第44話「ならば懐柔すべし──!」
「おっほ~♡」
ぬーりぬりぬり。
ごーしごしごし。
「お客さ~ん、一杯でますねぇー」
ほーれほれほれー。
「ぬぅぅぅ……くふぅぅ♡」
やけに艶っぽい声を出しているのは国のトップのちびっ子議長のアークスさん。
その半裸の体にタオルを掛けつつ、揉ーみ揉みのごーしごし!
うーわ、出る出る。
オイルに交じってポロポロと垢がでるわー。
「ルル、それとってー」
「ん」
そして、助手のルルにつめたーいメントール入りのジェルを取ってもらうと、ベチョっと、
「ひょわぁっぁああ!」
「うふふふー、どうですお客さーん」
摩擦熱で火照った体に冷やっこいジェルは強烈でっしゃろー。
「くふぅ、こ、これはたまらんのー」
と、ちょっとエロ目の声を上げているが、なんのことはない──ただの垢すりである。
しかし、熟練の技──というか、ようつべーの動画を見ながら施す「施術」に議長さんは涎をたらして赤い顔のまま昇天寸前。
「──で、どうっすか? そろそろ、ウチのルルちゃんを認めてもー」
「ぬぅぅん! そ、それとこれとは──」
ちっ。
しぶといな。
「ルル、それとって──」
じゃじゃーん!
電動マッサージー♪
「って、待て待て待て! そこまで来るとさすがに色々あかんぞー」
「ちっ」
天国に行かせてやろうと思ったのによー。
ウィンウィンウィン♪
「ば、ばかたれー! 風呂に付き合えというから、来ただけじゃろうが!」
「いや、そのついでの垢すりもどうっすかーって誘っただけですよー」
そして、あわよくば懐柔しようかと……。
「ったく、油断も隙もないのー。……風呂にいくぞ」
「はいはい。あ、ちゃんと垢は落としていってねー」
すっごい一杯とれたから。
「うぐ! わ、我からこんなに出たのか……」
顔を真っ赤にして自分の体から出て来た垢に驚く議長さん。
「まぁ、それは──うん、垢すりってそういうものなので、気にしないよーに。別にアンタが汚いわけじゃないし──」
「そ、そうか? それなら。……うむ、広い湯じゃな」
でしょー。
ウチの自慢のスーパー銭湯でーす!
「さーて、それで話があるんじゃったか?」
「まぁ、わかるっしょ?」
サウナに入って、
奥の高い所にドカッと座る。
ここが一番熱がこもって、熱くていいんだよねー。
ちなみに、他のお客はいない──皆メガモールに夢中で、今のところ、お客は私たちのみだ。
多分、買い物が終わったらこっちも大盛況になるだろうし、今だけの快適時間です。
「ふんっ。その子の受け入れじゃったな」
議長が顎で指す先には、サウナでぽやーっとした顔のルル。
この子サウナも好きなんだよねー。
「ですです。国の状況も、アンタが色々大変だってのも分かったけど、まずはトップに了解貰わないことには、動きようがないですからねー」
周囲から固めていくという手もあるけど、
最後の最後でひっくり返されると困るし、まずは上から懐柔しよう作戦だ。
「ふんっ。正直なところを言えば、我はそこまで反対はないんじゃ。……ぶっちゃけ、子供に目くじら立てるほどでもないしのー」
「え? じゃあ?!」
「アホっ、話は最後まで聞け──色々気になることもあるでの」
へ?
気になること?
「まず一点。……そいつはなんでここにおる? 魔族の子供なんぞ普通は一人でおらんぞ?……連中風に言えばそうさの──敵地の奥に単身子供だけということになる」
あぁー。
それはそう。
「理由までは、この子もよくわからないみたいで──」
オークに取っ捕まって他の子供と一緒くたにされてたのは間違いない。
あのままだと、朝飯か昼飯になってたことも。
この子、アホっぽいからその辺抜けてるんだよねー。
聞いても、「ぽぇー」みたいな顔するし……。
「ふんっ。それを怪しんどるものもおるということよ。……スパイなんじゃないかとな」
「いや、子供っすよ?」
ほらー。
「にーっ」
「いや、わ、わかったわかった! 子供の笑顔を向けるな」
お、コイツちょろいな。
抱えていたルルをそのまま膝に乗せる。
「うーっ。わ、我もそれには無理があると思ってはおるが、『疑わしきは罰せよ』が世の風潮じゃ」
「え? それ逆じゃないの?」
疑わしきは罰せず……いや、ここファンタジー世界だったわ。
「目には目をー!」くらいは言う世界だったわー。
「そも、それ以外にも色々あるわぃ。先のオークの大移動から、ベヒモスの群れ。オマケにドラゴンじゃ」
「あー……そういや、なんか集中してますね」
それとルルに何の関係があるのか知らんけど。
(つーか、多分、そういうのがあるから私と──……えみりは召喚されたんだろうなー)
クソおーじ様が魔族がどうのって言ってたわな。
ふと、そんな出来事とともに、えみりの顔を思い出す。
アイツ、元気にやってるかねー?
