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第24話「戦利品」

「──いや、『来たのであったー』……じゃねーよ! なんだここは?!」


 スパ銭ですが、

 なにか?


「ってむぎゅー?!」


 な、何なに?

 急にドミトリさんなんですかー?!


「あー。なんでもないよ、それより遅かったじゃないか、マスター」


 なにかを言いたい私の顔を、ムギュ~っと豊満な胸に脇で挟むように押し込みつつ、

 ドミトリさんが館内着の袖に腕を突っ込んだ侍スタイルで、ギルマスさんを出迎えた。


「(しっ、いいから黙ってな)」

「(は、はぁ?)」


 えー?

 なに? なんなの?


「あーん?! 遅かったもなにも──……って、あー確かにそうか。遅れてすまんな」

「ホントにそうだよ。……まぁ、それはいいよ。で、今更来て何なんだい?」

「悪い悪い。確かに遅れたことを謝るべきだな」


 禿げ頭を掻いて目を逸らすギルマス。

 どうやら、長躯してサンズベルトからやってきたらしい。


「そうさ。あやうく、オークに食われるところだったよ?」


 うん。

 ……ドミトリさんは多分、別の意味で食われてたなー。


「すまんなぁ。じつは、ギルドから戦後処理のための職員を連れてやってきたらよー。この本隊の指揮官がオークジェネラルを見たとかで怖気つきやがってたってわけよ」


「「あー……」」


 ギルマスの隣でしゅ~んと小さくなっているのは、衛兵隊の指揮官さんだ。

 たしかコンビニにも来てた豪華な鎧の人で──……本隊の指揮をしてたんだっけ?


「しゃーねーからよー。俺が無理やり指揮権の取り返して、ようやくよ」

「そ、そういうことかい。……いやさ、無事だったからよかったものの、勘弁してくれよーギルマス。ナガセがいなかったら、下手したら全滅してもおかしくなかったよ?」


 それはそう。


「わりーわりー。埋め合わせはすっからよ」

「悪いで済めば衛兵はいらないよ。……いや、実際いらなかったわけだけど」


 それもそう。


「すまねぇな……」


 本当に申し訳なさそうな顔のギルドマスター。

 まぁ、ギルマスが悪いわけではないけどね。


 そもそも、Aランクのドミトリさん達『赤い旋風』以外は、寄せ集めだって言ってたしなー。

 ごり押しにも無理があるよね。


「ただよー。言い訳するわけじゃねーが、想定外にもほどがあるぜ。オークジェネラルに、あの爆発音だろ? そのあとで、城塞は崩れるわ。変な建物は出現してるわ、何だで、ぶっちゃけ俺も突入するのにかなり勇気がいったぞ?」


「……あ、あははー」


 そのあたりは私のせいだね。

 ってか、ほぼ私だわ。


「何言ってんだい。そのための大軍だろ?……ったく、頭数だけそろえといて、情けない男どもだねー」

「いや。返す言葉もねぇが──数がどうのこうのって話か? オークジェネラルだぞ?!」


 それはそう。

 あれは人数でどうにかなるもんじゃないよね。


「馬鹿野郎。気合だよ、気合!」


 気合かなー。

 ドミトリさん、負けそうになってなかった?


「まぁ、報酬面で優遇すっからよ、勘弁してくれや。……それより、なんなんだここは?! こんな古い城塞にこんな建物あったか? 戦場あとで、飯に寝床ってのも、驚きだしよ──」


  わはははは!

   酒だー酒酒ー! わーーはははは!


「──どうみても、宴会場じゃねーか!」

「「それはそう」」


 超同感ー。

 ギルマスはわりと常識人だね。


 ってか、今更かー。


「ふんっ。遅れて着といてケチだけつける気かい?」

「いや、ケチというか……」

「いいから!! そういうこともあるってもんさ。……あんまし硬いこと言うんじゃないよ」

「いや、硬いとかの話じゃなくてだな──」


 うん。

 硬さは関係ない。


「とにかくそう言うことだから!」

「お、おう」


 強引に話を進めるドミトリさん。

 さすがの話術に私も何も言えねー。


 っていうか、これはあれか。

(……もしかして、ドミトリさん、私のジョブのこと誤魔化してくれてる?)


