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第33話「一難去って」

 ──グルァァァアアアアア!!



「お、おぉー……」


 叫んでる叫んでる。

 なーんかデッカイ一本角の猪みたいなのが首都という巨大都市の城壁に向かって叫んでるぅ。


 しかも、絶賛体当たり中じゃん。

 すげーな、怪獣映画だわ、マヂで…………。


「………って、ちょっとぉぉ?!」


 え?

 ええええー?!


「な、なんですかあれー?!」

「な、なんだろうねぇー……」


 いやいや「なんだろうねー」じゃないですよ!


 なんか他人事みたいに、チハたんにデサント(跨乗)中のドミトリさんも茫然と呟いているけどさぁ!


『グルァァァアアアアアアア!』


 ほらぁ!

 なんか、グルァァア! 言うてますやん!


「い、いやぁ、そう言われてもちょっとこれは予想外というかなんというかだねー」


 えー……。

 アンタが首都まで送れ言うたんとちゃうのん?


「え。じゃ、もしかして、首都ってあれがデフォルトですか??」

 こう、怪獣が日常みたいな?

「そんなわけないだろ!」


 ですよねー。

 そんな首都イヤだわ。


「そもそも、あれじゃ、オチオチ寝てもいらんないだろ?」

「たしかにー」


 だって、ドシーンドシーン! て、巨大な猪のような化け物が、何度も何度も城壁に体当たりをしているんやで?

 騒音被害半端ないわ。

 しかも、ここまで揺れるほどのその振動たるや……。首都を遠くに臨む、森の切れ間から見てる私たちでさえ、ちょっと揺れてるもん…………。


「…………って、いやいや。だから、待って待って待って!」


 寝るって、あーた(アンタ)

 寝るとかの、生活する前提以前ですから!


「これからあそこ行くんでしょ?! な、なーに、遠くのほう見て現実逃避しているんですか!」


 めっちゃ他人事ですやん。


「い、いやー、現実と思えなくてさぁ」

「──そりゃそうだけども!!」


「同感ー」「右に同じー」


 ぅおーい!

 Aランク冒険者どもぉ!


「現実、現実。これは現実だから戻ってこーい!」


 みんなしてどこ見てんの?!

 明後日、見てんの?!


「いいから、こっち帰って来ーい」


 皆の目の前でお手てをブンブーン。


「い、いやー。ですけどナガセさん──これはちょっと、想定外にもほどが……」

「え? そうなの?」


 私、この世界ではまだまだ初心者だからなんとも……。

 まぁ、ミルヒ君がいうとおりこれが想定出来てたら凄いけどね。


「そりゃそうですよ! ああ見えて首都ですよ! それをこう、やすやすと魔物に襲わされるもんですか!」


 ま、まぁそりゃそうか。


 戦国の日本の京都ならともかく、中世っぽい世界だ。普通は周辺に防衛を兼ねた衛生都市をおくわなー。


「……ですが、あれはベヒモスですね。雑食性で、気性の荒い大型の魔物……。S級相当の、いわゆる災害指定種ってやつです。どうにかして、防衛ラインを突破したようですが、一体どういうことなのか──」


 は?

 今、なんて?


「災害指定種とな?!」

 しかも、S級相当って……。


 え? なにそれ。

 カッコ良くね!


「……はい、その名のとおり、本物の動く災害ですよ」


 お、おぉー。

 動く災害っていうのは、これかー。


「なるほどねー。本物(・・)ってことは、ドラゴンよりも現実的な脅威ってことだよね?」

 たしかに、首都攻撃とか戦略ゲームもビックリの死亡フラグだわ。

「えぇ、ご覧の通りですよ……。城壁の半分に達するほどの大きさで、皮膚も骨も硬く、魔法にも耐性がある恐ろしくタフな奴です」


 ほぇー。

 あの城壁の半分のデカさときましたか!


 しかも、滅多に人前に出てこないドラゴンと違って、マヂで攻撃してくる魔物。

 そして大型っていうけど、城壁の高さが目算で10m強として……。


「げー! その半分ってことは5、6m級じゃん!」


 デ、デカいなんてもんじゃない。

 ドラゴンより一回り大きいってこと?!


「バ、バケモンじゃん!!」

「はい。なので、ギルドでは最優先の討伐対象とされていまして、見つけ次第に高ランク冒険者を派遣──または軍隊で対応しないとヤバい奴です」


 軍隊とな?!


「え? いや、その軍隊負けてない?」


 なんか城壁上に集まった兵士が必死で応戦しているけど、攻撃効いているようには見えない。

 ……あ、なんか爆発した。


「そりゃもう、何百人で対応して撃退がやっという化け物ですよ」

「えー……、撃退出来てねーじゃん」


 負けそうになってるじゃん。


「しかも、なんか、その災害指定種とやら……数多くないです?」

「え、ええ。確かに群れですねー。そんな事例は聞いたことがありませんが、ひーふーみー……見える範囲で全部で5頭はいますか」


 マヂか。

 数百人で撃退する化け物が5体って……。


 それ単純計算で5倍の戦力がいればどうにかなるって話じゃないよねー?