「──その原因が魔族にあると考えるものが結構な数おるんじゃよ」
「む」
それは──うーん。
聖女召喚されただけに、それらが全て違うー!……とは言い切れないのがつらい所。
いや、ルルに関係があるかどうかは別にしてね。
「っていうことはなんですか? そう言った懸念を払しょくすれば、ワンチャン?」
「ワンチャンあるのぉ」
おぉー。ワンチャン。
つーか、ノリいいなこの議長さん。
「あ、そろそろ水風呂いきましょう」
「うむ」
汗を流して、水風呂からの外気浴コースね。
「むぅぅ、ちめたい!」
「ま、まだまだですよー」
ここは一分は絶えましょう!
「ぬぬぬぬー。無理!」
「あ、もうー!……じゃ次。ほら、そとそと。ここに寝ころんでくださーい」
いつぞやドミトリさん達ともやった快適、整うコースである。
たしか、二回目にやってた時にドラゴンに襲撃されたっけー。
「……おっほうー。なるほど、こりゃ気持ちええわ」
「でっしょー。ということで、もう、オッケィしちゃいましょうよー。魔族の一人や二人~」
垢すりでダメなら、
ととのうで、判断力を鈍らせて──なし崩し的に言質をとろうぜコースだぜ。
「ぬー。そうじゃのう、オッケイ──…………すーるかぁあ!」
あっぶな! と、飛び起きる議長。
「ちっ」
「なーにが『ちっ』じゃ! 馬鹿垂れぃ! さっきも言うたが、議会制の我が国では、我が良いと言ってもはいそうですかとはいかんというとろうに──」
さすがは軽んじられているとは一国のトップ。
簡単に頷くほど馬鹿ではないな。しっかし、議会制かー。
「あー。つまり、懸念を示す人の一個一個のそれらを払しょくして、認められればいいと?」
「そういうことじゃの。……あ、喉乾いたの」
たしかに。
「ならこっちにきてー。──あ、服は適当でいいですよ、どうせ貸し切り状態だし」
「そうか? なら、タオルだけでええか」
いいですいいです。
私もそれでいきます──。
なのでいつものお食事処へー。
「……じゃ、はい。メニュー好きなの選んでー」
適当な小上がりに賭けると、メニューを渡す。
写真付きで定期的に新メニューが増えるので飽きがこないのがグーッド!
「ぬ! こ、こんなに!」
「へっへっへ。好きなのいいですよ、旦那ぁ」
……げへへ。
「いやな顔で笑いよるのー。タダより高い物はないというし、払うわい」
ちっ。
しっかりしてやがる。
ま、コイツ金持ってるしなー。金だのでの懐柔は無理か。
「ふーむ。とりあえず、これを頼むぞぃ。プリン・アラモードと……アンコと練乳たっぷりかき氷じゃ!」
「お、通なのいき来ますなー。私はおビールで!」
そして、ルルはなぜか天丼。
サウナ入った後で、よー食えるな。いいけど。
はい、そんじゃ揃ったところでカンパーイ!
おビールかき氷で、だけどね。
「──……で、じゃ。お主の言いたいことは分かった」
「お、ホント?!」
プハー!
無人ロボから食事を受け取り、さっそくビールを口にして泡のひげを作ったところで、
しゃくしゃくと、氷を食みながら、議長さんが理解を示してくれた。
「ホントホント。しかし、簡単ではないぞ?」
スプーンを顔に向けられる私。
「むー。多少の障害ならどーんとこいですよ!」
実際問題ないしー。
具体的にはチハたんでなぎ倒します。
「ふんっ。まぁ、本当にどーん! できるなら、他の議員に口利きまではしてやろう──こう見えても、議長じゃ。人民評議会の次の議題にくらいに出すくらいはできる」
「おぉー! 言ったねー」
日本で言うところの議員立法的な奴か!
