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第39話「竜人族」

「いったいのー!!」


 ぎゃーぎゃーと涙目の赤い髪の少女。

 しかし、痛いのはこっちだ……。


「いっつー……。アンタ、何でできてんのよ?!」


 鉄?!

 コンクリ?

 チタン複合材!?


 いや、いっそガンダ〇〇ム合金かよ!


「あー、くっそー! やっぱ拳じゃ効きかねーか」


 んじゃ、やっぱしこっち(・・・)だね。

 刺突爆雷の安全栓を抜いて──っと、ピィン♪


「ちょわぁぁあああ! ヤ、ヤメロー!」


 やめなーい。


「ぎゃぁっぁあ! 刺すな刺すな! それ、絶対ヤバい奴だろー!」

「うん」


 ちょーヤバい。

 なにせ、ベヒモスだって一撃だ。


 シャーマン戦車だって、これを食らえば一撃で昇天さぁ~♪


「うん♪……じゃ、ないわ! なんでニコニコで、そんな目ぇできるんじゃ!──こ、こわぁぁ! コイツ、こわぁぁ!」

「いや、これからもっと怖いから──」


 ほーら、チクチクー。


「痛い痛ーい! 釘がいたーい」


 刺突爆雷の先についたスタンドオフを兼ねた釘でチクチクしてやる。


 しっかし、参ったな……。


 思いのほか、ガキんちょだわ。

 さすがにガキにこれをブッ射すのは抵抗があるなー。




「……でも、やるー」




「ぎゃぁぁぁああ! 待って待って! 謝るから! とりあえず、謝るからぁぁ!」

「あーん?」


 とりあえず(・・・・・)だぁ?


「何に対して?」

 言ってみ。

「え? あー……な、なんじゃろ?」

「はい、ブスー」

「ぎゃぁぁぁああ! 待って待って。あー……あれだ、あれ!」


 うん、なに?


「えっと、森を燃やしたこと!!」

「はい──ブスー」

「んぎゃぁぁあ! 刺さってる刺さってるー!」


 いや、森とかどーでもいいし。

 私は環境保護(笑)団体じゃねーし。温室効果ガス上等のガソスタ店員だっつーの。


「えー……違うのか? んじゃー、えーっと」

「あのね。クイズしてんじゃないのよ」


 そして、この様子だとコイツ、なーーーーーーーーーんもわかってないわ。


 なので生きてる価値なー……。


「ナガセ! 待ちなって」

「あだ!」


 あ、ちょ!

 刺突爆雷返してー!!


「そうですよ、一度落ち着いてください」

「むー。私は冷静だよ!」


 だから、今ここでドラゴンにトドメをだねー。


「いやいや、全ッ然冷静じゃないし、まず周りを見なって!」


 周りぃ?



  ゴーゴーゴー!

   バキバキ、メキィ……!



「燃えてますね」

「うん。……いや、それな!!」


 え?

 あ!!


「ホントだ! いつのまに!!……こ、これ不味いんじゃ?」


 ヤバい!

 身動きできなくなるかもー!


 チハたんも動かないし、これって大ピンチ?!


「今気づいたのかよ!」「いつの間にもなにも、最初からだっての!」

「ナガセさん。そいつに思うところがあるのは分かりますけど──今はまず、脱出することが先決かと」


 むー。

 ミルヒ君はいつだって正しい。


「くっ! 仕方ないですね!……でも、どーやって──あ、そうだ!」


 魔石だ、魔石だ!

 チハたんを回復させれば、ワンチャン!


「ドミトリさん、魔石の予備ってないですか?!」

「予備? そんなもん、予備で持つもんじゃないよ」


 う、

 そりゃそうだ。

 スキルが回復できるのは私の都合であって、普通は換金アイテムだ。


 そして、私の予備の魔石はぜ~~~んぶ、ガソスタの中!

 つまり、コイツ(・・・)が全部悪い!


