第37話「刺突爆雷」
ずしーん、ずしーん、ずしーん!
『グルァァァァアアアアアアア!!』
「ひ、ひぇっぇええ……」
ビリビリと空気が震える。
私の身体も震える。
そして、目の前には、背後から回り込んできた最後のベヒモスがいるー。もちろん、無傷で超元気ぃ。
「あ、あははー」
こりゃー参ったわ。
私はすでに満身創痍で、頼みの綱のチハたんも大破寸前。回復の暇もないと来た。
しかも、最後のベヒモスはやる気満々。
気合十分だぜーってか?
「ま~さに絶体絶命だこりゃ……」
砲塔リングも歪んでるし、
今更、車体ごと旋回しても間に合わない。
一応、後方の機銃は使えるけど、7.7mmの豆鉄砲じゃ効くはずもなーい。
つまり、詰みだ。
負け、敗北。0て~ん。
「だけど、待って待って」
一旦待って!
とりあえず両手をあげるから、待って~。
「……え、えへへ。ま、まぁ、ちょっと落ち着こうぜベイベー」
ほらほら、降参してるよプリーズ。
ね、戦争は良くないし、
ここは穏便に話合いで──……。
『ゴルァァァアアアアアアアアアアアア!』
びりびりびり……。
「あ、はい」
さーせん。
飛んできた涎を拭きつつ、遠目の私ー。
(はー……、聞く耳もたねーってか?)
まぁ、そうだよね。
こっちは撃ちまくり―の、倒しまくりーので、倒しも倒したりーので、ベヒモスを4体もだもんねー。
そりゃ怒るわ。
「だけどさぁ……。ちょっとずるくなーい?」
こっちが満身創痍なのはともかくとしてさー。
「そっちなんて5匹じゃーん。私、チハたんしかないんですけどぉ?」
なにも全部が全部、フェアにしろとまでは言わないけどさー。
せめてこう……5対5くらいは?
「……なので、どう? 今からでも、正々堂々、5対5で──」
『グルァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!』
あーはいはい……。
聞いてらんないって感じですかー。
まぁ、いいよ。
「──どうせ、ただの時間稼ぎだしね!」
ニッ!
咆哮するベヒモスに向かって不敵に笑う私。
そして、叫ぶ。
「言ったでしょー……! 正々堂々──」
5対5ってねぇぇぇえ!
「今だよ、ドミトリさん!」
「おうよッ!!」
刹那、
私を叩き潰さんとしたベヒモスのすぐ真下で煌めく一閃!!
なんと、いつの間にか忍び寄っていたドミトリさんが飛翔し、強烈な一撃を真下からカチあげたのだ──!!
「うぉらああああああああああああああ!」
──ゾンッ!!
その瞬間、吹き上がる血飛沫!
なんと、あのドラゴンに匹敵する装甲を持もつとまで言われたベヒモスが、腹から鮮血を吹き出したのだ。
これにはさすがのベヒモスもたまらず悲鳴を上げる。
『グルォォォオオオオオオン……?!』
さらには激痛のあまりか、ズンン……! と、あのベヒモスが思わず背後にたたらを踏んでしまうほどだ。
おっほぉ……すっげぇー!
「はっはー! どーんなもんだい!」
唖然と見ている私に、空中でVサインを見せるドミトリさん。
たしかに剣先には鮮血が──……しかし、あの装甲を斬るとか一体どんなマジックなのだろうか?
「──アイツ、47mm砲弾を弾いたのに、なんでぇ?!」
剣のほうが砲より強いなんてありえるの?!
「なーに、大した手品じゃないさ」「そーそー」
言うや否や、ドミトリさんの背後にて射撃姿勢を取っていたのは、どっからか調達した巨大ボウガンを構えた双子であった。
そして、そのまますかさず発射!
ズドーン!
『グルァァァアアアーーーー?!』
「「よっしゃぁぁ!」」
なんと、それも見事命中。
さらには、下腹に浅~くはあるが突き刺さったボウガンからも鮮血がほとばしった。
あ、下腹部ってことは……。
「そうか! 弱点かー!」
「そういうことさ!」「全部が全部装甲じゃないぜー」
な~るほどー。
言われてみればそうか。
実際、顔面以外は47mm砲も通用したし、
目とか口なんかはどうみても粘膜だ。意外と急所だって多いんだろう。
「だけど、そこをピンポイントで狙うとか凄すぎますよ!」
「何言ってんだい。アンタが追い詰めたからだろっ!」
言い切るなり、ドミトリさんが猛攻を加えていく。
一度、引け腰になったベヒモスはその動きについていけずドンドン下がっていく!
じりじりと、
じりじりと──……。
「ま、それだけじゃ決め手に欠けるけど、ねッ!」
ドミトリさんが叫ぶなり、さらに強烈な一撃を放つ!
