第55話「クソ会議」
バッコーーーーーーン!
と、思いのほかいい音を立てて開いた扉、
さすが国の中枢、いい素材使ってるわー。
「ど、どわぁぁぁあ! い、『いい素材使ってるわー』じゃないわ! お、お前のことはまだ呼んどらんぞー!」
「うん、知ってるー」
──とりあえず、控室で1時間くらい待機させられてたんだけど、
だんだん面倒くさくなってきたので議会の扉を蹴破ってやったぜ。
すると、議長さんが目をむいて仰天。他の議員らしき連中も硬直している始末。
「し、知っとるなら、大人しく待っとらんか。この痴れ者がー!」
「いやだって待ち時間長いしー」
「あっほぅ!! だからって『どーーーん!』はなかろうが、ドーンはぁあ!……あー、もう、扉の修繕どうすんじゃ!」
えー? そんな強く蹴ってないよ。
……って、あらま、へしゃげてる。
「お主、相当レベル高いじゃろ? ベヒモスをあんだけ倒してんじゃから、力加減は考えておけよ」
「あー。そういうこと」
てへ。
どうやら、パワー系ガソスタ店員に進化していたらしい。
「つーか、それはさておき」
「いや、さておくなや。扉は弁償してもらうぞ」
細かいなー。
まあ、それはあとあと。
「細かくはないと思うんじゃが……」
「それより、そこな議員さん達や? な~んか、議会の間ずっと、「クソアマ」とか「クソチビ」とかいう聞き捨てならない声が聞こえて来たけど──……それって私のことー?」
もしくはルルとかルーフデスのことかなぁ?
部屋が違っていようが、こちとら地獄耳じゃーい!
「ひぇぇ! な、なんだ、君は?!」
「警備、警備を呼べー!」
どたばた、
わーわーわー!
「しゃーらっぷ!」
なにやら喧しく騒ぎ始めた議員たちを、一喝して脅しをかけて睨んでやると、なぜか全員が縮み上がった。
いや、睨んだのは騒いでる壮年の老害(?)議員さんとか、長命種の議員さんなんだけどね? なんで議長まで背筋伸ばしてんのよ。……まぁいいか。
「ふーん。……慌ててるとこ見ると図星かな? そんで、悪口いってたのは、どぷやらアンタらで当たりみたいだねー。……んで? なに? 警備を呼んでもいいし、なんなら面と向かって私をクソアマ呼ばわりしてもいいよー」
そ・の・代・わ・り。
「──撃っていいのは撃たれる覚悟があるやつだけっ、ていう格言があるのを肝に銘じてもらうからよろしくー」
ニコリ。
我ながら綺麗な笑顔で微笑み返すと、口うるさそうな議員さんたちが、ついにススス……と、小さくなって下がっていく。
(ついさっきまで、あのチビッ子議長に詰めよったくせに、まー陰気なことで)
実際、「責任問題だー」とか、大声で叫んでた勢いはどこへ行ったのやら。
つーか、隣の控室にいたんだから、全部まる聞こえだっつーの。
「くっ……。い、いきなり会議に乗り込んでくるなど、な、なんたる無礼な外国人だ!」
「そ、そうだ、そう──」
ああーん?
「なんか言ったぁ?」
ギロッ!
一人の発言に勇気を得たのか、数人が賛同しようとしたがそこはこう、じろりと睨んで黙らせておく。
今の私はパワー系らしいので、こういう睨みが効くわ効くわ。
「ひぇ、さ、さーせん」
「わ、わたし言ってないです、はい!」
ふんっ。
なら黙ってろっつの。
(ま、こういうのは最初にバシッ! と言って、場の雰囲気を制圧したものが勝つんだよねー)
もとブラック企業勤めを舐めんなよ?
パワハラされる側だったから、慣れてんだよ。
しかし、人生とはわからないものだ。当時はつらい思いしかなかったけど、まさかこうして役に立つとは──。
証言に立つならなおのことだね。
負けが確定してから証言台に立っても、言葉なんか1ミリだって響かないのだ。
なので先手必勝、勝ちのトレンドが来たら一気に畳みかけるのだー!
