第34話「新砲塔チハ」
──グォォォオオオン!!
チハ改が咆哮を上げ、
潜伏していた森の切れ目から飛び出した私たち一行。
その編成は、新砲塔に換装したチハ改を先頭に、砲塔にはドミトリさんが跨乗し、
牽引しているトレーラーには、ミルヒ君たち男どもが乗り込んでいる。
おかげでさすがのチハたんも速度が出せないが、重いし狭いし、砲塔も新型だからここは、仕方がない。
しかし、その分、牽引しているトレーラーには様々な器材がギ~~ッシリと積み込まれていた。
それがこれ!
──ジャジャ〜ン♪
なんと、チハの改造オプションを選ぶときに気づいたんだけど、ステータスで呼び出した時に新オプションが追加されていたのだー。
──その名も工兵器材!!
ブーン……。
◇ ◇ ◇
スキル:【せんしゃ】
能 力:任意の場所に召喚可能。
世界中のありとあらゆる『せんしゃ』(※)が選択できる。
戦 車:九七式中戦車
『改造オプション』
追加装甲Lv1: 5ポイント
補助装甲Lv1: 5ポイント
増槽50L : 5ポイント
土嚢 : 2ポイント
鉄条網 : 3ポイント
対空機関銃 : 購入済み
煙幕発射器 :15ポイント
排土板 : 3ポイント
拳銃穴 : 2ポイント
新型砲塔Lv1: 購入済み
新型砲塔Lv2:65ポイント
暗視装置 :15ポイント
アンテナ強化 :10ポイント
牽引トレーラー: 購入済み
(追加)工兵器材: 購入済み ←これだよ~♪
備 考:(※)表記はカタログあり。
◇ ◇ ◇
ようするに、追加オプションってやつみたい。
どうやら、元々この牽引式トレーラーというのは、それら工兵部隊用の資材を積み込む機材だったらしく、その延長なんだろうね。
中身は、
「刺突爆雷」やら「梱包爆薬」やら、「九九式破壊筒」に「九三式対戦車地雷」を含む各種地雷に「百式火炎放射器」まで!
そのほかにもTNTやら「九九式破甲爆雷」やらと、細々とした工兵用の資材がつまれており、足の踏み場もないほどだ。
──ま、そのおかげでトレーラーがすっごく狭くなってたけどね!
だから、色々おっきなドミトリさんはこっちに来てもらった、
もちろん、街に近づいたときの敵味方の識別も兼ねてもらっている。
なにせこっちは向こうからしたら得体のしれない戦車だからねー。ここは有名どころのAランクパーティ『赤い旋風』に旗頭になってもらおうってわけです。
「なんたって、首都の人々からしたら、戦車は驚きの異世界テクノロジーだもんね」
「……いや、異世界テクノロジーが何のなのか知らないけど、なんでこんなに近づくんだい? アンタなら遠くからでも撃てるんじゃ」
「いやいや、そりゃ撃てますけど、無理ですよドミトリさん。……奴等が城壁に近すぎます」
「あ、そういうことかい」
うん! そーいうこと!
──グルァァァアア!!
「ほら! そんでもって、アイツ等めっちゃ動いてますからねー」
ずしーん、どかーん!
「……あー。近いって言うか、体当たりしてるわな」
「ですです。なので、的を外したら大惨事ですよ」
味方撃ちとか笑い話にもならない。
「なるほど。たしかに、こりゃ危険だ。誤射もそうだけど、戦車砲を遠くからぶっぱなして、外しでもしたら目も当てられないね」
そういうことです。
まー……外す気はないんですけどね。ただ、貫通してもヤバいってわけです。
「なので、せっかくの新砲塔ですけど、ここは接近戦しかないです」
そして、そのためのタンクデサントだ。
味方識別のことももちろんあるけど、一番は、敵の懐に入ってからの白兵戦だ。
たしかにチハたんは小回りも聞くし、早いんだけど、なにせ一台しかない。四方八方から連中に畳みかけられるとさすがにねー。
「つっても、接近戦たって……ベヒモス相手にアタシらだってできることはそんなにないよ?」
「いえいえー。連中を攪乱してくれるだけで十分ですよ」
トドメは私が刺せばいいんだし、
オークジェネラルと立体的な機動っぽい戦いをしていたドミトリさんなら、できるできる!!
