第36話「首都前攻防戦」
「くっそー! 災害指定種舐めてたわ!」
さすがに真正面からは無理か!
二体目は顔面中央を避けてブチ倒したけど、
学習した連中は、あのデカい顔の正面で受け止めるように機動するだろう。
正面装甲は貫けないと見抜かれてしまったわけだ。
「……でも、完全に無敵ってわけじゃ〜ない!」
そうとも、あの時のドラゴンみたいに主砲が全く効かないわけじゃない!
だったらー……!
「当たって貫ける箇所を狙うのーみ!」
正面だって完全に装甲化されてるわけじゃない。
少なくとも、頭頂部以外の正面のどこか。
あとは、首筋、肩口、顎下とかなんとかー!
「……それと背面と側面か!」
ケツとか腹とか、そーいうなんかの柔らかそうなとこなら通用するのは確認済み。
「そんだけ分かれば上等ぉ! こっちはまだまだ機動力では負けてないからね」
そうとも。
まだ焦るときじゃない。
……まだまだ十分勝てる戦いだよ!
「つまり、この勝負……油断した方が負けってこと!」
いいねいいねー。
おもしろくなってきた。
戦車と魔物の戦いはこうでなくっちゃ。
ようは、パンチとパンチとパンチの勝負ってわけか。
「そっちは装甲、こっちは火力!」
──機動力はほぼ互角!
そして、ほぼ互角の戦力なら、数で勝るほうが勝つってねー!
「なので、一体ずつ削らせてもらうよ!」
チハたん、停止!!
「しかるに戦術機動ッ! 戦車ぁぁ……後退!!」
クラッチ切り替え、
変速レバー後進いっぱーい!
「続けて、バックギアおーん!!」
ガギン、ガギンッ!
戦車の奥でギアが重々しく鳴り響く!
あとは、クラッチを繋いでぇぇえ……!
「いけっ! アクセルマックス──チハたん、後進いっぱーーーーーーーーい!!」
キュロ、キュロキュロ!!
「よぉーし、下ぁーーーがれぇぇええ!」
こうして、鈍く、重々しくチハたんが後退していく!
その速度は前進速度の38km/hとは比べ物にならないほど遅い。遅いよ、遅すぎる!
チハたんの後進は、人が早歩きする程度の速度しか出せないのだ──……つまり、機動力なんてないに等しい。
「──だが、それでよし!!」
当然、ベヒモスは一瞬戸惑う。
さっきまでキビキビと機動していたチハたんがノロノロと動き出したのだ。
なので、何をしているんだと顔を見合わせる。
……しかして、次の瞬間に猛る!
吠える。
奔る!
『『『グルァァッァアアアア!』』』
舐めんなと、怒り狂う!!
──びりびりびりっ!
「ひゅー♪ 思った通り、集まってくれたね」
荒々しく咆哮し、3体のベヒモスが示し合わせたように、一気に突進!
そのまま、生意気で小癪なチハたんを圧倒的な質量と突撃機動で、踏みつぶさんばかりに迫りくるー。
「あはっ♪ くる、くる、くるッ!」
その圧力たるやすさまじい。
まるで壁のように迫るそれに、普通なら冷静ではいられないだろう──なにせ5、6m級の化け物が横に3体並んでの同時突撃だから、当然だ。
そして、そのまま、互いに自慢の角でチハたんを貫こうと迫るベヒモスに、私のチハたんはあまりにも脆弱にみえた。
そして、あわや、そのまま牙の餌食になるのではと思われたのだが──……それこそが狙い目ッ!
ふふっ。
「ばーか。そう来るのを待ってたんだよ!」
猪突猛進、まさに猪!
のろのろと挑発したら、3体同時に突っ込んでくると思ったよ。
しかし、それこそを待っていた。
「へっへっへー。そんなひと塊できたらさぁぁ……!」
グシャァッァア!!
『『『ゴ、ゴルォォア?!』』』
とたんに悲鳴があがり、
ついに互いにぶつかり、ミチミチと身を寄せあうように突っ込むベヒモスが3体もつれ合うー!
「そら、そうなるわなぁ!!」
あっはー!
見ぃたか!!
