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第25話「ファッキン常識」

 わーわーわー!


「金貨で50だ! 50!」

「ばっきゃろう! そいつらは俺が買う、70出す!」


 わーわーわー!


「100だ、100! ボッコボコにしなきゃ気がすまねぇ!」

「ガキに100だぁ?! なら、俺は120……いや、150出すぞ! とくにそっち(・・・)のガキは腕を捥いで、ゴブリンに食わしてやる!!」


 わーわーわー!

  ぎゃぁぁああ!


 殺せー! 死ねー!!


「え、ええー……。な、なんか思ってたのと違うぅ」

「どーしたんだい?」


 いやいや、

  どーしたもこーしたも!


「あれぇ! あれなんですか?!」


 思いっきり指をさすよ、私!

 こう、ビシーっとね!


「なにって、奴隷市だろ? 商人が積んでた奴隷も、身元不明の子供も、あーして当然一旦権利は冒険者ギルド預かりさ」


 えー。

 それで売るっこと?!

「いやいや、待って待って! まさか、戦利品ってことは、それ(・・)も含んでるの?!」


 しかも、それってつまり私たちの取り分ってことぉ?!


「そりゃそうだろ?」

「えーマヂかぁ、ど、奴隷市場っていうのがあるのは異世界なので百歩譲ってありとしてぇ」


 ぶっちゃけ、それもどうかと思うけどぉ!

 なんで?


「なんで、子供が競売に掛けられてるんですか?! しかも、あの子らって、さっきお風呂に入れた子達ですよね?!」


 綺麗な顔立ちをした耳の長いの子だけでなく、体格のいいドワーフっぽい少年や、水をプルプルしてた獣人の子もいる。


 みんな異世界感マックスだったので、よーく覚えている。


「あと、なんか野蛮!! ただの競売にしては、殺せとかなんとか!」


 ほらぁ。

 すっかり怯え切ってるじゃーん!


「待て待て、いっぺんに言うな」

「じゃ、いっこずつー!」


 奴隷、

 子供、

 殺すとかなんとか、

 あとスーパー銭湯の館内着ぃ!!


「あーっと、奴隷ってのは、」

「知ってますぅ! そうじゃなくてぇ」


「あーはいはい。わかってるって。……あー、あの子らは城塞で見つけた子達さ。商人からの聞き取りと奴隷の刻印とかで確かめたんだが、元より商品の奴隷とか、あとは親を食われたか何かの孤児もいるみたいだねぇ」

「はっぁぁああ?!」


 孤児ぃ?!


「総じて今回のオーク災害の犠牲者だろうね」

 いやいや!!

「な、なんで?! なんでそれが奴隷なんですか?」


 元から奴隷ってのもあれだけど、

 孤児は違くなーい?!


「なんでって……逆にどうしろってのさ?」


 ど、どうって。


「な、なんかないんですか? こう、孤児院とか?」

「ここは魔物との最前線の都市──サンズベルトの近郊だよ? 孤児院なんかあるわけないだろ?」


 う。

 そういえば、冒険者が中心で栄えた都市だっけ。


「だ、だったら、孤児院のある町にとか──」

「大都市にでも行かないとないよ。この辺だったら──王都とか、商業都市とか教会自治区とかかねぇ」


 だったらぁぁ!


「いやいや、待て待て。……誰がそこまで運ぶんだい? よしんば誰かが運んだとして、輸送費を誰が出すんだい? そして、孤児院だって運営費はタダじゃないんだよ? 一々身元不明の孤児を引き受けてちゃあっという間にパンクさ。だから、基本はある程度事情の分かる子供しか引き受けないよ」


 む、むむー。

 一気に言われたぁ……。


「言いたいことはわからなくもないけどね。孤児院ってのは、どこも経営はカツカツなんだよ?……そんで、アンタがさっき言っただろ? 『なんかないかって』それがこれ──奴隷さ」

「ええー……」


 きょ、極端すぎない?


