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第6話 夏至祭閉幕・友と過ごした憩いの場所で②

 実のところ、今日は八月二十二日の土曜日だった。

 結局というか当然か。三日間ある夏至祭、最後の一日は濃霧が発生したり体調不良の人が多く出たりで延期されることになった。

 伝統のあるお祭りということもあってか中止でないことだけが幸いだったが、一週間越しの再開となると苦労事も多くあったのだ。

 食材の準備もその間の保管もさながら。特に設備である移動販売車は普通なら先週末の時点で返却するはずだった。

 だがこれもエイラの人望か状況がそうさせてくれたのか、食材も移動販売車もすべて夏至祭当日と同じものを確保することできた。

 おかげで本格的に俺たちの創作パンを売り出すことができるのだった。

 そうして夕方、ジルにパンを届けに行った帰りが今この瞬間となる。

 バイクで友人たちの下に走り、信号待ちをしているその途中で街道のスピーカーからハイテンションな男の声が陽気な音楽と共に響いてくる。


『皆様お集りでしょうか? そしてこの場におられない参加者の方々、この放送をお聴きなさっていますでしょうか? さてさて、皆様。大変お待たせいたしました。ついに夏至祭も最終日。そして毎年恒例の成績発表の時間がやってまいりました――!!』


 今この瞬間、毎年恒例ハルリスの中央広場でステージの上に立つ派手な衣装を纏ったサングラスの男性がこの場を盛り上げているはずだ。

 始まってしまったか、と気持ちがはやる。しかし安全運転は確実に、且つ大急ぎでみんなの下に駆け付けてた俺は結果、順位発表の最初を聞き逃してしまった。

 中央広場近くの駐車場に停め、そして大切な友人たちの待つ場所まで疾走する。

 徐々に混み入ってくる人の壁をすり抜けながら前に進んでいた時、誰かが大きな声で呼びかけてくる。


「おーいロイド、こっちだこっち。早く来いよ~!!」


 その声の方を見れば人ごみの中でやけに目立つ茶髪の男の頭が見える。

 正体はどうやら俺を発見したライノだったようで、大げさなそぶりで手を振っていた。手を振り返し、ライノの下に駆けた。


「ごめんごめん、遅くなった。今って何位の発表まで終わった?」


 訊くと、別の女性の声が返答する。


「三位まで終わった。ちなみに東街区の寿司屋だよ。あそこ、観光客の確保がめっぽう上手いからね」


 言ったのは相変わらず無気力そうなアイリだった。


「そっか、ありがと。でも定番だな。あそこが入賞するのも」

「だよな。またかーってなるよな、ほんと」

「面白くないって? わたしは感心してるよ。それだけすごい店ってことだから」


 微笑むアイリはつまらなさそうな表情を浮かべたライノに圧を送る。

 ライノは苦笑いをするだけだった。


「確かにな。身近すぎて忘れるところだけれど、この定番が毎回それを思い出させてくれるんだよな」


 うんうん、とライノの言葉に頷くと隣から肩をポンと軽く叩かれる。

 振り向けば、そこにいたのはエイラだった。


「うんうん、じゃないでしょロイドくん」


 魔霧が発生したあの日、精気を抜かれて倒れたエイラは無事にティアの手で彼女の家に届けられた。ずっと眠り続けていたようだが、俺たちが魔術師を退けて霧が明けたのを境に目を覚ましたのだった。

 その後は単なる風邪だったのではと思わせるほど体力も回復して、今では何事もなかったかのように動くことができている。精気を多く奪われたことによる後遺症もとくにはないそうだ。


「遅くなりそうなら連絡くらい入れてよね。心配するでしょ」

「ごめんな。ジルとの話が弾んじゃってさ。けど連絡ってどうやって入れるんだよ。携帯電話なんて持ってないだろ」

「あーそうね。そう言われれば連絡手段ってないわね。こういう時は困るわよね。早く携帯電話が欲しいわ」

「本当に欲しいよな、あれ。でも高いだろ。残念だけど今の俺たちには絶対無理だ」


 けれど、今の傾向からして数年後には誰でも所持できるくらいにはなっているはずだ。……ってネロが言ってた。本当かよ?