 そう思ってチラリとドミトリさんを盗み見ると、パチリとウインクされた。


 おぉー。なるほど。

 たしかに、ジョブのこととか追及されても困るし、助かるわ。


「ほら、アンタも一杯やってきな。サンズベルトから直行だろ?」

「馬鹿野郎、そう言うわけにいくかっつーの。……それより、捕虜が無事でよかったな──あとは、仕留めたオークなんかの検分だが、今から行けるか? お宝なんかの分け前の仕訳とかもあるしよ」

「あー。そういうことならしょうがないね──ナガセ」

「はーい。それじゃ見に行きましょうか」


 結局強引にスーパー銭湯のことはうやむやになり、仕事の話に直行することに。


 つーか、豪放磊落(ごうほうらいらく)にみえて、このギルドマスターはクソ真面目だね。

 一瞬、捕虜たちが飲んでいるビールを見て、喉をゴクリと鳴らしたが、すぐに頭を振ってその考えを振り払っていた。


 そういうとこは好感がもてなくもない。


「おう、二人とも頼むぞ。財宝なんかは元の規定通りでいい。……あとはー、商人なんかが元の所有権なんかを主張しているが、そっちは買い上げで交渉してやる」

「任せるよ」


 元の権利?

 ……買い上げ?


「それってどういう……?」

「略奪品のことさ。オークに襲われた場合、持ち物なんかは一度隊商の手を離れたことになるんだよ」


 あー、なるほどね。

 ……で、隊商側としては「いやいや、待て待て! 元々は商会のものだから、返してッ!!」──ってことかー。


「まぁそうなるよねー」


 ──超揉めそう。


「おう。まぁ、そう言うこった。だけど、うだうだ言われても、ここは基本に忠実に行こうと思う。……とはいえ、揉めるからぁな──こうして俺たちギルドが間に入って買い上げ交渉をするってわけよ」


 なるほどー。ギルマスが言うならそうなんだろう。まぁ、その辺は任せるしかない。

 私としては、お金とか魔石が貰えればそれでいいのだ。


 もちろん、無料で返すなんて真似はしない。

 一見、無償譲渡したほうが、善意にも見えるけど……それはあとを考えるとトラブルの種にしかならないしね。


 だって、回収したお宝や物資がその商会の物だって限らないもんね。

 どさくさ紛れに権利を主張するやつだっているだろうし。


 なにより、

 ここのオークたちは、この城塞に辿りつく前に各地で略奪を繰り返してたみたいだからなおさら……。


 そんなわけで、所有権のトラブルになるくらいなら、一括して一度金銭にして、それから勝利者から買い戻す形式にしたほうがいいというわけだ。


「ほえー。よくできたシステムだわー」

「そりゃそうだろ。何年冒険者やってると思ってるんだい」


 まったくで。


「了解しました。そんじゃ、お宝を拝みにいきますかー」

「ついてきな!」


 おーう!


 こうして、テンション高めに未だくすぶる城塞のほうにむかうのであった。

 しかし、お城一個まるごとの報酬って、どんだけなんだろう?



※ ※ ※ ※ ※



 わいわい、

  がやがや


「おぉー?」


 スーパー銭湯をでると、湯上りの双子やミルヒ君もやってきた。

 そして、そのままに5人で連れだって戦火が燻る城塞正門付近にいくと、商人が集まり、戦利品の買い上げ交渉をしているではないか。

 ギルマスが連れて来たであろう職員が対応している。


「んん?……あの人たちは?」


 職員さんはともかくとして、

 あんなにたくさんの商人さんいたっけ?