しかし、それをベヒモスが、「舐めんなッ」と言わんばかりに顔面で受け止めた。
ガキーーーーン!!
刹那、凄まじい火花が散り、ドミトリさんの剣がはじき返されてしまった。
サイズ感もあってか、吹っ飛ばされていく彼女に思わず目を覆いそうになるが、それはできない。
なぜなら、ドミトリさんは未だに不敵に笑っていたから。
双子達も何一つ心配していない。
そして……。
「あはっ! そんだけ下がらせれば十分さ!」
「ええ?! さ、下がらせるったって、それだけじゃどうにも──…………あ、まさか!」
私は、ハッと気づいた。
そういえば、ここにまだいないもう一人の存在。
『赤い旋風』の斥候にして、良識派──そして、私があの器材を預けた彼が……!
ドーーン!!
直後、ドミトリさんを押し返したベヒモスの足元が大爆発!
なんと、あの巨体が軽く浮き上がり、片足が吹っ飛んでいったではないか!
や、やっぱりー!
「対戦車地雷ですかー!」
「そーいうことさ!」
なーるほどぉ!
これが狙いだったのかー!
どうやら、工兵器材を預けた彼が完璧に仕事を仕上げたらしい。
「──だけど、まだまだだよ」
言うなり、
ベヒモスに吹っ飛ばされたドミトリさんが、ズザァァ! とその勢いを相殺するよう両足と片手で勢いを殺しつつ着地。
その姿勢のまま猫のように全身のばねを使って、一気に加速! まるで突撃兵のようにベヒモスに肉薄していく。
それはまるで特攻だ。
剣が正面から効かないのは知っているはずなのに、それでも突っ込もうというのだ。
そして、ベヒモスはといえば、片足を地雷で吹っ飛ばされたとはいえ未だ健在。
その剣呑さはいささかも失われてはいない。
…………だのに突っ込む?!
無茶だ!!
「無茶なもんかい!」
そう言うなり、ドミトリさんは大剣を肩にし────……振りかぶった!
な、何の真似だろう?!
「空振り?!」
あの距離では全然届かないし、そもそもあのまま切りつけてもベヒモスの正面は貫けないはず……。
「おいおいっ! このアタシを誰だと思ってんだい? そして、なんのためのパーティだと思ってるんだい?」
ニヤリと不敵に笑うドミトリさん。
すると、なんと剣の先端には、なにかの黒い影が──あ、ああー……まさか!
「ミ、ミルヒ君?!」
そんなところに?!
なんと!
いつの間にかドミトリさんの大剣の先端にはミルヒ君がしがみついていた。
そして、
「いけっ! ミルヒぃぃい」
「行きますッ!」
言うが早いか、踏み切ったドミトリさんの大剣が轟音とともに振り抜かれる!
刹那ッ、地面が風圧で左右に分かれ剣の軌跡を描く!
そして、その圧に乗って飛びすさるのは、重量物をこれでもかと構えたミルヒ君だった!
──そのまま叫ぶ、君よ!
「──ぅぉぁぁぁぁぁあああああああ!」
彼は、顔中を泥だらけにし、
そこら中に対戦車地雷を仕掛けるという完璧な仕事をしたあとで──さらにさらに、最後の総仕上げに取り掛かっていたのだ!
それも、必殺必中の武器を携えて、
ドミトリさんという二段ロケットを得て!
──そのままトドメの一撃を決めんとするーッ!!
『グルァァァァァッァアアアアアアアアアアアア!』
それに気づいたベヒモスが、片足負傷の激痛にも構わず迎え撃とうとする。
しかして、それを見越していたミルヒ君は、空中で身体をひねると、その一撃をいなし、その勢いをもって──スパァッァア!! と、背にしていた槍のようなものを抜き出した!
……そして、それをぉぉぉ……!
「だりゃっぁぁあああああ!!」
気合とともに、見事に突き刺したー!!
──刹那!
「ぶっとべ、猪野郎!」
空中で飛びのき退避したミルヒ君が、ニヒルに笑うと親指を逆さにして地獄に落ちろと強烈にアピール。
直後、
──ズドォォォオオオン!!
なんと、宣言通りにブッ射した槍が大爆発!
どうみてもベヒモスの正面装甲を貫けるはずもないのに「槍」が大爆発──……いや、違う!!
「あ、あれはーっ!」
そうか、なんてこった。あれはただの槍じゃない!
「槍」なものか!
「槍」にあらず!
「──あ、あれは『刺突爆雷』かぁぁぁあ?!」
そう。
私が叫び、ミルヒ君が手にしていたのは、槍ではなく、日本軍の対戦車兵器──「刺突爆雷」であった。
その名の通り、刺突する爆雷。
ほぼ自爆特攻兵器にして、棒の先端に成形炸薬弾をとりつけただけの、爆弾つきの槍であったー!