 そんなやり取りに割って入り、ライノが言う。


「残念そうな二人に朗報だ。ほら、ロイドってできるんだろ。鳥に手紙を持たせて運ばせるって、あれだッ!」


 冗談めいた口調のライノ。一瞬何のことについて言っているのか考えてしまったが、思いつく間もなく隣のアイリが容赦ない突っ込みを入れた。

 丸めたポスターでパシーンッ!! と。

 ああ、いい音してやがる。


「伝書鳩かい」

「――痛ッ……いや全然痛くない……」

「ていうかあれ、場所が固定されてないと無理。動いてるものに向かっては運べないから」

「アイリちゃん酷い。けど勉強になったよ、ありがとう」

「え、もしかして知らなかったの?」

「だからアイリちゃん酷いって」


 ああ、いつもの展開だ。

 ライノとアイリ、そしてエイラ。いつもの三人がいつものように揃っている。

 今日の朝、俺たちが模擬店を一週間ぶりに開いたときに自然と頭の中に流れ込んできたのだ。ハルリスの異変を回避し平和な日常を、そして夏至祭最後のこの日を守ることができたというその事実を尊ぶ気持ち。

 しかし『いつも』とは違うことが一つだけあった。


「ほらほら、二人とも馬鹿なことしてずに。今日はわたしたちだけじゃなくて特別なお手伝いさんもいるんだから」


 そうだ、今日は俺たち以外にもう一人一緒にいるやつがいたんだ。

 三人の陰に隠れたところから「ふふふ」と女の子の声がする。


「皆さん、本当に仲がいいんですね。なんだか羨ましいですよ」


 綺麗な金色の髪を靡かせながら口に手を当てて微笑む。この夏季休暇の間、ずっとこっちで一緒に暮らしていた娘。

 命を懸けて俺たちを助けようとしてくれた特別な恩人。ティアが今日の朝からずっと俺たちの手伝いをしてくれていたのだ。


「何言ってるのよ。ティアちゃんはもうわたしたちの友達なんだから。羨ましいなんて他人行儀はもうやめよ、ね?」


 とエイラがお姉さんのように微笑む。

 それはアイリとライノも同じ気持ちのようで明るい笑みを浮かべていた。


「そうだよティア。ここにいる間はみんなで一緒に愉しもう」

「うん、ありがとうロイドくん。なんだか嬉しよ」


 その満面な笑みの輝きは本当に太陽のようで。

 俺の中の凍った暗い感情をみるみるうちに溶かしてくれる。

 それが思い違いでないと、そう祈るばかり。

 そんな和やかな雰囲気の中、中央広場が熱気で踊る。

 湧き上がった人々の歓声が空気を震わせる。

 第三位の紹介が終わり結果発表が再開したようで、視線が再びステージの上に集まった。


『さあ、続きまして第二位の発表です!! この夏至祭で二位の売上げを叩きだしたのはこのチーム。このハルリスでも、いいや世界中でも屈指の人気を誇るスイーツ店。ここまで言えば誰でもわかりますよね。 ――そう、あのレ・クリエールだ!! 売上表を見てみると、原因は伏せられているが二日目以降の伸びがあまり良くなかったらしいですね。ですが、それでも二位は二位。皆さま、盛大な拍手を!!』


