コンボ
咆哮と共に、巨大な冷気の刃が雪原を切り裂く。フェンリルと化した「えるミン」の攻撃は、まさに暴力的なまでの高出力だ。
「ハクレン、防戦に徹しろ! 今のあいつは全ステータスが上限突破している。下手に触れれば一撃でこっちのライフが尽きるぞ!」
「無茶を言うな! 拙者の刀が、冷気で鞘に凍りつきそうだ……!」
リノンは恐怖に震えながらも、逃げ場のない雪壁に追い詰められていた。えるミンは赤い瞳をギラつかせ、トドメの一撃を放とうと大きく口を開く。
「……待て。あの『演出』、さっきも見たな」
レンジの脳内で、先ほどえるミンが見せた「死のダンス」のステップが高速再生される。
「リノン、怖がるな! あいつに近づいて、耳の付け根にある『羽根の付け根』を撫でろ! 今の暴走は、魔力回路のオーバーフローによる熱暴走だ。そこが排熱スイッチになっている!」
「えええっ!? 食べられちゃうわよ!」
「あいつの攻撃判定は直線的だ。僕が誘導する、その隙に潜り込め!」
レンジは懐から予備の鉄板を取り出し、雪面に放り投げる。金属音に反応したえるミンが顔を背けた瞬間、リノンはレンジに背中を押され、巨大な毛並みの中へと飛び込んだ。
「ええい、ままよ! よしよし、いい子だから……落ち着きなさーーい!!」
必死の形相で指先を潜り込ませ、スイッチを「ねじ切る」ように撫でる。
刹那、フェンリルの巨体が霧散するように縮み、純白の小さなオコジョへと戻り、リノンの腕の中へストンと収まった。
「きゅ……ぅ……」
「……はぁ、はぁ。止まった。……死ぬかと思った……」
嵐が去り、焚き火を囲む一行。リノンの腕の中で、えるミンは満足げに丸くなっている。レンジは焚き火の爆ぜる音を聞きながら、えるミンの呼吸と魔力の揺らぎを、パチスロの挙動を推測するように凝視していた。
(……間違いない。今の大人しい状態でも、微弱な魔力の漏れ出しがある。さっきの暴走との差、そして周囲の魔素の吸収速度。……この『個体設定』、とんでもない数値を叩き出しているな)
「なによレンジ、怖い顔して。この子、やっぱりただの可愛いオコジョじゃないんでしょ?」
「ああ。こいつは絶えず周囲の魔素を吸収し、体内で精製し続ける**『生きた超高性能バッテリー』**だ。さっきの暴走は、溜まりすぎた魔力が放出できずに溢れた、いわゆる『強制放出モード』だったんだろう」
レンジはリノンの杖と、えるミンの身体を交互に指差した。
「リノン、お前は1/16の確率でしか魔力を形にできない『低燃費』。対してこいつは、使い道のない魔力を垂れ流し続ける『過剰供給』。……つまり、こいつを常に抱いていろ」
「えっ? こうやって?」
リノンがえるミンを抱きしめると、杖の魔力インジケーターが、かつてない速度で最大値まで跳ね上がった。
「これなら……ポーションを飲まなくても、何度でも撃てるわ! 試行回数が稼げる!」
「そうだ。これからはポーション代の『投資』を抑えつつ、お前の大魔法を『連チャン』させることが可能になる。ハクレンのメンテナンス費用を引いても、収支は劇的に改善するな」
「きゅい!」と誇らしげに鳴くえるミン。
レンジは手帳に新たな攻略項目を書き込んだ。
【新戦術:魔力無限ループ(えるミン・システム)】
「最強の矛と、最強のバッテリー。そして、隙を埋める盾……。ようやく『勝てるパーティ』の布陣が整ってきたな」
雪山の夜明け。確かな手応えを感じながらも、レンジはただ、冷たい空気の中に漂う次の期待値の匂いを探していた。




