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第5話 失意の先に・漂泊の海を越えて⑥

 ユリウスがロイドに敗北したのと同時刻。

 ジェインはルーバス大聖堂を離脱して深い魔霧の中を歩いていた。

 ぎりぎりと歯を鳴らし怒りに震えるジェインに、普段の冷静さは一切失われていた。

 致命傷であった腹の大穴を治癒魔術で応急処置はしたものの、完全に治しきることは叶わず痛みで思考が掻き乱される。


「あのタイミングでこのような事態が起こるとは。私の力が奪われユリウスがやられた? あの傀儡にか? 有り得ん。やつが霊獣の力を開放させるなど、あってはならないことだ」


 カツカツと歩を進めるジェインにすうっと風が靡く。

 冷たい空気の流れで微かに冷静さを取り戻したところで、ジェインの脳裏に新たな疑問が浮かび上がる。


「……いや、まて。これもあの女の思惑のうちだったとでも言うのか。私の計画にあの男を利用することを提案してきたのはあの女だ。やけに至宝の力に適性を持っていたから活用させてもらったが、思えばおかしな話だったんだ。あいつは私の前に突然現れ計画に協力の意を見せた。何故だ。あの女に何の得がある。……まさか、私は利用された? ロイドが至宝の力に目覚めるためのきっかけとして。私もあの女の掌の上だったとでもいうのか。……くっ、この儀式を一刻も早く終わらせてすぐにでも問いたださねば」


 ジェインは足早に目的の地へと歩く。

 とある地点に拠点へとつながる転移門を配置していたのだ。

 この儀式が終わり次第、それを利用してユリウスと共に帰還する予定だった。

 だがその予定も狂ってしまっている。拠点にて必要な物資を整え、改めてこの地に戻る必要がある。


「……」


 カツカツカツと静寂の中靴の音が響き渡る。

 放たれた霧の魔物はとうに消滅しているらしい。

 他の魔術師が追ってくるのも時間の問題だろう。

 焦燥感に駆られながら前進するジェイン。

 そんな男の眼前に二つの人影が行く手を遮るように現れる。

 一つは修道服を身にまとった黒髪に桃色のメッシュが入った眼帯の少女。

 もう一つは白の装束を身にまとった仮面の男。

 どちらもジェインやユリウスと共に計画を進めていた者たちだ。

 しかし、本来の予定であればこの二人はこちらに来る予定はなかったはずだ。


「貴様らか。丁度いい、力を貸せ。星座の魔術を再開させる手筈を整える」


 聞いた少女は首を傾げて問いかける。


「魔術の再開? 上手くいってないのか?」

「ああそうだ。想定を超えた事態が起きている。だが立て直すことは可能だ。今ならばまだ遅くはない」

「想定を超えた、ねぇ。ユリウスはどうしているんだ?」

「ユリウス? あいつは力を封印された挙句、魔霧の中に身を投じた。奴はもう使えない」

「……そうなんだ。だったら、今はもう君一人ってこと?」


 畳みかけてくるような少女の言葉。徐々にその無駄な問いかけに気が障ってきたところでジェインは声を荒げて少女に命令する。


「そうなるな。だがそれがどうした。あいつがいようがいまいが計画は変わらない。ここにいるということはお前たちの役割は終えたということなのだろ。だったら早く――!」


 言ったところでジェインは察知する。

 彼らの気配の色が突如として変貌を遂げたことに。


「それはできないよ。ボクたちがここに来たのは別の理由がある」

「――は?」


 少女の言葉にジェインは眉を顰めその思惑を読み取ろうとする。

 しかしその瞬間、ジェインの身体を真上から押しつぶすように重圧がかかる。


「ぐっ! 身体が動かん。なんだこの重圧は」


 十全でないその身体では耐え切ることができず、ついにジェインは地に伏し少女たちを見上げる姿勢になってしまった。

 仮面の男の方を見れば、その右手には開かれた魔導書が禍々しい光を放つ。そこから発せられる魔力がジェインを押しつぶす力となっているのだろう。


「君たちが進めていた計画は既に破綻している。幻の至宝の力を奪われた時点でもう終わったんだ。だからボクたちがここに来たのは協力するためじゃなくて、敗れた君たちを回収するためなんだよ。これ以上は君たちの命に係わる。命あっての物種だよ。帰って頭を冷やすことだね」


 そうしてジェインは残った最後の力も果てて気を失った。

 その確認をした後に、ジェインにかかっていた魔力による重圧が解かれた。

 続けて仮面の男が手にする魔導書も虚空に消える。


「ギルベルト、ジェインを拠点まで運んでやってほしいんだけどいいかな」


 と少女が言うと、ギルベルトと呼ばれた仮面の男は頷く。


「承知した。だが君はどうする?」

「ボクはユリウスを探してくるよ」

「気配はいまだに感じ取れずにいる。最悪の状況も想定しておくことだ」

「分かってるよ。けどもしかしたらってこともあるだろ。希望くらいは持たせてよ」

「それもそうだ。私もそう思うよ」

「うん、それじゃあ行ってくる。後は任せたからね」


 そうして少女はルーバス大聖堂の方に向かって駆けていき、次第に霧の中に消えていく。


「任せたぞプリシラ。ユリウスを頼んだ」


 ギルベルトと呼ばれた男も踵を返し来た道を引き返す。

 ハルリスを襲った脅威の元凶、力尽きたジェインと共に。

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