第46話「ゴルドの大穴」
ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぅ……。
かつーん、かん、かんっ…………しーん。
「……ふ、深ぁっ!」
恐る恐る覗き込んだ竪穴は下は真っ黒。
陽の光が届かないくらいの深さだったので、思わず石を落としてみたら、途中で跳ねる音の他はなんとなんと──まったくそこに落ちた気配すらない。
「いや、深ぁぁあ!」
そして、こわーっ!
いやいや、これ無理でしょ?!
「え、えぇー……こんなとこから魔物が湧いて出てくるの?」
「そりゃそうじゃろ。ベヒモスはああ見えて、かなり機敏ぞ」
砲塔に括りつけられた肉壁がなんか言っとる。
「……なに。アンタなんか知ってんの?」
「当然じゃ、ギルドで取り調──……ごほんっ、交渉をしとったしの。今回の一連の騒動のことも知っとるし、ギルマスにここの話も聞いとるぞ」
ほほーう。
「……むしろなんでお主が詳しく知らんのじゃ」
右から左に聞き流してたー。
「ここはゴルドの大穴というての。その昔、獣の王がここより出でて、世界を闇に包まんとしたという伝説がある。……しかして、時の勇者によって倒され、封印されたそうじゃ。以来──ここはただの魔物が徘徊するだけのダンジョンとなっておるが、その獣の王が時折、封印を解かんとして、自分の分身たる魔物を穴より解き放ち、魂を集めるとかなんとか、うんたらかんたら、ふんだりけったりじゃ──」
いや、最後のほうよ。
「えーっと、つまり、中にやべーのがいえ、魔物を使役してる的な」
「そんな感じ」
なるほど。
「つまり。ここってただの穴にみえるけどダ、伝説級の魔物が封印されてるラストダンジョンってこと? で、やっぱりなかに魔王がいるみたいな?」
「獣の王じゃつーの。……伝説じゃがな」
獣の王。
ライオンかなー?
「──で、ダンジョンかといえば、まさにそうじゃな。しかも、お主の言うようにランクはぶっちぎりのSじゃー! かーっかっかっか! Bランクのお主では手も足も出──って、ちょわぁぁあ?!」
げーしっ!
「あ、あ、あっぶなー……! え? なに? 今我を突き落とそうとしたぁ?!」
「ん? うん。なんか笑い声がイラっときたし、ほら、アンタ飛べるし大丈夫かなーって、」
捨てるのにちょうどいいとは……思ってないよ。
「と、飛べるかぁ!! こ、こわぁあ! 笑っただけで蹴り落とすとか──……こわぁ!」
「いや、TPOは弁えなよ?」
「そ、それはこっちのセリフじゃぁぁ! み、見てみぃ! どっからどう見て飛べると思った? 今の我はただの可愛い子供じゃぁぁあ!」
「いや可愛くはないでしょ。生意気でムカツクガキはいるけど」
「それが我じゃ! どっちにせよ、ガキってことは子供じゃぞ?! そ、それをー」
いやいや、アンタドラゴンじゃん。
「飛べる飛べる」
落ちても硬いし、いけるいける!
「飛べないつってんの! 硬くても落ちたらヤバいの!! そもそも、お主にこのトゲトゲのロープでグルグル巻きにされてるし、なんなら、人化してるせいで翼がないわーい!」
あーん?