「まぁまぁ、奴隷って言っても、衣食住は保証されるさ。真面目に働いてりゃ、いつか解放もされるしね」


 むー……。


「ほ、ほんとにぃ?」


 納得できないけど、むむー。


「あ! じゃ、じゃあ殺すーってのは?!」

「んー……まぁ色々あるのさ。オーク災害を受けた商人どもからすれば、うっぷん晴らしなんじゃないの? 知らんけど」

「ええー」


 普通の子供じゃーん。


「そもそも、関係なくない?! あの子ら!」

「まぁ、そこは人の感情だからなんともねー」


 えー……。


 これ、なんかドミトリさんが微妙に誤魔化して話しているのが気になるなぁ。

 そも、奴隷市を当然の物として受け入れているのもカルチャーショックだけど、子供があんな目にあっているのを平然としているのも、ちょっとビックリ。


 いや、そういえばお風呂で微妙な顔してたっけ。

 つまり、ある程度予想はしてたのかもー……。


「はぁ。ほんと、すっごい世界だわー……」


 いや、昔の地球も──否、日本も似たようなもんだったんだろうけどさ。


 奴隷。

 奴隷ねぇ……。


「──はぁーあ」

 ガシガシ!

「あん? どうしたんだい?」


 面倒くさそうに頭をかきむしった私を、不思議そうに見やるドミトリさん。


 いやいや、どうしたもこうしたも──。




「……古臭~い」




「はい?」


 私の呟きに目を丸くするドミトリさん。


 うん。

 だけど、そう。


 ……古臭いんだ。


「古臭い?……奴隷がかい?」

「ええ、すっごい古いです。ちょー古いですよ、その考え」


 まぁ、

 所詮私はこの世界に来たばかりの新参者だ。


 だから、あとからしゃしゃり出てきた分際で、奴隷システム自体が全部悪いとは言わないし、それを破壊する気もない。


 だって、そういう世界だし、そういう社会構造だし、そういう経済だし、正義もないし、慈悲もないし、是非もなし。


 ……だけどね。


 私は知っているのだ。

 地球という世界を。

 そして、その地球で奴隷システムがなぜ滅びたのかを。


 人権意識でも、博愛主義でも、戦争の結果でもなんでもない。


 ただの合理。

 経済的合理性から滅びたのだ。


 なぜか?

 なぜ経済的合理性から滅びたのか?



 ──それは、超簡単な理由!



 人類は新たな奴隷システムを構築したのだ。

 それが社畜!!


 イギリスの産業革命を核にして、

 奴隷を使うよりも、自由民扱いで、安い賃金で縛るほうが結果的に、超~~~~~~~~儲かると気づいたのだ。


 そりゃそうだろう。

 奴隷は一見安いように見えて、高い。


 ……クッソ高い。


 しかも、買って終わりではないのだ。

 なにせ人ひとりを生かし、働かし続けるには超絶コストがかかるのだ!


 三度の飯に、寝床に衣服に医療!


 そりゃ粗食だろうし、寝床は狭いし、衣服は上等とはいかないだろうし、医療だって最低限なんだろうけど──あまりに粗末にすれば健康を害するし、体力も落ちるし、最悪死ぬ。


 そも、奴隷だからといって老いたからと言って簡単に処分できないし、時には反乱も起こす。


 何せ、奴隷は奴隷だ。未来に希望がなければその最大の目的はいかに低カロリーで働くかに集約する。


 つまり、

 サボるし、雑だし、やる気もなし。


 そのため、結局、使用者が、仕事や寝床にも見張りをつけないといけない。

 その分、当然人手もコストもかかる。


 つまり、コスパ最悪。

 めちゃくちゃ最悪。


 だったら……?

 だったらどうする?

 だったらどうしたらいい??


 答えは超〜簡単。


 それ(・・)を社畜自身に管理させて、自分の飯は自分の稼ぎで食わせて、年を取ったり、怪我をすればクビという名目で放り出せばいいのだ。


 なんなら働きが悪い奴はクビにすればいい。


 クビにした奴が野垂れ死のうがどうでもいいしね。まさに死ね。


 それが社畜システム。


 ──(ひるがえ)って奴隷だ。


 奴隷はさー。サボっていようが鞭で打たれようが、一度金を払って買った以上、最後まで……いや、最期まで面倒を見なければならないのだ。


 わかる?


