第32話「チハたんキャンプ」
「あーそろそろ飯時かい。ナガセ、寝床もそうだけど──食料はどうするんだい?」
あー……。
まぁ、うん。
「……まさか、ないのかい?」
「た、たははー。……いや、なくもないんですけど、実はガソスタ頼りでその辺も全然で」
ひーん。
快適すぎたツケが来たよー。
「そっか。アタシ等のでよければ分けるけど──うーん」
うーん──ですよねぇ。
ドミトリさんたちだって余裕があるわけじゃないだろうし、こっちは二人分。
しかも、一人は食べ盛りの子供ときた。
「大丈夫です。一応あるにはあるんですよ」
「一応って……。まさか、その辺の草を食うとか言わないよね?」
草ぁっ!
「あはは、それはさすがにないですよ。あ、でも、も、もしかしたら少し分けて貰うかもです……」
「それは、もちろん構わないけど──味は期待しないでおくれよ」
あ、あはは……。
でしたねー……。
実際、その辺の草に負けず劣らずこっちの世界のの携行食も正直クッソ不味いから、あんまし食べたくないんだよねー……。
贅沢と言われそうだけど、ドミトリさん達だって、ここに来るまではずっとコンビニ飯かスパ銭で食べてたくらいだし。
「それでも助かります」
「気にするこたぁないさ。冒険者は自己責任だけど、助け合いも重要だからねー」
それは本当にそう。
魔の山脈で出会った時を思い出すねー。
「あ、でも! も、もちろん、なるべく迷惑はかけないようにしますから。……た、ただ、その、夜間の警備は──」
「あぁ、そっちはアタシらの領分さ。ナガセたちは自衛だけやってな」
「す、すみません……」
そこは本当に感謝しかない。
だって、私なんて、所詮はなんちゃって冒険者だもん。
夜間警備のノウハウもないし、ここは素直に従おう。
「じゃあ、またあとでな。お茶くらいならいつでも出せるよ。……まぁ、味はお察しだけど」
「あはは、お相伴に預かりまーす」
そういや、お茶も結構な味なんだよねー……。
こっちの世界でお茶っていったら、その辺の葉っぱを煮出しただけだもん。そりゃそうだって感じです。
せっせと野営準備をする男たちの所に去っていくドミトリさんを見送りながら、私も腰を上げる。
さーて、ご飯ご飯。
準備準備〜っと。
「チハたんの中には、何があったかなー」
暗闇の中で、スマホの明かりを頼りにチハたんをガサゴソ。
「ながせー?」
「んー? ちょっと待っててねー。暗かったら、チハたんの前のライトつけてー」
はーいと、可愛らしい返事。
外がパッと明るくなる。
どうやら、ルルがチハたんの正面──前照灯を付けたらしい。
数百~数千カンデラの明かりが夜の森を明々と照らし出す。
おかげでこっちも何となく明るい。
スマホの電源もガソスタ頼りだったから、温存しないとねー。
さて、そういうわけで今日はこのスマホをはじめ、手持ちの物で何とかするしかないわけです。
幸いにも、行動食として買っておいたちょっとした軽食とお菓子、あとカップ麺が何個かあるにはあるのだ。
だけど子供には、さすがにそれだけではキツかろう。
というわけで、手持ちといえば、そう──!
「幸いにも、私にはまだチハたんがあるのだー!」
わーはっはっは!
しょーり!
ふふーん。チハたんをただの戦車かと思ったかい?
ちっちっち。
甘いよー!
チハたんは正式名称:九七式中戦車!
つまり、戦車というそれ一個で独立した戦闘単位なのであーる。
「つまり、戦車だけで、自己完結することがわりと求められているのです!」
それは戦場においてもそう。
だから、野営はもちろん、
ちょとした医療行為から、食事に至るまである程度こなせるようになっているのだー。
なので───……。
「お! あったあった! これとかどうかなー」
チハたんの外。
フェンダーの上の備品箱をあけると、行軍の泥や砂にまみれた袋がゴロゴロ出てきたぞー。
ひゅ〜♪
「ビンゴ!!」
昔の字で、糧秣──みたいなことが書いてるけど、多分これだ!!
