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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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気に入っちゃった

「いらっしゃいませ」

振り返ると、店員がニコニコしながら話しかけてきていた。

背は真央より少し低く、150cmないかもしれない。

それなのにスタイルはよくて、大人っぽい顔立ちもしている。

「どんな服をお探しですか?」

「あ、いえ…」

真央がモジモジしていると、巴菜が代わりに答えていた。

「この子のコートを探してるんです。今日は見に来ただけですけど」

「そうだったんですね。コートはこちらです」

何も答えなかった真央を店員は誘導して、どんなコートがいいのか聞いてきた。

「あの…どれも似合わないかなって…」

真央が素直に答えると、一瞬驚いた顔をしてから、すぐに笑顔で答えてくれた。

「そんなことないですよ。うちの服って可愛すぎるって思う人が多いんですけど、実際に着てみるとそこまでじゃないんですよ。試しにどれか着てみますか?」

そういいながら、店員は一つのコートを取り出した。

「ショートのダッフルコート、襟と袖のところがファーになっていてかわいいんです」

色は白なので、よけいにかわいく見えて、なおさら似合わなそうだと思った。

「絶対に似合わないですよ…」

「着る前から決めたらダメ!わたしは似合うものしか勧めないんだから」

店員は、急に強い口調になっていた。

わたしの言うことに間違いはない、と言わんばかりに自信が満ち溢れている。

「真央、せっかくだから着てみなよ」

巴菜にも促され、似合わないと思いながらも真央は袖を通してみた。

「うん、かわいい!はい、鏡見て」

店員に言われたので、しかたなく鏡を見る。

すると、真央に不思議な感情が芽生えていた。

「かわいい…」

この発した「かわいい」は、コートのことを言っている。

このかわいいコートを着ていることに対して、嬉しさがこみ上げてきて、

似合う、似合わないは問題ではなかった。

「ほらね。真央ちゃんにピッタリ」

店員は「真央ちゃん」と呼んでいた。

さっき巴菜がそう呼んだからだろうが、

とてもフレンドリーな感じがして嫌な気分はしなかった。

なんかこの人好きかも…

首には「今宮姫奈」と書かれたIDをぶら下げている。

今宮…ひな…かな?

「真央、すごくいいよ!本当に」

「そう、かな…」

真央は少し照れ臭そうな表情をしながらも、かなり気にいっていた。

問題は値段だ。

「これ、いくらですか?」

「えっと、1万7000円かな。やっぱり高い?」

高校生からすれば高い値段だ。

バイト代で買えなくもないが、

これを買ってしまうとほかのものがあまり買えなくなってしまう。

けど、真央はほしくてたまらなかった。

あまりしたくないけど…母さんに相談してみようかな…

真央は名残惜しそうにコートを脱ぎ、姫奈に手渡した。

「すごくほしいけど…ちょっと考えさせてください。ほかにもいろいろ買いたいのがあって…」

申し訳なさそうに真央が言うと、姫奈は気にする素振りもなくニコニコしていた。

「買いたくなったらいつでもお待ちしています」

やっぱりこの人はいい人だ。

真央は人間的に姫奈を好きになっていた。

「ありがとうございます。えっと…」

真央がネームプレートを見ているのに気づいて、またニコッと微笑んだ。

「ひなだよ、今宮姫奈」

やっぱり、ひなって読むんだ。

「姫奈さん、またきます!」

「うん」

姫奈は笑顔で送り出してくれた。

「あの人いいよね、わたしも前に買ったとき親身になって一緒に選んでくれたんだよ」

「へー、そうだったんだ」

巴菜も同じ感情だったので、ちょっと嬉しかった。

あれほど入るのに抵抗があったのに、楽しめてコートを買いたくなるような

気持ちにさせてくれたのは、姫奈の接客があったからかもしれない。

今度は香蓮も連れてこようかな!

このあと、ほかの服などを見て、値段をチェックしてから家に帰った。

計算してみると、やはり完全に予算オーバーだ。

足りないどころではなかった。

仮にロマンスドールのコートを買ったとしても、これ1枚で足りるはずがなく、

ほかのお店で安いのを買ったとしてもあと2、3枚は必要だ。

それ以外に、ニットも何枚か買いたいし、パーカーやワンピースも欲しい。

それにブーツにマフラーに…正直、ここまで多いとは思ってなかった。

秋は春に着ていたものも着まわしたりして対応できたが、

圧倒的に寒くなる冬では着回しがほとんどできない。

できるとしたらデニムなどのボトムズ系くらいだ。

やっぱり相談してみよう…

「母さん…ちょっといい?」

手招きすると、食器を洗っていた雅子が手を拭いてから真央のところまでやってきた。

「あのね、本当は自分のバイト代でなんとかしたかったんだけど…どうしても足りなくて」

「ああ、洋服ね。そうだよね、これから冬になるから全部買わないといけないもんね。真央、そういうのは遠慮しないで言っていいんだよ。バイト代でなんとかしようなんて思わなくていいんだから」

「だっていろいろ迷惑かけてるから…」

「真央もそういう気を使うようになったんだね。買い物行く前にお金あげるから、その代わりかわいい服ちゃんと買うのよ」

雅子はオシャレを楽しむ真央が好きだったので、ちゃんと「かわいい服」と言っていた。

「もちろん!ありがとう。あのね、ちょっと高いんだけどすごくかわいいコート見つけたの。買ったら見せてあげるから」

真央は嬉しそうに雅子に話していて、雅子はそれをニコニコしながら聞いていた。

そこに博幸がやってくる。

「2人でコソコソと何を話しているんだ?」

「どうせ父さんにはわかんないからいいよ」

「またそうやって俺をのけ者にして…」

「だって服の話だもん。父さんにレディースの服の話をしたってわかんないでしょ?」

「うっ…」

博幸は苦笑いしながらトイレに入っていった。

仲が悪いわけではないが、

どうも女になったから真央は雅子話すことのほうが多くなっている。

やはり女になったことで、同性の母親を頼ってしまうのかもしれないなと思った。

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