と、いうわけで、
「そんなことよりも、なに? ちょ~~っとばかし会議の内容が漏れ聞こえ得て来たけどさぁ。私が魔族だの魔物だのを引き連れて来たクソアマってワードがチラチラ聞こえたんだけどー」
じろ~~~~り。
ずかずかと証言台に立つなり、そんなことを言っていた連中っぽいのをゆ~っくりと睥睨する。
するとまぁ、見事に視線を逸らす議員がいるわいるわ! 次々に視線が泳ぐ泳ぐ。
ほうほう。
ひーふーみー……。ん、顔を覚えたぞテメェら。
「──で、どうよ? 本当にそう思ってんのー?」
「い、いやぁ、どうでしょうな」
「ほほほっ、わたくしはそんなこと言ってませんし、思ってませんよー」
「さ、さようさよう。なにせベヒモスを倒した女傑らしいですからなー」
ほーん。
都合のいい掌返しなことで。
「……つーか、城壁前の攻防では、倒したのはドミトリさんたちってことになってなかったっけ? ま、別にそれでもいいんだけどねー」
払うものさえ払ってもらって、
あとはウチのルルちゃんを、ちゃ~んとした然るべき施設に引き取ってくれればねー。
「ふ、ふん! いきなりやってきたかと思えば、なんだその態度は!!」
……お?
全員が知りすぼみしているかと思い来や、樽みたいな体格の初老の爺さんが私の気迫に負けじと怒鳴り返す。
そう言えばコイツさっきも率先してたなーと思えば、突然私に向かって指をさすなりトンデモ発言。
「──だ、だいたい、貴様がごときチビ女にベヒモスなど倒せるか! わしも当日は城壁で戦いを見ておったが、戦っておったのは主にAランクのあの大女であろうが! わしは貴様がごとき女の活躍など目にしておらんぞー!」
「あっそー」
んー。
まぁ、基本チハたんのなかにいたしねー。……っていうか、コイツだれ?
「(例の、なんでもかんでも反対してくる……老害じゃ。ちなみにあだ名は樽爺じゃ)」
あー……コイツか。
保守系の筆頭ってとこかね。
議長さんの耳打ちに納得した私──。
つーか、『樽爺』ってアンタしか呼んでないだろ、それ。
まぁ、見たマンマなので分かりやすいけど。
「そのうえで、なんだぁ? ゴルドの大穴にいた『獣の王』を倒したから、その分のボーナスをよこせだぁぁあ?!──は、片腹痛いわ!!」
あっそ。
「勝手に痛くしてどうぞー」
だって、事実だもーん。
「ふん! それが本当だというなら証拠をだせ、ショーコをぉぉ!」
「そ、そうだそうだー!」
「証拠よ、しょうこぉ!」
「あるならだしてみろー!」
しょうこ!
しょうこ! しょうこしょうこしょうこ~!
「証拠があればいいんですね~♪」
はいっ!
「そんなに言うなら出してあげるよ」
……な~んかどっかで聞いたリズムが一瞬流れた気がするが気のせいだとして──、証拠と来ましたか!
いいだろう、ならば見せてごらんぜよう!
パチンッ。
「でませぃ──ルーフデス」
「うむ、とくとみるがいい!!」
私が指を弾くと、
黙って背後に控えていたルーフデスが尊大な態度で出てくるなり、後ろ手に抱えていた袋に手を突っ込むと──……よいしょっと!
「そーれ、証拠じゃ」
「はい、どーーーーーーーーーーーーーん!」
私とルーフデスの掛け声一過。
盛大に中身を取り出してやったわー!
どさどさどさーっ!
「「「ど、どわぁぁぁあああああああああああ!」」」
刹那、腰を抜かす議員ども。
はーっはっはっは!
見ぃたかー! これが証拠じゃぁぁぁあ!
「まさに本物の、『獣の王』の生首でーーーーーす♪」
その他部位もた~~っぷり!
「な、なんなぁぁあ?! この禍々しいバケモノの頭はぁぁ!?」
「ひぃ!! ま、魔力の測定ができません!」
「か、鑑定不能ですとぉぉ!」
わっはっは。
そうだろう、そうだろう。
樽爺をはじめ、議員さん達がそれぞれ分かりやすくリアクションをしてくれるね。
そうとも、取り出したりますは、ゴルドの大穴で撃破して、首級をとってきたケルベロスであるぞー!