「あと、こっちは炊事道具かー」
木製の水缶に1リットル程度の水筒。
それに豆型の飯盒だ!
「あったー?」
「ん! あったあった! ちょっと準備するから、ルルも手伝ってね」
「はーい」
ん!
可愛い可愛い!
……しかし、この可愛い子とも、じきにお別れかー。
首都についたら孤児院への口利きしてもらうんだしね。さすがにドラゴンの発見と撃退の成果を出したんだし、マヂ頼むぜー。
「さて。それはさておき……! これだけあれば十分かな」
帝国陸軍の野戦炊事セット!
お米もあるし、缶詰もある!
他にもインスタントっぽいのも多数はっけ〜ん!
「よーし、いっちょやりますかー」
腕をまくって、コキコキと首を鳴らす。
ま、慣れない器材に食材だけどこれも昼間のうちに準備をしておかなかった自分のミスだ。
せっかくガソスタもコンビニも──場所によってはスーパー銭湯も出せたのに、いつでも呼び出せると油断したのが運の尽き。
(まぁ、ドミトリさんじゃないけど、今後の糧にしよう~っと)
「なので、ルルー。これ持っててー!」
「これはー?」
チハたんから取り出した備品の数々に目を丸くするルル。
「つるはしとスコップだよ。ルル、竈って作れる?」
「ん!」
お、作れるみたい。
ちょっと心配だけど、任せてみよう。子どもの自主性も大事だしね。
「小さいのでいいからね。怪我しないように安全第一に!」
「はーい!」
どこで覚えたかびしっ! と敬礼をしたルルは、スコップとつるはしを軽々と抱えて、ててーと駆けて行く。
「転ぶなよー」
ぶんぶんぶんっ!
振り返って、にーっ。
(かーわいいの!)
さて、そんなルルに見とれてる場合じゃないね。
私も諸々準備をせねば。
「軍足に入ったお米よーし!」
レトロな見た目の缶詰よーし!
その他もろもろ、インスタントよーし!!
全部よーし。
「ならば、あとは米を炊くべしー」
うん! こんだけあれば十分だよね!
具体的には、飯盒を使って炊飯でーす。
現代のオシャレなバーベキューとは全然違うけど、これぞ元祖キャンプ飯だろう!
アホ面して、肉焼いて、コーヒー飲むばかりがキャンプじゃないんだぜー。
「そして、こう見えて独身だから、こーゆーのも、よゆーだ〜ぃ!」
「(そうみえてるぞー)」「(わはは!)」
……うん。
双子はあとでしめるとして。
「コンロも炊飯器もなくとも、調理くらいお手の物! 米くらい見事に炊いて見せるわ〜ぃ!」
実家を出て長いしね。
なので一通りのことは何でもできるのです。
「つまーり、戦車と独身の相性は実はとてもいい!」
(※注∶暴論)
わーはははははー!
「(ナガセー。さすがに独り言多いよー)」
あ、さーせん。
ドミトリさんに可哀想な人を見る目を向けられてしまった……。
「一人暮らしが長かったからつい──」
えへへ。
……あ、また言ってた。
口をおさえて、お茶目に誰かにむけてウィ~ンク。
「…………さて、気を取り直してお米洗ってっと。あ、ルルも竈が終わったら手伝ってー」
「はーい」
顔をドロドロにしたルルちゃんの手をしっかり洗わせて、お米の入った飯盒を渡す。
あと、やり方を真似させてー。
「……こうして、研いで──あ、お米一粒にも神様がいるから慎重にねー」
「こくり」
ジャラジャラジャラと、おっかなびっくりお米を研ぐルル。
水場があるのでこの辺はらくちんだね。
米を流さないように数回研ぎ洗いすると、最初は糠で白かった水も綺麗に落ち着いてきた。
「ん。いい感じ」
「にーっ」
それを、ルルが作ってくれた竈に掛けるっと。
「あとは、火をつけてっと……──マッチマッチ」
うっ、ごほごほっ!