人化してるたって……。
「前飛んでたじゃん。そんで首都の屋根をべりべりと──」
「そ、それはもう、謝ったし……」
ごにょごにょ。
「なんて? ルーフ・デストロイヤーさん」
「ぐぬぅ……その二つ名、マジで止めて欲しいんじゃが」
なら屋根を壊すな。
「ともかく、この姿じゃと、そこらの子供と大差ないんじゃわ」
「はーん? すぐにパパッと変身すりゃいいじゃん」
「あっほぅ! そんな簡単に出来たら苦労はないわ! この術はカロリーを馬鹿食いするんじゃい!!」
カロリーって……。
曰く、
ドラゴンの大きなになるには、それ相応のカロリーを蓄えないとなれないとかなんとか──……。
「あー。それでアンタってば、ギルドで馬鹿食いしてたのね」
「そうじゃ!」
「いや、威張るな威張るな。そういうことするから追い出されれんのよ?……そして、馬鹿食いしてギルドでドラゴン化して何するつもりだったのよ」
「そんなもん決まっとろう──って、無言で武器を抜くのはやめてくれんかのー?」
だって、物騒なんだもん。
「そも、町中でドラゴン化したら危ないでしょーが! アンタ自分が歩く危険物だって自覚あんの?」
「お主にだけは言われたくないんじゃが……。まぁ、あのギルマスも国の連中も我の話をちっとも聞かんし、こう──ちょっとはひれ伏させようかなーって思っただけじゃい」
だから、それをやめいっつーの。
「そんなんだから、結構な二つ名がつくのよ」
「あーもー、それでええわい」
あっそ?
じゃ、ルーフデスと呼ぶわー。
「で、ルーフデス」
「あ、固定なんじゃそれ」
うん。
「それで──ここがダンジョンってのは分かったけど、どうやって入るの? ケイブダイビング(※洞窟でのスカイダイビング)でもしろっての?」
「そんなわけなかろう。我も死ぬわ! そうでなくて──ああ、あったあった、あれじゃ」
あれぇ?
縛られたまま、ルーフデスが顎をしゃくる先には、なんとスロープが!
「まさか、あれで下に?」
「おうよ、ベヒモスもあそこから這い上がって来たんじゃろうて。……つーか、お主、マジで何も調べとらの? どうやって調査する気だったんじゃ?」
んなもん出たとこ勝負よー。
「うわー……結構ギリギリの幅だな」
「聞けよ」
ベヒモスが昇ってくるくらいに幅はあるとはいえ、それなりに狭いスロープが大穴に張り付くようにして底まで続いていた。
なんだろう、あれかな? 海外とかのダイナミックな露天掘り高山みたいな感じ──あれより禍々しいけど。
「ったく。ここを下っていけば、底につくぞい。その先に獣の王が封印されているというのー。もしそ奴が原因なら、ベヒモスや他の魔物も大勢折るじゃろうの」
マヂかー。
狭い所の戦闘って、チハたんには向いてないんだよね。
「ま、調査がクエストだし──別に倒す気もないしね」
獣の王だかライオンだか何だか知らないけど、
そういうのは私の役目じゃない。これが原因で魔族がどうの──っていうのなら、そのうち聖女エミリがきてなんとかするだろう。
私は私で生きていく。
それだけのこと──。
「とりあえず、準備しよっか。ルルー、コンビニ出すから、好きなの買っといでー」
「んー♪」
ルルがチハたんからてててーと離れたところを見計らって穴の縁に、
はい、ドーーーーーーーーン!!
「お、おわー!! な、なんじゃっぁああ?!」
そして、初見のルーフデスが目をむいて驚いている。
わはは!
これが、ガソリンスタンドLv2~♪ コンビニであるぞー。
「ふふん。特別にアンタも好きなの買っていいよ。その代わり、ちゃんと道案内しなさいよね」
「お、おう。ありがたく食わせてもらうぞ」
うんうん。
働かざる者くべからず──その逆もしかりだよ。
※ ※ ※
「ひょぉぉぉぉおおお♪ なんじゃこりゃー!」
「んー。お弁当だね。あと、そっちはサラダとパスタ」
目をキラキラさせているルーフデス。
もちろん、自由にはさせない。コイツは前科持ちで、危険な奴だからね。
「こっちはなんじゃ! パ、パンか?!」
「んー。菓子パンだねー。あと、付ける奴。蜂蜜とかジャムとか」
んほほーと歓声を上げるルーフデス。
どれにしようかあれに仕様かといううちに、助手みたいになったルルがルーフデスが欲しがったものをポンポン籠に入れていく。
もちろん、ルルはルルで買っているよー。
「あ、そうじゃ! あれも食いたいぞ!! あの──ほら、顔につけられた奴!」
「顔? あー、おあげか」
カップなウドンの奴ね。
「いいよー。好きなの選びな」
カップなうどんも数種類あるし。
「なんと、いいのか!! じゃ、じゃあ──この棚の端から端まで全部じゃー!」
「いや、金持ちの買い方かよ。あと、遠慮はしろ」
まーコンビニの物だし別にいいけどさー。
もちろん、金はあとでしっかりとるけどね。
「おうおう、すまんのぉ」
「そう思うならもうちょい控えなー。一応女の子でしょ?」
何歳か知らんけど。
見た目はルルと同年代……よりちょっと上かな?
