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第38話「ここであったが百年目ェ」

 ──ギッェェエエエエエエエエン!



 大空を悠々と舞うドラゴン。

 奴が首都上空を遷移したかと思うと、それに呼応するようにして森の切れ目からゾロゾロ、ズシンズシンと現れたのは新手のベヒモスであった。


 (くだん)の災害指定種とやらが何体もだ。


 まさに歩く災害そのものだが、ここまで来たら災害の安売りと言わざるを得ない。

 つーか、災害なんとやらが数多すぎだろうー! と誰しも突っ込みたくもなるだろうさ。


 しかして、

 その歩く災害よりも厄介なのは当然──あれ(・・)だ。


『ギィェェェェェエエエエエン!!』


 ……御覧の通り、


 うるせーわ、

  空は飛ぶは、

   火は吐くは、

    硬いは、つぇーわ、うっとうしいわ……。


「つーーーーーーーか、あ~の時のクソドラゴンじゃねーーーーか!」


 なんてこった、探していた仇敵がこんなところに!


 こいつは僥倖!

 まさに天啓!


 ──そして、ここで会ったが百年目ぇぇえ!


「ついに見つけたぞ、クソトカゲぇ!」

 奴を見つけた(?)感動で打ち震えんばかりに笑みを浮かべる私。いっそ会心の笑みとすらいっていいだろう。


 しかして、周囲の反応はイマイチ(かんば)しくない。


「あわわわわ……な、なんてこった──」

「べ、ベヒモスだけでも手一杯だってのに」「ドラゴンもだってー?!」


 ドミトリさんも双子も武器を取り落としているし、いつも冷静なミルヒ君でさえ、へなへなとへたりこんでしまった。


 城壁の連中?


 なんか知らんけど、さっきまので歓声が嘘みたいに静まり返っているしー……。

 ま、連中はどーでもいいや。……石投げて来たし。


「つーか、皆して何をそんなに悲観的になってるんですか?」


 ──あんなん、たかが空飛ぶトカゲじゃーん。

 そんなことより、ついにチハたん新砲塔の威力が試せる機会がきたことを寿ごうじゃありませんか!


「は? 悲観的もなにも、ナガセだってもう限界だろ?! チハたんだって……」


 限界ぃ~?

 ……あぁ!


「大丈夫ですよ。ちょ~~~~っと故障気味だけど、動くし、問題ありませんって」


 ばんばんとチハたんを軽く叩く。


 そも、戦場では万全の体勢では戦えるとか、何を甘いこと言ってんだか。

 今あるもので最大限の成果を出す。

 ──それこそが兵士の役目!


 (※注:ガソスタ店員です)


「なので、行くよールル! 前方機関銃、弾倉交換っ、よろ!」

「りょー!」


 ──ガシャコッ!


 いいね!


 機銃に新しい弾倉を叩き込むルルに、グーッ! とサムズアーップ!

 そんでこっちは、主砲装填、弾種はもちろん徹甲だーん♪


「装てんよーしっ!」


 ガコーンッ!


「続けて、エンジン再始動!!」


 グォォォオオオン!

  グォォォオオオオン……ぼんっ!!


「…………おっしゃ。いけるいける!」


 なんか、ちょっと変な音がしたけど動けば上等ぉ──。


「──って、ちょぉぉおっと! アアアンタぁぁぁあ!!」


 わ!

 びっくりした!


「な、なんですか? 急にキェーって……」


 突然奇声をあげるなり、ドミトリさんが私を掴んでガックンガックン。


 あばばば……。

 揺らすな揺らすな。アンタは揺れるけど、私は揺れないのだー。


「キェーとは言ってない、キェーとは! ってそうじゃなくて、ななな、何考えてんだいアンタはぁぁ!」

「な、なにって、そりゃ対戦車戦闘ですけど?」


 それ以外になにかー……あ、そっか!


