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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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衣香の本音

夕方の4時半、冬なので外はもう暗くなり始めていた。

クリスマスイブというだけあって、カップルが思った以上に多い。

「龍弥くん」

振り返ると、衣香がいつものようにニコニコしながら立っていた。

衣香はデートのために来ているが、龍弥は違う。

別れるために来ていた。

そう、今日こそケリをつける決心をしていた。

なので、今この場で別れ話をするつもりだった。

「衣香…あのな」

「行こう!」

衣香は龍弥の言いかけているのを無視して、手を繋いで歩き出していた。

楽しそうに無邪気に笑っている。

出だしから衣香のペースになってしまい、言い出せないまま一緒に歩き出してしまった。

このままじゃマズい…

そう思っているのに、目的のイルミネーションは目前に迫っていた。

着くまでに言わないと…またこのままズルズル行ってしまう…

それでも言い出せない、いつものパターンになりかけていたとき、

衣香が突然言い出した。

「龍弥くんがわたしと一緒でよかった。竹下くんだっけ?彼と一緒だったら龍弥くん、かわいそうだもん」

竹下くん?彼?こいつ何を言ってるんだ?

「真央は女だぞ」

「でも元男じゃない。本人は女とか言い張ってるけど、そんなはずないし。少なくとも中身は男だもん。彼ね、もともとゲイだったんだよ。だから龍弥くんのこと好きって言ってるんだよ。でも龍弥くんはゲイじゃないもんね。だからわたしと一緒にいるんだし」

いつも通りニコニコしているが、どこか勝ち誇った笑みも交じっている。

龍弥が足を止めたので、繋いでいた手が伸びて衣香も止まってしまった。

「龍弥くん?」

龍弥は、その手を思いっきり振りほどき、衣香を睨みつけた。

「お前に真央の何がわかるんだよ!中身が男だ?ゲイだ?ふざけんな!」

龍弥が怒鳴ったので、衣香はビクッとなって少し怯えていた。

歩いていたカップルたちがジロジロと見ているが、龍弥は気にせず怒鳴り続けた。

完全にキレてしまったのだ。

「そりゃ、真央は確かに今年の4月までは男だったよ。なにが原因かわかんないで女になっちまったけど、女になってからの真央は本当に女で…中身もすげー女で、明るくて元気で、無邪気で、人のことをよく心配して、みんなに好かれていて…それが真央なんだよ!」

一瞬たじろいだが、衣香はすぐにニコニコして言ってくる。

「龍弥くんは騙されてるんだよ。それに龍弥くんの彼女はわたしなんだよ。あんな男女じゃないの」

衣香は性格が悪いのではない、独占欲が強すぎて、そのためなら手段を選ばない人間だった。

ライバルの真央を悪くいうことで、自分のほうがふさわしいという衣香のアピールなのだ。

しかし、それは龍弥にとっては完全に逆効果だった。

「やっぱり俺には無理だ。今、この場で別れよう」

ついに言い出すことができた。

それでも衣香は動じない。

「別れないよ。3年間も待たせておいて、龍弥くんにそんなこと言う権利ないよね」

「そこのところは俺が悪かったよ。ちゃんと3年前に別れなかったんだからな。そう思って、付き合おうと思ったけど…」

「そんなにあの男女がいいの?龍弥くんもゲイなの?」

「真央は女だ、俺は女の真央が好きなんだ。衣香、お前は3年間で性格が捻じ曲がっちまったんだな。少なくとも昔のお前は他人をそんなふうに言わなかった。お前が真央のことを侮辱しなければ、俺はまだ別れようとまでは思わなかったかもしれない」

衣香にわかってもらうには、本音をぶつけるしかないと思ったので、

龍弥がキッパリと言うと、衣香は目に涙を浮かべながら少しヒステリック気味に

言い返してきた。

「だって…龍弥くんを取られたくなかったんだもん!わかってたよ、龍弥くんがわたしじゃなくてあの子をずっと見てたの…でもね、そんなの納得できなかった!わたしはずっとずっと好きだったんだよ、引っ越してからも龍弥くんのことしか考えてなかったんだよ。だったら…真央ちゃんを無理やりでも悪者にして龍弥くんを手に入れるしかないじゃない…」

衣香は両手で顔を覆い、泣きながらその場にしゃがみ込んでしまった。

「衣香…」

肩を抱こうとしたが、一瞬躊躇って手を引っ込めてしまったが、

再び手を伸ばして龍弥は肩を抱いた。

「もっと…最初からそうやって素直になれよ。それに真央ちゃんって…本当は真央が女だっていうのもわかってるじゃないか」

「だって…こういう性格なんだもん…」

「損な性格だな…」

すると、衣香は顔をあげて涙を拭ってから笑みを浮かべて言ってきた。

「龍弥くんもね。好きでもない女に同情して付き合うんだもん」

龍弥の胸が痛んだ。

「好きでもないっていうのは違う…同情もあったけど、心のどこかにはずっと衣香はいたんだよ。けど、それ以上に真央のことが好きだったんだ」

今の衣香に言っても無意味かもしれないが、これだけはちゃんと言っておきたかった。

「ずるい言い方。でも…ありがとう」

衣香は立ち上がって微笑んでいた。

これはいつものように作っているものではなく、本心の笑顔だ。

「別れてもいいけど、条件があるの。真央ちゃんと付き合って、今すぐ!じゃないと別れない」

衣香がこんなことを言うとは思わなかったが、

龍弥には応援してくれている気持ちに応える義務がある。

「もちろん、ちゃんと付き合うよ。でも今すぐは…」

さすがに時間も時間だし…

そう思ったが、衣香はそれを許さなかった。

「クリスマスイブだよ、今言わないでどうするの!」

「だって急すぎだろ…」

「そんなの関係ない、真央ちゃんは絶対に龍弥くんと一緒にクリスマスイブを過ごしたいはずだもん。それを邪魔したのがわたしなんだけど…」

衣香は途中から申し訳なさそうな、後悔したような表情に変わっていた。

衣香にこんな顔をさせたらダメだ…じゃないと衣香の想いを踏みにじることになる。

「わかった、衣香の言う通りにする」

「うん、よろしい。あとね…もう一つお願いがあるの。真央ちゃんにごめんねって謝っておいてくれる?」

それは…俺が言うことじゃない。

「直接自分で言えよ」

「無理だよ!すごくひどいこと言っちゃったもん…」

「ちゃんと謝れば、真央は笑って許してくれるよ。あいつはそういうやつだから」

少し躊躇ったが、衣香は自信なさげに「わかった」と返事をしてくれた。

これで2人が和解してくれれば、龍弥としても嬉しい。

「じゃあ…わたし帰るね!」

「ああ、ありがとな」

そういうと、衣香は笑顔で手を振って背を向けて歩き出した。

本当にありがとう、衣香。

衣香のことも俺は本当に好きだったよ。

でも一番好きなのはやっぱりあいつなんだ!

龍弥はスマホを取り出して電話帳を開いた。

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