間 章 荊木小百合の独白
最近、またあの変態に付きまとわれることが多くなった。もう本当に勘弁してほしい。
私は幾度となく拒んでいるというのに、まるであの変態は、私のことを恋人か何かのように扱ってくるのだ。鬱陶しい。虫唾が走る。私には最愛の『彼』がいると説明しても、そいつは誰だと問い返してくるばかりで、決して引こうとはしない。むしろその『彼』とは自分のことだとか、私が素っ気ないのは照れているからだとか変な解釈をしているらしい。本当に気持ちが悪い。
どうすれば、あの変態のストーカー行為を止めさせることができるのか。
そう思っていた矢先、先日、校内で人死にがあった。場所は保健室で、亡くなった方は私の知らない三年生の女子生徒だったらしい。
まさか……とは思う。
保健室。女子生徒。そして遺体が発見されたのが早朝ということから、亡くなったのは先日の夕方から夜間にかけてだと推測できる。保険医が三日間の出張で居ないこのタイミング、つまり保健室はほぼ無人の状態だった。
たとえそれが殺人だったとしても、目撃者は皆無だろう。
その可能性は十分にある。そして犯人があの変態であると、私は睨んでいた。
証拠はない。ただ状況的に、あの変態が犯人であり、そうであったなら私が嬉しいというだけの、ただの願望だ。別に他意はない。
けど、本当にそうだとすると……。
途端に、『彼』のことが心配になった。『彼』はアイツのことをよく思っていないはずだ。万が一の話だけど、もしかしたら犯人を知った『彼』が無謀に走ってしまうかもしれない。事件のことはすべて警察に任せておけばいいのに、『彼』は私のこととなると、後先考えずに猛進してしまう癖があるのだ。
もしそうなったら、私は『彼』を止めようと思う。
この日常を、この偽りだらけの平穏を壊したくないから――。