「対ドラゴン戦闘でしたっけ」


 てへ、間違えちゃったー♪


「そうそう。ドラゴンと戦う時は、対ドラゴン戦闘────って、そうじゃなーーーーーーい!」


 オーマイガッ! と頭を抱えたドミトリさんだけど、

 今はゴメン、ちょっと忙しいので後にしてほしい。


「いやいや、待て待て! アンタ、自分が何を言ってんのか分かってんのかい?! ドラゴンだよドラゴン!」

「はい、それが?」

「それが……って。あ、アンタ頭大丈夫かい?」


 頭って……。

 いやいや、ちょー失礼ですよ。


「私は見ての通り、超~正気ですよー。つーか、なんのためにチハたんを改良したと思ってんですかー」

「いやいやいや! 正気じゃない、正気じゃないよー!」

「いやいや、メッチャ正気ですよー。見てください、この曇りなき(まなこ)を!」


 じーっ。


「………………うん! 曇りなさ過ぎて逆に怖いよ! なんで、そんな目ぇキラッキラなのさー!」


 なんでって、

 そりゃぁ……ねー。


「チハたんを新砲塔にしたのも、それもこれも全部この時のためですよ?」


 あのクソトカゲの装甲をいかにして貫くか。それだけだ。


 ベヒモスなんて、あくまでもついでついでー。

 というわけで、


「エンジンぶんまわすよー!」


 グォォオーン!

  ……ぼぼーん!!


「おっけい!」

「ど、どわーっ! どこがおっけいなのさ! いいから、よしなって! 無理やり動かすからなんか、ぼぼーんッ! とかいってるじゃないか!」

「ナ、ナガセ、これ故障してんじゃねーのか!」「砲塔も動かないんじゃねーのかよ?!」 


「そもそも、ベヒモスはどーするんですかー?!」


 あーもう。


 うるさい、うるさい!!

 知~~~~~るかぁ!!


「そんなもん全部、まとめてやっちまえばいいんでしょー!」


 ベヒモスの増援がなんぼのもんじゃーい!

 そんなもん、全部排除だ排除。


「それよりもあの時のドラゴンですよ、ドラゴン!」


 あの野郎。

 調子に乗って、こーんなとこまで来やがって!


 だいだい、私のチハたんをボッコボコにするわ、

 スパ銭は破壊するわ、ぼーぼー燃やすわ……。


「あげく、ガソスタを爆破しといて、ただで済むと思ってんのかー!」


「「「「いや、ガソスタはお前ー!!」」」」


 あれ、そうだっけ?

 ……まぁ、細かいことはいいや。


「とにかく皆は退避しててー」

 マヂで危ないし。

「や、やめなって! 無茶するもんじゃないよ! お前はもう十分やったよ!」

「なーに、まだまだぁ!」


 十分だろうがなんだろうが、ドラゴンはあそこにいる!!

 そして、やんなきゃ、ヤられるのはこっちー!



 ──ギェェェェエエエエエエエエエエン!



「……それに、向こうはやる気満々っぽいですよ!」


 悠々と首都上空を旋回したかと思えば、

 ドラゴンの野郎が、ついに咆哮をあげて逆さ落とし気味に急降下をしかけてきたー!


「ほーら、来た来た来たぁっぁあ!」


 ゴゥ! 凄まじい風圧を伴い首都を低空襲撃ッ。


 あまりの速度と圧で、首都の家々の屋根がめくれ上がり、城壁上の兵器が巻き上がっていく!


 その恐怖に耐えかねた兵士たちが一斉に矢を放つが、ドラゴンはそんなものは完全に無視して突っ込んでくる!


 おかげで、キィンカァン! と耳障りな反跳音がここまで響いてくるほどだ……!


 だが、それは当然の話。

 そもそも、そんな矢が効けば苦労はない。


 なにせ、奴の装甲は旧砲塔チハの短砲身57mm砲を跳ね返すほど強固で頑丈なのだ。


 なので──……。

 ここは新砲塔チハの出番だー!


「すかさず、狙って狙ってー……」


 目標ほそーく!

 照準、よーーーし!


「向こうから近づいてくるので、ちょーどいいや!」


 照準器一杯に奴の巨体が映ったその瞬間を見計らって──……。


そこ(・・)だぁぁぁあああ!」


  バクンッ!