「う、うーん。まぁ、元々そのつもりだったけど、アンタの足を引っ張らないかが心配だねぇ」
「それはお互い様ですよー」
こっちは素人、
ドミトリさんは火力不足。
──まさにお互い様だ。
「わかった。そう言うことなら任せな!」
「はい、期待してます──……って、うわ!!」
──な、なに?!
ヒューン! と何が頭上を横切り、
陽光を遮る何かが暗い影を落としたことに気付いて反射的に首をすくめる。
「え? え? な、なんか、いま飛んできませんでした?!」
「あ、ああ。こ、これは──……ヤ、ヤバい! ナガセ、ストップ、ストーップ!」
え? こ、ここでぇ?!
「いいから──!」
「りょ、了解!!」
ギギー!!
爆走していたチハたんがつんのめる様にして、停止!
トレーラーとの連結が軋み、尺取虫のように歪む。
「いってー!」「なんて運転してんだ!」
ご、ごめんって!
「なんかドミトリさんが──……って、ぎゃあああ!」
直後、
でっかい石が飛んできて落着ー!!
ズドーーーン!!
「ひ、ひぇぇえ……。ででで、でっかー!!」
──な、なにこれ?
まさに眼前。
地面に落ちた衝撃でバラバラになっているのは巨大な岩石であった。
そいつ衝撃で破裂して、チハたんの装甲にあたりカンカンッと耳障りな反跳音を立てているけど──こ、これってー……なに?
「ちぃ! こいつぁ投石機だよ──首都の馬鹿野郎ども、こっちを敵と勘違いしてやがる!」
「はぁ!? て、敵ってそんな……!」
なんのためにドミトリさんを乗せてる思ってんのよー!……って、また来たぁ!
ひゅるるるるる……!
「くそがっ」!
巨岩の飛翔音もさることながら。
ドミトリさんは、口汚く罵るや否や、私が悲鳴を上げるほど驚いた上空の巨岩に向かって、一挙動で一閃!
「──ぅおらっぁあああ!」
ぱっかーん!!
そして、なんとそのまま切り裂いたー!
「ひゅ、ひゅ~♪」
かっけぇー!
「馬鹿ッ! 見とれてないで──前進、前進、前進ッ! 今のは観測射だよ! まだまだ来るから、なるべく急ぐんだ!?」
「い、急ぐったって……」
「いいから!! ここは艦砲のキルゾーンだ! とにかく、なるべくマッハで、遮二無二城壁まで近づいて射程外に逃れんだよーー!」
え、ええー?!
さっき止まれっていったじゃーん!
「っていうか、射程外って……いま、その城壁から攻撃されませんでした?!」
近づくほど危険なんじゃ?
「大丈夫! 投石器の死角に入れば問題ないよ!」
「あ、あぁ、なるほど!」
投石器は放物線を描いてとぶ──。
つまり、近いほど狙いにくく、真下に来ればそもそも狙えないってわけか!
(いっそ、ベヒモスに向かって撃てばいいのにと思ったけど……そういうわけか!)
どうやら、すでに連中がその死角に入っているから、こっちに火花がむいたってことらしい。
「り、了解! そういうことなら一気に行きます!」
「あぁ、頼むよ! 石っころの迎撃は任せなー!」
よろしくでーす!!
ひゅるるるるる!
ひゅるるるるる!
「って言ってる傍から来たー!」
言うや否や、次々に飛来する巨岩の嵐!
