嫌な予感
香蓮は時計をチラチラと気にしていた。
7時かぁ…まだ一緒にいるのかな?
こっちから連絡したいけど、邪魔をしても悪いので今は我慢するしかない。
真央が龍弥と付き合ったかどうか、香蓮の一番の楽しみだ。
すると、「ピンポーン」とインターホンの鳴る音がしたので、真央?とワクワクしていた。
下から由紀恵の声がする。
「香蓮、真央ちゃんだよー」
予想通りだ!
階段をドンドンと上がる足音がする。
心なしか、足音が強い気がしたので、少し変な感じがした。
ガチャっと勢いよくドアが開き、真央が部屋に入ってくる。
その顔は怒っているように見え、香蓮は戸惑ってしまった。
「真央…?」
「香蓮、聞いてよ!意味わかんないんだけど」
やはり真央は怒っているようだ。
顔と口調が見事にリンクしている。
「真央、落ち着いて!ちゃんと聞くから」
香蓮がそういうと、真央は捲し立てるように話し始めた。
「わけわかんない女が突然現れてさ、いきなり龍弥に話しかけたんだよ。龍弥くんって。そしたら龍弥、なんでここにいるんだよ?とか言って逃げちゃってさ、なんなの一体?かなり意味不明なんだけど!」
唐突すぎて、香蓮にとっては真央の言っていることのほうが意味不明だ。
「真央、順を追って話して…。まず映画に行ったんだよね?」
「うん、2人で映画観た。そのあとブラブラして…あっ!」
ブラブラしているときになにかが起きたの?
真央はバッグを漁り始め、ボールペンと付箋を取り出した。
「かわいいの見つけたから買っちゃったの!」
それ…今はどうでもいいよ…
苦笑いをしながら「よかったね」と呟いた。
「それで?文房具を買ったあと」
「そのあと?そうだよ、そのあとだよ!ホント意味わかんない」
だから、そこを話してほしいんだって…
なかなか説明しないのを見ると、真央もそうとう頭にきているのか、
それとも混乱しているのか、とにかくそういう雰囲気だけは伝わった。
「ブラブラしてたら誰かと出会ったの?」
「ううん。そのあと、公園に行ったの。すごくいい感じでね、これ絶対に付き合うっていう雰囲気だったの!龍弥もなにか言いかけたんだよ。そしたらね、そのタイミングでいきなり知らない女が「龍弥くん?」って声かけてきたんだよ!そしたら龍弥。「あっ」て反応してさ」
「つまり木谷の知り合いだったんだ?」
「多分。なんか「久しぶり」とか「なんでここにいるんだ?」とかそんな会話してた。あっ、その女、こっちにまた越してきたからいつでも会えるとか言ってた気がする」
いつでも会える?幼馴染?それとも昔の恋人?
「それで、そのあと木谷は?」
「突然、今日は帰るって逃げてった。わたしもその女も置いて。意味わかんなくない?でね、女が友達?ってわたしに聞いてきたの。本当は恋人とか彼女って言いたいけど、まだ付き合ってないから友達ってしかたなく答えてさ、そっちは?って聞き返したら内緒って言ってその女もいなくなっちゃったの。は?って感じだよね!」
確かに「は?」と思うだろう。
けど、普通に考えて男女で一緒にいたら
友達?と聞くより恋人?と聞くほうが自然な気がする。
木谷の昔の恋人…
それが一番当てはまると思った。
だから龍弥は逃げた、女は素性を明かさなかった。
ひょっとして、木谷が真央となかなか付き合おうとしなかったのも、
その女が忘れられなかったからじゃない?
香蓮はどんどん推理していく。
「香蓮、聞いてるの?」
「あ…聞いてるよ。それで木谷から連絡とかないの?」
「LINEでどういうこと?って送ったら、あとでちゃんと話すって返ってきておしまい」
説明する気はあるんだ…
「ひょっとして元カノとかかな…」
不安そうに真央が聞いてくる。
さすがに真央も察したんだ…そりゃそうだよね。
それにしても…なんてタイミングなんだろう。
そんな偶然がなければ2人は今頃付き合っていたかもしれないのに…
香蓮はそれが残念だった。
「今はさ、あまり深く考えないほうがいいんじゃない?木谷も説明するって言ってるんだし」
「そうだけどさぁ」
「それに…今の木谷が好きな人は真央なんだから!」
親友として精いっぱい励ます。
それを聞いて、真央ははにかんだように「うん」と返事をしてくれたので少しホッとした。
ただ、これが余計な方向にこじれなければいいけど…
それだけが香蓮は不安だった。




