第53話「帰還」
「おーらい、おーらい、おーーーーーーーーーらい!」
ウィィィィイイイン!!
ドスンンン……。
「ふぃぃぃぃ、まーた、我だけしばらく地の底に一人じゃったぞ」
ウィンチの先のカーゴから降りるなり、ぶー垂れるルーフデス。
「他に適任いないんだからしょうがないでしょ」
私はウィンチ操作しなきゃだし、
ルルは子供だもん。
「我も、ちっこいんじゃがのー」
「いや、アンタの正体って5m級ドラゴンじゃん。しかも、絶対私より年上でしょ? いいから、ほら、キリキリ働く!」
ぶ-ぶー。
いい年来いて、顔中を泥と返り血まみれにしてルーフデスがしつこく文句を垂れる。
ちなみに今しがた彼女が降りて来たウィンチの先のカーゴには、巨大な頭部がデデーンと横たわっている。
言わずと知れたケルベロス──もとい、獣王の首級であーる。
「首都の連中、口で言ってもスマホで撮っても絶対信用しないからね。実物を持っていくのが一番だよ」
「それは間違いない。我なんか、なんど竜人族の大使じゃ言うても信用されなんでのー」
それはしょうがない。
「っていうか、それも持ってくの?」
「あん? あー……せっかくじゃしのー」
曲がった聖剣と折れた……聖剣(?)だか神剣だか。
まぁ、すごい剣が二本ともだ。もちろん、地中に埋まってた切っ先も掘り出して持ってきているっぽい。
「封印されとったケルベルスはもうおらんし、聖剣もお役御免じゃろうて」
「ん-。ウチには本家本元の聖剣があるのになー」
「いや、それ刺突爆雷じゃからな?」
「でも、アンタには効くでしょー」
ほーれほれ。
「向けるな向けるな!──た、たしかに、ドラゴンを貫く剣は古来より聖剣と呼ばれとるがのー……なんか、それ安っぽくて嫌じゃ」
「贅沢は敵だよ。っと、それよりも、トレーラー出したから乗っけて」
「あいよ」
ルルに負けず劣らずルーフデスも怪力だ。
その力でもって、ケルベロス──……もとい獣の王の首級をドスーーンと乗っけるとトレーラーがさすがに軋む!
とりあえず、それを載せただけで結構いっぱいいっぱい。
他の部位もあるんだけど、さすがに全部は無理なので、なんか換金したら高そうかつ、運びやすいとこだけ、持っていくことにした。尻尾と牙とか爪とかね。……あとでっかい魔石がなんと4つも!!
「いやー。壮観どすなー」
なぜか京都弁になりつつ、
魔石が、顔に三つ、胴体に一つと。
それを眺めると中々の量だと我ながら満足。
そのほかにもベヒモスとかオルトロスとかのも可能な限り回収した。
おかげでトレーラーもチハたんもギュウギュウだぜー。
──はぁ、こうなると魔法の鞄が欲しいぜー。
「ふむ、全部は持っていけんが十分じゃろ?」
「まーね。一応ギルドに報告だけはしとこっかな」
有料で回収部隊がだせるらしいし。
「いいんじゃないか? それじゃ行くかのー」
「そうだね──。はい」
手を伸ばす私を不思議そうに見るルーフデス。
「なんじゃ?」
「ん。中に乗るっしょ?」
まぁ、中と行っても『一式砲戦車』は戦闘室がむき出しでほぼ外なんだけどねー。
「ほっ。つまり、我を身内認定ということでよいかのー」
「うん。殴り合ったら戦友と書いて『とも』だよ」
「いや、お主に殴られたのは割と結構前じゃからな? あと、殴り合ったというか、後半は縛って一方的に殴られたからな? 主にスコップで」
「細かいこと言いっこなしだよー」
拳もスコップも一緒一緒。
「細かくはないが……相変わらず、マイペースじゃのー。お主、本当に人間か?」
「さーてどうかな」
少なくてもこの世界の人間じゃないね。
そんな感じでいい感じに締めた私たちはようやく調査──……というか、古の魔物の王を倒して岐路につくのであった。
……これ、調査費とかしか出ないとかないよね?