 狙いたがわず、ぶっ放される47mm砲!


 あのクソトカゲめ、一丁前に私を無視して横切りやがったな!

 そこは私のキルゾーンだぁぁー!


「って、あああー!」


 は、外れたー!


「じーざす!」

 ガン!


 思わず照準器を叩く私。

 さすがに航空目標にあてるのは難しいかー。


 ……だけど、まだまだぁ!


「次弾装填ッ!」


 弾種、

  目標、おなーじ!!


「狙って狙ってぇ……、今度こそぉ」


 ちょーっと、砲塔の動きが鈍いけど、なんとか照準し、


 そこ!!!


 ──バクンッッ!!


「ちぃ!!」


 また、外れた!

 やっぱり遠距離かつ飛行目標に戦車砲ってあてづらーい。


「だぁっぁああああ! 止めろヤメロ! 思いっきり外れてるよ!」


「やっべー! ごっぢみでるぞー!」

「ひぇぇぇぇええええ、きたー!!」


 目標にされるのを恐れたドミトリさんたちが悲鳴を上げるが、今更何を言っているのやら。


 ここはすでにバトルフィールドだ。


 どこもかしこも奴の索敵圏内。

 いまさら、逃げて隠れてどうにもなるまーい!


 ──それにほら、見ろ!


 あのクソトカゲ、一丁前にベヒモスに向かって──火ぃ噴きやがった!!


『『グルアァァアアアアア?!』』


 空に向かって一斉に威嚇するベヒモスであったがその前にブレスが着弾!

 ボンッ! と、森の切れ目がナパーム弾でも落としたかのように燃え上がった。


「ありゃ? 同士討ちかな?」


 その炎に炙られたベヒモスが驚いて悲鳴を上げているが──……つまり、これはチャーンス!


「いい感じに黒煙があがってるし、この隙に接近戦持ち込んでやる!」


 遠距離であたらないなら、近づくまでだよ。

 しかも、ドラゴンの野郎は低空襲撃のためか、森の切れ目でクルクル旋回してるし、近づけば当たるはず。……ちょっと、炎がヤバイけど──ま、いけるいける。


「ルルー、ハッチ閉塞ー!」

「してるー」


 おっけい!


「ならいくよ。全速前進ッ! 燃えてる森に向かって、とぉぉつげきぃ!」

「とつげきー♪」


 あの爆炎にまぎれて接近だぁっぁあ!


「どわぁぁああ! ナガセまじでやめろって、死ぬぞー!」

「だぁぁー! 誰か止めろー!」「くっそぉ、飛び乗れぇぇ!」


 ええ?!

 来るのー?


 なぜかドミトリさん達までどさくさ紛れでタンクデサント。

 正直、重量増加はよろしくないのだが……。


「んー。落ちないようにだけ、気をつけてくださいねー!」


 今となっては。乗員に気を遣って操縦するどころではない。


 なにせ、チハたんといえど、限界寸前なのだ。

 履帯が今にも切れそうな悲鳴を上げているし、

 エンジンに至っては咳き込むような異音をたてている。


「ま! あそこまで持てば十分十分!」


 そのまま耐久値の限界までぶんまわすと、

 爆炎に包まれる森まで一気に駆け抜け、燃え盛るベヒモスの群れを無視して、上空のドラゴンを睨ーむ!


「ここで逃がすとかありえねーし……!」



※ ※ ※



「──おらぁっぁああ!」


 死ねッ、

 クソトカゲがぁぁぁ!


 燃え盛る森に突撃した私とチハたん。

 視界は最悪だが、ドラゴンは非常に目立つので見失う恐れはない。


 実際、低空を飛ぶドラゴンはすぐに見つかった!


「そこぉ! 仰角いっぱーい……つづけて、バースト射撃ぃぃい!」


 てーい

  てーい

   てーい


 故障のせいでほとんど動かない砲塔に、

 エンジンは限界で前進もままならないが、森の樹冠付近を飛ぶドラゴン目掛けて、撃つ撃つ撃つ!