だが、それだけに当たればまさに必殺必中ッ!
ベヒモスだって一撃だっぁあああ!
『グルルァァァァァッァァアアン……』
事実、
そのまま、ズズズーーン! と倒れていくベヒモス。
頭部にはなんと大穴が開いているではないか。
……何ちゅう威力だよ。
「──いぇーい、どーんなもんですかぁぁ!」
あとは、その倒れるベヒモスを背景に、
珍しくハイテンションにミルヒ君が空中でピースサインを決めている。
「ひゅー、かっこいー!」
なので、私もそれに投げキッスで答える
だってマヂかっこいいしー。
あとは勝利だ。
完全勝利!
そして、勝鬨だーーー。
一部始終を見届けていたのか、ドミトリさんたちは勿論のこと、今まで戦いを見守っていた城壁のほうでも歓声が上がった!
わぁぁぁぁああああ!
わぁっぁああああああ!
歓呼三唱!
歓喜歓喜、大歓声だ!
なにせ、あの最後のベヒモスを見事討伐したのだ。
軍隊が集まってできなかった敵を全て撃破。そーりゃ歓声だって起きもするさー。
それに答えるように、双子どもがやんややんやと声援を上げて諸手を上げている。
しりもちをついたミルヒ君もグーを上げているし、ドミトリさんなんか、どっかでみたような大剣をグルグルまわして、背中にするパフォーマンスを見せている。
私は──……とりあえずダブルピース、いぇー♪
しっかし、首都の連中めー。
調子がいいんだから、まったくー。
「さっきは投石器撃ってきたくせに……」
──まいっか。
つーか、私ももっとアピールしとこー。手柄は誇ってナンボだぜー。
とりあえず城壁から投石器でブチ撃たれたことはとりあえず置いといてやるから、あとで報酬がっぽり頼むぜ、ベイベー。
「はっはっは! やったな、ナガセ!」
「はいー! これで報酬ががっぽがっぽですねー」
ぱちーん! と二人でハイタッチ。
これなら名声アップアップで、
ルルちゃんも受け入れて貰えて、孤児院に預けてハッピーエンド──────……って、パターンですよね?! 普通なら!
「「「つまり、大勝利ー!」」」
いえーーーーーーーーい♪
その後は、全員でもろ手を挙げて勝利を祝おうと決めたまさにその時であった。
『──ギェェェェエエエエエエエエエエエエエエン!』
突如、首都の大空に響くのは、あの咆哮──。
そう。
それは、な~んかどっかで聞いたことのあるあの咆哮だった。
……そいつが、ビリビリと歓声に沸く首都全体を揺るがしたかともうと、
それに呼応するようにして森の切れ目からも咆哮に負けず劣らずの大行進が響き渡る!!
──それも複数が、
ズシーン、ズシーンと地震のごとく!
「お、おいおいおいおい……」
それはまさに絶望の光景だった。
さっきまでは歓喜に沸いていたドミトリさんでさえ、大剣をぽろりと落としてわななくほど。
首都だって一瞬にして静まり返っているし──……。
双子もミルヒ君も口をあけたま、完全硬直。
そりゃそうだろう。
満身創痍。かろうじて撃退し、ようやくの勝利を掴んだところに、これだ。
高空からは災害指定種クラス。
大地からも災害指定種。
どっちも最恐にして最凶。まさに最強の空陸一体。
……し、しかも、その数たるやッッ!
「おいおいおいおいおーーーーい……ここに来て増援かい?!」
「ひ、ひーふーみー……」「い、いいっぱいだー!」
アホな双子ですら数えるのを放棄するほど!
ざっと数えて5匹のお替りベヒモス!
それだけでなく、上空にはあの、あの、あの、あの──────あの、ドラゴーーーーーーーン!
……なんてこった。
首都全攻防線は未だ終わらず。
いや、いっそさっきまでのはただの前哨戦に過ぎず。
ここからが本番と言わんばかりに、ドラゴンを加えての大戦争が今始まろうとしていた。
……否。
──始まるはずもない。
これから始まるのは、おそらくは戦争ですらなく、ただの虐殺。
そう。
首都を蹂躙し、
大地を焼き滅ぼし、
人類を皆殺しにせんとする終幕!
そして全ての人々が絶望し、
それをみて全てを諦め、空に大地に、何かに縋るしかないその最悪の光景を前にして────────……私は笑っていた。
そう。
笑うでしょ、
こんなん笑うしかないでしょーーーーーーーーーーーーー!!
あーーーーっはっはっはっはっはっはっは!!
「──み~~~~つけたぁっぁああああ♪」