暴れるぞ?
※ ※ ※
「調査費しか出ないねー」
「おーし、表に出ろ」
帰ってきて早々、ギルマスの美人面に顔面パンチを決めるべく私は拳を鳴らす。
ボーキボキボキッ!
「ちょ! こ、拳を鳴らすのはいいとして、なんでそのあとで腰のホルスターに手ぇ伸ばしてんだい?!」
「そりゃ、殴った後に撃つからね」
せめて、選ばしてやるぜ。
九四式拳銃の8mm南部弾か、切れ味最悪の軍刀かー。
撃っていいのは、
斬られる覚悟のある奴だけよー。
「こわ! アンタ、こわー! い、いいからまずは話を聞きなって!」
「きかない、私、おまえ、ころす」
「怒り狂って、片言になってんじゃねーか! あーもう、議長さーん!」
すっかりメガモールのお客様センターの店員となったギルマスが、ちょ~うどメガモールでショッピング中の議長を捕まえた。
「な、なんじゃあ? ワシか? ワシに用か──うぉぉぉおい、引っ張るな、引っ張るなー」
「まぁまぁ、こっちこっち」
あいかわらずの護衛付きで、偉そうな態度。
どこに出しても恥ずかしい、世襲の赤い国の議長さんだねー。
「いや、マジでなんじゃ!? いきなり首根っこ捕まえたかと思ったら、失礼な肩書を頭のなかでツラツラ並べよってからにー!」
「並べてないよ。事実だよ」
あと頭の中で言うくらいええやろがい。
「事実を言うのがダメなんじゃ!……で、どうした? 拳銃片手に刀をぬいて──ツナギ姿と相まってどこかのB級アクションお色気映画みたいになっとるぞ」
キ〇〇ルのことかな。
「いやー、このギルマスが聞き分けなくって、介錯をお願いしたいってさー」
「言ってない言ってない、言ってないよー。介錯とは一言も言ってないよー。……あ、いらっしゃいませー」
馴染むなギルマス。
つーか、何気にギルド職員まで、なんでこのお客様センターにいるんだよ。よく見たら周囲は冒険者だらけじゃねーかよ。ここを勝手にギルドにすんなっつの!
「大方あれじゃろ? 報酬が気に食わんとか、そこなチビを受け入れろとか、そんなとこか?」
「うん。そんなとこ」
まさにそのために体を張ったんだっつーの!
ルルなんか危険の中、走り回ってくれたんだからね!
「はー……。たしかに報告は聞いた。『獣の王』がおったそうじゃの」
「うん」
いた。みた。聞いて、滅ぼした。
「ワシも伝承だけなら聞いたことがるがのー。しかし、まさか、首都の近くのダンジョンにそんなものが居ったなどにわかには信じられん。……で、それを倒したからと、報酬の増額だのボーナスと言われてものー」
おいおい。
お前までそんなこと言い出す?
「ちゃんと実物持ってきたじゃん──ほら、これ」
デーーーーン!!