それらを迎撃しながら、城壁に向かう。
「はん! この程度なら、問題ないよ!」
「ほ、ほんとにぃ?!」
ドミトリさんは自信満々だけど、メッチャ岩デカくなーい?!
「あぁ、任せな。そもそも、こんなのは序の口──さっきのは探適弾さ!」
え、ええー?!
「勘弁してよ、試射ってことは今からくるのって効力射でしょー!」
「それでも問題ないよー! ははっ、いいねぇ、どんどん撃ってきな!」
「もー! なんでこーなるのー」
せっかく助けに来たのにー!
どーん!
ぱっかーん!
「くっそー! 後で覚えてろー」
救援に向かっているハズの城壁から撃たれるという不条理にイラッとしつつもチハたんを駆る私。
そして、ギリギリのところで迎撃するドミトリさんと愉快な仲間たち。
「あははっ! 文句言ってないで、いいから直進しなッ! 直撃はなんとかするから、いっけぇ!」
「了~解、加速しますね! あと、振り回すので掴まっててくださーい!」
直撃どころか、至近弾もごめんだよ!
──チラッ。
上空に舞う巨岩を見るに、投石機の狙いは結構正確。
なら、それを逆手に取るまで──……操行レバー変更!
左右を交互に、アクセルは全開っ!!
「いっけっぇぇえ!」
チハたん前進ッ!
──蛇行運転だぁぁああ!
「ひぇぇええ! ち、ちょっと、ナガセぇぇ!」
「おえっぇえ!」「揺れる揺れるー!」
あはは!
揺らしてんだから当たり前でしょー。
左右にギッタンバッタン向きを変えては進むチハたん。
揺れる揺れる車体が揺れて、砲塔上のドミトリさんのおっぱいもなんかすっごいことになっている!
「どーだー! これなら、狙いもつけられまーい!」
「ながせ~♪ もっともっとー」
おーし、任せろー。
チハたん、全速ぅ!
なぜかルルは上機嫌なので、調子にのってぎったんばったん!!
まぁ、子供は絶叫ますぃいんが大好きだからね!
「おぇえ……は、吐きそう。だ、だけど、ここまでくればもう少しで射程外に入るね!」
「ですねぇ!」
たしかに、わかりやすいくらいに城壁の周りに巨岩が落ちている。
それらがあるところまでが射程と見ていいだろう。
つまーり、死角である城壁付近までもう少しッ…………──行ける!!
──が!!
『グルァァァアアアアア!』
「そんで、ここでお客さんのお出ましかー!」
ついに、メインゲストのベヒモスの出現!
まぁ、城壁を襲ってる奴がいるんだから、そこに向かえば当然っちゃ当然だよねー。
「ナガセさん! 目標視認──2時方向、ベヒモスです! 便宜上──手前からA~E!」
トレーラの中で工兵器材に揉まれていたミルヒ君が、双眼鏡を片手に手近なベヒモスを指さした。
「あいよ~」
ってことは、近場のコイツがベヒモス「A」ね!
了解了解!
そして、どうやらすでに奴に捕捉されたらしい。
「捕捉されました!」
「承知ぃ!」
『グルァッァアア!!』
「あっは♪」
上等ぉ!
言うなり、凶悪な猪面をこっちに向けて威嚇してきたが、
──やかましわッ!
そんな囁きでビビるわけねーだろ!
「こちとら、ドラゴンを倒す女じゃぁぁあ!」
「「「「いや、ドラゴンはいいからー!」」」」
わはははは!
まぁ、それは景気づけということで──……!!
「──主砲回頭ぉッ!」
目標、生意気に威嚇してきた──2時方向のベヒモーーース!!
新砲塔の威力、見せてやーる!!
「照準よーーーーーし! ルルはハッチ閉塞ー!」
「りょー!」
あとは撃つだけ!!
でもその前に、
「ドミトリさん以下、総員下車よろしくぅ!」
「あいよー!」
言うなり、身体全体のばねを使って器用にチハたんから飛び降りるドミトリさん。
それを見送った私は、タンクデサントを解除し身軽になった砲塔を振り回す!