太るぞ。
「大丈夫じゃ。竜化すればすぐ元通りよ」
「ほーん、羨ましいことで」
それ、世の女性が喉から手が出るほど欲しがる能力ですこと。
ん? 私はどうかって……?
私はもっと肉をつけろとよく言われる。……主にセクハラ系でな!!
「それより、そろそろ買っていくよー」
「うむ。であるの──あ、これも買っていいかのー?」
肉まんに唐揚げ。
「も、好きにしなー」
安いもんだし、はよしてくれ。
「すまんのー。お、そこなガキ、食わしてくれ」
縛られてるのに、相変わらず偉そうなことで。
「あーん♪」
「あー……ん、んまぁ!!」
さっそく買ったばかりに肉まんを一口。
相変わらずの昭和チックな喜びに、思わずこっちも笑いそうになる。
「んんまいんまいんまい! こんなにうまいもん食ったのは初めてじゃあ!
肉まんでこの喜びよう。今までどんな食生活だったんだか……。
しかし、美味いもん食う時のコイツだけは割と平和だな。
瓦を剥がして、ガソスタは爆破するけど。
「──あと、カップうどん食いたいぞ」
「それはあとにしてくださーい」
調子にのんなよ。
食ってばかりで先に進めんわ。
「あと、今買ってるのは、調査用の食料だからね!」
「そうなのか? 召喚できるなら、中で出せばよかろうに」
「そうもいかないの。ガソスタの能力は優秀だけど、広い場所が必要なのと──あと、ダンジョンとかの屋内では使えないって制約があんのよ」
それで以前痛い目をみた。
おもに屋根を破壊せし龍のせいで──。
「だから、調子にのって食べ過ぎたらだめだからね」
「わかっとるわかっとる、一個だけじゃ! 一個!」
「はいはい。その間に準備進めとくから。ルルは荷物まとめて」
「んー♪」
よしよし。
ルルはどっかの大食いドラゴンと違って素直だねー。
「……そういや、どうやって我は食えばいいんじゃ? 縛られたままなんじゃが?」
「口があるだろ、口がー」
犬のように食うがいいわ!
「ぐぬぬー。お主、あとで覚えとけよ!」
「そのセリフそっくりそのまま返すよ」
アタシャ、信用したわけじゃないからね!!
なんか悪戦苦闘しながら、お湯の入ったカップうどんを前にうんうん唸るルーフデスをイートインスペースに放置して、こっちはチハたんの最終チェックだ。
さて。
「車幅は2.3m──で、スロープがだいたい2.5mかー……マヂでギリギリだな」
戦車なので壁をこすりながら言っても問題なんだけど、それでも余幅が20センチ。
人が立つ隙間もない。
その状態でこのくらい穴を降りるのか──……。
「まぁ、しゃーない。なんかあったら、その時はその時だ」
そもチハたんじゃなければ降りることもできないしね。
小さい戦車で良かったよ。
「あとはルーフデスをどうするかだけど──……」
「たんくでさんと?」
うん。
それしかないかなー。砲塔に括ったままだと邪魔だし。かと言って、イマイチ信用しきれないアイツを中に載せるのもなー。
急に竜化して暴れ出したら、さすがにゼロ距離だと、こっちが死ぬ。
「あ、そうだ──!!」
いいこと思いついたーっと。




