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第4話 真実の扉・濃霧に包まれし氷結の都へ②

 午後二時頃。運営委員会より夏至祭の一時中断の連絡が入った。

 観光客の耳にも入るようにか、十五分おきに放送が入る。

 とりあえずこの霧そのものに危険がないことを確認すると、一旦店の中に戻りみんなで模擬店の場所まで戻ることにしたのだ。

 さすがにここまで濃い霧が出たとなると、魔術がどうとかいう以前の問題。湿気が品物や道具に悪影響を与えないかと不安になったのだ。

 連絡の言葉を信じるならば、一時中断であって決して中止ではない。

 だからだろう。他の参加者も出店場所に赴いては設備の点検をして、何時でも販売を再開できるように立ち回っていた。霧は一時的なモノ。数時間もすれば霧は晴れて元通り。皆そう思い、危機感などありはしない。

 俺たちが模擬店を出している場所まで急ぎ、そして到着する。

 昨日の賑やかさはまるでなく、嘘のような静けさだった。

 当然ではあるが、そこにティアの姿は見られなかった。


「よかったー。何とか無事みたいだな」


 そう安心したように言ったのはライノだった。


「無事って、何を見てそう言ってるの? 外だけ見ても分からないじゃない。……ん。中の機材も無事みたい。パンもケースに入れてるから大丈夫」


 と足早に移動販売車の中を確認するのはアイリだった。


「でもテントとテーブルがびしょびしょだな。いったん片付けておこうか」


 と俺は外に置いている設備を確認する。


「そのほうがいいかも。車の中、空けておくからそこに運んで」

「了解だ。ライノ、テーブル片付けるの手伝ってくれないか?」

「おう、ちょっと待ってな」


 とテーブルについた水滴を拭いてから二人で折りたたんで車の中に避難させる。


「アイリ、じゃまするぞー」


 そうライノが声を掛けるも反応はない。車の中で様子を見ていたはずのアイリがいなかった。

 適当なところにテーブルを置いて、次はテントを片付けながら確認する。


「ライノ。アイリいないのか?」

「そうみたいだ。どこにいったんだか……って、いるじゃん」


 ライノは近くの広場にある階段を指さした。

 そこで座り込み顔を伏せるエイラに「大丈夫?」と声を掛けるアイリがいた。様子がおかしかったので俺たちもすぐにエイラのもとに向かう。


「どうした、エイラ」

「ごめんね、何だか気分が悪くなっちゃって。午前中はなにもなかったのに」


 言って顔を上げたエイラ。その顔はまるで風邪を引いたときのように顔色を悪くしていた。


「おい、大丈夫かよ。あんまり無理するな。今の状況だと何もできないんだ。今のうちに一度家に戻って休んだ方がいいぞ」


 それでもエイラは申し訳なさそうに「え、でも……」と囁く。


「ロイドくんの言う通り。それ、我慢してもよくない」


 総じてエイラ気遣う。それに観念して「じゃあ、お言葉に甘えて」とエイラが立ち上がろうとした。

 その瞬間だった。



 ――キィィィン、



 何だか判別のつかない、気味の悪い音を耳にした。

 鈴の音、のような綺麗な音ではない。例えるなら金属同士がぶつかり合ったような共鳴音か。なんだ、この音?