 そのコストよ!

 つまりコストよ!!


 あぁ、コストよ!!


 ──コストコストコストぉ!!


 社畜ならみーーーーーーーーーんな知っている。

 我らこそ、新しい奴隷であると!!


(だからさぁー……)


 元社畜として、社会で使い潰され、田舎のガソリンスタンドに流れに流れた私は見過ごせない。

 古き時代の奴隷(社畜)を見過ごせない。



   わーわーわー!


    殺せぇぇええ!



「俺が買うぞ! 180! 180だ! 180!」

「いーや。俺だ俺!! 190……いや、200出す! それでそのガキを──」




   バーーーーン!!!




「金貨300枚!」


 奴隷市場に乱入するや否や、私は稼いだばかりの全額を叩きつけ、この茶番を一瞬で終わらせてやった。


 なーーーーーにが金貨200だ。


 社畜の埃を見せてやる。

 真の奴隷搾取とはなぁぁあああ!


「──こうするんだよ!!」


 貰ったばかりの報酬の入ったそれを市場の担当に投げ渡すと、

 私は流れるようにズカズカとそこに分け入り、震えている子供たちをガシッ! と小脇に抱え、肩に抱き上げると高々と宣言した!!



「とったどーーーーーーーーーーーーー!!」



 はーはっはっは!


 そうとも!

 ここの子供たちはこの私、長瀬あかりが購入するー!!




※ ※ ※



「いや『とったどー』じゃないよ!! 何考えてんのさ、アンタ!」

「あーん? なんか文句あるんですかぁ?」


 小脇と肩にと子供たちを抱えたまま、のっしのっしと奴隷市場から出て来た私だけど、

 あちゃーと顔を覆っているドミトリさんが迎えてきたので、ちょっとイラっとして胡乱な目つきで返す。


「つーか、知ってたならさっさと教えてくださいよ。絶対ドミトリさん、私がこうするってわかってたでしょ」

「そりゃねぇ……。あの山奥でアンタに会った時からね」


 え?

 そんなに前から?


「──アンタ、浮世離れしてたからさ」

「こんな浮世なら離れて正解でーす」


 見てよ。

 こんなかわいい小さい子達をよってたかって──。


「いやいや、それがここの常識だから」

「そんな常識クソくらえですー」


 古いんだよ、奴隷とか。


「そうは言うけどねぇ。……冒険者にだって元奴隷の奴はいるし、そもサンズベルトだって奴隷で支えられてる面もあるんだよ?」

「だとしても、この子達には関係ないですよね?」


 なにも産業構造にまでメスを入れろと言っているわけでない。

 偽善だなんだと言われても結構だけど、どうみても、野蛮な仕打ちのためだけにこの子らを買おうとしてた連中のほうがおかしいのだ。


「それ以外に、子供達が生きていく術がないんだからしょうがないだろ? 野垂れ死ぬよりはマシさ。……そもそも、買ってどうする気だい?」

「どうって……。他の子と同じように孤児院を考えてますけど?」


 そもそも孤児院があるならちゃんと引き受けろ。


 社会構造として、その後、この子たちが成人し、キチンと社会の歯車となって還元したほうが絶対いいに決まってるのだ。


 そのあとで兵士にしようが商人にしよう娼婦にしようが、その辺は本人と国の決めることだ。


 だけど、子供のうちから奴隷搾取して使い潰すのは違うだろ? 絶対にいいわけがない。


「孤児院ったって、無理だよ。どこも一杯だし、なにより近場の町にはないっての」


 えー。

 なんのための孤児院だよ。

 行政仕事しろよ。


「だから、孤児だろうがなんだろうが、売るしかないのさ。奴隷はまぁ……その、命は取られないからね」

「うっそだー」


 殺せーとか言ってたじゃん。


「言ってるだけ、言ってるだけ。第一殺すためだけに金貨を(うん)百枚も出すもんかい」


 う、それはそうか……。


「じゃ、じゃあー……」

「まぁ。皆、見目はいいしね──育ててそっち系に流すんじゃないのかい?」


 そういって、軽く耳の長い少女の顎を持ち上げるドミトリさん。


 むぅ。


 ……言葉の割に、この人は手つきは優しんだよね。


「あ、もしかして──」

「おう、さっき言った元奴隷の冒険者ってのはアタシのことさ」


 あ、ああー。

 どうりで……。


「……それでどうすんだい? 放り出す気もないし、奴隷もダメなんだろ?」

「う……」


 そ、そういわれると──。


「ったく、勢いだけでやるからだよ。だいたい、アタシらの取り分の戦利品を、自分で買い上げてどーすんのさ?」

「え?……あ!!」


 そ、そういやそうだ。

 その場合、どうなるんだ?