「……って、おーい! 無言で銃を抜くんじゃないよッ」

「いや、なんかムカついてきて」


 つい、腰のホルスターに手が伸びたけど、

 九四式拳銃は効かないんだっけ? くっそ、コイツ、マヂで嫌いー。


「ナガセさん! 緊急ですが、これを──……さっきのベヒモスから回収したものです」

「をを! ありがと、ミルヒ君!」


 顔中を、血と煤まみれにしたミルヒ君がいち早く、ベヒモスの残骸から魔石を取ってきてくれたらしい。

 しかし、無残に死体をキャタピラで破壊したせいもあってほぼ欠片──……でも、おっきいからいけるかも!


「チハたん! 動いてー!」


 魔石を手にチハたんの回復を図ると、わずかに表面の塗装が回復していき、エンジンが震えるのが分かった。


  ──グォォォオン!

   ぼん、ぼぼぼん……!


「ほっ……。エンジンはなんとか生きてる」


 よし、これならいけるかも!

 

「皆ー、緊急事態だから乗って乗って!」


 ここは中に入ってもらって強行突破しかないかも!


「ええ?! ア、アタシ入れるかねぇ?」

「ギリギリいけるかと! 新砲塔のチハたんはちょっとだけ大きくなったから、なんとか」


 多分!

 きっと!


「俺たちは前に乗るぜ」「姐御を押し込めばなんとか!」

「じゃ、じゃあ僕は余積に!」


 うん!

 いけるいける!


「そんじゃ、いっくよー!」


 おっと、その前に──……お前はこっちな。


「な! なんじゃぁぁ! なんの真似──って、縛るなー!」


 縛るわ、アホっ。

 チハたんの牽引ワイヤーでグルグル巻きの刑じゃー!


「いっくよー! チハたん前へ!」


 森を抜けて一気に脱出だー!


「ギャー! いだだだだ! 顔面! 顔面が地面に──あばばばばばー!」



 なんか知らんが、叫んでいる赤い髪の女の子を戦車で引きずり倒しながらなんとか、燃える森を脱出するのであった。


 いやー。危機一髪だね。



※ ※ ※



「危機一髪だねー♪……じゃないわー、このたわけがー!」


 ぎゃーぎゃーぎゃー!


 燃え盛る炎の中、フラフラになった私たちはとりあえず何とか脱出。

 全員満身創痍だが、誰一人(・・・)欠けることなく離脱に成功した。


 もちろん、コイツを含む──……。


 ガィーーーンッ!!


「あいだー!」

「誰がたわけじゃ、この馬鹿垂れ!」


 終始この調子でうるせーから、スコップで一撃してやったぜぃ。


「いったいのー!……それ、人様の頭を殴っていいモンじゃなかろうが!」

 縛られているので、頭をさすれないせいで涙目で訴える少女。


 いや、少女というのも(はばか)られる。

 こんなんガキでいいわ、クソガキ。


「つーかアンタのせいでチハたんが、またお釈迦だよ! みてよ、あれ!」


 ぱーん、ぱーん! と砲弾が誘爆して、ものすごい姿になっているチハたん。


 森を脱出するギリギリの所でついにオーバーヒート。しかたなく放置するしかなかったのだけど……しくしく。チハたーん。


 あとで魔石で回復するとはいえ、悲しい……。

 それもこれも──!


「全部アンタのせいよ!」

「だから、あいだー!」


 がっつーん!


「……っかった」


 マヂ、何でできてるの、この子!

 スコップ曲がったんですけどぉ?!


 もー!


「ド、ドミトリさん、その剣かして!」

「いやだよ。何する気だよ!」


 大剣を抱きしめて後ずさるドミトリさん。

 しかし、それがないと──……あ、これがあったわ。


  刺突爆雷(エクスカリバー)


「よーし、やっぱこれ(・・)だね」

「ちょわぁぁあ! それ(・・)はやめろぉぉぉお!」


 刺突爆雷の安全栓を再び、ピィン♪ と抜いた直後、拘束されたままジタバタと後ずさる少女に向けてやる。

 やはり、コイツの威力は存分に知っているらしい。


「だいたいなんじゃ貴様ら! ワシが何をしたって言うんじゃ! むしろ、貴様らの町を守ってくれてやって感謝こそされ、拘束される()われはないなーい」


 ぺーぺぺぺっ! と唾を吐いて威嚇。

 きったねー。


「あ、くそっ! この姿じゃ火が出せんのじゃったわ」


 ……あーん?


