アルティメット・アンデッド
「……さて。盤面は整ったな」
薄暗い廃倉庫。ハイスペック台の筐体が放つ、毒々しくも射幸心を煽る閃光が、蓮司の頬を照らしている。
彼の周囲には、今や「最強」と呼ぶに相応しい仲間たちが揃っていた。圧倒的な武力、緻密な情報網、そして戦場を支配する異能。だが、彼らがどれほど強くとも、この『デッド・オア・スタティスティクス』という不条理なゲームの盤上において、最後の一押しを決めるのは「打ち手」である彼自身のステータスだ。
蓮司は手元のデバイスに表示された確率表を、スナック菓子の袋を開けるような軽やかさでフリックした。
「最強の仲間は手に入れた。これでお膳立ては完璧。なら……そろそろオレ自身の『強化イベント』も、ついでにやっとくか」
その口調には、悲壮感も、決死の覚悟もなかった。まるで、明日の設定状況を予想するような、あるいはボーナス確定画面を待つ間のコーヒーを買いに行くような、そんな日常の延長線上にある平熱のトーン。
彼が狙っているのは、パチ・スロ界において最強と謳われる特化ゾーン。
対峙するは、概念上の「不死身」を体現したような絶望的なボス。そして迎え撃つのは、全ステータスを限界突破させた「アルティメット状態」の自分自身。
この二者が揃った時、継続率90%超という狂ったループバトルが発生する。
だが、そこには致命的な欠陥があった。
アルティメット状態の負荷は、人間の肉体では数ゲームと持たない。どれほど高継続を引こうが、器が壊れればそこで終了だ。
「だったら、器の方を『壊れない仕様』にアップデートすればいいだけの話だろ?」
蓮司が取り出したのは、禍々しい紫色の液体が満ちた注射器。それは、生物を強制的にゾンビ化させ、肉体の損壊という概念を無効化する禁忌の薬剤。
普通なら、人間を辞めることに逡巡し、絶叫し、ドラマチックな別れがあるはずの場面。
しかし、彼は。
「……よし、期待値プラス。これ、注入」
迷いなく針を刺した。
血管を黒い汚染が走り、心臓が停止し、細胞が腐敗と再生を同時に繰り返す超克の苦痛。それすらも、彼にとっては「特化ゾーン突入時の激しい役物演出」程度の認識でしかない。
「ぐ……っ、あぁ……。なるほど、これが『ゾンビ属性付与』の演出か。派手な割に、処理落ちはしてないな」
数秒後。
そこに立っていたのは、生ける屍でありながら、神の如き数値を計算し続ける「バグ」そのものだった。
ゾンビ化による無限の再生能力。これによって、アルティメット化の自壊ダメージは完全に相殺される。
つまり、90%超ループという確率は、もはや「引けるか引けないか」の勝負ではなく、彼が「いつ飽きるか」という一方的な蹂躙へと書き換えられたのだ。
「不死身のボスに、死なない俺。終わらないバトル。……これこそが、永久機関(永久連チャン)の正体だ」
蓮司は血の混じった笑みを浮かべ、レバーを叩く。
もはや、運命に翻弄されるプレイヤーではない。
彼は今、自らをゾンビという名の「最強の基板」へと改造し、確率の神から主導権を奪い取ったのだ。
「さあ、見せてやるよ。ゾンビの粘り強さが、統計学をどこまで上ブレさせるかをな」
最新話の幕が開く。
スナック感覚で人間を辞めた男・蓮司の、理論上最強の「閉店取り切れず」が今、始まった。




