文化祭2日目②
教室の前まで行ったら、すでに外に列ができていたのにビックリしてしまった。
「真央、遅い!」
「ごめん、すぐ手伝う」
真央は慌ててエプロンを付けて準備に取り掛かった。
龍弥も片づけを手伝い始める。
「龍弥、それはわたしがやるから、中のほうを手伝って」
「わかった、あとよろしく」
2人の自然なやり取りを見て、香蓮は健吾を見て笑みを浮かべ、
それを確認した健吾も笑顔で頷いていた。
ウェイターに戻ってから30分ほど経ち、新規で入ってきた客のところへ行く。
「いらっしゃいませ…って、父さん、母さん!それにおばさんたちも」
まさかの博幸、雅子、それに由紀恵と香蓮の父、聡だったので驚いてしまったが、
4人はニコニコしていた。
「来るなら言ってくれればいいのに。香蓮!」
真央の声に香蓮が反応して、同じように驚いていた。
「お父さんたち、来てくれたの?」
「まあな、香蓮や真央ちゃんが頑張ってるのを見に行こうってなって」
身内が来てくれるのは恥ずかしい気持ちもあるけど、嬉しさもある。
真央は張り切って接客した。
「ではこちらの席へ」
4人と席まで案内してから、メニューを渡す。
「カレー4つとお茶を4つ」
「はい、少々お待ちください」
笑顔で返事をして、真央は注文を伝えに向かう。
その光景を見て雅子は微笑んでいた。
「真央ちゃん、すっかり女の子ね」
「ね、男だったのが信じられないでしょ。っていっても大谷さんたちは男の真央のこともこれでもかってくらい知ってるのよね」
「そうね、けど前の真央ちゃんも今の真央ちゃんもどっちもいい子だから好き」
「ありがとう」
雅子と由紀恵のやり取りを博幸が聞いていたら、聡が話しかけてきた。
「女ってのは呑気なものだね」
「もう慣れたよ。俺も女の真央を認めてるし」
「まあ…今の姿を見てしまうとそうだよね」
チラッと真央を見ると、自然なくらい楽しそうにしている。
「お待たせしました」
真央がカレーとお茶をテーブルの上に並べていく。
「すごくおいしいって評判なんだよ!」
「へー、楽しみ。わたしたちのことは気にしないでいいからね」
「はーい、じゃあごゆっくり」
そう言い残して、真央はほかの客のほうへ向かっていった。
「お、うまいなこれ」
「ホント、すごくおいしい」
4人は予想以上においしかったカレーをほおばりながら、
真央と香蓮の元気な様子を眺めて満足げな顔をしていた。
雅子たちも帰り、時間は午後の1時半を過ぎていた。
やっと落ち着き始めてきたころに、また真央の知っている人物が来店してきた。
相手も「あっ」という顔をしている。
その横にはもう一人男子がいて、おそらく友達なんだろうけど、
彼ではなかったのでホッとした。
「佑太くん、久しぶり」
「久しぶり。こないだはごめんね」
創のことを謝っているんだろう。
真央は横に手を振って「気にしないで」と返した。
「それより香蓮だよね。香蓮!」
真央が香蓮を呼ぶと、こっちを振り返って、笑みを浮かべながら小走りでやってきた。
「佑太!」
「香蓮、頑張ってるじゃん」
2人は付き合い始めてから名前で呼び合うようになっている。
真央はそれを知っているので、微笑ましい感じで2人のやり取りを眺めていた。
「あ、こいつ友達の九条」
九条と紹介された男子は「ども」と軽くお辞儀をしていた。
創とは違い、どちらかというとカッコいいタイプだ。
佑太が香蓮と真央を紹介してくれたので、真央も軽くお辞儀をしておいた。
「あ、ちなみにこいつ彼女いるから」
それを聞いて一安心。
もう前のようなことになるのはコリゴリだ。
そこに今度は巴菜がやってくる。
「お、噂の彼氏だね」
「そうやっていわれると恥ずかしいから」
照れている香蓮を見るなんて珍しい。
ちょっと新鮮な感じがする。
「もう落ち着いたから彼氏と遊んできなよ」
「えー、それは悪いよ」
「気にしなくていいよ。ね?」
巴菜がほかの子たちに聞くと、みんな「うん」と笑顔で返事をしていた。
「ほらね、行ってきな」
「うん…ありがとう!真央も一緒に行こうよ」
彼女がいる九条とはいえ、2対1では申し訳ないと思って香蓮は誘ってきたが、
