戦力にもなる」

「ぬー……確かに。ベヒモスを退けた女か」


 おう。退けた女だ。

 つーか、滅ぼした女ですよー。ついでに『獣の王』もな!


「あい、わかった! 女ぁ、そこにいてもよいが邪魔だけはするな!」


「ろんのもちー」


 つーか、別に出て行ってもいいんだけどね。

 ただ、前回分の報酬を貰ってないのをうやむやにされても困るからいるだけなのですよ。


「ふんっ。しかし、アークス議長、どうします? 防衛線はまだ再編成中ですぞ」

「わかっておる。……哨戒線を下げい。面白くはないが、遅滞戦闘で時間を稼ぎつつ、近隣の住民を城壁内に収容。その後、冒険者をかき集めて反撃じゃ!」

「わかりました、そのように!」


 おー。

 議長はん、きびきびしてはるなー。


 世襲だなんだと言っているが、それなりに優秀な様子の議長ことアークスちゃん。


 その面持ちは憂いを秘めているが、一国のトップなだけはあるぜー。


「しかし、まぁ……やる気と根性だけでどうにかなるもんじゃないと思うけどねー」



 だってさー。



「……オーガ、メッチャ足早くね?」



 

  ──ゴルァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!




 かなり離れてさえも聞こえる巨大なオーガの咆哮が首都の城壁を揺らす。

 そして、その咆哮のもとでは、隊列を組んだ兵士達があっという間に蹴散らされていく様であった──。



 こりゃ、この街ももう終わりだねー。

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