 気を取られ、どこからなったものなのか気になりエイラから目を離す。

 続けてバタッと何かが倒れたような重い音。それが連続して起こる。

 バタッ、バタッ、バタッ、と――

 周りを見渡せば、店の準備をする人、ただ外を出歩く人、誰もかれも関係なく次々と前触れもなく倒れていく。その光景に目を見張る。


「――な、何が起こって……」


 そしてそれは、俺たちの目の前でも起きてしまった。

 バタッと、ものが倒れる音を聞く。


「――おい、エイラ。どうしたんだよ。おい、おいエイラ!」


 叫ぶライノの声。

 そこには、力尽き眠ってしまったかのように倒れ伏すエイラがいた。

 エイラを抱えるライノに、様子を心配して確認するアイリ。


「どうしよう、エイラ動かない」

「どうしようって、俺にもわかんねえよ」


 突然の出来事で動揺する二人。

 そこで見えてしまった。エイラの周りにまとわりつく、薄っすらとした虹のようなものが。それは魔力で編んだ糸のようで、ライノとアイリには見えていないようだった。

 不意に脳裏に映るジルから知らされた写真の結晶体。

 そこに埋め込まれた人間と、石碑と繋ぐ虹色に光る糸状の靄。

 魔力や精気を奪われ絞りつくされた、やせ細った死体。


「――あ、ああ……」


 何故今の今まで気が付けなかったのか。

 何故今の今まで魔術の対策をしようと思えなかったのか。

 何故今の今まで他人事としてうつつを抜かしていたのか。

 忘れたとは言わせない。

 つい数か月前の悪夢を。

 エレナが呪いの苦痛に耐え続けていたあの日々を。

 不甲斐ない俺のせいで、巻き込まれて苦しんだあの娘たちこのことを。

 それをエイラにも味わせる気か。

 ふざけるなよ、ロイド・エルケンス。

 どれだけ堕ちれば気が済むんだ。


「――ライノ!」


 堰を切ったかのように叫び、行動を始める。

 ライノとアイリの肩に触れ、二人の周りに取り巻いていた霧を魔力の流れで振り払う。そして薄い膜を形成させた。

 これで数分の間は霧に当たらずに済むだろう。以前、気配を隠すために使っていた魔術の応用ではあるが、上手く働いてくれるかは正直不明だ。


「な、なんだよロイド」

「今すぐアイリを連れて一緒に家に帰るんだ」

「あ、ああ。でもエイラは? エイラはどうするんだよ」

「俺が病院まで連れていく。エイラのことは任せてほしい。だからライノも早く!!」

「う、――わかったよ。行けばいいんだろ。よくわかってないけど、お前も気をつけろよ」


 言われ、ライノからエイラを受け取り抱え直す。


「ごめんな、突然出しゃばってしまって」

「いいさ。何もできないよりは幾分マシだよ。行こう、アイリ。ここはロイドに任せよう」

「……うん」


 言って、足早にライノとアイリはこの場を離れるのだった。


「エイラ、すまない。すぐに動くことができなくて……」


 誰も聞いていないであろう囁き。

 それでもこれが、せめて自分への戒めになるように。

 病院に行く、と言ったがあれは一時しのぎの嘘だった。

 実際に考えていたのは俺の家に運ぶこと。

 結界も張っているし、治癒の魔術に必要な材料も揃っている。

 俺はぐったりと眠るエイラを抱え、街中を全速力で走っていた。

 辺りには壁際でエイラと同じように昏睡状態に陥った者。

 意識はあるものの動けない者。

 その人たちを看病する者。

 様々な人がこの霧による魔術の被害を受けていた。

 そんな中、建物と建物の間から颯爽と飛び出す人影が一つ。


「――ロイドくん!」


 それは俺を探して走り回っていたティアだった。

 今は能力者としての力を隠す気がないようで、その動きはまるで獣のような俊敏さだった。


「ティアか。どこ行ってたんだよ」


 走ることを止めずにティアに話しかける。


「ごめん、いろいろ走り回ってたんだ。でもやっと見つけた。ねえロイドくん、どこに行く気? もしかしてエイラさんの家に行く気じゃないよね。だったら考え直して。この現象はまるで――」

「魔術儀式、だろ。それも俺がテレジアでやってきたのような睡眠付与とは違う。この街全体から人々の精気を奪っているんだ。

 元が健康な人は不調を訴えるだけで昏睡はまぬがれているようだけれど、エイラみたいに少しでも体調が悪いと、こうして意識を持っていかれる。

 応急処置はしたけれど、今も少しづつこの霧を通して精気を奪われているかもしれない」

「じゃあどうするの。霧をどうにかしないとエイラさんはこのままってこと?」

「だろうな。だから、一旦は俺の家に連れて帰って治癒魔術を使ってみる。家には結界を張っているから、霧を入れないように気を付ければ体調も元に戻るはずだ。エイラの家に連れて帰るのはそれからだ」

