第52話「ケルベロス」
「ふんっ。地獄の番犬ケルベロスか──……こいつが『獣の王』の正体とはのー」
そういって、剣に突き刺していた頭部をブンッ! と投げ捨てるルーフデス。
その目付きは、まさにつまらない物を見るような眼だ。
「ケ、ケルベロスって……やっぱりそうなんだ」
三つ首のキモイ犬って時点でもしやと思ったけど、
やはりそうだったらしい。
「知っとるのか? まぁ、お主なら知っとってもおかしくはないか」
「いや、見たのは初めてだけどねー」
日本に地獄は、ねーしな。
地獄みたいな職場とか人間はいるけど……。
しかし、地獄の番犬が、古のボスとはね。
やっぱファンタジー世界なのなー。
「って、そうだ。──ありがと、ルーフデス」
「んー。なんのなんの。借りを返しただけじゃ」
あはは。
借りと来ましたかー。
「一応聞いとくけど、どの借り?」
心当たりが多すぎてね。
「そりゃもう、色々諸々全部じゃろ」
「ほーん? 一個の借りで一個じゃないんですかねー」
あわよくば全部とはこれまた片腹痛いね。
「ぬぐ。……な、なら、あれじゃ! そ、そうじゃのー、最初に間違えて襲撃したこととか、どうじゃ?」
どうじゃと言われてもね。
「いーよー。でもガソスタ代は払ってね、金貨1000まーい」
「せんまーい?!」
そそ。
しめて日本円にして一億円です。
「ぬがー! そ、それはー!」
「あははは! 冗談だよ、冗談。マヂで助かった──ありがとね」
そう言って、パシンパシンとルーフデスの肩を叩きながらも、正面に向き直ると静かに頭を下げる私。
それをポカンと見つめるルーフデスだが、意味は何となく伝わったようだ。
「……お主にしては殊勝じゃのー」
「まぁ、命の恩人だしね。なんだかんだで私もあんたのこと結構ぶん殴ってるし──貸しも借りもないよ」
実際、何回殴ったか忘れたわ。
「お、おう。そうか? そう言って貰えると嬉しいのー」
「うん。……それより、アンタその剣って──」
なんかどっかで見たような?
つーか、そんな都合よく剣なんてあったっけ?
「あー。聖剣じゃ聖剣、本物のな」
「本物……」
地面に転がってるあれじゃなくて本物──……あ、そうか。
「コイツを拘束してたやつか!」
「そういうことじゃ。おかげで切れ味抜群、コイツにも、よー効いたわ」
見れば、いつの間にかもう一本の折れたほうも持ってるし、二刀流のドラゴンとかかっこいいな、おい。
「もっとも、剣はボロボロじゃし、コイツがほとんど瀕死じゃったから効いたようなもんじゃな。……正直、我はいいとこだけもらってしまったようなもの──実質、ほぼお主が倒したようなもんじゃて」
お、わかってるじゃーん。
「なら、私ってば魔王殺しの称号貰えちゃったりー?」
魔王って言うか獣の王か。
つまり、ライオンキラー!……あかん、横文字にしたら、なんか安っぽくなった。
「くくっ、いいんじゃないか、ライオンキラー」
「あーん。゛屋根を破壊せし龍”がなにを言ってんのやら」
なにをー!!
あんですとー!!
──んぎぎぎぎぎぎっぎぎぎいー……。
「「ぷっ!」」
ぷははははははは!
あはははははははははははははははは!
