敵襲
カザナ村に辿り着いたレンジたちを待っていたのは、活気ではなく、静まり返った恐怖だった。空は不気味に澄み渡り、遥か上空には魔界軍の飛行部隊『スカイ・レギオン』が旋回している。
彼らは降りてこない。ただ、一定の間隔で隕石のような魔力ビームを村へと撃ち込んでいるのだ。
「……レンジ、見て。あの空。いつ降ってくるか分かったもんじゃないわ」
リノンが怯え、村人たちは窓を閉め切り、家の中で震えている。しかし、レンジは怯えるどころか、地面に落ちた焦げ跡を一つずつ計測し、村長から過去の被害記録を聞き出していた。
「村長、過去三ヶ月の着弾時刻と正確な場所を教えてくれ。……ふむ、なるほど。一見ランダムに見えて、明確な『周期』と『偏り』があるな」
レンジは村の地図を広げ、精密な計算を始めた。
「いいか、空からの攻撃には一定のパターンがある。魔物の編隊の回転数、魔力の充填速度……それらを計算すれば、次にどこが危ないかは予測できる。明日の正午、着弾地点は北西の井戸付近から東の広場へ移行するはずだ」
「予測できるというのかね? あんな気まぐれな天災を……」
「天災じゃない。あれは設計された攻撃だ。設計されたものには必ず『癖』が出る」
翌日。レンジは村人全員を、過去一度も被害が出ておらず、計算上も攻撃が及ぶ可能性が極めて低い「空白地帯」へと避難させた。
直後、空から光の雨が降り注ぐ。
轟音と共に家々が炎上するが、レンジが指定した安全地帯には、火の粉一つ飛んでこなかった。
「……データの通りだ。どれほど激しい攻撃でも、法則さえ掴めれば安全は確保できる」
レンジの冷徹なまでの冷静さに、村人たちは救世主を見るような眼差しを送った。
しかし、平穏は長くは続かなかった。空からの牽制が終わると同時に、ついに魔界軍の中ボス『骸鳥将軍』率いる地上部隊が村へ押し寄せたのだ。
「レンジ! 敵の本隊が来るわ! どうするのよ!?」
「リノン、ハクレン、作戦開始だ。この戦い、長期戦は考えない。一気に決める」
レンジは村中からかき集めた魔力回復薬をリノンの横に山積みにした。
「リノン、お前はここで最大火力の魔法『フィン・デル・ムンド』の詠唱を続けろ。発動に失敗しても構わない。成功するまで、何度でもだ」
「ええっ!? でも、あれは成功率が低いのよ!? 失敗するたびに魔力を使い切るし……」
「ポーションはいくらでもある。試行回数で強引に引き当てるんだ。君が成功させるまでの時間は、僕とハクレンで稼ぐ」
リノンが祈るように詠唱を始める。
「……ダメ、失敗! また次よ!」
敵軍が迫る。ハクレンが前に出た。
「ハクレン、お前の『一切皆空』で敵の密集地帯を削れ。隙は僕が埋める!」
「承知……! 逃さぬ。一切皆空!」
ハクレンの超絶的な抜刀が、先遣隊を瞬時に塵へと変える。しかし、放った直後、ハクレンの身体が凍りついたように止まる。技の反動による「硬直」だ。そこへ、敵の残党が槍を構えて突っ込む。
「死ね、人間!」
「……そこだ! 食らえ!」
レンジが投げ込んだのは、魔石の粉末と発光体で作った特製の閃光弾だ。至近距離で激しい光が炸裂し、敵は目を押さえて悶絶する。
「ぐわっ! 目が……見えん!」
「ハクレン、あと3秒で動ける。……2、1。よし、いけ!」
「助かる! 二の太刀……一切皆空!」
ハクレンの絶対的な火力と、レンジの計算された足止め。二人のコンビネーションが、絶望的な数差を埋めていく。しかし、肝心のリノンの魔法がなかなか成功しない。
「レンジ! ポーションがもう残り少ないわ! どうしよう、次で最後よ!」
「リノン、深呼吸しろ。確率は常に一定だ。だが、これだけ外れが続いた後なら、次は『来る』はずだ。自分を信じるな、僕の計算を信じろ」
リノンが最後の一本を飲み干し、絶叫とともに杖を振り抜いた。
「お願い……当たってぇぇぇ!!」
その瞬間、大気が震えた。
杖の先から溢れ出した漆黒の奔流が、空を覆っていた魔界軍を、その中心にいた将軍ごと一瞬で飲み込み、消滅させた。
「……計算通りだ。試行回数を稼げば、奇跡は必然になる」
静寂が戻った村で、レンジは手帳を閉じた。
莫大な投資の末に得られたのは、村の平和と、将軍が遺した巨大な魔結晶。
「……ふぅ。これでようやく、次の旅の資金ができたな」
冷徹な軍師と、二人の凸凹な仲間たち。彼らの「勝率」を追い求める旅は、まだ始まったばかりだった。