安全装置解除!
目標捕捉!
よーし……。
「砲撃準備よし! なるべく離れててくださーい!」
「合点承知だよ!」
慌てて砲口の危害半径から距離を取るドミトリさん。
チラリと視線を向ければ、ドミトリさんはゴロゴロと転がって着地の衝撃を相殺し、再び駆けだし、その足でトレーラーの仲間に駆け寄った。
なにせ、砲口から出る発砲の衝撃は強力無比!
砲炎と砲煙だけでなく衝撃と音で、人体は損傷してしまうからねー。
「よーし、聞いたなアンタら。今すぐ下車!──そんでトレーラーもドッキング解除しなッ!」
「「あいよぉ!」」
言うなり、乗り物酔いで青顔をしていた双子たちも立ち上がる。
そして、一挙動でパキィン! とトレーラーを切り離すと、
サーフィンのように揺れ動くその上立ちあがり、惰性で進むトレーラーから飛び降りた。
とたんに行き足が速くなるチハたーん!
「いいねいいね!」
重量物の枷がなくなった証拠だ! あはっ、マヂサイコーだね!
「ドミトリさんさんきゅー!」
「んっ!」
互いにサムズアップ。
おかげでかなりに身軽に慣れたよ!
あ、そーだ!
「ミルヒ君はそれ持ってってー」
それこと、
トレーラー内の工兵器材を指さす私。どうせ置き去りにするなら有効活用しなきゃね!
「了解! 借りまーす」
そう言うなり、イケメンなスマイルを見せたミルヒ君が、飛び降り様にいくつかの器材を持ち出して駆けて行った。
うん! 普通の武器より、あっちの方がいいだろう。
「さーて、そんじゃ行きますか!」
──こきこきっ!
首を鳴らして一呼吸。
「──……あとは、撃つべーし!」
撃つべし、撃つべし。
ベヒモスを撃つべーし!!
「目標、2時方向の──ベヒモース!!」
主砲……
てぇぇええ!
──ドーンッ!!
刹那ッ、発砲!
ものすごい速さで空間を駆け抜けた高初速の47mm砲弾が、ベヒモスに突き刺さる!
その瞬間、『グルア──』と一瞬叫んだベヒモスであったが、直後に体をくの字に曲げたかと思うと、横腹が猛烈に爆散ッ!!
開口部とは逆の方の横腹から内臓をぶちまけてそのまま、ズズン……と、倒れる!!
「おっほー!!」
命中命中!!
「初弾命中! 一撃で撃破ーッ!」
はーっはっはっはぁ!
「見ぃたかぁぁ!」
なーんと、あのドラゴンに匹敵する装甲を持つというベヒモスを一発でお釈迦にしてやったぜぃ!
「いいぞー、ナガセぇ!」
「かっけー!」「ほれるぜー!」
ひゅーひゅー♪
喝采するドミトリさんに双子。
それに、んーんーんー! と鷹揚に手を振り返し、上機嫌に(無い)胸を逸らす私ぃ!
そして、これがチハたんとベヒモスどもとの開戦の合図となった。
なんと群れることはないというベヒモスどもが、一斉に回頭──こちらに凶貌を向ける!
『『グルァァァアアアアア!!』』
それは明確に敵認定したという合図であった。
しかし、
「あはっ! 上等ぉ!」
今更、敵認定ってか?!
甘い甘いっ。こっちは最初からだよ。
「よーし、次弾装填ッ!」
弾種、続けて徹甲~だーん!
そして、47mm長砲身の威力を目に焼き付けるがいいわー!
「ルルも状況に応じて、順次射撃だよ!」
「りょー!」
うんうん。
私は主砲に専念するので、前方機関銃は君に任せたぞー。
「さーて、残り4体──」
ベヒモス狩りのはじまりだぁぁぁ!!
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