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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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文化祭2日目①

慌ただしく準備をして玄関に向かう。

「行ってくるね!」

「気をつけて」

「うん!」

雅子に返事をして、真央は元気よく家を出ていった。

リビングに戻り、朝食の後片付けをしていたら、博幸が新聞を読みながら話してきた。

「真央のやつ…ずいぶん変わったな」

「そうね、あなたはちょっと寂しいんじゃないの?」

「もうそれは過ぎたよ。夏休み前くらいまでは、男の真央がどんどん消えていくって寂しかったけど、あそこまで女の子になってしまったら、もうそういうもんだって思えるようになったからな」

ちらっと博幸を見たが、新聞を広げているので顔を見ることはできない。

それでも今の真央を理解しているのだけは伝わったので、雅子からすると一安心だ。

「ねえ、このあとちょっと出かけない?」

「いいけど、どこに?」

「ふふ、楽しいところ!」

雅子はもったいぶって、これ以上は言わなかった。


学校に着き、すぐさまみんなで準備に取り掛かる。

そのとき、巴菜はふと思った。

いつの間にかクラスが一つにまとまっている。

誰かが困っていれば自然に手伝うというのができていて、それでいてみんな仲がいい。

男子はムードメーカーの伊藤が中心になっているが、

その隣にはまったくタイプの違う源治がいて、普通に会話をしている。

最初は犬猿の仲だった真央と杏華も楽しそうに会話をしながら準備をし、

女子のムードメーカー的存在の香蓮のまわりには、なんとなくみんなが集まっている。

「巴菜、なにボーっとしてるの?」

凜に話しかけられて、ハッとなった。

「ううん、なんかいつの間にかクラス全体がいい雰囲気になったなって」

「そういえばそうだね。真央のあの件くらいからだよね、みんながこんな風になったのって」

そう考えると、今のクラスをまとめたのは真央かもしれない。

楽しそうに話している真央を見ていたら、こっちを向いて笑っていた。

巴菜も笑顔を返して、準備に取り掛かった。


龍弥が健吾と一緒にチラシを持って教室を出ていこうとする。

「龍弥、またチラシを配りに行くの?」

「あ、ああ…」

真央が話しかけていると、そこに香蓮が加わってくる。

「真央も一緒に行ってきなよ」

「え、嫌だよ、そういうの苦手だもん。それにウェイターの準備もあるし」

すると、今度は健吾も香蓮に便乗してきた。

「それがいいな。竹下、よろしく」

健吾はチラシを強引に真央へ預けてきた。

「だから嫌だって!」

「違うんだよ、龍弥のやつさ、昨日ほとんど女子に配れなくて、やっぱり女子には女子が配ったほうがいいと思ったんだよ」

それを聞いた龍弥が反論する。

「配っただろ!」

「10枚だけね。男子には100枚近く配ったくせに」

「う、うるせーな」

「ってことで竹下、よろしく」

思わず真央はため息をついた。

「龍弥ダサすぎ。ほら、行くよ。こっちはウェイターの仕事もあるんだから」

真央がチラシを持って教室を出ていったので、そのあとを龍弥は慌てて追いかけていった。

それを確認してから、香蓮は健吾を見てニヤッとした。

「気が利くじゃん」

「大谷こそ」

「一応、木谷に気を使ったんだからね。真央のほうはよくわかんないし」

「だろうな、龍弥は見ていて単純だからわかりやすいけど、竹下はどうなんだろうな。友達以上な気はするんだけど」

多分、真央も好きだと思う。

けど、自覚がないのか、それとも男子に恋をしたことがないからなのか、

きっとラブとライクがごっちゃ混ぜになっている。

それはあえて言わないでおいた。

少しずつ、一緒になる機会を作っていって、いつか真央が気づいてくれれば!