日本軍のマッチってな〜んか可燃部がちっこいんだよなー。あ、ついた。
「うー。煙い」
た、焚火なんて、学生の頃以来だなー。
でも、戦車に火種とかあって助かったよ。
「生木が混じっててつきにくいけど、なんとかうまく火が付いたかな?」
すっごいもくもくしてるけど、まぁいいや。
「そんであとは──」
「ながせー、おこめー」
はいはい、ありがとう。
しっかりと糠の落とされたそれを受け取ると、あとはお湯を入れて時短だ。
え?
お湯を今から沸かすのに時短もなにもないって?
──ちっちっちっ!
あるんだよなー。
チハたんには、これが!
「なんと、車載湯沸かし器でーす♪」
ふっふっふ。
チハたんってば超優秀。こうみえて、後部のマフラーに併設する形でお湯のコック付きなのだー!
正式名称は知んない。
ないかもしれない。
そも、本来の使い方は、なんかの冷却水っぽいけど……まーいいでしょ。
「あとは、ここから事前に入れておいた水を出すっと、ほらっ」
コックをひねると、ココココッ……静かに注がれるのは、熱々の熱湯。
こちら、運転中の余熱で熱々のお湯ができる優れものなのだー。
ちなみに、コックも水缶も後付けっぽいけど、車内からも車外からも使えるようになってる。
北方でも使われてたって聞くし、その工夫かな。
なので、お湯は全然オーケー。
もちろん、軍用の茶葉をつかってお茶も飲めるぞー。どっかの紳士の国みたいだね。
「あとはこれを定量いれてっと──そんで火にかける!」
ドンッ!
はい、準備オーケィ!
なんかちょっと軽油か機械油っぽい油膜が浮いてるけど、まー御愛嬌。
竈に木の枝で吊るしをつくって飯盒を掛けて──あとは、しばらく待つだけ。
「その間、小腹が空いてきたので、軽食食べよっか」
はい、どーぞ。
「ありがとー!」
んーっ可愛い!
今日一番の笑顔をみせたルルちゃん。
ちなみに取り出したのは、さっき見つけた軍用携帯食ー♪
……まぁ、早い話が乾パンでーす!
これ、日本軍がよく食べてる奴らしい。
現代でも、非常食でお馴染みだのあれだ。
パッケージはTHE・日本軍って感じの麻袋に入ってるけど、中身は現代とほぼ変わらないように見える。
胡麻が練りこんでて、少しだけ金平糖が入ってる、お馴染みの見た目。
その乾パンの袋をしゅるっと開けると、中身をポリポリ♪
味は……。
うん、まぁ。
可もなく不可もなく───……あ!
とはいえ、もちろんご飯がこれだけってことはないよー。
(さすがに育ち盛りの子にこれだけとか、鬼畜すぎるしねー)
つーか、絶対栄養が足りない。
乾パンが悪いわけではないけど、タンパク質とかビタミンとか……。
「これすきー」
「……マヂ?」
え。
ただの乾パンやで?
あと、やっぱり金平糖は大人気。
そっちも物欲しそうな目で見るので、全部あげるー。……それで唾液を分泌させて食べるんだよー。
「っと、そうこうしているうちにグツグツいってきたぞー」
お湯から足したので、早いわー。
ちょっと芯が残るかもだけど、時短時短。
あとは蒸らし行程のため、火から上げた飯盒をひっくり返して、底をその辺の木を削って作ったお箸でコンコン──……ん、いい感じー。
「はい、完成!」
パパーン♪
薄暗い森のなか、
光量を絞った戦車の探照灯の明かりに浮かびあがったのは白銀に輝く、銀シャリであーる。
ホッカホカ~と上がる湯気が輝いて見えるねー。
副食は缶詰と味噌汁。
それをご飯にのっけてどーぞ!
「ほわー♪」
「ささっ、あったかいうちにと食べてね」
「たべるー!」
うんうん!
