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異常値(アウトライアー)の少女

切り立った断崖が続く「孤高のコルツァ連峰」。レンジたち一行は、次の街へのショートカットとして、標高3000メートルを超える岩道を淡々と歩いていた。

「レンジ、まだ着かないの? えるミンが重たくなってきたわ……」

「我慢しろ、リノン。最短ルートを選んだ結果だ。えるミンの魔力供給があれば、高山病のリスクも計算上は無視できる」

リノンの腕の中で、純白のオコジョ「えるミン」が「きゅい」と頼もしく鳴く。ハクレンは静かに周囲を警戒しながら、黙々と険しい道を進んでいた。

だが、山頂付近の広場に出たところで、その「計算」が遮られる。岩陰から現れたのは、この山をナワバリにする魔獣「バルガス・ギル」だった。

「チッ、エンカウントか。ハクレン、前方を持たせろ! リノン、えるミンの魔力を杖に回せ。1/16の低確率でも、試行回数でねじ伏せるぞ!」

レンジの指示に合わせ、パーティが戦闘態勢に入る。だが、魔獣の皮膚はあらゆる衝撃を吸い込む特殊な構造をしていた。

「レンジ殿、拙者の斬撃が通らぬ! 衝撃が表面で霧散していく!」

「おかしい……あの皮膚の減衰率を突破するには、今の僕たちの火力を10倍に跳ね上げる必要がある。……物理的な勝率は、0%だ」

レンジが絶望的な数値を弾き出したその時、頭上の雲を突き抜けて、一人の少女が降ってきた。

「おじさん、諦めるのが早すぎるって! 1%あるなら、それは実質100%じゃん!」

少女——ユラは、着地の寸前に何もない空間を、まるで鋼鉄の床があるかのように力強く踏みつけた。

空中凝縮踏ポアソン・ステップ!」

空中で爆音が響き、落下速度が瞬時に殺される。驚愕するレンジを尻目に、ユラは空中の「薄い確率」をバネにしてさらに加速した。

「バカな!? 空中には踏むものがない。二度目のジャンプができる確率は0%だ、これは算数の問題だぞ!」

「おじさん、頭硬いよ! 空中の空気分子が、たまたま一箇所にギュッと固まって『足場』になる確率は、ゼロじゃないでしょ? 私はリスペクトする南田風みなみだかぜ先生の『熱血!銀河インパクト』を何百回も読み込んで、その『空気の特異点』を見つけることに成功したんだから! 1/100万の激アツフラグを、自力でねじ伏せるのが『主人公』の生き方だよ!」

ユラはそのまま魔獣の懐へ潜り込み、拳を構えた。

「いくよ! 振動倍速撃レゾナンスパンチ!」

シュッ、という軽い一撃目が魔獣の皮を揺らす。それはレンジの目には、無力な空振りに見えた。だが、ユラはすぐさま二発目、三発目を、寸分違わぬ位相で叩き込んだ。

「ドゴォォォォン!!」

一発目の打撃で生じた震えが、皮膚の奥から戻ってくる最高のタイミングで次撃を重ねる。本来はバラバラに起きるはずの打撃が、完璧な同期シンクロによって威力を倍々ゲームで膨れ上がり、鉄壁の魔獣を内側から爆発させた。

「……ありえない。独立試行のはずの衝撃を、相関係数1.0で完璧に重ねただと? 統計学的な『誤差』を、破壊エネルギーに変換しているのか!」

魔獣は絶叫と共に谷底へと消えていった。

嵐が去ったような静寂の中、ユラはボロボロの『熱血!銀河インパクト』を抱え、ニカッと笑ってレンジに手を差し出した。

「漫画だと、助けてくれた人が仲間になるのが『お約束』でしょ? 私も連れてってよ、おじさん!」

レンジは震える手で眼鏡を直し、手帳に新たな項目を書き加えた。

「……やれやれ。えるミンの過剰供給バッテリーに、ハクレンの盾、リノンの火力……そこに君のような『異常値アウトライアー』が加われば、もはや管理図なんて意味をなさないな」

レンジはユラの手を握り返した。

「いいだろう。君のその『1/100万を確定させるトンデモ理論』、僕が最高の期待値を叩き出すように運用してやる」

最強の矛、最強のバッテリー、そして確率を書き換える特異点。

5人と1匹の「勝てるパーティ」の旅が、ここから本格的に幕を開ける。

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― 新着の感想 ―
結構おもろくなってきた、それはそうと前回はなんだったのか
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