メガモールの中までチハたんで入ってきて、トレーラーには獣の王の首級一つ~。
「「超、シュール」」
それはそう。
つーか、我ながら凄い光景だな……メガモールに戦車に、ケルベロスの首って。
ここにゾンビが来たら、もうB級映画どころの騒ぎじゃねーわ。
映画の紹介欄になんて書くんだよ。
「ま、まぁ、たいした魔物だとは分かるし、それなりの報酬は払ってもよいが……さすがに伝説の魔物の代金はちょっとなー」
「いやいや、ホントホント。真実相当ですってばー。そうじゃなくても、コイツがベヒモスを召喚してた奴だよ」
実際、一匹いたし。
「ぬー。それが事実ならたしかに大手柄じゃ! しかしのー……」
難しい顔の議長さん。
そこに、
「おうおう、人間の長よ。我も証言するぞぃ。たしかにこれは獣の王ぞ。そして、その証拠にほれ──」
なんと、今まで黙ってたルーフデスが、頭上に二本の剣を掲げながら口を挟む。
「これが『証拠その2』といったところかの。……いわゆる聖剣じゃぞ」
「ぬ? それが聖剣とな?……これ、じゃなくて?」
それは刺突爆雷。
議長が掲げた杖のようなものは間違いなく先日売った刺突爆雷でございますー。
「……なら、なおのこと信じられんのー」
「あんでよ!」
「いや……。なんでもかんでも、当然じゃろ。それを信用したら、お前──ワシに売ったのが偽物ってことになるぞ」
「う……」
そ、それもそう、なのか?
「……い、いや、待ったまった。一瞬納得しかけたけど、別に聖剣が何本あってもよくない??」
実際、刺突爆雷なら山程あるしー。
「あーん? ん、まぁ、確かに一本とは限らんか」
「そうそう。それより──どうなの、払うの? 払わないの?」
ほれほれー。
さっさとボーナスの査定をしろーい。
「お前、やり方が完全に893なんじゃがのー。うーむ、まぁ、どうせ議会の予算じゃし、ええと言えばええか」
「そうそう、国民の血税でしょー。それをこう、ちょろっとな」
げへへへ。
「わっるい顔しとるのー。こんな勇者いやじゃわ。つーか、お前はまがりなりにも伝説の魔物を倒したんなら、もっと清廉でいてくれんかのー」
はーん?
清廉ってなに? 食えんの?
「それなら勇者の名前を返上するよ。そも、名乗った覚えはないし」
手柄は誇るけどね。
名誉はいらない。それ、お金になんないもん。
なーにが清廉だよ。
「はぁ、わかったわかった。ただ、ちょっと時間をくれ。査定もあるし、調査も必要じゃ」
「それはそうだね──じゃ、とりま、ルルのことはなんとかなんない?」
一番はそれだし。
「それなー。……うーん、まぁ、今回のことが事実なら勇者ミルヒやドミトリたちの功績をはるかに凌ぐのー」
でしょー?
ベヒモスどころか、その発生源を叩きつぶしたんだから、もう、勇者をこえて…………なんだろ、超勇者?
「そう呼ばれたいか?」
「いえ、遠慮しときます」
つーか、口に出してないっての。
「顔に出まくりじゃ……。なんやねん超勇者って」
「それはそう」
でへへ。
超勇者は言い過ぎだね。
「ま、ともかく頼むよー議長さん」
「わかったわかった。それと、ワシは今買い物じゃからあとでええか?」
「いいよー。あ、そうだ。賄賂ってわけじゃないけど──クーポンいる?」
「いる」
へっへっへ。
議長さんだけの特別でっせー。
こうしえ、裏でコソコソとメガモールで使えるクーポンを渡したあとで、綺麗な笑顔で見送る私ー。
「──で、ギルマス」
「……その流れでこっち振り返るのやめてほしいねー」
そうはいかんよ。
「とりあえず、クエストは達成したよ」
「あ、あぁ、そうだね」
にひっ。
「ボーナスはともかく、素材の換金、よろしく頼むよー」
「たのむー」「我も分け前が欲しいのー」
うんうん。
ウチの女子達もこう言ってるしね。
獣の王ことケルベロスだけでなく、ベヒモスやらオルトロスやらと結構な素材があるからねー!
なので、耳をそろえて払ってもらおうか〜い!!
「はぁ……しょがないね。アンタら、仕事だよ、しーごーと! さっさと素材を査定しな」
「「「へーい」」」
そうしてこうして、なせかメガモールのお客様センターを占領したギルド職員たちがやる気のなさそうな声で出てくるなり、トレーラーに積んである素材の換金作業委取り掛かっていくのであった。