真央は断った。
「無理だよ、実行委員だからさすがに遊びに行くわけにはいかないもん。巴菜行ってきなよ」
「わたしもいいよ」
年下は好きじゃないから、とは言わなかったが、心の中でそう言っているのがわかった。
巴菜は年上好きだ。
「香蓮、無理に誘わなくてもいいよ。みんな忙しいのに気を使ってくれてるんだから」
「うー…そうだね。3人で行こうか」
3人で歩き出し、真央たちはそれを笑顔で見送った。
巴菜が食べ終わった紙皿などを捨てるために裏にまわると、
伊藤が龍弥に小声で会話をしているのが聞こえてきた。
「竹下がついて行かなくてよかったな」
「別に関係ない。それより仕事しろ」
「内心じゃホッとしてるくせに」
龍弥は何も答えずにゴミの片づけをしていた。
なるほど…やっぱりそうなんだ。
思わずクスクスと笑ってしまった巴菜だった。
2時間ほどで香蓮も戻ってきて、文化祭も大成功で終えることができた。
片付けに入る前に、黒岩がみんなを集めて話し始める。
「お前たち、よくやった。これだけたくさんの人がきてくれるとは思わなかったぞ。ご苦労様。あまり遅くならないように、パパっと後片付けをしよう」
そういって、黒岩も一緒になって後片付けを手伝い始めたのが意外だったが、
みんなやりきったという充実感を持って、後片付けに入った。
「終わったぁ!いやぁ、さすがに疲れた」
真央は清々しい気持ちで伸びをした。
そこに、同じ実行委員だった杏華がやってくる。
「お疲れさまでした」
「根津のほうこそ、お疲れさま」
2人で労いあっていたら、伊藤がそこに龍弥と源治を引っ張ってきて、
4人を中心に集めた。
「な、なんだよ」
龍弥は少し恥ずかしそうにしている。
それは真央も同じだった。
源治は相変わらず無表情、杏華は堂々としている。
「みんな、頑張ってくれた4人に拍手だ」
一斉に拍手が起こり、やっぱり真央は恥ずかしかったので下を向いてしまった。
龍弥は頭をかいていて、あとの2人は変わらない表情だ。
「一言ずつあいさつしてもらおうぜ」
伊藤がそう言ってリーダー感を出してくる。
さすがはクラスのムードメーカーだ。
「えー、そんなのいいよ!立候補して実行委員になったわけじゃないし…」
真央は懸命に否定したが、結局一人ずつあいさつをすることになった。
まずは杏華からだ。
「みんなが協力してくれるのがわかっていたから、なにも心配してませんでした。それでも無事に終わったことにはホッとしています。ありがとうございました」
クラスの委員長もやっているだけあって、さすが堂々としている。
次は龍弥だった。
「あー…えっと、多分実行委員のなかで、俺が一番なにもしなかったので…まあ、無事に終わってよかったです…」
あまり多くは語らず、それでいて恥ずかしいような緊張したような感じで、
龍弥らしい一言だ。
続いて源治。
「僕は役割を果たしただけで、なにもない」
こちらもまさに源治らしい一言。
これにはみんなも苦笑いだったが、納得もしていた。
そして真央の番になる。
どうしよう…こういうの苦手なのに…
「えっと…楽しかったです!おしまい」
「それだけかよ」とヤジが飛ぶが、真央は笑っているだけにしておいた。
この笑顔だけで理解して、という意味だ。
もう一度4人に拍手が送られ、本当に文化祭は終了となった。
いつもの帰り道、隣にはもちろん香蓮がいる。
「佑太くんきてくれてよかったね」
「来るって言ってたからね。でもなんか一人遊んじゃって申し訳なかったかな」
「気にしなくていいって。みんなで行っておいでって言ったんだもん。それよりさ、佑太くんの学校は来週が文化祭だっけ?行くの?」
「うん、来てくれたからね。彩華と行ってくるよ」
佑太の学校の文化祭に行けば、創と会うことになる。
それを気にして香蓮が誘わなかったのを真央はキチンと理解していたので
「楽しんできてね」と笑顔で返しておいた。
そっか、来週の日曜は香蓮ダメなのか…じゃあ巴菜でも誘って買い物に行こうかな!
文化祭から解放されたので、そんなことを考えながら家に帰った真央だった。