「それを待ってたんだよ! そもそも、そーんな、まとめて突っ込んできたら、そりゃ最終突撃地点は先細りするに決まってるでしょ!」
こっちは一台。
むこうは3匹。
しかも、どいつもこいつも5、6m級の巨体だ。
そんなのが一気にチハたんを正面から破砕しようとしたんだから当然の帰結だよ。
「そして、死ね!!……この私、そしてチハたんがそんな隙を見逃すわけないでしょ!!」
目標、正面!
──ベヒモスDぃぃい!
「主砲装填ッ! 弾種、徹甲だーん」
あとは狙って狙ってー……そこぉ!!
「ってぇ!!」
ドゥン!!
照準と同時に、発砲!
腹に響くような重低音とともに、まっすぐに飛翔する砲弾が、真ん中のベヒモスに命中!
バッキーーーーーーーン!
……跳弾!
右と左はとりあえず無視して、まずは確実に一体を狙うも、もちろん正面ゆえに砲弾は当然弾かれたー。
……だが、それでいい!
左右を他のベヒモスに挟まれた野郎はその直撃の衝撃で顔はのけぞり、無防備な首元が明らかとなる!
「あはっ! それそれ! それそれを狙っていたんだよ!」
跳弾の衝撃に一瞬朦朧としていたベヒモスであったが、自身の姿に気付いてあわてて顔を防御位置に戻そうとするが、そこはそれ。
なんと、左右からの圧迫のせいで無防備な喉が晒されたまま、すぐには戻れない。
そこを撃つ!
狙いをすませて流し撃つ──……!
「死ね、ばーか!」
次弾装填!
弾種、目標──ともにおなーじ!
「ファイア!」
──バゥン!!
『グルォオオオオオオオオオオー……ン?!』
刹那、
駆け抜けた砲弾が、無防備に晒された喉に命中!
チュバーン! と直撃の爆炎が上がり、そのまま喉骨を伝って心臓に達して、一気に爆裂……絶命させた!
「っしゃぁぁあああ!」
3体目撃破ぁ!
ズズンと奴が倒れ伏すが──……そして、もう限界だっ。
「ルル! すぐに残りの奴等が来るよ!……左右に牽制射撃ぃぃい!」
「りょー!」
ダダダン、ダダダン!
ルルの操る前方機銃が左右のベヒモスを順繰りに掃射し、一瞬の隙を作る!
その隙に私は、ギアを変更、今度は再びの前進へ変速──……そして、一気にクラッチミート!
操行レバー、インストーーール!!
「いっっっけぇぇぇえええ! 前進!」
エンジン全開ッ!
速力最大、今度はパワーフルマッァァクス!
グォォオオオン!!
そして、後退からの前進と目まぐるしい操作にエンジンが悲鳴を上げる。
だが、それにも構わず、私は爆速で速力を最大にあげると一気に突っ込む!
……そして、さらに突っ込む、
めっちゃくちゃ突っ込む!
とにかく突っ込む!!
撃破したベヒモスに向って、
それを無視して向かってくる二匹のベヒモスに向かって……、
「突っ込むぞぉ──ぉぉぉおおおおおおおお!」
いぃぃっけぇ!
チハたーん!!
相対速度であっという間に距離はつまり、もはや激突必須!
躱す時間もなく、あとは正面からぶつかるしかない!!──…………まさにその隙間!!
「ここぉ!!」
ゴカンッ!
なんと、チハたんがブッ倒したベヒモスの死体に乗り上げると、そのまま駆け抜けていく。
そう、死体のスロープだ!!
否ッ、これは発車台だ!!
なので、それを滑走距離と見立ててぇぇええ……走り抜けろッ!
ゴガガガガガ、
ズガーーーーン!
凸凹する死体の背のため車体が激しく揺れるも、
おかげでベヒモス二体の攻撃をいなすと同時に距離を稼ぐ。
さらには、そのまま死体を駆け抜けると、ついに背中の向こうの景色が見える。
「あはっ!」
見えた!!
死地に見出す、快晴の空!
そして、そこに向かってぇぇ────……跳べぇっ!
「チハたん、ジャーーーーーーンプ!」
ばぅん♪
……なんと、チハたんが飛んだ。
数秒の浮遊感のあと、マヂで飛んだ。
しかして、すぐに激しい衝撃音!
ドガッシャーーーーーーン?
「あだーーーーーーーー!」
聞いたこともないような破砕音が響いて、チハたんが落着し、何度も跳ねる。
そして、私のお尻も跳ねるわ跳ねる!
「あべ、あぎ、あがー!!」
い、いってー!
