悪女が2人(笑)
翌日、真央は巴菜に買い物に行けるから、週末に行こうと誘ってみたが、
予定があるからと断られてしまった。
「ごめんね!今週末はどうしても外せない予定があるの」
「ううん、こっちこそいつも付き合ってもらってばっかりだから」
となると、もう1人しか残っていない。
「香蓮」
「仕方ないなぁ、土曜でいい?日曜は佑太とデートだから」
真央も日曜はちょうどバイトの日だったので、土曜のほうが都合がいい。
「うん、ありがとう!」
ただ、どこのお店に行くかは言っていない。
香蓮はかわいい系の服をそこまで着ないので、
きっとロマンスドールと知ったら驚くだろうな、と少し楽しみだった。
そして土曜日。
お店の前まで行って、香蓮が驚愕する。
「真央…ロマンスドールなの…?」
「うん。こないだ巴菜と来て、気に入っちゃったの」
香蓮はこないだの真央と同じような反応をしている。
土曜日だけあって、店内には客がそれなりにいて、
しかもみんな可愛くてオシャレな子たちばかりだ。
「真央、場違いだよ。ほかのお店行こうよ」
「そんなことないよ、行こう」
一度入っているからか、真央は慣れたように平然と店内に入っていくので
香蓮もしかたなく、真央の後をついていった。
うわー…めっちゃ女の子な空間…
その可愛さは、香蓮たちが大好きなコスメブランド、シャーロットフランシスを
はるかに上回っている。
「あら、いらっしゃいませ」
店員がニコニコしながら真央に話しかけていた。
「姫奈さん、こんにちは!」
「来てくれたってことは買いにきたのかな?」
「はい、あのコートを買います」
「ありがとうございます」
姫奈という店員と真央が親しげに会話をしている。
すごく仲良さそう…
見ている香蓮を真央が姫奈に紹介してきた。
「親友の香蓮です」
香蓮は姫奈に軽く会釈をする。
「親友かぁ…親友っていいよね」
初対面なのにとても親しみやすい人だなと思いながら、
香蓮は真央と姫奈の会話を聞いていた。
「真央ちゃん、買うのはコートだけ?」
「うーん…ほかもほしいかも」
いつの間に真央はこんなにロマンスドールを好きになったんだろう…?
ちょっと疑問を持っていたら、姫奈が香蓮に話しかけてきた。
「香蓮ちゃんはうちの服好きじゃない?」
「あ、いえ…好きとか嫌いじゃなくて、わたしには無縁だなって…」
すると、姫奈はニコッとしてから会話を続けてきた。
「こないだの真央ちゃんみたいなこと言ってる。うちにくるお客さんって最初はそういう人が多いんだよね、わたしには似合わないって。けどね、着てみるとそんなことないんだよ。試しに着てみない?」
それに真央が賛同してくる。
「着てみなよ!絶対に気に入るから」
気に入るというか…無理だよ…
いつもは香蓮が真央を振り回すが、今日は完全に逆になっている。
主導権は真央だ。
姫奈は、Aラインで首周りにファーが付いていて、
ポケットにリボンが付いているコートを渡してきた。
うわー…絶対にキャラじゃない…
そう思いながらも着てみると、香蓮はこないだの真央と同じような感情になっていた。
このコート、すごくかわいい!
