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第4話 真実の扉・濃霧に包まれし氷結の都へ③

 五分ほど走り続けたところで、森林地帯の奥にある湖を見渡せる高台に到着する。

 不思議なことにこの場所だけは霧が薄まっており、あけた空間の全域が見渡せた。ただし、上空の霧は晴れないままで未だ太陽の光を遮っている。

 湖の中央には色を失い至る箇所が崩れた神殿があり、神殿への道は水没してどこにもそれらしきものは見られない。

 以前来たときはそのような風景のはずだった。

 しかし今は――


「――伏せろ、ロイドさん!」


 湖だったモノの光景を目にしたとたん、複数の巨大な刃が跳んでくる。

 瞬時に反応できなかった俺は、ネロに押し倒され間一髪のところでその刃を避けることができた。

 刃が飛んでいったその先を確認する。


「なんだこれは――」


 背後の木々は刃に軽々と薙ぎ倒され、その接触面から瞬時に凍てつかされていたのだ。


「氷の、魔術……?」


 飛んできたのはその刃のみで追撃はない。おそらく流れ弾が跳んできたのだろう、というのがネロの見解だった。

 何度も何度も鳴り響く爆発音や銃声。

 さらには金属のぶつかり合う音。

 それらは紛れもない戦いの音だった。


「ロイドさん。魔力と気配を断って伏せたまま水辺だった場所を見てくれ」


 崖沿いで身を屈めたままのネロはそう言って、ある一点を指さす。


「水辺だった? そこに何があるんだよ……」


 ネロの横で伏せ、その場所を見る。

 そこで目にしたのは対峙する二人の人間の姿。

 そしてその惨状に俺は言葉を失ってしまった。

 二人の周りは荒れ果て、大地が抉れ、以前に赴いた時とは全く別の場所かと思わせるくらい。木々も水も関係なく、それらのほとんどが凍りついている。

 常軌を逸した別次元の戦場で、今まさに死闘が繰り広げられていた。

 機械じみた装飾の大剣を手にし、大地を蹴り猛進する者はジル。

 空中に配置した五つの機銃を追尾させ、およそ人間ではありえない速さで相手に迫る。

 対するはソフトハットをかぶり、夏に似つかわしくないストールを首に巻いた男。天に掌を掲げ言葉を紡ぎ、その手に氷の剣を精製させてジルを迎え撃つ。

 昨日も街中で話をした氷の魔術師。行方不明と噂されていたあのユリウスだった。


「――ジル……!!」


 無意識に身体を乗り出して駆けつけようとする。

 しかし、俺の身体はそれ以上前には進まなかった。


「落ち着け、ロイドさん。気が早いぞ」


 横にいたネロが腕を突き出して行く手を阻んでいたのだ。


「何で落ち着いていられる。あの状況は普通じゃない。今すぐに助けないと」

「助けるだって? それはジルの方か? それともユリウスの方か?」

「――それは……」


 言われて気が付いた。

 俺たちは今さっきここに到着したばかり。だから、何故あの二人が対峙しているのかが分からない。

 だが、活性化しているこの土地の魔力の流れ。確実に言えることはあのどちらかが魔術儀式を発動しようとしていること。

 ジルには悪いが今のこの状況、どちらに加勢すればいいのか判別がつかない。この街、ハルリスの行く先にかかわる選択だ。感情で動いてはいけないのは明白。

 もしかすると二人の会話も聞こえるかもしれない。

 まずは今の状況を見定めるのが先決だとネロは言いたいのだろう。


「……わかったよ。でもジルがやられそうになったらすぐにでも行くからな」


 それまでこの戦いに俺たちは参戦しない。

 気配を消し、陰から見守ろうとするネロに俺も賛同したのだった。