 ギェェェェエエエエエエエエン!!



 しかし、当たらない!


 ドラゴンの野郎は絶妙な角度で砲撃を潜り抜けると、そのついでとばかりに、ブレスを吹きやがる。


「あんの野郎ぉ、森をボーボー燃やしやがってー……!  煙幕のつもりかぃ!」


 おかげでなーんも、見えない──……。


『──グルァァァァアアアア!』


「ナガセ! 前ぇ!」

「ベヒモスだぁ!」「うひゃっぁあ!」


 ちぃ!!


「──鬱陶しいわぁぁあ!」


 てぇぇえ!!


  ボーン!!


 おまけにこの視界の中、突如出現するベヒモスにも対峙しなければならず、ドラゴンだけにかまけてもいられない。

 仕方なしに、なけなしの砲弾を発射。

 炎に巻かれて飛び出してきたベヒモスの横っ腹に、47mm砲を叩き込んで一撃で撃沈してやったわ!


 だけど、いまさらベヒモスとか、どーーーーーでもいいわぁっぁあ!


「つーか、てめぇらのための弾じゃねーんだよ!」


 そして、どこに行った。あのクソトカゲぇっぇえ!


 絶対、ぶっ殺ーす!


 主砲装填、

  弾種、てっこ──……いたぁぁあ!


「あはぁ♪ ついに、みーつけたぁぁあ!」


 上空にいるかと思いきや、なんと、あのクソトカゲめ!

 いつの間にか黒煙のなか、地上に降りて、ボーボー燃えている森の中でベヒモス相手に白兵戦を繰り広げてやがった。


『ギェェェェェェェエエン!』

『『グルァァァァァアアア!!』』


 まさに怪獣大決戦!


 そのくせに、

 ドラゴンの野郎。慣れない地上戦をしているせいか、手負いのベヒモス相手に苦戦してやがる。

 いっそ、ざまぁぁ!!……と言いたいところだが……。



 ──どけっ、クソ猪!



「そいつは私の獲物だぁぁ!」


 目標!

 くそベヒモス!!


「徹甲弾、バースト!──てーい!」

             てーい!

              てーい!!


『『グルォォォオオオオオ?!』』


 どーん、どーん、どーん!


 見事命中!


 ドラゴンと対峙し、こっちにケツを向けてるベヒモスなんぞ物の数ではないと、三点バーストでまとめて屠ってやったわ。


「ふーははははぁぁ!」


 ……そして、

 よ~~~~~うやくの、ご対面だぁ♪


「ついに見~つけたぞ、クソトカゲぇ!」


 ──あの時の恨み晴らさでおくべきかぁ!

 私のガソリンスタンドの値段は高くつくぞぉぉぉ!


 歪む視界が鬱陶しく、私は燃え盛る森の中でハッチを跳ね上げた。


 すると、いつぞやと同じように燃え盛る炎に巻かれる中、対峙するのは、私と一匹。


 一瞬、空気が硬直した気がするも、

 ベヒモスの死体を積み上げたのがこちらと知ると否や、茫然としているドラゴンにむけて、私なニヤァと笑顔を向けてやった。


「……さーて、これで邪魔はほとんどいなくなったねぇ!」


 周囲がゴーゴー燃えているが、もうどうでもいいわぁぁ。

 これもあの時と同じ、ちょうどいいリングだと思えば、火もまた涼し──

 

『ギ、ギェェェエエエエエン!?』

「やかましわぁぁあああああ!」


 なにが『ギェェェエン』だ、もう逃がさねぇぞ!


「これで年貢の納め時っ!」


 くらえ。


 主砲装填!

  弾種、徹甲だーーーーーーーん!!


「ナ、ナガセ、待て待て待てー!」

「アイツ、怪我してるぞ?!」「ベヒモスと敵対してたっぽいけど……」


 あーん……?


「そ、そうです! 一旦おちついて、ナガセさん! もしかすると──」


 はっ!!

 知ーるかぁぁぁぁあああ!