 レ・クリエール代表の人がステージ上に出てきてトロフィーを受け取る。

 そしてまだ湧き上がる大歓声。

 エイラたちも同じように続けて叫んでいた。

 去年の夏至祭でぶっちぎりの一位を決めたレ・クリエールも今年は二位。

 その理由もなんとなく思い当たった。

 ユリウス・シルヴィオ。

 あの人はそれだけこの店にとっての重要人物だったのだ。

 死体が発見されていない以上、どこかで生き延びている可能性はなくもない。だが、あの高さからの落下だ。魔術が使えないのだとしたら助かる見込みは限りなく少ないだろう。

 そしてあの魔霧の中だ。たまたま現れた魔獣に喰われた、なんて身の毛もよだつ事態が起きていたかもしれない。

 けれどそれも終わった話。

 両者の正義が対立し、そして片方の正義が砕けただけ。

 そして残ったのが今の日常だ。

 俺が望んで勝ち取った世界がこれだ。

 だから俺にユリウスのことで悔やむ資格は、もうありはしない。


「ロイドくん」

「どうした、ティア?」

「顔、暗いよ。わたしにも事情はわかるから強くは言えないけれど、それは今じゃない。今は……そう、あの日ロイドくんがエイラさんに言ったこと。みんなで愉しく、でしょ」


 元気づけるように微笑むティア。

 こうしてみると、やっぱりテレジアでの学生生活を本当にうまくやってきたんだなって納得できる。


「ああ、そうだな。気をつけるよ」


 そう俺も微笑むのだった。


『さあ皆さん、最後は待ちに待った第一位の発表ですよ!! あのレ・クリエールを上回り栄えある第一位を勝ち取ったのは――』


 ジャカジャカと軽快な音楽が流れだす。

 司会の次の言葉は何なのか、今か今かと固唾を飲む

 そして、溜めに溜めた名前を司会は今日一番の大声で叫んだ。


『――ベーカリーカフェ・キルピヴァ―ラだ!! 一昨年の夏至祭で一日限りで販売されたあの伝説のパンがリニューアルして奇跡の復活をとげたのです。この街で食べたことがない人がいないというほどの勢いで売り上げを伸ばしたパン屋さん。 もちろん私も食べさせていただきました。もう食べた瞬間のあの感覚。私、あの時は宇宙の果てまで飛んで行けそうな気がしました。いやむしろ、私の目の前には銀河が広がっていましたよ!!』


 なんと、それはアイリのご両親のお店だったのだ。

 この夏至祭に投下された殺人級屋台パンはどうやらこのハルリスの人々の胃袋をいともたやすく征服し尽くしたらしい。

 もちろんのことだけれど俺たちも例外ではなかった。

 盛大な拍手に迎えられ、アイリのご両親がステージに上がる。

 そしてトロフィーを受け取ってコメントを話している。


「うわっ、アイリのところのお店じゃない!?」

「マジかよ。スゲ―おいしかったけど一位取るとは思わなかった」


 ステージ上でコメントを話している最中、エイラとライノは盛大にはしゃいでいるがアイリは恥ずかしそうに赤面していた。


「よかったなアイリ。実際あのパンはおいしかったんだしさ。言葉では言い表せないほどのさ。誇れることじゃないか」

「アイリさん。わたしも食べましたけど、すごくおいしかったですよ。わたしも見えました、幸せな空間が」


 と、俺とティアがフォローする。まあ、どちらもただの本音なんだけれど。


「うう、恥ずかしい。お父さんとお母さんいつもと一緒じゃん。もうちょっと作ってくれてもいいじゃない……」

「でもそれがいいんじゃないのか。あれこそがおじさんとおばさんって感じがする」

「そうかな。友達に見られるのはいい。けど、他人には――あ、目が合った……」


 ビクッと肩を震わせるアイリ。


『おーい、アイリ。お父さんとお母さんは一番を取ったぞー!!』


 アイリを見つけたおじさんは大げさに手を振りマイク越しに感激を伝える。


「うわーッ! お父さん、それはやめて~」


 若干涙目のアイリは珍しく普段聞きなれない大声を震えながら絞りだすのだった。


『――ははは、いい感じに和んだところで結果発表はここで終了。ですが夏至祭のイベントはこれで終わりじゃありません。皆さま当然分かっていますよね。この後に何が待っているのか。世界中を見渡しても類を見ない、このハルリスの真の顔とも言える最大級イベント。そう、夜空を彩る無数の打ち上げ花火だッ――!!』