          ◇



 二人の魔術師。その死闘はまるで災害と見間違えるほどの激しさを見せていた。

 氷の剣を手にしたユリウスは目の前に迫るジルの首に目掛け、断ち切らんと横に薙ぐ。

 ジルはそれを避けようとせず、瞬時に反応して自身の大剣を盾にして防ぐ。そして空中の機銃を操作しユリウスに向けて銃弾を射出した。

 たとえ一発であろうとも、魔力で編まれた魔弾に直撃すれば瞬く間に粉砕されることだろう。

 ユリウスは後ろに退き間一髪のところで躱し、地面から幾重もの氷柱の壁を張る。それはジルの接近を阻むと同時に機銃による追撃にも対応した術だった。

 ジルは二発の銃弾を同時に射出するも、氷柱の壁を砕ききれず無意味に終わる。

 ユリウスの魔術はそれだけでは終わらない。

 氷柱の壁の表面からさらに新たな氷柱を発生させ、ジル目掛けて飛び出させる。その切先はジルの胸部を狙い今まさに刺殺せんとしていた。

 しかし、その状況にジルは少しばかりも動揺しない。まるでこの展開は承知の上だというように次の動作に移行する。天に掲げる機械じみた大剣。それに魔力を込め迫りくる氷柱に振り下ろした。

 鼓膜を破るほどの轟音を伴い、目の前の壁ごと容赦なく砕き散らせる。

 立ち込める砂埃と砕けた氷の結晶に包まれるジル。だが、それをものともせずユリウスに向けて銃弾を掃射した。

 ユリウスもその攻撃に対応し、その全てを踊るように避け続ける。そして高く跳躍しジルの居場所を特定した瞬間、精製した二つの氷塊をジルに目掛けて射出する。

 ジルはその一つを横に跳んで避け、さらに着地点に飛んできた残りの一つを大剣で撃ち落とす。

 まさに神技とも言えよう技術をユリウスに見せ続ける。

 それらを目の当たりにしたユリウスは口元を引きつらせた。


「おいおい、マジかよ。こんなことまでできるのかい、優等生君は」


 ジルはユリウスの次の一手を警戒し再び大剣を構え直す。そして五つのうち三つの機銃の銃口をユリウスに向ける。


「どうした魔術師。先程までの威勢のよさはどこにいった。俺を殺しきれないのなら術の完成も遠い話だ。今すぐにでも諦めてこの街から立ち去ることだな」


 着地したユリウスは、また表情を平常なものに戻す。


「それは出来ない相談だね。確かに君は強いよ。さすが、この街を統治する機関のメンバーだ。その技量から俺の攻撃を全ていなしてくる。

 大剣による近距離戦と魔導銃による遠距離戦を使い分けたその戦術。ホント、何なんだよって愚痴も言いたくなるさ。

 でもね、俺、慣れてるんだよね。こういう戦い方をする魔術師との戦闘。知り合いにもっとエグイ攻め方してくる人がいるからさあ。そのおかげで君の弱点が分かったよ」


 ユリウスは自身の優位を誇示するかのように大きく腕を広げ魔力を放出し――


「君、少しばかり慎重すぎないか」

「――!」


 ジルはより警戒を強め、五つすべての機銃をユリウスに向け掃射する。

 しかし、ユリウスが新たに生み出した氷柱の壁に阻まれ、砂埃一つとどかなかった。


「防衛戦には慣れているようだが、逆に攻め込むことはあまり得意としないらしい。今までの環境がそうさせたのだろう。惜しいね。そんなに器用なことが出来ながら、あと一歩が足りない」

「どういう意味だ」

「気付いていないのかい。君が俺を何度も殺し損ねていることに。もしやと思ってね、さっきから意図的に隙を与えてあげているというのに、君は一向に攻め込んでこない。

 君は理解できていないんだ。この俺の思考を。君は理解しようとしないんだ。目の前に立ちはだかる敵の在り方を。己の感情を殺し『盾』であろうとするその自己犠牲。だからとどかない。