「じゃかましわッ! 敵の敵は、敵じゃぁぁぁあああああ!」


 なんで、敵に敵対したら味方だと思ってんだ、頭お花畑か!!


 んなことより、目標、正面!

   ──クソトカゲ!!


「死ね、おらぁぁあ!」

『グルァッァアアアアアア!』


 ……って、さっきから邪魔なんだよ、アホ猪がぁ!


 さっきのバースト射撃で仕留めそこなったベヒモスの残りが、横合いから突っ込んできやがったので、チュドーン! と、ドラゴンの鼻先で、横っ腹をつらぬいて撃破。


 ──しかし、しぶとくビクビクしてやがったので、前方機関銃で撃ちまくる!!


「ルルー! トドメぇぇぇ!」

「あーい!」


 ドダダッダダダダダダッ!


 おかげで、ビックンビックンと死のダンスを躍らせながら、その体を無造作に履帯(キャタピラ)で轢断してやったわー!

 ついでに、その血まみれになったチハたんでドラゴンの前に立ちはだかってみせる。


「わーははははははー!」


 きーたーぞー……!


『ギ、ギェッェエエエエエ……?!』

「ぎぇー……だねぇ♪」


 ふっはっはー!

 もう、逃がさねーぞぉ!


 なーんか、ベヒモスとやり合ったせいか、傷だらけになっているが、容赦はしない。


 こっちだって十分満身創痍だから、互角互角ぅ。


「なので、主砲、再そうてーん!」


 弾種はもちろん徹甲弾!

  目標は──当然、クソとかげぇぇええ!


「さぁぁあ! 覚悟しろぉ!」


 そのぉ、

 脳天んん、ぶち抜いたらぁぁ!


「照準!──トカゲの顔面っ!」


 ──ぶち撃てぇぇえ!



  バクンッ!



 発射の瞬間、あわてて飛び上がったドラゴンであったが、傷のせいでグラリと体勢を崩し、そのまま墜落。


 だが、おかげで狙いが逸れて、正面っ腹に直撃──……!


   チュバーーーーン!!


『ギェッェエエエエエエエン……!』

「ちぃぃ!」


 やはり正面は抜けないかー!


 悲鳴こそあがれど、命中からの撃破ならず!


 ズズゥゥン!

 しかして、至近距離からのチハ改の47mm砲は思いのほか強烈なパンチとなったようで、ドラゴンの野郎は無様に墜落しやがった──!


 ならば、今度こそぉぉぉ!!


「主砲、再々装填──弾種、徹甲弾っ!」


 目標脳天!

  近づいて、ゼロ距離でぶちこーむ!!


「ながせー、ひっかかってるー」

「へ?」


 引っかかってって……ジーザス!


「あー、ベヒモスの死体かぁぁあ!」


 なんてこった!

 ルルの声に視線を下に向ければ、さっき轢断したベヒモスの死体の毛だの肉片だのが履帯に絡みついて、身動きが──……!


「くっそー! やっちまったー!」


 まるでピアノ線にからめとられた戦車だ。


 実際、歴史上、戦車のキャタピラを破壊するための障害としてピアノ線を絡ませるなんてあったらしいけど、まさにそれ!


 しかも、考えて見れば絶大な装甲を持つベヒモスだ──その毛皮だって、重装甲には違いない!


 オマケに周囲が燃え盛る高温のせいでついにエンジンが限界。

 ぼーーんっ! と鈍い音をたてて、爆発停止してしまった。


「がぁぁ!! どいつもこいつもこのタイミングでぇ! でも、ここまで来たなら、あとは連射で仕留めーる!」


 チハ改の47mm砲は、前の短砲身57mmとは違って高初速!

 ゼロ距離でなくとも、連射すればいずれはドラゴンの装甲だって貫けるはず──……って、だからって、逃げんなッ!


「あーの野郎!」


 こっちの砲塔が故障してるのを見ていたのだろうか?

 無様に射程に逃れようと這いつくばってござる。

 ──だが、逃がさん!


「こーなったら白兵戦だよ!」


 ガシャキ!