「でもロイドくん。それだけだとだめだよ」

「何がだよ」

「それだと、この街の人たちが救われない。原因を突き止めて早くこの霧を晴らさないと」


 真剣な眼差しのティア。こいつは本気でそんなことを言っているのだろう。そして言うからにはどんな手を使ってでも成し遂げようとするはずだ。

 本当に驚きだよ、こいつは。だからこそ、あの時俺の企みは失敗に終わったわけだが。


「だがどうする。そうしている間にも事態は刻一刻と進んでいくんだ。原因を突き止める前にこの街が終わってしまうぞ」

「そうならないようにするのがわたしたち、じゃないの? わたしたちだけでダメならジルさんに力を借りるのもありだよね。ていうかもうあの人は動いてるかも。だからわたしたちはわたしたちでできることをすればいい。ロイドくん。この件の原因、心当たりってあったりする?」

「心当たり、か。一つだけあるよ。数日前、試験の結果発表があった日だ。その日にジルと一緒に湖の神殿で目にしたんだ。絶えず湧き出す霧の流れを。もしそれが街にまで流れてきたのだとすれば、――」


 そこで俺の言葉は遮られる。

 また俺の目の前にティアと同じように突然人が現れたからだ。

 しかし、今度はティアのように俺と親しい人物ではない。


「その通りだろうな」


 建物の陰からでなく俺たちの頭上、建物の屋上から飛び下りてくる慣れない気配。二度も俺の前に現れては不可解な行動をとっていった仮面の男だった。

 仮面の男に道を遮られ、俺たちは仕方なしに走ることを止めた。


「またおまえか。今度は一体何の用だよ。今は急いでるんだ。何もないならそこをどいてくれ」

「あるからここにきたんだ。ロイドさん、力を貸してほしい。今すぐに湖の神殿に向かうんだ」

「は? 今の状況分かってるのか? エイラをすぐにでも治さないといけないんだよ。今はおまえに付き合っている暇はない」


 すると、仮面の男は俺の背で眠っているエイラに向けて目を凝らす。


「まさか君の友人もやられたのか」


 この一言でわかってしまった。仮面の男は今まで聞いたことがないような気を遣う優しい口調になっていた。

 怪しさは拭いきれないが、しかしこの男は本質的な部分でティアに似ているのだろう。他人のため心を痛め、そして他人のために動ける善性の持ち主。


「ああ、そうだよ。だから一旦は、俺の部屋に匿おうとしていたところだ」

「……」


 仮面の男は腕を組み、そして数秒考えると「それはお勧めしないな」とつぶやいた。


「どうしてだよ」

「この騒動はすでに街全体で起きている。もちろん彼女の親御さんの耳にも届いているだろう。そのような状況で娘の行方をつかめなくなったらどうする。気が気でいられないはず。今すぐにでも彼女を自宅まで送るべきだ」

「エイラの家で治癒の魔術をかけろってか?」

「それこそお勧めしない。無駄な労力というものだ。これは『星座の魔術』による魂の捕食に類するもの。たとえ治療しようが、それは一時しのぎにしかならない。無尽蔵に精気を奪われ続け、また倒れることになる」