 野営地には多少はいたけど……。


「あぁ、近隣都市の商人だね。中古品の買い上げに、酒保商人、それに武器屋に鍛冶屋もいる」

「えええ?! か、買い取りもなにも……陥落したのってついさっきですよ?!」


 勝利の報を聞いて駆け付けたとかのレベルじゃね。


「そりゃ、近場で張ってたんだろ?」

「マジかー」


 どっかに潜んで戦況をみてたと。

 ……商魂たくましいとかのレベルじゃねぇな。


「戦場じゃよくある話よ」「……あん? もしかして、ナガセは戦場は初めてか?」

「そりゃそうでしょ」


 何言ってんの双子君。


 私、日本人よ?

 戦場とは超無縁の人ですよ。


「簡単にいうと、連中はハイエナですよ。……こうして戦場がひと段落するとどこからともなく、儲けの匂いを嗅ぎつけてやってくるんです」

「あーなるほど……早い物勝ちってわけですね」


 ──良品を安く買い叩ける機会を狙っていたわけだ。


 しかし、ハイエナってこっちの世界にもいるんだね。

 同じのかは知らんけど。あと、ミルヒ君、地味に口悪~い。


「そーいうことさ。まぁ、アタシらとしても助かるっちゃ助かるけどね」


 まぁそうか。

 オークの装備品貰ってもしょうがないもんね。


「実際、今回みたいに城塞のお宝全部となれば、持って帰るのも至難の業さね。だから、手っ取り早く金銭に変えちまうってわけ。……まぁ、その分、輸送費だなんだで割安になるけどね」


 ほうほう。

 もちつもたれつ。


 そして、そこまでボッタくりでもないと──なるほどなー、異世界経済の勉強になるわ。


「ちなみに、半分はナガセの取り分だよ? ここの城塞にあったものは基本全部──そん中で欲しいものがあったら、買取られる前に確保もできるけど?」

「いやー、欲しい物って言ってもとくには……」


 オーク城塞で確保したものなんて、連中の武器防具とか食料、少量の金銀財宝。

 あとは魔石ぐらいだもんね。


「……あ、魔石だけ貰っていいですか?」


 とくに、無色の奴!

 スキルとかの回復に使えるみたいだし。


「そう言うだろうと思って取っといたよ」

「わ、ありがとうございます!」


 おー。凄い量だー。

 あ、これってもしかして──。


「もちろん、アタシらの分も貰っとくれ」

「い、いんですか?」


「いいってことよ」「そーそー。十分に儲けが出てるぜ」


 ドミトリさん、

 双子ぉ……。


 じーんと胸が熱くなるぜー。


「……ぶっちゃけ、ナガセさんがほとんど倒してましたからね」

「「「それはそう」」」


 うっさい、

 わかってるっつーの。

 今、感動してたんだから、いちいち言うなしー。


 もー。


「じゃあ、魔石以外は買い取りでいいね──おーい、マスター」


 ドミトリさんを先頭に商人たちをかき分けていくと、

 すでに解体され、魔石を抜かれたオークの肉塊がそこかしこにゴロゴロしていた。


「おぉ、来たか」

「来たぞー」


 先に出ていたギルマスが軽く手を上げる。

 すでに商人らと交渉が始まっているようだ。中には見覚えのある顔もいる。捕虜になっていた隊商の人たちだろう。


「見な! コイツがお前らの取り分だ」


 どーん! と山積みになったオークの肉ぅ。


「へぇ、仕事が早いじゃないか」

「そりゃ、本隊の連中なんもしてないしな──手伝わせた」

「そいつはいいね」


 軽口をたたくドミトリさんに、ギルマスも苦笑いだ。

 まぁ、実際本隊の人たちなんもしてないし……。


「で、どうする?」

「あぁ、こっちはおおよそ決まったよ。魔石以外は全部買い取りで頼む──あとは、」

「肉はどうする?」


 肉?