……ちなみに、取り出したのは魔法の袋から。
ギルドが払う報酬に金額が追い付かないと言ってきたので、現物で支払ってもらったものだ。
相当にレアで高価なもので、欲しかった一品ということもあり、それで手を打っておいた。
まぁ、お金自体はまだまだたくさんあるからねー。
「ぬぬぬぬ……こ、こここ、これが『獣の王』だとー?!」
ついには樽爺も顔面に青筋を立てて悔しそう。
へいへーい、おじいちゃん、声震えてるよー。
「おーよ、どーよぉ。これでもまだ証拠証拠と宣うかー」
けーけけけっ、
「ふ、ふん! こ、これしきが魔物、わしにだって狩れるわッ! こんなもんは犬の変異種にすぎーーーーーん!」
「はー? これが、犬の変異種ですかぁぁ?」
それまたデッカくてキモイ犬もいたもんですな?
よく見てよこの凶悪な面を。
「そ、そんな魔物がいると聞いたこともある!」
「へー。なんて奴ぅ?」
いるなら言ってみ?
「し、知るもんか! は、話を聞いたことがあるだけだ!」
「ほほーう、なら、アンタでも知ってる奴を証拠として出したら納得するかなー?」
「ああーん? わしが納得するような証拠だとー。ふははっ! だ、出せるものなら出してみろ!」
お、言ったね!
「男に二言はないと見た」
「む、無論じゃぁ!」
おう、
ならば見ませいっ!
「次ぃ、でませぃ!──ルルちゃんGO!」
GO!
ルルチャン♪
「りょー」
パチンッ! と再び指を弾くと、
ルルちゃんが魔法の袋に手を突っ込んで、ごっそごそ~♪
「んしょ。は~い、どーーーーーん♪」
「イエス、どーーーーーーーーーーーーーーん!」
これで、どーだぁぁあああ!
ルルの掛け声一過、
今度も、どさどさどさーっ! と出て来たのは皆が良く知ってるあの、お頭ッ!
そいつがゴロンゴロンと転がり出て、全員の前でデデーン! と鎮座する。
「んなぁぁぁあ! べ、ベベベ、ベヒモスだとぉぉぉぉおお?!」
「おーよ、正真正銘の新しいベヒモスの首級だよー? ゴルドの大穴とやらで狩ってきた、新鮮なベヒモスさね」
ふっふーん。
これなら、私にとっては格下だけど、アンタたちにはわかりやすいでしょうが。
なにせ、城壁という防御がありながらも、軍兵で苦戦してた相手だもんねー。
ざわざわ
ざわざわ
「ま、間違いなくベヒモスですな」
「おぉ、恐ろしい。ベヒモスもこれを狩れるあの女が恐ろしい……」
「ということは、あの化け物のほうの首も……ほ、本当に伝説の?!」
ついには、議員たちの間にも静かに動揺が広がっていく。
「ぐぬぬぬぬ……。ぬー」
しかして、樽爺はなかなか認めない。
だが、全身プルプル──。
「おやおや~っ? おじいちゃん、さすがにぐうの音もでなくなったかなー?」
──にやにや。
そもそも、コイツ私がベヒモス倒しまくったすら認めてないからね。これは効くだろうー。
「い、いや、認めん! 認めんぞぉ! だ、だいたい議長はよろしいので?!」
「なにがじゃ?」
……あん?
「な、なにもかにも、この女の態度です!! アークス議長はなにゆえ、こんな無礼な女に好きにさせるのです! そ、そもそも、わしはこの女が気に食いませんぞ! 神聖なる議会にズカズカやってくるわ、態度は偉そうだわ」
「いや、アンタに言われたくないよー」
指さすな。
しかも、今それと成果は関係ないだろ。なに? 態度悪かったら手柄が消えるとでもー?
「つーかさ、私はこの国の人間でもないし、アンタに雇われてるわけでもないっつーの。態度がどうのこうの言われても知るかっての」
そもそも、
陰で悪しき様に罵れば、そらぁ相応の態度になるわーい。
「ぐぬー……ああ言えばこう言う女だなー。ぐぎぎぎ……」
あー、ダメだコイツ。
議長さんも言ってたけど、この野郎は理屈ではわかってるけど、絶対に認めないタイプだ。
事実、ほら──さっきまで迎合していた議員連中もさすがにケルベロスとベヒモスの首級には言葉を失っているし。
「……うーむ。副議長、もうそのへんでよかろう? 成果は見ての通りじゃ。コイツは本物の『獣の王』で、ここにおるナガセはまごうことなき英雄じゃぞ」
えへへ。
英雄でーす。
……でも、持て囃すより金をくれ。それとうちのルルちゃん身元保証もな!
