文化祭1日目
翌日、朝の7時からみんなで準備を始める。
オープンは10時からで、あと3時間だ。
料理班は前日に切ってあった野菜などを鍋に入れて煮込み始めたり、
ご飯を炊いたりと大忙しだ。
真央たちは交代でウェイターをやるので、その確認などをしている。
「香蓮のエプロン姿って新鮮」
「それをいうなら真央だって」
料理をしない真央と香蓮は、
たかがエプロンをしただけでもちょっと得意な気分になっていた。
「いらっしゃいませ、ご注文は決まりましたか?どう??」
「いい感じ!真央、さすがコンビニでバイトしてるだけあるよね」
巴菜も交えて3人ではしゃぎながらオープンの時間を待つ。
「カレーのいい匂いがしてきたね」
「味見したくない?」
「したいしたい!」
3人でこっそりと覗きに行くと、源治がカレーの入った鍋をお玉でかき回していた。
「なに?」
「いい匂いだから、どんな味かなって思って」
「味は完璧だよ。僕が作ったんだから」
当然だろ、と言わんばかりに特気な顔をしている。
ますます味見してみたくなった。
「味見したいんだろ、いいよ」
源治は小皿にカレーを移して渡してくれたので、3人で試食してみた。
「おいしい!」
「だから完璧だって言っただろ」
こういう言い方をされると悔しいが、完璧と言い張るだけのことはある。
もっと食べたいと思ってしまったほどだ。
「これならお客さんたくさんくるね」
「問題はパンケーキだよ。ちゃんとデコレーションできるかな」
源治はそれだけが不安だと言っていた。
パンケーキの上にホイップクリームとチョコレートソースをかけて
オシャレな感じにする予定だが、このオシャレな感じにするのが意外に難しい。
源治もこれは専門外というので、お菓子作りの好きな女子たちがやることになっているが、
その女子たちもあまり自信はなさそうだった。
こういう作業で大事なのは器用さだ。
いかに丁寧に器用にやれるか、失敗すると見た目がおいしくなさそうになるので、
かなり重要な役割だ。
「わたし無理だ…絶対にできない」
「香蓮はパンケーキすら焼けなそうだもんね」
「それくらいはできるよ!」
巴菜にからかわれて、香蓮がムッとしていたので、真央はそれを見て笑っていた。
そうこうしていると、まもなく10時になる。
「じゃあ俺たちはチラシ配ってくるから」
龍弥たちがチラシを持って教室を出ていこうとしたので、
真央はその龍弥を呼び止めた。
「龍弥、ちゃんと女子にも渡してね」
「わ、わかってるよ!」
龍弥たちが行ったのを確認してから、真央たちも最終準備に入った。
龍弥が健吾と廊下を歩いていたら、ニヤニヤしているのに気づいた。
「なんだよ、気持ちわりーな」
「最近竹下と仲いいなって思ってよ」
「う、うるせーな。アイツとは昔から仲いいだろ」
「そうじゃなくてさ、今の竹下って結構かわいいじゃん。男だった頃を忘れるくらい。だからいいと思うぜ」
「だから違うって言ってるだろ!」
好きだというのがバレたくない一心で、龍弥は全力で否定する。
「あ、そう。じゃあ俺が狙おうかな。俺結構マジで竹下いいと思ってるんだよ」
「そ、そう…なのか?」
龍弥はそれを聞いて動揺していた。
すぐさま健吾が笑いだす。
「動揺してんじゃねーよ!やっぱり好きなんじゃねーか」
「う、うるせー!あいつは友達だ!!それよりチラシ配るぞ」
龍弥は強引に話題を変えて、歩いている生徒たちにチラシを配り始めていた。
10時を過ぎ、5分くらいしてから3年生の女子たちが教室に入ってきたので、
香蓮が席まで案内した。
「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ」
女子たちは「カレーのいい匂いがする」とはしゃいでいた。
香蓮はメニューを渡し、「お決まりになりましたか?」と確認。
「カレー2つとパンケーキ、あと紅茶を3つ」
「はい、かしこまりました」
伝票にそれらを記入して、奥に持っていく。
「注文きたよ!カレー2つとパンケーキ、あと紅茶3つ」
香蓮が元気に言うと、「はーい」と返事が返ってきて、
料理班とドリンク班が慌ただしく準備を始めていた。
そうこうしていると、ほかの客もやってきて、今度は真央が接客する。
それなりに賑わい始め、みんなが忙しくなっていった。
「コーラとパンケーキ2つずつ!」
「こっちはお茶とカレーを3つ」
用意されると、それらをお盆に乗せて客へと運んでいく。
「お待たせしました」
飲み物をこぼさないようにそっとテーブルに置き、そのあとにお皿を一つずつ丁寧に置く。
「ごゆっくりどうぞ」
ローテーションで休憩を挟みながら、午後2時になって、やっと閉店となった。
「あー疲れた…こんなに人がくると思わなかった」
「なんかカレーが評判らしくて、みんな食べに来たみたいだよ」
源治が自慢するほどのカレーは大人気だった。
真央たちも、あの味なら頷けると納得していた。
そんななか、一旦全員が集まるように杏華が指示し、実行委員として話を始めた。
「みんな、今日はお疲れさまでした!明日はもっと忙しくなると思うから、今日はさっさと片付けて明日に備えよう」
そう、土曜の今日は、学校の生徒のみだったが、明日は一般の人たちも来る。
忙しさは倍になると考えてよさそうだ。
みんなもそれに賛成して、テキパキと片づけと明日の準備に取り掛かった。
「そういえば香蓮、明日って佑太くん来るんでしょ?」
「うん、友達と一緒にくるって言ってた。あ、彼じゃないって言ってたからね!」
彼とは佑太の親友、創のことだ。
真央に好意を持っていたけど、やり方がムチャクチャで嫌われてしまい、
二度と会いたくないと思うほどの人物だった。
「それならいいけど…その友達も紹介とかなしだからね!」
念を押すと「わかってる」と香蓮は言っていた。
ならいいけど…
完全に信用しきれず、ちょっと不安な真央だった。