 オークの?


「卸していいよ。こんな量食えないしね」


 え?

 あれ喰うの?!


 たしかに食用だって言ってたけど、オークはちょっと……。


「わかった。そっちも手配しとこう。あとは──こっちの戦利品の山がお前らのだ。財宝は──思ったほどじゃないな」

「あぁ、それはアタシらも確認した。ここのオークは、数だけは多いがしけてやがる(・・・・・・)んだよ」


 そうなん?

 たしかに城塞内に金銀財宝って感じではなかったけど。


「みたいだな……。おそらくどっかから流れてきた連中だな。だもんで持ちモンはすくねぇし、飢えてやがったんだ。──ま、その辺のことは、あとでいいか」

「ああ。そんじゃ、ナガセの取り分は、ここの半分だな」


 へ?


「え? 半分って、この山の?!」

「そうだけど、少ないかい?」


 いやいやいや!

 すくないって、そうはならんやろ! 城塞から回収した財宝の半分やで?!


 ちょっとした山になっとるで?!


「むしろ、こんなに貰ってどうしようかと──」

「ははっ、売っぱらえばいいんだよ。金ならいくらあっても困らないだろ?」


 それはそう。


「わかりました。じゃー売っちゃいますねー。すんませーん!」


 品定めをしている商人さんに交渉して、大半を売ることにした。

 いや、それにしたって凄い量だ……。解放した商人さんたちの数からして、一個の町を賄う補給物資の3回分くらいはあったらしい。


 お金?

 すっごい額になったよ。金貨で300枚くらい貰っちゃった……。


「いやー。アタシらも儲かったねー。しばらくは仕事しなくても済みそうだ」

「そうはいくか。お前らは稼ぎ頭なんだ。キリキリ働いてもらうぜ」


 算盤を弾いていたギルマスが振り返りながら(うそぶ)いてくる。


 ……いやいや。


 当然のように、そこに私を加えるのはやめてほしい。こっちはDランクですからね!

 すすすー……っとギルマスのいう、「お前ら」の視線から外れるように横移動──。


「っと、そうだ。ほらよ、ナガセ──」

「ほぇ?……わっ」


 ギルマスが振り返りがてら何かを投げ寄越す。


 一瞬、思惑が見透かされたかと思ってドキっとしたが、なんてことはない。

 チャリンと澄んだ音を立てるそれを受け取ると、銅の色をした裏面には「C」と書かれたプレート……ええ?


「な、なんですか、これ?」

「おめでとう。Cランクだ。昇格だよ」


「うわ、かっるー」


 えー。

 もうCランクなのぉ?


「ケチだな、ギルマス。Bくらいにしてやれよ? オークジェネラルだよ?」

「馬鹿野郎。一個ずつだ一個ずつ。試験すっ飛ばしてんだからいいだろ」


 あー。

 一応、本来なら試験があるのね。面倒だから助かるー。


「──ナガセさん。こういう時はギルドに流されちゃダメですよー。便利使いされますからね」

「マジか……」


 こそっと耳打ちするミルヒ君の言葉に思わず頷く。


 な、なるほどー。

 こうして恩を売って、すでに囲い込みを始めてるわけか。


 ──で、Cランク昇格はその餌、っと。


「おーい、そこのチビは黙っとけ! それより、ドミトリ──こっちはどうする?」

「こっち? あぁ……。そうだったね。参ったね、奴隷かー」



 ガシガシと面倒そうに頭を掻きむしるドミトリさんの前には、小さな子供が──……って、ええええ?!

 ……ど、奴隷、っていうか。






「──いや、さっきお風呂に入れてた子たちじゃん!」






 なんとまぁ、目の前に並んでいるのは首輪をつけられた子供が数人。

 しかも、私が出したスーパー銭湯の館内着してるんですけどぉ……。

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