 あれから数分後。

 人の波から離れた俺とティアはバイクを止めた駐車場近くの木陰で休んでいた。


「お疲れさん。ほら、オレンジジュースだ」


 言って近くの売店で買ってきた飲み物をティアに渡す。


「貰ってもいいの?」

「いいよ、気にするなよこれくらいで」

「うん、ありがと。それじゃあいただきます」


 ズズ、とストローで紙コップに入ったジュースを啜る。


「けど良かったの? みんなと一緒にいないで」

「問題ないさ。あいつらはあいつらで楽しんでるし、家族の人もここに来てるんだ。それに一声かけたし少しくらい離れても文句は言われないだろ」

「だといいけど」


 陽が沈み、紅い空から藍色の星空に変化しつつある頃。行き交う黒色の髪の人たちを眺めながら花火が始まる時間を待っていた。

 けれど、ふと気が付いたことがある。

 俺がティアと再会した時の駅前でもそうだったが、俺とは違いティアの背丈だと周りに人がいると何も見えなくなるのだ。

 このまま花火が始まったところで人の陰に隠れて見えない、なんて事態が起きるかもしれない。そうなればせっかくここまで愉しんできたイベントも、最後の最後で後悔が残ってしまう。

 一度気が付いてしまえば最後。どうにかして解決を図りたくなってしまった。


「――ティア」


 名前を呼ばれ、俺を見上げるティア。


「ん、何かな?」

「花火さ、ここよりもっとよく見える場所があるんだ。近くの高台なんだけれど一緒に行かないか」


 と提案してみる。しかし、ティアは悩むように「うーん」と唸る。

 どこか気に入らないところでもあったのだろうか。


「えっと、ダメか?」

「ううん。それは嬉しいんだけれど。でも移動してる間に始まっちゃわないかな? あと十分で七時半だよ」


 どうやら時間のことについてだったらしい。けれどそれは問題ないのだ。開始時刻の十九時三十分までにたどり着けないのであればそもそも提案はしない。


「それは大丈夫だよ。移動には五分もかからないからな」

「ホントに? それじゃあ行ってもいいかな」


 指を唇に当て、少し乗り気な返答をしてくれた。だったら善は急げ。ティアの気が変わる前に行動に移すのみだ。


「決定だな」


 言って、ティアの手を引く。


「――ちょ、え? ロイドくん?」

「はは、それじゃあ早速行こうか。ティアはバイクの後ろに乗りなよ。とっておきの場所に連れて行ってやるからさ」



          ◇



 目的地の高台はハルリスの中央広場から西に位置している。

 と言ってもそこは観光地でも何でもないく、ただの山の頂上付近の鉄塔が立っている開けた場所。

 道はあるものの補装されていなく、また急な斜面になっているため仕事の関係がある人以外、必要以上に登ろうとはしなかった。

 普通ならそこに辿り着くのに早くとも三十分はかかるだろう。だが俺は魔術師だ。身体強化の魔術を掛ければこんな道は五分も経たずに制覇できる。

 ティアを背負い、軽快な足取りで斜面を登り、そして目的の高台に辿り着く。

 現在時刻は十九時二十八分。

 打ち上げ花火にはしっかり間に合ったようだ。


「ほらティア、見てみろよ。ここからだとよく見えるだろ」


 そして指をさす。ここからは中央広場も海岸沿いもしっかりと影もなく見ることができるのだ。


「うわー、すごく綺麗だね。街の明かりがひとつの絵画になってるみたい。これが人の平和な生活の象徴だって思うと、とっても惹かれる」

「だろ。それにさ、こうも思わないか。俺たちは一人じゃないって。こんなにも多くの人に囲まれて、支えられて生きているんだって」

「ふふ、ほんとだ」


 言って微笑むティア。

 たぶん、少し前の俺だったらこんな風には思わなかっただろう。

 煩わしい集団だ――

 このなかで利用できるものはどれくらいいるだろうか――

 きっとそんな風に考えていたはずだ。

 だから俺は言わなくちゃいけないのだ。ティアがこんな俺を変えるきっかけになってくれたことに対して。悪行を悔やみ謝罪したそのあとにあるのは、きっとこの感情なのだ。


「ティア、俺は――」


 ――瞬間、俺の言葉は爆音に掻き消された。

 ハルリスの海岸から一発の花火が打ち上げられたのだ。

 ひゅーという音を伴い空に一筋の光が立ち上る。そして――