「ってことは、なに? 今火ぃ吹いて殺そうとしたってこと?」

「ぎくっ」


 ぎくじゃねーよ。


「えーっと、刺突爆雷のスタンドオフは──」

「ぎゃー! だから、それを向けるなー!」


 いやいや、

 こんな危険生物を野放しにするほうが危ない。


 そして、ガソスタの仇も撃たねば──後、チハたんのもだね。


「ま、まぁまぁ、ナガセ。落ち着きなって……ドラゴンならいざ知らず、一応は人だ。……人だよね?」

「いや、ドミトリさんも疑問符浮かべてるじゃないですか」


 そして、こんな人間いてたまるか。


「だれが人じゃ! ワシはこう見えても高貴な『竜人族』の──……て、それ(・・)を無言で向けるなーっ」

「いや、人じゃないなら、殺すしかないくね?」


 ドラゴン即、滅。


「ひ、人でーす」

「プライドねーのかよ」


 高貴な竜人族はどーなった。


「んなもん、犬にでも食わしとけぇ、生きるためなら、チビ女の靴でも舐めたるわーい」

「おーう、潔いね。なら、舐めてもらおうか」


 靴の上じゃなくて、裏をべろんべろんとねぇぇ!

 あと、チビって、お前よりはデケーわ!


「ぐぁー! マジでむけるな! あ、くさっ! そして、お前ら、コイツをとめろー!」


 竜人ッ子に靴をぐーりぐり。


「い、いやー。コイツはアタシらじゃ止まらないねぇ」

「こいつを止めるには一個師団はいるぞ」「そも、止める理由もねーし」


 酷い言われようだ。


「なんなんじゃ、コ、コイツ。こえーんじゃが……」


 誰がコイツじゃ。

 口の利き方がなっとらんガキだなー。


「……ってうか、竜人族ってなんです?」


 なんか、ど~っかで聞いたような──。

 …………あ!


(思い出した。あれだ……。初めてドミトリさん達と出会った時に、この人ら私のこと竜人族だとかなんとか言ってたっけ)


「文字通り、竜と人の合いの子ですね。……僕も見るのは初めてですけど」


 そういって、物珍しそうにクソガキを見るミルヒ君。

 見るのは始めてだということはおそらくドラゴン同様に珍しい存在なのだろう。


「へー。……で、なんです? その竜人族っていうのは定期的にガソスタを爆破して、首都を襲うんですか?」


 物騒にもほどがあるでしょ。


「い、いや。どうなんでしょうか。そもそも、人間社会に関わりを持つような種族じゃないと思うんですけど」


 ふむ。

 つまり、何もわからないってことか。


「よし。とりあえず首都に連行しましょう。重要参考人ってやつですよ」

「ま、それしかないね」

「了解! というわけで、キリキリ歩けーい」


「蹴るな蹴るなー!」


 うっさい。


 しかし、苦労してドラゴンを討伐したと思えばこれ(・・)か。

 新砲塔にまで進化したチハたんが報われないなー。


「はぁ。あのー……ドミトリさん。これって、ドラゴン討伐の報酬って出ますかね?」

「状況からして、要求しても罰は当たらないけど、証拠がねー……」


 じーっ。

 証拠か。


「……鱗でも剥ぎますか」

「それか、心臓かねー」


 にこり。


「うぉーい! 目が物騒だな貴様らぁぁ!」


 物騒な目を向ける私とドミトリさんに怯えをなして、スススーと男連中にすり寄る竜人ッ子を見て、あぁ、やっぱり一応は人間なんだなと少し納得した。


「ふんっ。とりあえず、大人しくしててよ」

「わぁーっとるわ。……鱗剥がれても困るしのー」


 よしよし。

 素直ならとりあえず、鱗は勘弁してやる。


「……その代わり、ワシは疲れたから茶ぁ出せ。酒でもいいぞー」

「えーっと。ドラゴンの急所っと」


 スマホスマホー。

 検索っと。


「だー! なんじゃぁぁぁ! い、いきなり、頭押さえてぇぇ」


 いや、多分その辺に『逆鱗』とやらがあるかと。


「いだい、いだい! いだいがらやめろってのー!」

「ま、まぁまぁナガセさん。実際、僕らもヘトヘトですし──」


 むぅ。


 確かに、燃えさかる森の中から逃げて来たし、満身創痍。

 喉も乾いたし、お腹もすいた──。


「……しょうがない。町までもう少しですけど、先に腹ごしらえしますか」


「お! やるか!」「さんせーだぜ!」


 ったく、双子どもは調子がいいなー。


「まぁ、大したものはないんですけどね」


 チハたんはあのあり様だし、

 ガソスタは絶賛修復中だ。


「なので──ルル」

「はーい」


 にーっ!