 うーん、これは参った。


「……えーっと。ドミトリさん、私の依頼ってあそこ(首都)までの輸送ですよね?」

「そ、そうだね」


 うん。


「じゃあ、あそこ(・・・)に送っていいんですね?」

「あ、ああ、そうだね……」


 そんで報酬を貰って、

 ルルを孤児院に預けて、ハッピーエンドだー。



   って、



「「いいわけあるかぁぁぁあ!」」


 あーもう、

 ドミトリさんとハモったわ!!


「ですよねー!」

「そうだよ! 当たり前だろ!! つーか、なにを化け物に絶賛襲われてる町に送り届けようとしてるんだい?! あ、アンタこわぁ!」


 いや、だってそう言うクエストだし……。


「あーもう! そこは融通利かせなよー」

「えー。どう利かせるんですかー」

「そこはほら──……なんかこう。いい感じに」

「雑っ」


 なんですか、いい感じって。

 いい感じに梱包して送っちゃうぞ。


「っていうか、マジでどうしましょうか?」


 クエスト完了の報告とかもあそこだし、

 なにより、ルルを預けようとしている孤児院もあそこだったわ。


「……そもそも、安心安全の治安の良い街って、あそこ(・・・)のことでいいんだよね?」

「まぁ、あれ(・・)さえ見なければ、城壁も頑丈だし、安全。治安もいいよ」


 いや、良くはねーだろ。


 しかも、

 その見ない現実のほうが強烈すぎるでしょ!


 そも、

「──その自慢の城壁にはヒビが入り始めているし、兵士も負けそうやん!」


 あれが日常なら、私なら引越しをお勧めするわーい。


「た、たしかに、こりゃ参ったね……」


 そういうなり、ガシガシと頭を掻きむしったドミトリさんは、なにか覚悟を決めたのかおもむろに大剣を抜き出した。

 他の面々もちょっと諦めたような表情で、トレーラーの上で装備を準備し始めたんだけど……。


「え? ど、どうしたんですか、急に?」

「どうしたもこうしたも、言ったろ──」


 はい?


「災害指定種はギルドが発見次第、高ランクを派遣するってさ」

「はい、言ってましたけど──……え? ま、まさか?!」

「あぁ、そのまさかさ。まさに今、発見しちまったし、こっちはこれでもAランク──高ランクの端くれさね」


 え、

 えええええええ!! ってことは?!


「──い、行くんですか?! でも、ギルドから何も言われてないですよね?!」

「そりゃそうだけど。十中八九、強制依頼が出てるよ」

「そうかもですけどぉ」


 たしかに、あの状況で依頼を出さないギルドなんて存在しないだろう。

 だからドミトリさんがいうのは、間違いではない。……ないんだけどさー。

 現時点でドミトリさんたちはそんな依頼は受けてなくなくない?


(だけど、まぁ……この人達ならやる(・・)かー)


「はぁ、しょうがないなー」


 ……ガシガシ。


「わかりましたよ。……まぁ、ぶっちゃけそう言いだすんじゃないかとは思ってましたしね」

「そうかい?」


 そうですよ。


「そんで、そんなドミトリさん達を見たら私も行かなきゃならないじゃないですかぁ」

「そうかいー? ま、アタシこそ、アンタなら行くって言うと思ってたけど」


 ニヤリとしたドミトリさん。


 はいはい。

 その通りでーす。


 なにせこっちはチハたんですからね。


「あ、姐御ッ! な、何言ってるんですか?! 僕らはともかくナガセさんはダメなんじゃ?……彼女はCランクだし、まだ中堅ですよ! 無理はさせるのはどうかと──それに子供だって」

「だからこそですよ、ミルヒ君。子供にカッコ悪い大人の背中を見せられますかってーの」

 

 しかも、戦車に乗ってビビって逃げたとあっちゃあ、女が(すた)るってもんです!


「で、ですが……。あのベヒモスの装甲はドラゴンに匹敵するほど強固ですよ?! い、いくらチハたんが強くたって、前みたいなことになったら──」


 そう言い淀むミルヒ君。

 だけど、今いいこと言ったねー。


「……へぇ~。あいつ、ドラゴン並みに硬いんだー」


 ほうほう。

 ほうほうほうほーう!!