 これじゃあ君はただの防衛機能をもった機械だ。己の意志を持たないんじゃあ相対する相手は全く満足できないだろうね。かくいう俺も、君との戦闘は実につまらないよ」

「そんな、そんなことはない。俺はただ――」

「だがそれが君の本質だ。君は本当に、君自身の意志でこの街を護っているのかい? それとも己の意志を持たない魔術機関の傀儡だったのかい?」


 不敵な笑みを伴い、ユリウスはひとつの魔術を発動させる。

 ドーム状に湖の神殿とその周りの空間全てを覆う冷気。それは氷のように固体としての形を得て、逃げ場のない牢獄に姿を変える。

 その内側で嵐のように吹き荒れる吹雪は、牢獄の中にいるすべてを凍結させんと牙を剥く。


「もういいだろう。君との舞踊はもう十分だ。それでは、そんな君に相応しい最期を贈ろう。物理的な攻撃だけでなく、体力そのものを奪っていく永久凍土だ。さあ、ジル。心地のいい悲鳴を聞かせてくれよ」


 そして嘲笑と共にユリウスの身体が吹雪の中に消えようとする。


「――待て、ユリウス!!」


 ジルが咄嗟に機銃を撃つも、ユリウスの形は幻影なってゆらりと消えていく。

 さようなら、と。もうジルには興味を失ったかのようにユリウスの気配は完全に消失した。


「くそっ、どこだ。どこに行った、ユリウス!!」


 猛吹雪の中、無造作に大剣を振り回す。


「出てこい! 俺はまだ終わってない。認めないぞ。俺が機械のようだなんて」


 空中に配置した五つの機銃が爆音の如き銃声を次々と響かせる。


「俺は、俺は、……ただこの街を、ハルリスを守りたいだけなのに。だから決めたんだ。ハルリスを守れるのなら、たとえ感情を殺してでも、俺という個を失ったとしてもやり遂げるって」


 だが、次第に爆音も止んでいく。

 急激な温度の低下が高温で駆動するジルの武器さえも凍てつかせていったのだ。

 ガクリ、とジルの視線が落ちる。ついに体力の限界を迎えたジルは膝を折り、地に屈した。


「何でだよ。何でこんなことになるんだよ。次は、次は絶対に……俺はこんなところで負けやしない。おまえのような故郷を捨てる奴なんかに、俺は――」


 次第に声も消えていき、ついには意識も失ってしまった。

 もうジルに待っている未来は確定しつつあった。


「――俺はここだよ、頭の固い優等生君」


 艶めかしい声を出しながら、ユリウスはジルの背後に姿を現す。

 凍結したジルに、もはや一切の反応はみられない。


「気が変わった。やはり君をこのまま凍死させるのはもったいない。この俺自ら、君を芸術品に仕立ててあげよう」


 ジルの頭部にユリウスの掌が添えられる。

 虹色の揺らぎがジルの周りを取り囲む。

 これからどうなるかなんて明白だった。

 その手段がどうであれ、次の瞬間にジルの命は消え失せるだろう。

 このままユリウスが魔術を発動させるだけで全てが終わる。


 ――そのはずだった。少なくともユリウスはそう確信していた。

 ――ピキッ――


「――ん?」


 それは二人にとって予期せぬ出来事だった。


 ――バキッ、バキッ――!!


 結界にひびが入り、瞬く間に亀裂は広がり、ビュウと吹きすさぶ嵐の音は次第に轟々と唸ると何かに変換されていく。

 そして次の瞬間、ガラスが割れるような音を響かせた。


 バキッ、バキッ、バキッ――!!