「ね、気に入ったでしょ!香蓮も買っちゃいなよ」
確かに欲しい感情に駆られている。
これ着てデートしたら、佑太はどういう反応するかな…
想像しただけでワクワクしてきた。
その瞬間に香蓮はある悪だくみを思いついてしまった。
しかも今日はずっと真央のペースだったので、やり返す気満々だ。
「真央が、そのコート着て木谷とデートするなら買うよ」
「は?まったく関係ないじゃん!」
真央がいうことは正しい。
それでも、簡単に引き下がるような香蓮でない。
香蓮はすぐに次の行動に出た。
「姫奈さん、好きな人とのデートに着ていったらピッタリですよね」
「もちろん!うちの服を着ればかわいさ倍増だよ」
思った通りだ、姫奈さんは絶対に恋愛系の話に乗ってくると思った。
香蓮は心の中でニヤリとしていた。
「ほら、姫奈さんもこう言ってるんだし、それ着てデートしよう」
「しない!これはかわいくて気に入ったから買うの!」
すると、姫奈は香蓮の味方になって真央に言ってきた。
「でもデートしたら着るでしょ?彼氏喜ぶんじゃないかな」
「もう、姫奈さんまで…龍弥は彼氏じゃないです!」
「へー、龍弥くんっていうんだ。真央ちゃんの片思い?」
それについては、香蓮が説明し始める。
「2人とも両想いなのに付き合ってないんですよ」
「そうなの?もどかしいな…よし、うちの服で全身コーデしてデートしよう。それで告白して付き合う!いい作戦でしょ?」
そんなの作戦でも何でもない。
この人、香蓮並み…いや、それ以上に無茶苦茶な人だ…
だが、香蓮も「いい作戦」とノリノリになっている。
「その前に、全身ロマンスドールのコーデなんて無理!そこまでお金ないもん」
そう、それが現実だ。
決して安くはないので、いくら雅子からお金をもらったとはいえ、さすがに無理がある。
ところが、姫奈はニヤリとして小声で言ってきた。
「内緒で社割使ってあげる。わたしの社員証で買えば50%オフになるから」
「ホントに?」
思わず50%オフという言葉に目がくらむ。
「ホントに内緒だよ、こんなことお客さんにするの初めてだし」
「だったら何で…」
「わたしはね、恋をしている女の子を応援したくなるの!だから特別」
姫奈はとても嬉しそうに言っている。
本当にそういうのが好きなんだなと思った。
しかし、それに乗ってしまうと龍弥とデートをして付き合う流れになってしまう。
やっぱり断ろう…
ところが、断るより先に姫奈がどんどん服を持ってくる。
「わたしに任せて!とびっきりのかわいいコーデにしてあげるから」
「よかったね、真央!」
「あはは…」
真央は苦笑いするしかなかった。
なんでこんなことになっているんだろう…
そう思ったが、状況はもはや手遅れだった。
「真央ちゃんは細いから、このニット似合いそう」
フリルとリボンのついたニットを真央の身体に合わせてくる。
「こっちのニットもいいんだけど…やっぱり最初のだね」
姫奈は、真央の承諾も得ずに決定して、次にスカートを持ってきた。
「やっぱりデートにはスカートだよね♪」
「ですよね!真央は足細いからスカート似合うんですよ」
香蓮と姫奈は他人事だと思って楽しそうに選んでいる。
もう…どうでもいいや。
ロマンスドールの服が安く買える、それだけでよしとしよう。
半ば諦めた真央は、2人のいいなりになった。
「デートの報告を楽しみにしてるからね」
会計を済ませた後、姫奈にそう言われたので「はい…」と苦笑いをして答えておいた。
姫奈が笑顔で手を振り、真央と香蓮は軽く会釈をしてからロマンスドールを後にした。
「やったね、半額で買えるなんてラッキー!」
ついでで香蓮も半額でコートを買えたので満足している。
それに関しては真央も嬉しい限りだが、龍弥と付き合うためにデートという、
本人の承諾もなく勝手に決まったことには、憂鬱以外なにもなかった。
「そんな顔しないでよ!両想いなんだから早く付き合ったほうがいいって。クリスマスだって控えてるんだしさ」
真央は「あっ」という顔をした。
クリスマスという存在を忘れていたからだ。
元々男の頃は彼女もいなかったし、こういうイベントごとには無縁だったため、
特に気にしていなかった。
言われると意識し始める。
確かに…クリスマスに一人は嫌かも…
龍弥と付き合うことを少し前向きに考えだした真央だった。