お尻をめちゃくちゃ強打しちまったい。
こ、これは変な痔になるかも──……。
だけど、「あは、あははー♪」とルルは楽しそう。
ひゅー。
この子、大物だわー!
「……っと、それよりも!! ど、どうだー! テメェらの攻撃を掻い潜ってやったぜー!」
ハッチを跳ね上げ砲塔から顔を出すと、背後でチハたんを見失ったベヒモス二体に向け、ファッ〇ユー!
そして見ぃたか!
空を飛べるんだよ、私の九七式中戦車改、チハたんはなー!!
「あーっはっはっはっはー!!」
これぞ起死回生の一手、
そしてフライングチハたんの実力だぜぃ!!
……まぁ、十数トンの鉄の塊が無茶苦茶な機動でジャンプして、着地──もとい墜落したので、損傷も半端ないけどねー!
「……って、あれれ?!」
プシュ〜。
あ、これ、マジで損傷がヤバいかもー。
なんか反撃をしようと思ったけど、コントローラーごしに見えるチハたんから黒煙が吹き出している。
さらには、ステータスで確認してみても、なんかの損傷率がドンビクくらい、やばーい!!
「むしろ、車体が無事なのが不思議なくらいだわ……」
いや、まぁそりゃそうなんだけどな!
「くっそー! やりすぎたかも……!!」
千載一遇のチャンスがー!
間抜けなベヒモスは、いまも無防備な背中を晒しているし、
そこを撃てば勝負は決したようなものだが、なんとここに至り、チハたん絶賛大破寸前。
おまけに損傷が限界突破し、モクモクとエンジンから煙がでてるし、それどころか砲塔の動きまでもがぁ……!
ゴ、ギギギギ……!
「あ、あわわわっ! 動け、うごけー!」
コントローラー操作!
砲塔180回頭、回頭!
回頭ぉぉぉおお!!
ベヒモスを狙えぇぇぇぇえ………………。
「………………あ、駄目だこれ!」
砲が動かないってことは、
砲塔リングが歪んだかもー。
「……げげーっ!」
ってことは、やばいじゃん!
(こ、これはまずいぞー)
なんとかして奴等の後ろをとったので、
なんとしても後ろ向きに砲を向けたいが……、
なんか全然動かなーい!
辛うじて、ゴキキキといやな音と主に回っているけど、このままじゃ無理かもー!
「くっそー!」
──ばんっ!
とりあえず45度でチョップしたら動くなんてこともなく、
ならばと、戦車の車体ごと信地旋回し、砲を向けようと試みるが、ベヒモスだっていつまでも無防備な背中を晒すはずもない。
むしろ、すぐにでもこちらに向き直るとそのまま再度突撃姿勢に移行する。
「うひーっ! もう、ごっぢ向いでるー!」
ひーん!
まずい。
これ、ギリギリ間に合わないかもー!
砲塔はもちろん、車体もボコボコだ。
のろのろ動いて、なかなか正面に向き直れなーい!
「あーん!! せ、せっかくいい感じで攻撃躱したのに、こんなのってありー?!」
3匹倒して、
後ろもとってー……あとは撃つだけじゃん!!
「だのに──……だあぁぁあ、き、来たぁぁぁ!」
『グルァァァアアアアア!』
『グルァァァアアアアアア!』
ひぇぇえ!
しかも、今度は前後に分かれやがった!
どうやら、さっきの衝突で懲りたらしいが……判断がはやーい!
なんと適度に距離を置いて、一気に前後からチハたんを狙う構えだ。
つまり、挟撃するってこと?!
(ま、まずい。これじゃ、どうやっても一体しか狙えない……倒せない!)
ならば……!
「……せ、せめて一体は確実にしとめーる!」
二兎追うものは一兎も得ず。
今はまず、正面の一体を仕留めることに専念し、もう一体は忘れろッ。
そして、
女は度胸! 女は愛嬌! 女は薬莢を排莢じゃぁぁあ!
「主砲、準備ッ!」
ガコーン!
半自動装てんの47mm主砲から、撃ちがら薬莢が排出──車内に転がりでる!
そして、まずは優先順位をつけて……!