 夜空に舞い上がるは一凛の花。

 最初の一発目は盛大に何色もの変化を伴いそして散ってゆく。


「――うわぁ、綺麗! なにこれ、すごいよロイドくん。すごいすごーい」


 俺の腕を引っ張り、そしてぴょんぴょんと兎のように跳ねる。見れば、その目は今まで見てきたどんな時よりも輝いていた。

 微妙に恥ずかしく頬を掻く。言いたいことを言う機会はどうやら今ではなかったらしい。打ち上げ花火は一発では終わらないのだから。

 さらに一発。もう数発。何発も何発も連続で打ち上げられ、そして鮮やかな花を咲かせる。

 その度にティアは笑顔になり歓喜の声を上げていた。

 色だけではない。その形も様々なものだった。

 バランスよく円形に広がるもの。柳のようにひとつひとつの光が尾を引いて消えていくもの。さらには電気のようにビリビリと弾けていくもの。

 大胆であり、そのうえ繊細で。もう何種類あるんだって、これからどんなものが出てくるんだって、気持ちを昂らせてくれる。打ち上げ花火にはそんな魅惑的な要素を内包していたのだ。


「ティア、ちょっといいか?」

「どうしたの、ロイドくん。もしかしてあの時の傷が痛むとか?」

「いやいや、そんなんじゃないよ。そんなことより今のうちに言っておきたいことがあるんだ」


 そして改めてティアに言う。


「ありがとう。今回もお前に助けられた。エレナを守ってくれたことも、最後の戦いの場に駆け付けに来てくれたことも。本当に礼を言っても言い切れないくらいだ」


 そう言うと「へへ」と恥ずかしそうに微笑むティア。

 ぴょん、と軽快な足取りで俺の前に立つ。


「ふふ。また借り、作っちゃったね」


 そう言いながら、咲き乱れる花火を背に俺の目を見つめて微笑む。


「ああ、そうだな。いつか今までの借りをまとめて返せるように頑張るとするよ」

「うん。そこまでまっすぐに言ってくれるんじゃ期待したくなるじゃん。ロイドくんがわたしに借りを返してくれるその時を。もう後戻りはできないからね。自分の言葉には責任を持つこと。もう、前言撤回は許さないんだから」


 大きく息を吸い、そして吐いて肩の力を抜いた。

 ああ、そうだよ。言われるまでもないさ。


「もとよりそのつもりだ。期待して待っておけ、ティア」


 言って、俺もティアに負けないくらいに微笑み返した。


「ああ。わたし、ハルリスに来て本当に良かった。ロイドくんと一緒に過ごせて、本当に楽しかった」


 そして人差し指で俺を指さす。


「今のロイドくんはアーネストさん以上かもしれないよ」

「それ、褒めてんのか?」

「褒めてるに決まってるよ。『あの』アーネストさん以上。わたしにとって最大級の賛美の言葉だよ」

「あのマーベルさん以上、か。考え方を変えると確かにそう捉えられなくもない。そっか、だったら安心したよ。それじゃあ、ティア。俺からも――」


 そう言って右手を差し出した。


「なに、これ?」


 不思議そうに首を傾げる。


「握手だよ、ほら握手。改めての……その、さ。これからもよろしくって意味で」

「そういうことね。ではでは……」


 そしてティアも快く右手を差し出してくれる。

 俺の目に映るのは細く華奢な指。何度も俺を助けてくれたから勘違いしそうになるが、ティアは決して戦いに身を置くことを進んで望んでいるわけじゃない。学友との平和な日常を守りたいと夢見ている本当にただのひとりの女の子なのだ。


「はい。これからも末永くよろしくお願いいたします、だね」


 たぶん今の俺の顔は真っ赤に染まっているかもしれない。だってこんなことを面と向かって話すなんて今までなかったからさ。

 いざ言葉に出すと、頭が弾け飛んでしまいそうになる。加えていい返答をされると心臓が爆発しそうだった。せめてもの救いは今は夜だってこと。

 けれど、そんなことはどうでもよくなるくらいの事実がここにある。

 今この時をもって、俺がティアに行ってしまった仕打ちに対してのけじめをつけることができたように思えた。

 これは俺にとって間違いなく人生の転換点になるはずだろう。

 差し出されたティアの手を優しく握る。


「ティア、これからもよろしくな」

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