「どうもならないよ。アタシら『赤い旋風』の取り分が増えるか──といっても、結局アンタとの等分だしねー」

「え? ってことは、別に普通に引き取ればよかった感じです?」

「そりゃそうさ。……言っただろ? 先に欲しいものはないかって──」


 ぎ、ぎゃー!

 そうだった!


 そんで無色の魔石だけほしーっていったのは私だった!

 いや、だって、捕虜とか奴隷まであると思わないじゃん!!


「じゃ、じゃあ、金貨300枚ーって啖呵(たんか)をきったのは」

「カッコよかっただけだねー」


 うぎゃー!!

 カッコ悪いわぁぁあああ!


 ただのマッチポンプじゃねーか!


「うぅぅ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ! ドミトリさん。素直に謝りますー」


 そして、この子ら分の代金は私の報酬から引いてくださーい。


「ははっ、まぁ、素直に謝るならいいよ──そんで、その子らの権利は譲ってやるさ」

「え゛?! いいんですが?!」


 ちょっと自分の軽率さに半泣きになっていた私は思わずドミトリさんを見上げる。


 さっきまでわりとキツかったのに、急に優しー。


「いいよ。ぶっちゃけ、アンタならやるんじゃないかなーとは思ってたし、言わなかった負い目もあるからね。……あと借りもたくさんあるし」

「ドミドリざーん」


 わーん。

 いい人ー。


「どうどう。……あと鼻水つけんな」

「すんません、ずびー」

「……かむな」


 さーせん。


「しかし、結局どうすんだい? 3人も引き取って育てるなんて無理だろ?」

「そ、それは──……」


 うーん、どうしよう。

 やってやれなくはないかもしれないけど、私は定住しない根無し草。


「なんかいいアイデア──」

「おう、ここにいたのかお前ら」


 あ、ハゲ。


「マスターか。そっちはひと段落ついたのか?」

「あぁ、概ね商談は話がついた──で、さっきのやり取り見てたぞ」


 げっ。

 見られてた。


「がはは! まったく無茶苦茶する奴だな、ナガセは」

「さ、さーせん」


 くっそー。

 今日は説教される日だなー。


「くくっ、別に説教する気はねーよ、それより、困ってんなら、耳よりな話があるがどうだ?」

「耳より? なんでしょう?」


 ちょっと身構える私。

 さりげなく子供たちを背後に隠す。


「なーに、今のお前には渡りに船だ。じつはギルドの職員を募集しててな。ちょうどいいのがいるじゃねーかってとこよ」

「へ? それってまさか──」


 チラリ。


 背後の子供たちをみて、ギルドマスターに視線を戻す。


「おう。奴隷つっても。お前が買い上げて解放奴隷扱いにすんだろ? なら、すげーちょうどいいのよ、ウチとしてもな。なんせサンズベルトは慢性的に人手不足。そこに(わけ)ぇのか入ってくるのは超歓迎ってわけだ」


 な、なんと──!


「ってことはもしかして」

「おう。ウチで面倒見てもいいぜ」


 おぉ!

 なんと!! ハゲが輝いて見えるー。


「……殴っていいか?」

「一応、女子だよ」


 すまんすまん。ギルマスー。


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて──」

「待ちな、ナガセ。……美味い話には裏があるもんさ。だろ? マスター」


 へ?


「くくっ、さすがドミトリ。話が早くて助かるぜ──その通り、ナガセ。ちょうど、お前さんをCランクにしたのと関係がある」





 はぁ?

 何言ってんのコイツ……?

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