廊下を歩き始めると、龍弥が手を出してきた。

「ほ、ほら…」

「ん、なにが?まさか手でも繋ぎたいの?バカ?」

真央の一言にカチンとくる。

「は?バカはお前だ!チラシが重いだろうから配るまで持ってやろうと思ったのに…やめた!アホらしい」

「あ、そうだったの!さすが龍弥、優しいなぁ」

真央は手のひらを返したように褒めてからチラシをドサッと手渡した。

まったく…

「それでどこで配るの?」

「校門辺りで…一般の人たちに配らないと意味がないだろ」

「おー、ちゃんと考えてるんだね。偉いえらい」

「ほ、褒められてもうれしくねーし…」

「素直じゃないなぁ、ありがとうくらい言えないの?」

「嬉しくねーって言っただろ!まったく」

どうも最近の真央は、大谷みたいになってきてるな。

男の頃の真央と大谷のやり取りを、俺と真央でやっている気分だ。

まあ、構わないけど…

校門に行くと、私服の人たちがチラホラと歩いていた。

子どももいれば、同い年くらいの子、保護者と思わしき大人もいる。

「さてと…配りますか!」

真央は龍弥の持っているチラシを3分の1くらい受け取り、元気よく配り始めた。

まずは大人からだ。

「2年3組でカフェをやっているので、よかったら来てください」

「ありがとう。あとで行ってみるね」

「よろしくお願いします」

笑顔で見送り、今度は同い年くらいの子に渡す。

「カレーがおいしいカフェをやってるので、よかったらお待ちしています」

無言だったが受け取ってくれた。

この調子で真央はどんどんチラシを配り、

持っていたものがあっという間になくなっていた。


龍弥は順調かな?