「じゃあどうしろっていうんだよ」

「大本を絶つ。それしかないだろ」

「それが湖の神殿だっていうのか」

「そうだ。だが、僕一人では手に負えない可能性がある。そこで君の力を借りたい」


 仮面の男を信じきることはできない。けれど、こいつの言っていることが的を射ているのも確か。話を聞く余地はあるようだけれど……


「だけど、もしおまえの言っていることが本当のことだとしても、やっぱりそう簡単には信じられない。おまえのような自分の正体を隠した怪しい奴ならなおさらだ。

 俺はこの騒動をどうにかしたい。おまえも力を貸してくれるってのなら、せめてその仮面をとってくれないか」


 仮面の男はまたも腕を組み、思考する。

 俺を見て、そしてティアを見る。

 そして自分で何かに納得したように頷いた。


「……そうか。仕方がないな。あまり顔を晒したくはなかったが、この霧なら大丈夫だろう」


 そうして仮面の男は、自身の顔面に手をやり、すっとその仮面を外す。

 次第に見えてくる整った顔立ち。薄い緑色の瞳。それはもし俺が女性だったら、見惚れて声も出なくなりそうなくらいのものだった。

 現に隣にいるティアは驚きを隠せない様子で口をパクパクさせている。


「――あ、ああ……」


 仮面の男の素顔を指さし、そしてティアは叫んだ。


「あー! もしかしてネロさん!? うわ、全然気が付かなかった」

「っておい。何言ってるんだ!? ティア、こいつのこと知ってるのか?」


 全くの予想外な事態が起きてしまった。

 正体を突き止めるために、まず仮面を外してもらうところから始めてもらったわけだが。その後の作戦を講じることなく彼の正体がわかりそうだった。


「うん、わたしの友達の友達? 家族……? まあそんな人なんだよ。ロイドくん、この人だったら信じて大丈夫だよ、きっと」

「おまえの考え、全然伝わらないんだけれど」

「とにかくだよ。この人はわたしとレンちゃんとニコルちゃんを繋いでくれた恩人なんだ。親友になるきっかけを作ってくれた人。絶対いい人だよ」


 と言われてもどうしても信じられなかった俺は、何故だろう目の前の仮面の男に解説を求めてしまった。


「ティアさんとは久しぶりだね。僕の名前はネロ・ヴァイス。さっき言葉に出てしまったけど、僕は能力者だ。ただし、人の手で作られた疑似能力者だけどね。そういうことで経歴はちょっとややこしいから落ち着いたときにでも話すよ。

 それと、ティアさんの言うことに間違いはないよ。数か月前に彼女と知り合ってね。実際仲良くなったのは僕じゃなくて、僕と一緒に行動していたカレンって女の子のほうだったんだけれど」

「でも、カレンさんからよく聞いてるから、いい人だってことはわかるよ」

「ありがとう、ティアさん」


 言って微笑むネロという男。

 ティアがここまで親しく話しているのを見て、なんだか俺の警戒心が無意味なのではと錯覚してしまうじゃないか。

 人知れず、大きなため息をするのだった。


「ネロ、といったな。いったんはおまえを信じるとする。そこで、おまえにはこの事態を解決する策はあるのか?」

「策ならある。単純な話だよ。このハルリスにある石碑の位置を考えると、湖の神殿にある石碑が儀式を進めるのに一番適した場所だからだ。

 あそこは天秤座のなかでいうズベン・エス・カマリ、つまり一番強い光を発する星の位置だからな。ここまで言えばわかるだろ」

「その儀式場にいる魔術師を潰して、儀式そのものを妨害しろとでもいうのか」

「ああ、そうだ。よくわかってるじゃないか。あれは一対一の決闘じゃないと発動しないからね。僕たちが駆け付け妨害した瞬間に儀式の進行は止まる」

「そうか。けれど俺の手を借りたいってのはなんでだよ。別に俺でなくてもいいはずだ。それとも、あんたひとりじゃダメな理由でもあるのか」

「それはね、つい数分前に君の友人にしてハルリスを管理する魔術機関のひとり、ジル・ロイヴァスさんが湖の神殿に向かってね。

 僕だけで向かっても怪しまれるだろ。そこで君に仲介役を頼みたいんだ。それだけじゃない。もちろん君の魔術も頼りにさせてもらうよ」


 なんだかこのまま流されてしまいそうな雰囲気であったが、ここでジルの名前を出されてはどうしようもない。

 もう一緒に行く以外の選択肢はないじゃないか。


「ティア。すまないがエイラのことを頼んだ」

「え、どういうこと」

「今から俺たちは湖の神殿に向かう。あそこは星座の魔術を起動するのに最適な場所だ。そこに能力者のおまえを連れていくわけにはいかない。

 だから俺の代わりにエイラの家まで送り届けてやってほしいんだ。やってくれるか?」


 ティアは悩み俯いてしまう。そして恐る恐る不安げに聞いてきた。


「――ちゃんと、帰ってきてくれる」

「え?」


 その真意がわからなかった。

 帰ってきてくれるかと問われれば、もちろん帰るに決まっている。

 自分の家にしても、ティアの下にしても同じだ。

 しかし、ティアが言いたいことはそういう意味ではなかったらしく、


「今度はちゃんと元のロイドくんのままで帰ってきてくれるって約束してくれる?」


 そう問うてきたのだ。もうそれだけで理解できた。

 内心で大きく嘆息する。

 そっか、そうだよな。テレジアで俺が犯した最初の裏切り。俺がしてきた過去の悪行がここにきてまたティアを不安にさせてしまった。


「……ティア。俺はもうあんなことはしないよ。おまえはあの時、俺を命がけで止めてくれたじゃないか。その気持ちを無下にするほど馬鹿じゃない。約束するよ。絶対に変わらず俺のままで帰ってくるから」