(しかし、やたらと態度も口もデカいと思ったら、この樽爺が副議長かよー)
実質No.2かー……。こりゃ議長さんもやり辛いわなー。
かたや世襲で議長。かたや老獪なたたき上げっぽい議員──そりゃ発言力でも負けるわな。
むしろ、若く小さいのに、議長さんは頑張ってるほうかもね。
「し、しかしですなぁ。無礼もさることながら、たしかに状況的にはベヒモスの発生源を特定した可能性はありますが、いくらなんでも『獣の王』などという伝説の魔物の討伐報酬なんてものはさすがに……」
「それはわかる。しかし、正しき仕事には正当な報酬がいる。……違うか?」
「ぬ、ぬぅ……! そ、その通りですが……し、しかし、この者以外にも、いくつかのパーティを調査と偵察に放っておるではありませんか! 例の大女パーティもですぞ!」
ん?
どゆこと?
「(……すまん。本命はお前たちであったが、ベヒモスの追跡調査自体はいくつものパーティに頼んでおる)」
「あー」
なるほどねー。
こそっと耳打ちの議長さんに納得。
まぁ、それは当然だろう。街の存亡にかかわることを、私みたいな得体のしれないものだけに任せるはずがない、か。
さすがはチッコいくせいに一国のトップを張ってるだけあって、したたかだねぇ。
そして、他のパーティにはドミトリさんたちを含むいくつものパーティが放たれている、と。
「それらのパーティが、もしそれ以上の成果を持ってきたらなんとするつもりですか?! 予算も先の壁の修繕やらなんやらでかかりますし、ましてや、こうも立て続けに異変が起こる中──子供とは言え、魔族を受け入れるというのは……」
「うむ。たしかに言いたいことは分かるがのぉ。……不意に訪れた危機、そして、将来の危険を排除してくれた英雄に報いねば我が国の名折れぞ?」
「ぬー。で、ではせめて他のパーティから調査報告を待ってからでもよいのでは?」
食い下がるなー樽爺。
「う、ううむ……たしかに、それは、うーむ」
そして、おーい。
……言い負かされてんなよ、議長さーん。
まぁ、一応、樽爺にも言い分はあるっちゃあるかな。
『獣の王』みたいな伝説クラスが何体もいるとは思えないけど、他のパーティがベヒモスやらを討伐してこないとも言い切れない。
(とはいえなー……。これ、絶対子飼いの冒険者とか雇ってるでしょ? そんでそいつ等に根回ししてベヒモスの死体を持ってくるくらいはやりそー)
だいたい、
こうもしつこく、食い下がるのは、お金をケチりたいからなのと、議長と近い私に手柄を揚げて欲しくないんだろうな。
多分、今後の発言力を睨んで、水面下でバトってるってとこかなー。
(いやだねぇ政治ってのは。……ま、ゆーて、私はこの議長さんの手下ってわけじゃないんだけどねー)
しかし、そんなことはこの樽爺には分からないのだろう。
なにせこっちは、聖剣を譲渡までしているのだ。おそらく、ドミトリさんを始め、私も完全に議長の手駒と思われているに違いない。
んー。
しかし、これはどうしたものかね?
なんだかんだと話を聞いているうちに政治のドロドロとしたところに巻き込まれている気がする。
「……正直、どうでもいいんだけどな」
こっちはお金がもらえて、ルルの身元を保証してもらえればそれでいいのだ。
とはいえ、こんな国に預けていい物かという疑問もじつはちょ~~~~っとないではない。まぁ、他に知ってる国があるわけじゃなし、ここくらいしか選択肢がないんだけどね。
どっかのクソおーじ様の国は論外!!
さりとて、名案があるわけでもなく、そろそろイライラし始めてきたところで──。
だだだだだだだ!
バターーーーン!
騒々しい音とともに、
突如として、兵士が乱入してきたのであったー。