 ハッチを跳ね上げると、燃え盛る森の中に身を乗り出した私は、砲塔上部にあるクッソ重い対空機関銃を手にして飛び降りる!


 奴が手負いなら、これでも十分だぁぁああ!


「おらぁっぁあああ!」

 突撃ぃ!!


 ──ガシャキッ!


「くらえ!」


 ドダダダダダダダダダッ!

  ドダダダダダダダダダッ!


 至近距離で逃げようとするドラゴンに向かって機関銃を乱射乱射乱射!!


 しかし、貫通弾なーし!


「ちぃぃ! やっぱ7.7mmの豆鉄砲じゃ無理かー」


 だが、ベヒモスと同じでおそらく弱点はある!


 例えば、

 ──目とか口とか鼻とかケツの穴ぁぁぁああああ!


「おーら、くたばれぇぇええ!」


 新しい弾倉を叩き込むと、

 ドダダダダダンッ! と、機関銃を腰だめに構えて至近距離で蠢くドラゴンに撃ちまくる!


『ギェェェッェエェエエエエエエエン!』

「うらぁぁぁあああああ!」


 ドダダダダダンッ! 

 ──凄まじい咆哮と蛮声と反跳音!


 だが、止まらない!

 止まってなるものかー!


「ナ、ナガセー! いい加減無茶苦茶すんなって!」


 そこにドミトリさんたちが割って入ってこようとするけど──邪魔ぁぁ!


「そっちこそ、跳弾して危ないから下がってて!」

「いやいや! アンタ死ぬよ! 周りはもう火の海だ!──げほっごほっ! は、早く逃げるよ」


 ばーか!

 奴を残して逃げられるかっての!


「大丈夫です。私、ガソスタ店員ですから!」きりりっ


(※注:関係ない!)


 だが、関係なくもないのだー。

 なぜなら、ガソスタのツナギはある程度の耐火性がほどこしてあーる!


(※注:限度があります)


「なので、もう少し──……!」


 だけど、弾、弾、弾ぁ!

 弾が全然たりなーい!


 くっそー、何か他にいい武器は──……。


「──あッ! そ、それぇ!!」


 いいのみーっけ!


「へ?! わ、ナガセさんなにを──」


 弾の威力が足りないなーっと思った時に、なんとミルヒ君がいい物(・・・)を持っているではないか!


「借りるよー」

「ちょわぁぁぁあ!」


 そうそう、これこれ!


 彼の背に二本にクロスしてあるのは、あの時使った刺突ばくら~~い(爆雷)


 ミルヒ君を逆さにして、無理やりそれを召し上げると、機関銃を振り落として、代わりに私は刺突爆雷を二手に構えると、姿勢を低くし──悠々とドラゴンを追い詰めていく。


「あはぁ♪ 最後はやっぱりこれだよねー!」


 そうとも、

 ドラゴンを仕留めるのはいつだって聖剣(刺突爆雷)だ。


 聖なる(ノイマン)効果で鱗を貫き、封印せしめるのだ────!!


「はっはー! もう、逃がさねぇぞー」」

『ギ、ギェェェエエエエエ……』


「うんうん、ぎぇぇぇ……だねぇ」


 わかるわかる。

 わかるよー……。


「……いや、わっかるわけねーだろうが!」


 こぉのクソトカゲがぁぁああ!

 そして、そこ(・・)──!!


「邪魔ぁぁあ!」

『グルァァァァアアアアアアアアアアアア…………ぁ!』


 ズドーーーーーン!!


 まだいたクソベヒモス。

 しかも、死んだふりをして隙を狙い、私に食らいついてきやがったので、その脳天に片手で刺突爆雷を叩き込んでやったわー!


「はっはー! バレバレなんだってーの」



  ずずーん……。



 使い切った刺突爆雷を放り捨てると、

 出オチで倒れ伏すベヒモスを振りあおぎもしない。


 どうやら、これでドラゴンの周囲に潜んでいたベヒモスは全て仕留めたはず。

 バースト射撃で3体くらい。

 ひき殺して一体。そして、今、最後の一体──……おーし、5匹全部ぅ。


「ぺっ」


 ざまぁないね。

 邪魔をするからこうなる。


 返り血を雑に拭うと私は微笑む。

 そうとも、微笑むともさぁ!