「では、実食!」
キコキコとあけた副食の牛肉缶詰(大和煮)を、ご飯の上に乗っけると、そのまま掻き込むー。
「あ、んまーっ!」
シンプルながら、甘じょっぱいしょうゆベースの牛肉がご飯の熱でトロトロだー。
濃い味付けがご飯に合う合う!
「あむあむあむ!」
「よく噛んでねー」
──箸休めは缶詰の福神津け。
ポリポリの触感がご飯にいいアクセント。
これだけで何杯もいけそうー。
「つーか、ご飯がうまいわ」
レトルトも悪くないけど、やっぱ竈で炊いた飯は別格にうまいね。
あとは、味噌汁。
これは飯盒の蓋の部分に、粉味噌でお湯でといただけのインスタントだけど、ご飯との相性は抜群。
ズズズー……。
「ん。味噌汁だ」
超ふつー。
わかめくらい入れても良かったかも。
「ん-……♪」
しかし、
私が渋い評価を下す一方、ルルは目を輝かせて味噌汁を啜っている。
「おいしい?」
「ん!」
どこで覚えたか、サムズアーーップ!
思ったより好評で嬉しいかもー。
「おっ、なんだい。できてるじゃないか」
「あ、ドミトリさん」
そこに干し肉をカジカジしながらやってきたのは『赤い旋風』の面々だ。
「なんだなんだ、貧相な身体だから、貧相もの喰ってるかと思いきや、本格的じゃねーか」
「ナ、ナガセが手料理だと」
あん?
……殺すぞ双子。
「いい匂いですね。しかも、潤沢にお湯があるとは驚きました」
あーそっちね。
さすがミルヒ君、着眼点がいいね。
現地改良っぽいけど、熱源があるんだしこーいうのもいいよね。
「えへへ、チハたんは優秀なのです。あ、そーだ。みんなお茶いります?」
答えを聞く前に、備品箱の中から急須を出して、茶葉を蒸らす。
湯呑は、THEジャパーンって感じの普通の奴だけど、それだけに帝国陸軍風味を感じるねー。
「ん。いただくよ──ずずー」
「あ、うま」「本物の茶だな、これ」
そりゃそうですよ。
日本茶ですよ、日本茶ー。
「さすがはナガセさん。むしろ、僕たちのほうが分けてもらった方がよかったかもですね」
あははと、バツの悪い顔のミルヒ君。
みれば、うん……。
皆して干し肉に堅パンかー。
たしかに、これだけなら炊いたお米食べてる私たちのほうが豪華だ。
「ちぇ。たまにはナガセにドヤ顔できると思ったけど、アンタやるねぇ」
「えっへん!」
チハたん──以下略。
「あ、ちなみに、天幕もありますよー」
キャンパス地で重いけど、軍用なだけあってその分頑丈なやつが。
「マジか……。すげー至れり尽くせりだな」「こりゃ、夜間の警戒で挽回するしかねーな」
そこはマジでよろしく。
「それじゃあ。お茶、ごちそうさまでした。夜の見張りは任せてください」
「うん! 一応、こっちも武装はしてるけど、あてにはしないでねー」
なんせ、子供とか弱い乙女だ。
……火力は高いけど、
ガシャキ!
そういって、物騒に百式短機関銃を掲げるルルと、
肩の四四式騎兵銃と愛用のこん棒をゆする私に苦笑いの面々が去っていき──こうして、無事にガソスタなしの夜を越したのであった。
──へっくしょん!
うー。
ちょっと、夜はさすがに冷えるし、寝苦しかったけどねー。まぁ、贅沢は敵だ。
「はぁ、ベッドが恋しいー」
だけど、おやすみー。
体温の高い子供のルルちゃんを抱き枕にして、私はぐっすりと眠るのであったー。
ぐー。
そして、翌日。
朝はカップ麺で手早く食事を終えた私たち一行は、チハたんを一気に首都にむけ前進。
そうしてこうして、ついに昼過ぎにその高い城壁を視界に収めたのだが……。
ズシーン、ズシーン……!
『『グルァァァアアアアアアア!』』
初めて見る首都とやらは、
なにやら巨大な魔物と、絶賛、大戦争の真っ最中であった──。