「ナ、ナガセさん?」

「いやいやいや、それはいいことを聞いたね!」


「は、はいー?」


 ミルヒ君が目を丸くするけど、ふふん、何言ってんだって思ってるでしょー。

 だけど、そんなの決まってるでしょー。


それ(・・)を聞いちゃ、ますますやるしかないね」

「えっと、言ってる意味が? 部位によってはドラゴンより硬い装甲ですよ?」


 だからこそだよ。


「私はドラゴンと再戦を決めた女ですよ。なのに、いつまでもドラゴンに負けるようなままでいるわけないじゃないですかー」


「いや、再戦はやめとくれって……」

「そして、言ってる意味が……」


 まぁ、わかんないよねー。


「なので、これを見てもらいましょうかー!」


 百聞は一見にしかずー。

 いでよ、ステータスがめ~ん!!


 ──新たなチハたんの姿をその(まなこ)に刻むがいいわー!!



  ブーン!



 ◇ ◇ ◇


スキル:【せんしゃ】

能 力:任意の場所に召喚可能。

    世界中のありとあらゆる『せんしゃ』(※)が選択できる。


戦 車:九七式中戦車


   『改造オプション』

    追加装甲Lv1: 5ポイント

    補助装甲(シュルツェン)Lv1: 5ポイント

    増槽50L  : 5ポイント

    土嚢     : 2ポイント

    鉄条網    : 3ポイント

    対空機関銃  : 購入済み

    煙幕発射器  :15ポイント

    排土板(ドーザーブレード)   : 3ポイント

    拳銃穴(ピストルポート)    : 2ポイント

 

    新型砲塔Lv1: 購入済み  ←これだよ~♪


    新型砲塔Lv2:65ポイント(NEW!)

    暗視装置   :15ポイント

    アンテナ強化 :10ポイント

    牽引トレーラー: 購入済み

   (追加)工兵器材:25ポイント(NEW!)

    

備 考:(※)表記はカタログあり。


 ◇ ◇ ◇



「はい、ドーーーーーン!!」


 余ったポイントで購入したのは、チハたんの改造オプション。

 『新型砲塔Lv1』であーーーーーーーる!!


「「「「お、おぉぉー!」」」」


 言うや否や、

 オプションを購入したチハたんが、皆の前で光り輝くと、新たな能力が付加され、再出現した。


 これぞ、新しく生まれ変わったチハたんです!

 その名もぉ……。



「新砲塔チハであーーーる!!」



  パッパラ~♪


「ふふーん、どうどう? その名もー……チハ改だよ~!」


 なんと、

 一瞬にして光の中から現れたのは、砲塔の形状が変更された新しく生まれ変わったチハたんであったー。


「チハ改?!」

「しかも、新砲塔……」「Lv1だって?!」


「つ、つまり、新型砲塔搭載型の九七式中戦車改ですかー?!」


 イエース。

 その通ーーーーーり!!


「じゃじゃーん! これならドラゴンにだって勝つる!」


 ガッツポーズ!


 つまり、ベヒモスならもっとよゆーということであーる。

 わーっはっはっはー!


「いやいや、笑ってる所悪いけど、砲塔が変わっただけだよね?」

「逆に細くなってないか?」「砲口も小さくなってるぞ?」


 やかましいわ。

 それがデカいんだっつーの。


「うーん。……もしかして、長砲身──つまり、貫通力があがったとかですか?」


 お、さすがミルヒ君!

 目のつけどころがいいねぇ。


「そうだよ。なんか、高初速の大砲に変更したんだってー」


 砲身を短砲身57mmから、長砲身47mmに変更。

 それにともない、砲塔も少し大型化した。


 ……って、備考欄に書いてた!


「な、なるほど。よくわからないけど、これならベヒモスにも通用するかもしれないんだね?」

「おそらく、ですけどね」


 まぁ、旧砲塔のそれよりも遥かに貫通力があるっていうから、たぶん行ける行ける。

 なにせ対戦車戦闘を強化するための改造だもんねー。


「わかった。なら、それでいこう──っていうか、ナガセは本当にいいんだね?」

「あったりまえですよ。それにうまくすれば、アイツ等倒して、報酬がっぽがっぽですよね?」

「がっぽがっぱかは知らないけど、それなりに高い金がでるだろうねぇ」


 いいねー。

 ドラゴン戦で失ったガソスタの修理費用に充てられるってもんです。


「それどころか、街をすくった英雄だぜ」「女からもモテるぞー」

「それはどうでもいい」


 つーか、私がその女だ!!


「それよりも、行くなら急いだほうがいいかもしれません。そろそろ町の方がやばそうです」



  グルァァァアアアアア!!



 ズズーン!!


 野蛮な雄たけびとともに、ついに何かがが倒壊し崩れていく音。


「あ、ホントだ。やばそう……」


 どうやら、城壁が限界らしい。

 一部が崩れ、城壁上の兵士たちからも悲鳴のような声が漏れている。


 こりゃー確かに一刻の猶予もなさそうだね。

 なので──……!




「よーし、いっちょ、ベヒモス退治としゃれ込みますか」




 主砲、装填!

  弾種:徹甲弾!




 一気に突撃だぁぁあ!

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