 氷の壁のある一点が破壊され崩れ落ちる。

 その奥から紅蓮の炎が顔を覗かせた。

 吹き荒れる吹雪も、徐々に侵入する炎の渦に侵食されていく。

 そして今まで見てきた白き氷の世界が、真っ赤に燃え盛る大地に変化した。

 まさに天変地異。自然がなせる災害の所業のようで、ユリウスは戸惑いを隠せずにいた。

 そんな中、獣じみた速度でユリウスに接近する影が二つ。

 ユリウスの所業を止める為、二人の男がこの戦場に舞い降りたのだ。

 一人はロイド。

 右の腕に炎を纏わせ、ユリウスの頭部を狙う。

 少しでも怪しい動きを見せれば瞬時に燃やし尽くす。そんな殺意を伴って。

 この炎の壁も渦も、すべてはジルを救うために放った渾身の魔術だった。

 もう一人はネロ。

 左の腕を人ではない竜を思わせる異形に変容させ、ユリウスの胴を握りつぶさんと構える。

 その爪はあまりにも鋭く、触れただけでも傷を負わせるような凶悪さを思わせた。

 ロイドの魔術を内部に侵入させるために大穴を穿ったのが、まさにこの腕による一撃だったのだ。


「――そこまでだ、ユリウス。ジルから手を放してもらおうか!!」



          ◇



 数分前のこと。

 もう我慢はできなかった。

 ユリウスがこの魔術儀式を引き起こした術者なのだと分かったなら、もう迷う必要はない。

 ネロの言葉も待たず俺はジルのもとへと駆けていた。

 白い氷のドームも、そのすべてを覆い尽くすほどの炎で包み込まれる。

 魔力消費が激しく、他の魔術を連続で行使することもままならなくなるが、そんなことは知ったことじゃない。

 今はどんなことよりもまずジルを救うことが一番だった。

 その想いも、これから打って出るという意思も、ネロは瞬時に理解し気持ちをくんでくれた。

 俺の肩を優しく叩くと同時にネロは走り出し、その腕を竜のような腕に形を変え氷に大穴を穿つ。

 俺も続けて地を駆け、ユリウスへ奇襲を仕掛けたのだった。



          ◇



「――そこまでだ、ユリウス。ジルから手を放してもらおうか!!」


 二人の魔術師と能力者に囲まれるユリウス。そんな状況にもかかわらず、とりわけ焦りを見せることなく大きく嘆息する。


「おや、ロイドくん。こんなところで会うなんて奇遇だねぇ。いったいどうしたんだい」


 まるで街中で偶然出くわしたかのように気の抜けた台詞を吐くユリウス。

 余裕を繕っているのでなく、本気でこの男は少したりとも動揺していないのだろう。


「それはこっちの台詞だ。おまえこそどうしたんだよ。今まで俺に見せてきた姿は偽物だったのか?」

「ご想像にお任せするよ。だけど、君たちへの好意は本物だ、とだけ言っておこうか」

「そうかい。どうだとしてもおまえを拘束して機関に連れて行く。全部話してもらうぞユリウス。いくらあんたが相当な使い手だったとしても、俺たち二人が相手ならどうだ。簡単に逃げられると思うなよ」

「……」


 ネロはユリウスを前にして一言もしゃべらない。

 正体を隠すためだろうが、話す気がないのなら今は俺がどうにかするしかない。


「どうしたユリウス。その手を放すんだ。まさか怖じ気づいて動けないなんて言わないよな」

「まさか、そんなわけがない。それにしても仮面の男と手を組んだのか。そうかそうか。君はこうして俺の動きを封じることでジルを救い、そして術の発動を止めることができると思ったわけだ。

 だが、残念だけどそれは叶わない。どうしたところで君たちの努力は報われないんだよ」

「何を世迷言を。いいか。おまえにできることは一つ、ここで素直に俺たちに屈することだけだ。容赦はしない」

「ははっ、友達想いで正義感の強い良い子だねぇ君は。こういうのは嫌いじゃない。だけれど――」


 ユリウスはまたもや不敵な笑みを浮かべる。


「タイムリミットだ。それでは、また別の選択肢を切り開いてみせるとしよう」


 それは突如として始まった。

 ユリウスの言葉を引き金にしたかのように突然、大地が脈動を始める。

 いや、実際は逆なのだろう。

 この異変が起こるタイミングで、ユリウスは行動を開始したのだ。


「さあ、その目に焼き付けるといい。ハルリスに眠る霊獣、その目ざめの瞬間を――!!」


 状況の変化は止まらない。

 ハルリスの街から次々に光の柱が立ち上る。

 それは霧を、雲を突き抜け空高く舞い上がる淡い緑の一筋。

 この神殿の奥を含め、合計で五つの柱が出そろったところで大地の脈動は静まった。


「――!? 何だ、何が起こっている」


 戸惑う俺を横目にユリウスは不気味に口元を歪ませる。


「何がって、君も知っているはずだ。今起こっているこの状況が何を意味しているのか。そしてこの先何が起こるのか」


 俺が知っていることだって?