しかして、言質はとったぞー。
「うむ。ま、正直、ベヒモスの報酬のことやなんやかんやで、借りがあるしの」
あー。そういや、安かったもんねー。
災害指定種が1匹あたり金貨100枚だもん。
「なので、まぁ、議題くらいはなんとでもなる。……町を救った英雄の頼みじゃとかなんとかテキトーこけば行けるじゃろ」
ひゅー!
やーるぅ。
テキトーこく云々は置いといても、意外と話せる議長さんじゃん。
「……ただし、議題にだしたとて、受け入れには議員の過半数の賛成が必要じゃぞ」
「は?」
な、なに?
過半数??
「え?……ってことは、議員さの半分以上がオッケーださないと、ルルちゃんを孤児院にもいれられないと?」
「そう言うとる」
げー。
結構なハードルじゃん。
喜んだ手がしおしおと下がっていく。
「そこは何とかできないの? こう、『我の言うことをきけー!』的な」
「軽んじられとうと言うとろうが……」
あーそうだった。
ちっ、頼りにならねーな。
「口に出とるぞー」
「あ、やべ」
……しかし、その話でいうと議会の過半数かー。
つまり現状では、半分以上もダメっていう感じなんだね。
うげげ~、道は遠いなー。
「まー、しかしそう難しくもないかもしれんぞ?」
「え? そう?」
今、どうしようか頭抱えてたところなんだけどー。
「ふんっ。お主らはほれ──。一応は英雄じゃ」
「一応ってのはあれだけど、否定はしませんねー」
へっへっへ。
手柄は誇って──以下略。
「その点だけでいえば、議会でもそこそこ賛同は得られるはずじゃ──ただ問題はのー」
「うん?」
なになに?
おねーさんに言ってみ。
「お主自身のネームバリューさほどじゃないということじゃのー」
「……え?」
な、なんで?
「なんでって顔しとるけど、当然じゃろ」
「えー。私ベヒモス10体近く倒したよー? ドラゴンもボコしたした」
「お、おう……。まぁ、おう」
うん。
その私のネームバリューがないとか、なにを舐めたことを……。
「ただ、ほれ。お主、BだかCランクじゃろ? オマケに『赤い旋風』のメンバーでもないみたいだしのー」
「ああー。なるほど」
そういえばそうだ。
しかも、倒したとはいっても、城壁から見てられんちゅうからすれば火を噴くベヒモスが同士討ちをしたことになってるみたいだし……。
ドラゴンに至っては目撃者がドミトリさん達を除いて、だーれもいない。
ちなみに一番目立ってたのは──ミルヒ君。
勇者ミルヒ君だ。
「え、ってことは私ってなに?」
「ただの同行者じゃの──くっついて来た旅人というか荷物持ちといいうか、馬車曳きというか……」
えええー!?
じゃあ、私って、首都の連中からしたら、ただの馬車馬?!
ヒヒーン! と嘶く私を空目する。
「いや、馬車馬とまでは言っとらんが……まぁ、しゃーないじゃろ。実際見えるところでさほど活躍しとらんしのー。客観的な評価は概ねそんな感じじゃ。我も未だに信じがたいしのー」
「んっ? じゃ見る?」
ジャキンッ!
こっそり持ってた、九四式拳銃ー♪
「やめい! こ、こっわー……この女こっわー。我、こうみえても、一国のトップなんじゃがー」
はっはー。
「舐めたこと言う奴には鉛玉くらいよゆーだよ」
「じゃからって、ノーウェイトと武器むけるか普通ー? しかも、それどこに隠し持っとった?」
「女には隠し場所がいっぱいあるんですぅー」
ふふーん。
「……お主にあるか?」
「マジで撃つぞ」
「さ、さーせん」
ふんっ!
