ステータス
特待生達の簡単な自己紹介が終わり、教室に静かな沈黙が流れる。
そこへ、タイミングを見計らったように扉が開き、数人の生徒とともにクローバーが戻ってくる。
「ただいま〜! ……って、あれ? キーとは?」
クローバーが首をかしげて辺りを見渡すと、すぐ背後から控えめな声が返ってくる。
「います」
そこには、先生のすぐ後ろにぴたりと立っていたキーとの姿があった。
「あっ、いたいた! も〜、先生の後ろにいるなんて……気配、薄すぎ〜!」
クローバーはくすっと笑ってから、くるりと振り返る。
「じゃあ、みんなそろったね! 特待生のみんな、次は能力測定にいくよー
特待生の6人は、クローバーに連れられて学院の一角にある能力測定の部屋までやって来た。
天井の高い部屋の中央には、大きな水晶のような装置が据えられている。その表面には淡く魔力が脈打っており、近づくだけで空気がピリリと緊張感を帯びる。
「はーい、それじゃあ説明するね」
クローバーが水晶の前に立ち、にこにこと手を叩く。
「この水晶は《識晶石》って言ってね、魔力の性質や強さ、得意な分野なんかを読み取ることができるの。順番に手をかざしてみて。しばらくすると、周りに色や光が現れて、みんなの特性がわかるようになるよ」
そう言って、軽く手をかざしてみせるクローバー。水晶の中心がふわりと光り、やがて静かに脈動を止めた。
「それとね、この測定が終わると《ステータスプレート》っていう個人用の魔法カードが自動で出てくるの。名前や魔力の傾向、特性なんかが記録されてて、これからの授業や訓練でも使うことになるから、なくさないようにね〜!」
彼女が指差したのは、水晶の台座の脇に設けられた小さなスロット。どうやらそこからプレートが排出される仕組みのようだった。
「ね、こんな感じ♪ 難しく考えなくて大丈夫。緊張しなくていいからね〜」
生徒たちがわずかに頷き、徐々に前へと進み始める。測定の時間が、静かに始まろうとしていた──。
「ま、まず私からいくわ」
少し緊張した面持ちで、ソヤが一歩前に出る。水晶の前に立ち、そっと手をかざすと──
ぱあっと淡い光が広がり、水晶が脈打つように明滅を始めた。数秒の沈黙ののち、「カシャン」と音を立てて、奥の装置から銀色のステータスプレートが滑り出してくる。
「……これが、私の……!」
ソヤはプレートを手に取り、目を通すと、ぱあっと顔を輝かせた。
「魔力はちょっと低いけど、パワーはすごく高い……! よかった……!」
胸にプレートを抱きしめながら、照れくさそうに列の後ろへと戻っていく。
「はい、ソヤちゃんおつかれさま♪ うんうん、しっかり個性が出てるね」
クローバーの明るい声が響く中、他の特待生たちも順に測定を行っていく。
オモチは魔力の値が高く、反対にパワーは控えめ。繊細な魔法に向いていそうな数値だった。
そして——ノヴァとミケチの番になると、空気が少しだけ引き締まる。
ミケチは、プレートを見て目を丸くした。
「パワー、こんなに……?」
その数値は、学院の基準を明らかに超えていた。並の戦士ですら歯が立たないほどの身体能力——まさに、前線向きの力を持っていた。
一方のノヴァもまた、静かにプレートを見つめたまま、小さく息を吐く。
「……へぇ。悪くないな」
その魔力量は、平均値を遥かに上回っていた。特に魔法制御の精度や詠唱速度に関する項目は突出しており、学院でも指折りの素質を示している。
「このふたり……やっぱり只者じゃないな」
クローバーが思わずそうつぶやくほどに、ノヴァとミケチの結果は目を引いていた。
「次は私ねー!」
元気よく声をあげて前に出たのは、赤毛の少女、ウィズリー。
にっこり笑いながら手をかざすと——
バシュッ!
まばゆい閃光が一気に水晶から溢れ出し、床に広がる魔法陣が激しく脈打ち始めた。
「うわっ……!」
特待生たちが思わず目を覆う中、水晶の中には複数の色が絡み合い、極めて高密度の魔力波が現れる。
「え、ちょっと……この反応、完全に規格外なんだけど……!」
クローバーが驚きの声を漏らす。
続いて静かに前へ出たのは、キートだった。
「……」
彼は何も言わず、ただ手を水晶へとかざす。
——瞬間、何の前触れもなく水晶の内部が深く光を帯びた。
ズン、と空気が低く震える。光でも音でもない、**“圧”**のようなものが部屋全体を満たす。
「ま、また……!?」
再び浮かび上がった複雑な魔紋は、さきほどのウィズリーのものとまったく異なる様相を示していた。それはまるで、未知の系統魔法であるかのような反応。
クローバーの目が、にわかに本気の色に変わる。
特待生たちの中に、確かに“化け物”が混じっている。
そんな確信と共に、場の空気は静かに、しかし確実に変わっていった──。
能力測定を終え、ミケチとノヴァが小声で話し始めた。
「……ノヴァ。さっきの、見たよね」
「ああ。完全に規格外だったな、ウィズリーとキートは」
「僕、《フィーネ》外してたけど……もし付けてたとしても、全然届かなかったと思う」
ミケチが苦笑すると、ノヴァも軽く肩をすくめた。
「俺たちも十分すごいって言われたけどな。……でも、あいつらは次元が違う」
「……だからこそ、だよ」
ミケチの声に、静かな熱がこもる。
「この学院生活で、僕は追いついてみせる。どれだけ時間がかかっても」
「俺もだ。絶対、追いかけて、並んで、追い越す」
ふたりの目が交わる。
そこにあったのは、悔しさではなく、燃えるような挑戦心。
“化け物”に挑むための、第一歩を踏み出したばかりだった。
⸻
「入学式があるから、特待生のみんなは学院の中央ホールに集まって。私はクラスのみんなを呼んでくるから!」
そう言い残すと、クローバーは小さく手を振り、足早に教室へと戻っていった。
「じゃあ、私たちも行こうか」
ソヤが優しく声をかけると、オモチもこくりと頷き、ふたり並んで教室を後にする。
ノヴァとミケチも視線を交わし、続いてホールへと歩き出した。
――――――――