 ティアはまだ不安げに上目遣いで俺を見る。


「本当?」

「本当だよ。今の状況で嘘を吐く理由がどこにある」

「……うん。そうだね。約束だからね。もし破ったらアーネストさん呼ぶからね」


 ティアは微笑む。もしかしたら無理やり気持ちを自制しての表情かもしれないが。それでも今この時点で俺を信じてくれたことに感謝したい。


「それは最高の脅しだな。でも大丈夫だよ。ちゃんと帰ってくるから」


 俺も微笑んだ。せめて少しでもティアを不安にさせないように。



          ◇



 あの後ティアにエイラを任せ俺とネロは湖の神殿に向かって走った。

 先導して前を走るネロはというと、先ほど外した仮面をまた付け直していた。理由を聞いても、


「見られたくないやつがいるからだ。あと可能な限り名前は呼ばないでほしい」


 とだけ答えてそれ以上に詳しくは教えてもらえなかった。

 街の通りは未だ騒然としていた。けれど車の駆動音はひとつもない。交通機関の全てが止まっていることもあり、自らの脚に頼るしかなかった。

 そのせいか、森の入り口に到達するのに三十分もかかってしまった。

 さらにここから奥に進むわけだが、前回来た時と比べ濃い霧が悪影響を及ぼし完全な闇と化していた。

 頼りになっていた太陽の陽射しも、木々の枝と霧に遮られている。


「おい、ここを進むのか?」

「ここでなくても同じだ。それともこれだけで怖気づいてしまったのか」

「そんなわけあるか」


 肩をすくめ、俺は灯りの代わりとして小さな火を灯す。森の闇は晴れ、数メートル先の地面までは見えるようになった。おかげで地面の凹凸や躓きそうな根の位置は把握できる。


「これで少しは安全に通れるんじゃないか? 懐中電灯みたいに遠くまで照らすことはできないけどさ」

「そう思うと化学の技術ってすごいよな。スイッチひとつで今と同じかそれ以上のことできてしまうんだし」


 そう言って懐から懐中電灯を取り出し灯りを灯す。それは俺の炎以上に森の奥まで照らしていた。


「……持ってるのかよ」

「霧が出た時点で近くの店によって買ってきた」

「そりゃあ用意周到なことで」


 パッと炎を消す。微量であっても魔力を消費する炎の光。懐中電灯があるのならと、無駄な行為はやめることにした。



          ◇



 数分の間、辺りの地形に気つけながら進んでいると、ネロが腕を伸ばして行く手を遮ってくる。そこは丁度この先は侵入者を防ぐための鉄条網のある場所だった。


「ロイドさん、一旦止まってくれ」

「どうした。この先が気になるのか?」

「ああ。この先に鉄条網があるだろ、ちょうどそれに重なるように結界が張られているんだが……」


 言われて気付く。この先には鉄条網とは別に空間を遮る魔力の壁が張られていた。その魔力はジルの所有するものに似ている。


「その結界、ジルが張ったものだな。特に気にせず突破してもいいと思うけれど……」


 けれど妙だ。結界は普通そこに存在しているのかどうかも判別できないはず。発動者か、すでにここにあると知っている者を除けば、の話だが。

 こうして部外者の俺やネロにも感づかれてしまっている。その時点で結界にどのような効果を持たせようと意味がなくなってしまう。


「そうだったらよかったんだけどな。ジルと言う魔術師が張った結界。ずたずたに破壊されている」

「ということは、ジルが結界を張った後に誰かが侵入したってことか?」

「おそらくな」


 だとしたらジルに危険が迫っている可能性が高い。

 焦る気持ちが俺の中で大きくなってくる。


「急ごう。ジルが危ない」

「そうだな。思い過ごしだといいけど……」


 呟いて、鉄条網を乗り越えてからまた奥に向かって走り出した。

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