チラッと見てみる。

「あの…カフェやってるのでよかったら…」

同い年くらいの女の子に渡そうとしていたが、無視されていた。

さらに今度は大人の夫婦に渡しに行く。

「あの、カフェやってるので…」

「あ、そう」

受け取ってはくれたものの、チラッと見てすぐに折りたたんでポケットにしまっていた。

こりゃダメだ…

「ちょっと龍弥、そんなんじゃ受け取ってくれるはずないから!もっと元気よくいけないの?」

「う、うるせーな…これでも精いっぱいなんだよ」

「どこが?今渡してたのなんて夫婦でしかも男性のほうじゃん。わかった、龍弥は女性が苦手なんじゃなくて人見知りなんだ」

「俺は人見知りじゃない!見てろ」

龍弥は近くを歩いていた同い年くらいの男性のところに向かった。

「カフェやってるから、よかったらきてください!」

大きな声で言われたので、彼らは「は、はぁ」と若干戸惑っていた。

さらに今度は年配夫婦のところに向かう。

「カレー好きですか?うちのクラスがやっているカレーおいしいんですよ!食べにきてください」

吹っ切れたように、次々とチラシを配っていく。

ただ、相手は男性ばかりだ。

「これで人見知りじゃないってわかっただろ」

ちょっと得意気になっているのが面白い。

「男性に対してはね。女子にも配ったら?」

「そ、それは真央がやってくれよ…」

真央は少し頬を膨らませた。

「もー…それじゃいつまで経っても治らないよ」

「ま、真央は…治したいと思ってるのか?」

「そりゃそうだよ、いい加減、昔みたいに普通に龍弥と話したいし」

そうだよな、昔は当たり前のように話をしたり遊んだりしてたんだもんな…

龍弥は思い切って、女子グループが歩いているほうへチラシを渡しに行った。

「あの!よ、よかったらカフェやってるので…」

最初の声だけは威勢がよかったが、あとはいつものように弱弱しかった。

それでも彼女らはチラシを受け取り、

「パンケーキあるんだ、食べに行こうよ」と楽しそうに校内へ入っていったので

ホッとした。

「それでいいんだよ。何事もやっていくうちに慣れて平気になるから。わたしみたいにね」

「ま、真央も何か苦手だったのか?」

「違う!わたしの場合は女としての自分に慣れたってこと。なんか龍弥ってズレてるよね」

「あ、あの流れで言ったらわかんないだろ。ズレてるのは真央のほうだ」

「違う、絶対に龍弥」

「真央だ」

思わず言い合っていたら、近くにいた子供が「あのお兄ちゃんとお姉ちゃん面白い」

と笑いながら言っているのが聞こえてきたので、

2人とも恥ずかしくて顔が真っ赤になっていた。

「チラシ…配ろうか?」

「うん…」

2人は残りのチラシを真面目に配り、11時半過ぎにやっとすべてを配り終えた。

「終わった!カフェのほうどうなってるかな?きっと忙しくなってるよね?」

「そうだな…ちょっと待ってろ」

龍弥は突然小走りで走り出していった。

「待ってろって…早く戻って手伝わないといけないのに」

3分ほどで龍弥が戻ってきて、缶コーヒーを投げてきたのでとっさに受け取った。

「俺たちも真面目にやったんだから、少しだけ休憩しようぜ」

早く戻らなきゃ!としか考えていなかったけど、

龍弥に言われて少しくらいは休憩してもいいかな、

という気持ちになったので「そだね」と返事をした。

龍弥が階段に座り、缶コーヒーを飲み始めたので、真央もその横に座って、

缶コーヒーのタブを開けた。

「いただきます」

「ああ」

一口飲んでから、真央は思わずつぶやいた。

「なんか懐かしいね、こういうの」

「そうかも…昔はよく階段に座って缶コーヒー飲んでたもんな」

「たかが半年くらい前なのにね」

ふと男の頃の自分を思い出す。

朝は毎日香蓮と登校、学校内でも香蓮とよく話していたので、

ずっと付き合っていると言われて迷惑していた。

それをよくこうやって階段に座って、龍弥に愚痴っていたっけ…

思わず真央は「ふふ」っと笑っていた。

「何笑ってるんだよ」

「なんでもない。それより龍弥さ、普通に話してるじゃん」

「なんか昔に戻った気分になったせいか、真央と話していても緊張しないんだよ」

「それって女に見えないってこと?なんか複雑…」

真央は少し唇を尖らせていた。

こういう仕草を普通にする時点で男に見えるはずがないだろう。

「男でも女でも、真央は真央だなってやっと思えたんだよ」

「今さら?気づくの遅くない?」

「気づいただけマシだろ」

「それもそっか」

真央が笑いだすと、龍弥も笑っていて、本当に昔のような感じに戻った気分だった。

「龍弥…こないだはありがとう」

「なにが?」

「ほら、あのとき…」

真央が真面目な顔をして言っていたので、龍弥も何の話をしているのか理解した。

ちょっと照れ臭かったので頭をかいている。

「別にたいしたことしてないよ。それに最終的に助けたのは伊藤みたいなもんだし。さすがに2人がかりでこられたら俺もヤバかった」

真央は首を横に大きく振った。

「そんなことない!伊藤にも本当に感謝してるけど、最初にきてくれたのは龍弥だった。正直に言うとね、怖くて完全に身体に力が入らなかったんだ…本気で抵抗しても歯が立たなかったし、男と女の力の差というのをまじまじと痛感したよ。途中から放心状態になって、半ば諦めてたとき、龍弥の声が聞こえたんだ。そうしたら、もう一度抵抗しようって気持ちが湧いてきて、思いっきり手を噛んでやった」

最後の言葉を言ったとき、真央はニッと笑った。

「本当にありがとう」

改めてお礼を言い、龍弥は少し照れ臭そうに頷いて「ああ」と呟いた。

それを確認してから、真央は一気に缶コーヒーを飲み干して立ち上がった。

「休憩終了!戻って手伝わないと。コーヒー、ご馳走様。おごってもらったから缶は私が捨ててくるよ」

真央が手を出してきたので、龍弥も残ったコーヒーを飲み干して空き缶を渡した。

「サンキュー」

真央は小走りでゴミ箱に缶を捨て、「行くよ!」と元気よく校舎の中へ戻っていったので、

「おう」と返事をして龍弥も校舎の中に入っていった。

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