込み上げるモノ
立ち竦む十四郎の傍で、ローボが呟いた。その霞む視線の先では、ビアンカを先頭に掛け替えの無い”仲間”達が戦っていた。
「正気に戻ったか?」
「……はい」
十四郎の声は小さかった。
「あいつ等の戦い方は、まるで正気の時のお前だな」
ローボの言葉は、十四郎の胸に突き刺さった。暫くの間を置いて、ローボは厳しい声で言った。
「信じて付いて来る者を裏切るな」
「……はい」
肩を震わせる十四郎の傍に、ヨロヨロとツヴァイが来た。
「我々が支えます。十四郎様は思うままにすれば良いのです」
ツヴァイは穏やかな笑顔で言った。十四郎は肩を震わせた……胸の奥底から、何かが込み上げた。そして、暫くの間を開けローボは十四郎を見ないで呟いた。
「あの両手剣……何だか、お前やアルマンニの女と同じニオイがする」
その言葉は、十四郎の胸の奥底を激しく揺り動かした。
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「何なのだ?!」
マインシュタインは経験した事の無い戦いの中で、自らの”常識”が崩れ去るのを感じていた。彼等は強い、常識外れに強い……だが、何かが違う……戦場に於いて必須、否、この世界に於いての必然が……無かった。
「これは戦いではない……」
呟いたマインシュタインは、周囲を見渡した。約半分は大の字になって失神しており、半数もビアンカ達に一方的にボコられていた。
「ここらで、引いて貰えませんか?」
近付いて来た十四郎が、穏やかに言った。近くで見る十四郎には威圧感など微塵もなく、穏やかな表情は逆にマインシュタインに畏怖の念さえ感じさせた。
「何故だ?」
マインシュタインは言葉を絞り出した。向ける言葉など、それしかなかった。
「私たちは、あなた方に無事に帰って欲しいだけです」
「我らは斥候! 捕まった時点で死だっ!」
穏やかな十四郎の言葉を、マインシュタインは怒号で返す。しかし、十四郎は悲しい眼でマインシュタインを見た。そこに、やや息を乱したビアンカが近付き、アウレーリアも傍にやって来た。
至近で見る二人の”女神”は、百戦錬磨のマインシュタインでさえ心拍を上昇させた。
「帰って下さい」
ビアンカは真っすぐにマインシュタインを見詰め、それだけ言った。マインシュタインはまるで魔法に掛けれれた様に、撤退を告げた。
帰る途中、マインシュタインだけでなく全ての兵士は、まるで夢を見た様にフラフラと歩いていた。
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「鬼斬りか……ゾクゾクした……」
軒猿は怪し気に呟いた。
「そうか……で、これからどうする?」
椅子に深く腰掛けた七子は、静かに言った。
「……あの女、凄まじい強さだ……この世のモノではない。が、何なのだ?……あんな、感じは初めてだ……」
少し首を傾げ、軒猿は呟くが口角は上がっていた。
「あの女?」
七子の問いとは違う返事だったが、七子の胸が一瞬チクリと痛んで、思わず聞き返す。
「銀の髪に、逆さ十字の紋章……良い眼だった……まるで虫けらを見る様にオレを見ていた……いや、違うな……生き物とさえ見ていない視線だった」
その言葉は七子に溜飲を下げさせるが、軒猿は続けた。
「そうだ、もう一人。金髪の別嬪がいたな……あいつも強い」
「そうか……」
七子は短く頷いたが、微かに手は揺れていた。
「で、何なんだ、あの戦い方は?」
「……命を奪わない戦い方、と、言ってる様だ」
七子は吐き捨てる様に言った。
「ほう、それで殺気が無かったのか……」
軒猿は口角を上げた。
「何故笑う?」
七子の視線が軒猿に刺さる。
「あれは自らの意思なのか、それとも誰かの指示なのか……あんな化け物を従わせるのに、更に上の”力”が働いてるのか……どれ程……いや、どんな”力”なんだろうな」
軒猿は怪しい視線を七子に向けた。その視線を受け流し、七子は壁を見た。
「まあ、オレには関係ない……しかし、ここは良い世界だ……維新の小競り合いなどではない……まさに、群雄割拠の戦国時代だ……楽しくて仕方ない」
少し間を置いた怪しい軒猿の笑みは、アウレーリアやビアンカなど見ていなかった。部屋を出て行く軒猿の背中を見送り、それまで黙って傍に居たドライが呟いた。
「あの者は危険です」
ドライは七子の横顔を見るが、僅かに唇の端を噛み締める仕草に胸の奥に痛みを感じた。