「そう、正面のお前からだぁぁぁあ!」
『グルァァァアア!』
「こいやぁぁああ!」
挟撃されて、
どう考えても絶体絶命。
二体の災害指定種に前後を抑えられた状況は、いくら新砲塔チハといえど、どうやっても100%の破滅しかみえない。
……だからって、二匹相手に降参してもしょうがない。
逃げる道だってない。
ないないない。
ないない尽く。
「ないんだったら、少しでもありに賭けるしかないでしょー!」
とりあえず、正面のコイツに集中だ!
ギリギリで車体ごと砲を向けてなんとか照準すると、奴と向き合う。
するとまぁ、なんということとでしょうー。
「……あはっ! アンタぁ、よっぽど新砲塔のチハたんが怖いんだねー」
どうやら、3匹ともが呆気なく砲撃でやられたのをみて、コイツはこんなデッカイなりをしてビビり散らかしているらしい。
まさか自分に向いてくると思わなかったのか、
ビクリと震えると、自分の弱点を決して晒さないように、顔を低く低く低く……そして、決して弱点を晒さないように身体を小さくして、信頼できる最大装甲を前にしてこちらを睨み据えて来た。
「……上等ぉ!」
それでも逃げない勇気は評してやるよ。
そして、よっぽど正面装甲に自信があるらしい。
……ならば結構、それで結構。
正面の装甲が抜けないなら……! 抜かないまでよ!!
「主砲装填、」
弾種、榴弾!
「正面の装甲が抜けないならさぁ……」
すぅぅぅ、
逸らしてやればいいんだよ!!
『グルァァァアアアアア!』
「ってぇぇええええええ!」
ドゥン!
奴の突撃と、チハたんの主砲発射がシンクロする!
そして、刹那の時を経て──火を噴くチハたんの長砲身47mmから、高初速で放たれた「一式榴弾」が飛翔する!
……そう、榴弾だ。
徹甲弾ではなく榴弾ッ!
榴弾とは文字通り爆発するための砲弾で、徹甲弾と違って貫通力は著しく低い弾である。
そんなのを今撃つ?
今使う?
もしかして間違えたのかって??
「あははーっ! そんなわけないでしょ!」
言い切るや否や、突進してくるベヒモスに向かって飛ぶ榴弾が、
なんとベヒモスを大きく外れ、奴の手前に落着──次の瞬間、猛烈に爆発した。
チュドーーーーン!!
『グォォオオオオオオオオ?!』
刹那!
突撃を敢行してきたベヒモスの鼻先──……否ッ顎下で猛烈な爆発が起こった!!
それはあたかも、爆発によるアッパーカッーーーート!
当然、吹き上がる爆炎!
当然、舞い上がる土煙。
そして、当然爆風をまともに爆風を下から食らったベヒモスは、顔をのけぞらせる──……そこだっぁあ!
「次弾装填!!」
弾種、徹甲ぉ!
『グルォォオオオ……?!』
叫ぶベヒモス!
その無防備な顎下。
柔らかな首筋──そして、その先の心の臓!
あははっ。
どーだぁ!
(馬鹿の一つ覚えのように、正面でガードするならさー……)
──真下からアッパーのような爆撃を食らわせてやればいいんだよ!
「そしてぇっぇえ、」
ガードが上がったなら、
すかさずストレートを叩き込むんだよぉぉ!
「ってぇぇええ!」
──バゥン!
真っ赤に燃える一式徹甲弾が一瞬で空間を航過し、見事命中!
狙いすまして首筋に当たったそれは、喉骨を砕いてそのまま心臓に向かって貫き……炸裂ッ!
チュバーーーーーーン!!
『グモォォオオオオオ……ンッ!』
「──おっしゃぁぁぁああああ!」
思わずガッツポーズ!
断末魔とともに崩れ落ちるベヒモスを見送る!
「はーっはっはっ!……勝った勝ったぁ!」
こうして、なんとかギリギリのところで見事4体目のベヒモスを撃破した私は、
血だまりに沈むベヒモスをみて、ようやく勝利をかみしめて額の汗をぬぐうのであった。
「いやー……マ~ヂで瀬戸際ぁ」
チハたんと一緒に死ぬ寸前だったわー……。
ふぅ、やれやれ。
ずしーん、ずしーん、ずしーん。
「……ま、あと一体いるんですけどねぇ」
『ゴルルルル……』
あ、あはははー。
こりゃどうしようもねぇと、もう笑うしかなくなった私。
とりあえず、完全に背後に回り込んだベヒモスを見てニコリと笑顔をうかべたまま、両手をあげるのであった。




