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白銀の「死のダンス」と、招かれざるマスコット

カザナ村を救ったレンジたちは、次なる目的地を目指し、険しい雪山を越えていた。

将軍の魔結晶を換金し、懐は潤っていたが、リノンの魔力ポーション消費量と、ハクレンの(見た目維持のための)メンテナンス費用を考えると、安泰とは程遠い。

「……レンジ、ちょっと休憩しない? この吹雪、視界も悪いし、私の可愛い顔が凍りついちゃうわ」

「ダメだ。このペースだと、予定している『魔力供給都市』の到着が半日遅れる。半日の遅れは、その後の依頼受注の成功率を15%下げる計算だ」

レンジが地図と懐中時計を交互に見ながら冷たく言い放った、その時だった。

雪に埋もれていた何かが、勢いよく飛び出し、リノンの胸元へ飛び込んだ。

「キャッ! な、何!? ……あら?」

リノンが抱きかかえたのは、一匹のオコジョだった。

しかし、ただのオコジョではない。背中には、まるで天使のような、真っ白で小さな羽根が生えている。

「きゅ~う!」

クリクリとした大きな瞳。純白の毛並み。小刻みに震える小さな身体。

「な、なによこれ……! 超絶可愛いんですけど! 天使? 雪の精霊?」

リノンは一瞬で心を奪われ、オコジョを頬ずりする。

ハクレンも、その愛くるしい姿に、僅かに表情を緩めた。

「ほう……珍妙な生き物だが、気高さすら感じる白さだ。拙者の着流しに負けぬ美しさだな」

「フン。無駄に魔力を消費してそうな羽根だな。……おい君、野生ならさっさと雪に帰りなさい」

レンジだけは、そのマスコット然とした存在を、冷ややかな目で見つめていた。その時、レンジの脳内のデータベースが、この生物の正体を弾き出す。

(……この特徴。伝説上の魔獣『フェンリル』の幼体、あるいは亜種か? だが、あまりに戦闘力が低そうだ。……待て、オコジョの習性と言えば……)

「きゅい!」

オコジョはリノンの腕からスルリと抜け出すと、雪の上に立った。

そして、不思議な行動を始めた。

ぴょんぴょんとリズム良く跳ね、身体をくねらせ、まるで何かの儀式のように、円を描きながら踊り始めたのだ。

「あらやだ、ダンス? 可愛い! レンジ、見てよ、あの子、私たちに歓迎のダンスを——」

「……違う。リノン、ハクレン、下がれ! そいつから離れろ!」

レンジの声音が、これまでにない鋭さで響いた。

「あれは歓迎じゃない。……**『死のダンス(ウィーゼル・ダンス)』**だ!」

野生のオコジョが、獲物を催眠状態に陥れ、油断させるために行う、狂気の舞踏。

そのダンスが最高潮に達した瞬間、オコジョの小さな身体から、吹雪を切り裂くほどの圧倒的な魔圧が放たれた。

「きゅ、……ギシャァァァァァァァッ!!」

可愛らしい鳴き声は、地響きのような咆哮へと変わった。

純白の毛並みは逆立ち、小さな羽根は巨大な氷の翼へと変貌する。

数秒前までリノンの腕に収まっていた小さな身体は、見上げるほどの巨大な狼——伝説の魔獣**『フェンリル』**へと、姿を変えていた。

「な……ッ!?」

リノンが腰を抜かし、ハクレンが即座に抜刀の構えをとる。

フェンリルモードとなったオコジョ……いや、**「えるミン」**は、真っ赤に濡れた瞳で、レンジたちを睨みつけた。その殺気は、先日の骸鳥将軍すら凌駕する。

「チッ……やっぱりか。可愛い外見という『演出』に騙された。こいつは、特定の条件下でしか突入しない、**最上位の『モード』**が本体だ」

レンジは冷や汗を流しながらも、手帳を取り出し、フェンリルの動きを解析し始める。

「ええい、レンジ! 解析はいいから、どうにかしなさいよ! 食べられちゃう!」

「ハクレン、無闇に突っ込むな! 今のこいつは『完全無敵』状態だ。物理も魔法も通じない。……このモードは、一定時間が経過して魔力が切れるのを待つしかない!」

雪山を揺るがす、伝説の魔獣の咆哮。

レンジたちは、このあまりに理不尽な「マスコット」の暴走を、果たして生き延びることができるのか。

そして、レンジは、この狂気の魔獣すらも「計算」に組み込むことができるのか——。

「……面白い。この破格の性能、上手く『飼い慣らせば』、期待値は跳ね上がるな」

極限状態の中、レンジの口元が、微かに歪んだ。

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