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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
350/351

難題

 七子の部屋を出て、自分の部屋に向かうドライは急な悪寒に包まれた。咄嗟に振り返るが、そこには誰も居なくて、思わず大きめの溜息を洩らした。すると、耳元で軒猿の声が五感を揺さぶる様に響いた。


「あの狼は何だ?」


「……狼? ローボの事か? あれは獣神だ」


 普通に答えたつもりだが、ドライの声は少し掠れていた。気付くと、軒猿の顔が近くにあった……十四郎とも七子とも違う異様な感じは、ドライを内側から激しく刺激した。


「神、なのか?」


 軒猿は表情を変えず、口元だけで言った。


「少し違う……例えるなら、亜神……」


 ドライ自身も、完全には把握していなかった。


「なら、あの赤い髪の化け物は?」


 軒猿の声は、少し笑っているようだった。


「あれは魔物だ……紅の獣王だ」


 ドライも自分で言いいながら、声が震えた。


「魔物か……面白い……見てはないが、神もいるのか?」


 表情から、軒猿の思考を読もうとするドライだったが、思考自体が停止していた。


「ああ、青い鳥の女神。ライエカ」


「見たのか?」


「……ああ。普通の小鳥に見えるがな……」


 ドライ自身、あれが本当に”神”なのかは半信半疑だった……が。


「ふっふっふ……」


 怪しく口元だけ笑う軒猿の姿は、ドライの思考を暗い闇へと導く。だが、そんなドライの思考とは反対に、軒猿の脳裏には地獄を超えた幼い頃の記憶がフラッシュバックしていた。


 自我に目覚めた時……そこには、愛情や慈悲など欠片もなかった。あるのは目的を果たす為の命を削る修行だった。暗くて狭い小屋の中で、同じ年頃の子供達……。


 各自の顔には生気など無く、獣みたいに粗末な食べ物を食べる……そして、また一人一人と消えて行く。その先に希望などと言う言葉も意味も無く、救いを求める”対象”すら思考の中に存在しなかった。


「東の国の調略はどうだ?」


 ふいに軒猿が聞いた。自分と七子以外に知らない事のはず……だが、ドライは軒猿の虚ろな目に吸い込まれる様に答えた。


「既に……半数以上の貴族は押さえた」


「西の島国は?」


「まだ、二割にも満たない……」


 その言葉に軒猿は口元を緩めた。


「第三皇女が”魔法使い”の所に居るからな……で、最中の隣国は?」


「戦況は有利だ。もう少し押せば、かなりが寝返る」


 自分でも分からないが、何故が七子に報告する様にドライは答えた。


「調略の定石は”端から”だ……挟み撃ち程、怖いものはない。隣国に手こずり削られると隙が出来る」


「……」


 つい先程、七子と軍議していた事を軒猿が話す事の違和感がドライを包んだ。聞かれていたのか? とも思ったが軒猿の様子にドライは思った。


 ”似ている”……と。


 そんな様子のドライを見下す様な目線で、軒猿は見据えて言った。


「黄金騎士とか言う最強の騎士も、あの女以外残っていない……青銅騎士とか言う見習いも数は減った」


「何が言いたい?」


 ドライは突き刺す様な視線を向けた。


「あんたは、白銀の騎士なんだろ? 武と智を兼ね備えた……あんた以外は騎士団長として、戦線を支えているが、戦死もチラホラ聞く」


「だから……」


「青銅騎士は数字で呼ばれ、白銀騎士は”名”を与えられ、黄金騎士は自ら名乗る……」


 軒猿の言葉に、何度も心の中で”だから何だと言うのだ!”と、叫んだ。ただ、その言葉はドライの口から出る事はなかった。


___________________



 砦に戻ると、ツヴァイが代表して説明した。


「なる程、状況は分かりました。こちらも受け入れ態勢は進んでいます、皆さんは休養して下さい」


 ロメオは休養を促して、十四郎達は地下にある部屋に分かれて行った。だが、ビアンカだけは皆が居なくなると、ロメオを地上に呼び出した。作業中の現場の反対側、誰も居ない城壁の上に腰を下ろしてロメオは笑顔で聞いた。


「何かお話でも?」


「……何も言わないんですね」


 ビアンカは消えそうな声で言った。


「何か言って欲しかったんですか?」


 穏やかな笑顔で、ロメオはビアンカを見詰めた。


「……十四郎が苦しんでいるのに……私は……何も出来ない」


「それは、私達も同じですよ」


 穏やかにロメオはそう言うと、ビアンカが言葉を発する前に続けた。


「戦況は芳しくなく、フランクルは苦戦しています。どうやら寝返る貴族が増え、内部崩壊を起こしつつあります。そして、モネコストロは更に厳しいですね……元々少ない戦力でしたが消耗は激しく、精鋭の近衛師団も大半は前線に投入されました」


「えっ……」


 ロメオの言葉にビアンカは戦慄に包まれ、更に続く戦況報告に言葉を失った。


「問題はモネコストロでさえ、寝返る貴族が出て来たと言う事です。そして、更に難しい問題が発生しました……ガリレウス殿が我々の目的を伝え、王家と話し合いましたが、返事は保留されたそうです」


 ビアンカの中でロメオの言葉が、黒い何かを纏い渦を巻く。眩暈がして、ふら付くと何かがビアンカ身体を支えた。ふと視線を移すと、それは銀色のローボだった。


「持たざる者が、持つ者に何もかも捨てろと言うのが、どれ程難しいか」


 ローボの言葉は、更にビアンカを追い込んだ。最初から分かっていた事だった、分かっていても先送りした……。


「……ローボ……どうすれば……」


 ビアンカは言葉を絞り出す。


「結局、力で服従させるアルマンニの魔法使いのやり方が正解なのかもな」


 ローボは吐き捨てる様に言った……それも、ビアンカの内心では気付いていたが……その時、脳裏に済まなそうに笑う、十四郎の笑顔が浮かんだ。すると、ビアンカの顔に生気が蘇る。


「そうだな、お前達の魔法使いの出番かもな」


 ローボはビアンカの顔を見て、鋭い牙を光らせた。



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