「あはぁ♪」


 残り、いっぴーき!


「あとは、アンタだけぇ……」


 あは、あははは!

 あはははははははははは!


「あーっはっはっはっはっはっは!」

 ついに仕留められる喜びに笑いがこみ上げる。

 そして、ラスイチの刺突爆雷を高々と掲げる!


 ──さぁて、そろそろ年貢の納め時ぃ!


「覚悟してよねぇ……」


 チハたんの悲しみぃ、

 スパ銭の仇ぃ!


「そして、ガソリンスタンドの恨みぃぃいいい!」


 いま、ここでー!!


「晴らしてやるぁぁぁああああ!」

 この刺突爆雷(エクスカリバー)でなぁぁぁあああ!

『ギェッェエエエエエエエエエエエエ!?』


 私の叫びによほど恐怖を感じたのか、巨体のドラゴンが最後の力を振り絞って逃げようとする。


 ズタズタの翼。

 ボロボロの皮膜。


 それ等全てを使って、燃え盛る森の上昇気流を掴んでぇっぇえ……!!


「逃ーがすかぁっぁあああ!」


 おらぁ!

 ガンッ! と、先ほど使い切った機関銃を蹴り上げ、片手に構えると、斜に構える。


 でも、弾切れだって?


 そんなわけないでしょー!


「ルルー!」

「ん!」


 チハたんで待機中のルルちゃんが、弾倉を投げ寄越す!

 それを空中でキャッチ──反動だけで九七式車載機関銃に叩き込むと、そのまま連射!


「落ちろぉぉぉぉおおおお!」


 ダダダダダダダッ!


 片手だけで撃つ機関銃が暴れる暴れる!

 だけど、それだけに威力は絶大で、満身創痍のドラゴンはついに墜落──そのまま、ズズンと地響きを起こしてまでも、まだズルズル這い逃げようとする。


 それを追い詰める! 追い詰める! 追い詰める!


「うーらぁっぁあああああ!」


 ダダダダダダダダダダダダダッ!!


『ギ、ギェェェエエエエ!』


 なにが、ぎえーじゃぁぁぁ!

 日本語喋れバーカ!!


「死ね、ごらっぁああ!」


 ダダダダダダッ!


 ガキーン! と弾切れ、だがこれは牽制と割り切り、すかさず銃を投げ捨てると、残る刺突爆雷を両手で保持して、あとは突撃ッ!!


「あああああああああああああああ!」


 トドメぇぇぇえええ!


『ギ、ギェエエ────……!』


 大きく目を見開いたドラゴン!

 そして、その脳天めがけて、奴の体を駆け上がった私が────……その一撃を叩き込まんとする!


「死ぃぃいーーねーーーー」


 だが、その瞬間!

 信じられないものを私は目にしてしまった!


 ──そう、信じられない!!

 信じたくないッッ!



『──ヤ、ヤメロォォォオオオオオオオオオオオオ!』



 ガヵッ!!


 刹那、まばゆい光が巻き起こったかと思うと、なんと、なんとぉぉー!!



 急速に収束していく光の先には、

 なんと真っ赤な髪をした、ほぼ全裸の少女がものすっごい涙目でこっちを見て命乞いをしているではないか。



 …………あーん?


「ガキんちょだぁあ???」



 ……オマケにヤメロとか言ってなかったか?

 しかして、最後の最後で奴の言葉を理解してしまった私──。


 そのうえ、ガキンチョを足蹴にしているという凄い構図にさすがに一瞬動きが止まってしまった。


 ……そう、止まってしまったんだけどー。


「うん、とりあえず殴っとこう!」



『あべしッ』



 いや、

 なんでぇ? みたいな顔しとったが知らんわ。


 だって、アンタ、

 絶対さっきのドラゴンでしょーが!




 私は女子供にも容赦しないのだー!!

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