 可愛らしい笑みを浮かべたルルが、後ろ手に持っていたコンビニ袋を取り出す。


 なけなしの行動食。

 最後の晩餐用にとっといた奴だ。


「カップ麺でよければどうぞー」

「「「「おぉー!!」」」」


 あはっ。

 やっぱり麺類は万国共通のご飯だよねー。


 というわけで、さっそくチハたんの余熱を利用してお昼ご飯だー。


 大破炎上したチハたんのフェンダー上の、給湯器からあっつあつのお湯を注げば、それで、はい完成!


「これで3分待ちまーす」


 あ、ドミトリさんのと私のはカップうどんなんで5分です。


「ほう。麺類はスパ銭の食事処にもあったけど、こんな風にもできるんだね」

「これ、コンビニで見たな」「お湯だけで作れるとか革命的じゃね」


 わかるー。


「ルルは好きなの選んでいいからねー」

「これー」


 お、

 みんな大好き、カレーのあれ(・・)か!


「いいチョイスしてるねー」

 なでなで。

「えへへ」

「ワシは、その青いのがええのー」


 殺すぞ。


「……な、なんで睨むんじゃ」

(みな)まで言わせんなし」


 なんでテメェに食わせにゃならんのよ。

 捕虜のテメェは、ゴボウでも食ってろ。


「ま、アホなガキは放置して──皆、そろそろいいよー」

「「「「いっただっきまーす!」」」」


 ズルズルズル!!


 適当な枝で箸を作れば、みんなして器用に啜る啜る。

 そして、私ももちろん、ずーるずるー……うんまぁぁ!


「はー。燃える森と、大破したチハたんの熱で食べるカップ麺、しみるわー」


 塩分が甘い甘い。


 しかし、なんだろうね。

 これ、CMにありそうー。


 燃える戦車、

 そして、子供たち。


 うーん。

 なんか、無性に世界平和を祈りたくなるわ。


「んーーー、んまいね、これぇ!」

「あっちーけど、うめー!」「この濃い感じのスープが疲れた体に沁みるぜ」


 ……いや、ドミトリさんはともかく、双子どもはあんまし働いて無くね?

 いいけどさ。


「しかし、容器ごと持ち歩けて、お湯だけで温かい食事──……これは、兵站事情に直撃しそうですね」


 お、さすがはミルヒ君。


 よくわかってるねー。そして、君が今食べてるのは、冬の某山荘事件で警官が食ってた奴だよー。


「ルルもおいしい?」

「ん!」


 美味しいらしい。

 カレー汁がめっちゃ飛んでるもん。


「…………え? ワシのはマジでないの?」

 は?

 何言ってんの?

「い、いや、ほれ。こう、一口くらい──的な?」

「ちっ」


 しゃーねーなー。


 物欲しそうな顔で、カップうどんをジロジロ見やがるクソガキに、あっつあつの御揚げをほーれ。


 あーん。


「あーーん……。って、あっづ、あっづ、あっづーーーー!」


 けけけっ。

 そうなると思ったぜー。


「つーか、アンタ、火ぃ吐けるのに熱いの苦手なの?」

「アホォ! 顔に押し付けたら熱いに決まっとろうがぁぁ!──でも、うっまーー」


 目を星にしたり、ハートにしたりと、昭和のアニメのように忙しい表情を浮かべたガキんちょに大満足の私。


 わーははは!

 あつあつのお揚げを顔につけるのは様式美なのだー。


 そして、うまかろう。

 これが貴様が、焼いたチハたんで作ったカップ麺の威力なのであーる!!





 こうして、燃える森を背景に、大破したチハたんで沸かしたお湯で、お腹を満たした私たちは、なんとかこうして首都に凱旋するのであった──。

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