「いいじゃん、ライオンキラー、微妙にダサくて、名乗りにくくていいわね」
「くくくっ、我も゛屋根を破壊せし龍″が段々気に入ってきたわ……って、だからってそう呼ぶ出ないぞ。せめて、ルーフデスにせいよ」
はいはい。
ルーフデスさん。
「ま、なんにしても、これでクエスト達成かなー」
「達成も達成──……ボーナス貰ってもよかろう」
まったくだね。
「じゃあ、はい。早めのボーナス」
「ほっ。どういう風の吹き回しじゃ?」
ルーフデスにポイっと投げてよこしたのは、コイツの大好物カップうどん──の大盛の奴だ。
「私、身内には優しいって評判なのよ」
「知っとる知っとる。ということは……──こりゃー光栄じゃの」
「もちろん、ルルには奮発して二個あげるー」
「にーっ」
当然、身内にだって序列はあるさー。
「構わんわい。ゆーて、我はさほど戦っとらんしのー」
「それはそう。ま、その分、仕事の分け前もちゃんとあげる。……アンタ、一文無しでしょ?」
ギルドから追い出されたところからして絶対そう。
「うむ。人の金なんぞ、里にはなかったしのー」
「偉そうに言うことじゃないけどね、はい、お湯」
「もらうぞ」
正確には、里にもお金っぽいのはあるにはあるらしいが、時代が違いすぎて価値が変わりまくってよくわからないそうだ。
とはいえ、
聞けばコイツってば、外の世界に興味津々で、よく空の上から観察していたとかなんとか──。
「しかし、ずるずるずる」
「なに? ずずー」
あー、おいしい。
死骸だらけで匂いが凄いけど、どこで食ってもラーメンは美味いわ。
「いや。お主の行く先々で色々起こりすぎじゃと思ってなー。ずずー」
「あーん? 私が悪いっていうの? すぞぞー」
たしかに、色々起こってるけどさー。
ぶっちゃけ、私の「来る前に」事は起こってるからね?
オークの大移動にせよ、
ベヒモスの襲撃にせよ、
今回の獣の王にしてもそう。
「それはそうじゃがのー。我も長く生きておるが、ここまで立て続けに事変が起きるなど、そうあり得んぞ?」
「そー言われてもなー」
つんつん。
首だけになったケルベロスをつつく。
たしか、コイツの場合は封印が解けかかっていたんだっけ? しかも、見た感じ人為的……。
「……アンタのその剣。誰かが壊したんじゃないの?」
「これなー」
そう言ってルーフデスが掲げるもう一方の剣。
地味な装飾だが、いかにも強そうな大剣は、刃の半ばからぽっきりと折れていた。
自然に折れたにしてはちょっと綺麗すぎる。
「ケルベロスがごとき、地獄の住人にこのような聖遺物は触れられん代物じゃ。つまり、何某かが手を加えたとみて間違いなかろう」
「なら十中八九、そいつの仕業でしょー?」
私は関係ない!
「つーか、地獄の住人って……地獄にはこんなのが何匹もいるの?」
「そう言われとるだけだけじゃ。地獄なんぞ見たものはおらん──しかし、お主も体験したじゃろう?」
なにを?
「コイツが一瞬で地中に潜る様をの。このゴルドの大穴にしてもそうじゃが、どうもバケモノクラスのモンスターはこの世の理の外──例えば地の底、地の獄から来たと言われとる」
「あー……そう言えば、あの隙に地面に潜るとは思わなかったね」
おかげで油断した。
まさか、首だけで動くとは……。
「そう言った能力のようなものじゃろ。封印されながらも、オルトロスやらベヒモス級の魔物の召喚といい『獣の王』の力は絶大じゃて。……ま、こうして死んだところをみるに、封印前後では雲泥の差があるじゃろうの」
「ふんっ、封印前でもよゆーだよ、よゆー。なんせこっちにはチハたんがあるからね!」
戦車の前には伝説だろうが一撃だぜー。
「かかっ! 物騒な奴よ、しかし、まさか再封印でもなく倒しきるとはのー」
「えっへん」
凄いでしょ!
チハたんがね!
そうして、こうして、私たちは地下の奥──ゴルドの大穴に潜んでいた獣の王を倒し、ベヒモスの発生源を特定────壊滅させてしまったのである。
証拠?
もちろん、ケルベロス持って帰りまーす!