サイズはテメェとさほど変わらねーっつーの!……いや、あっちの方がデカい? ガキみたいな見た目のくせに、畜生。
「まぁ、それはさておき──」
「いや、一国のトップに武器を向けてさておかれても困るんじゃが……まぁ、なんじゃ?」
うん。
細かいこと言うなし。
「──つまり、私自身が大活躍すればいいってことでしょ?」
「ん? まぁ、そうなるの。ちなみに今首都で一番人気は勇者ミルヒじゃ」
あーん。
あのチビ……。
「はっくしょーん!」
とくしゃみする声が聞こえた気がするけど、それは無視して──ミルヒ君に名声持っていかれちゃったかー。
「次点はドミトリじゃの」
「私はー?」
「そも認識されとらんぞー」
おーし、首都の連中いい度胸だ。
「ま、待て待て待て! 今の時点で──じゃ! なにを物騒な目をしとるんじゃ!」」
「いや、蹂躙しようかと」
主にチハたんで、
丹念に丁寧に掃き清めるがごとし──。
「やめーい! 何度も言うが今の時点では──じゃ!! 我の見立てでは、お主の力を全面に押し出せば、よゆーよ。よゆー」
「私の力ぁ?」
「さっき、自分でゆーとったじゃろうが。物流をおさえてウッハウハーみたいな」
「そんな言い方はしてないけど、物資不足で困ってるみたいだしちょうどいいかなーくらいには考えてたけど……そうかなるほどね」
なにも武力だけじゃないということかー。
「うむ。実際、モールができて間もない所じゃが、この盛況っぷりをみるとおのずと支持も上がろうぞ」
「おぉー」
つまりは果報は寝て待て──。
「ただし!!」
んが?!
「え? な、なに?」
「ふんっ。この国は開拓でなりたち、冒険者を重んずる国ぞ──商売だけではどうもならんと思え」
ええー。
寝てるだけじゃダメぇ?
「つまりどうしろと?」
「そりゃお前、決まっとろう。……冒険者なら、手っ取り早くギルドで名をあげい。ドミトリ並みに活躍すればええだけじゃ」
あー。
なるほど。
「幸い首都周辺はいくつもダンジョンはあるし、魔物の被害も多い。手柄を立てる場面などいくらでもあるぞい」
「おぉー。なるほどなるほど」
「うむ。我も国としての懸念事項は腐るほどあるゆえ──それをギルドに流してやろう」
ほほう。
それをクエストとして受けて解決すればいいわけか。
「いいね! わかりやすくていいと思うよ。それに、多少の魔物くらいならなんとでもなりますよ、こう見えて私強いですから!」
ムキィ! と、力こぶをつくるー。
「ほっ! いいよるわ」
うん、言うでー。
ぶっちゃけ、なんだってできるさ。チハたんがあればねー!
「かっかっかっ! 気に入った。よーし、ならば、見事我が国の懸念事項に見事解決してみせよ! 我が国は人民の人民による人民のための国家! 国に尽くすものは、恩義で報いようぞー!」
「サーイェッサー!」「さーっ♪」
おーし、
なんでもこーい!!
「あ、ただし!」
「んが?!」
な、なになに?!
今度はなに?!
ルルちゃんと一緒に敬礼してるのに、水ささないでよー。
「いや、大事なことじゃから言っとくが──……クエストはお主だけでやれよ? 勇者ミルヒや『赤い旋風』の力を借りるでないぞ」
「はぇ?」
え?
ダメなん?
「いや、ダメに決まっとろうが……お主の貢献度を見るためでもあるんじゃぞ。他人の力──それも、高名な冒険者の力を借りたところで、誰がお主らを認めるんじゃ?」
……う、それはそう。
私がどう言いつくろったところで、客観的事実というものがある。
そして首都の連中からすれば、ベヒモスを退けたのは『赤い旋風』の手柄ということになっている。
もちろん、ドミトリさんは否定しているけど、ネットもSNSも──それどころか、新聞もラジオもない世界じゃねー。
「まぁいいですよ。元々そのつもりでしたし」
ぶっちゃけ、ドミトリさんたちと行動してたのは、半ば成り行きだったしね。
この街で分かれることに特に不満はない。
「ふん。ならばよかろう。では──ギルドに通達を出しておくでの、依頼を受けるがいい」
あいよー。
「で、ついでじゃし、これとこれを注文していいかのー。甘い物食ったら、しょっぱいのが食いたくなってきたわい」
おーおー。
好きに頼むがいいわ!
「塩辛」に「酒盗」に「くさやね」ー。了解了解!
って、お前飲む気満々じゃねーかよ!
まぁええけど──。
こうして、なんか成り行きで議長さんらのクエストを受けることになったんだけど──……まぁ、チハたんならよゆーかな。