 淡い緑の光は空という真っ白なカンバスに一つの模様を浮かび上がらせる。

 それはまるで天秤のような、それに近い模様を示しているようで……


「あの光の柱の位置――、まさか『星座の魔術』か!」


 動揺する俺を見て、ついにユリウスは堰を切ったかのように抑えていた嗤いを上げた。


「クク、クハハハッ――そうだよ。あれは天秤座に対応する中継点さ! つまりハルリスにある石碑の陣は既に俺たちの手中にある。もう君たちにこの流れを止めることはできないんだよ」


 ひとしきり笑い声をあげた後、ユリウスは落ち着いた元の調子で言う。


「それではさようなら。この地点の調整も終えたことだし、俺はひとまずここで退場させてもらうよ」

「逃げられると思っているのか」


 ユリウスの言動の意味が分からなかった。

 自分の両側には動きを止める魔術師と能力者の二人がいるのだ。

 そんな状況で無事に逃げ切る余裕が、今のユリウスにあるとは考えられない。


「ああ、思っているとも。例えばこのように――」


 ピキッと音を立て、ユリウスの頬にひびが入る。そのままユリウスの身体は氷のように白い彫像に変化していき、内側から弾けるように砕け散る。

 氷の粒となったユリウスは風に乗ってハルリスの中心地へと飛んでいったのだ。


「くそ、逃がすものか」

「落ち着けロイド。ここは僕が行くから、君はジルさんのことを頼む。君がいないと彼を温めてやれないだろ」


 ようやく口を開いたネロは解放されたジルの容態とその無事を確かめる。


「ジル、大丈夫なのか?」

「今はね。幸い凍死している部分もなさそうだ。喋れないほどに体力を消耗しているけど、君の炎に当て続けてやれば大丈夫だろう。もし必要そうなら病院にでも連れていってやればいい」

「何だかいいように使われていると感じたのは気のせいか? ……まあいいよ、分かった。ジルは俺が見ておくから、あんたはユリウスを追ってくれ。絶対に逃がすなよ」

「もちろん。絶対にとは約束できないけれど、最善を尽くすさ」

「そこは絶対にって言いなよ。不安になってくるだろ」

「ごめんね。気遣いが足りてないみたいだった。じゃあ、これ。渡しておくよ」


 言って、ネロは銀色の鉄の塊を投げてきた。

 受け取って確認するとそれは通信機として機能する魔術礼装だった。


「これは……」

「何かあったらその通信機に連絡する。使い方は分かるだろ? もしかしたら僕の代わりに女性の声がするかもしれないけど、その人は僕の相棒みたいな人だから。彼女も同じようにそう答えるだろう。……いや、もしかしたら『家族』と答えるかもね」


 そうしてネロは言うだけ言って俺の質問を待たずにハルリスの街へと駆けて行った。

 腑に落ちないな。説明の雑さもそうだが、どうして能力者であるネロが魔術礼装を持っているのだろうか。

 ティアが過去に魔術礼装を使っていたこともあるから理解できないわけではない。あいつはマーベルさんから様々な礼装を受け取って自分の武器にしているから。

 しかし、そうなるとこの礼装をネロに預けた魔術師がいることになる。

 あいつ、一人でこの異変に立ち向かっているわけじゃないんだな。

 燃え盛る大地は次第にもとの湿地へと戻る。

 ジルの肩を支えながら岩陰へと移動し、火を起こして身体を休めていた。

 先ほどまでの戦闘が嘘のような静寂。

 しかし、今もなお光の柱は消えることなく天を貫く。

 早く俺も追いかけなくては、と焦る気持ちがある。その一方でジルを置いてはいけないという心配も同時に存在していた。

 だから、もし俺がユリウスの後を追いかけていったとしても、ジルのことが気になって目の前の敵に意識を集中できなかったかもしれない。

 そういう意味でネロの判断はおそらく適切だったのだろう。

 まだまだ未熟だな。マーベルさんの足元にも及ばないと意識してしまうと自然とため息が出てしまった。

 息はまだ白かった。

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