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スペース・ロック  作者: 祈鈴銀
悪虐搾取組織殲滅編

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第87話 陶酔

ワープパネルを乗り継ぎ、廊下を走り抜けるサーシャたち。

しかし、サーシャはナトリレベルの方向音痴。

先頭はモチェットが走っている。

マヤとジェリーはサーシャと並走。


「え…………ちょっ、待ってよ!!!」


片手で軽く側頭部に触れるマヤ。


「どないしたんよマヤちゃん!!!」


「これ……ヤバいって……!!!ナトリのやつ、生命力がなくなってってる…!!!」


驚愕する一同。

あの狂犬と呼ばれたナトリが死にかけていると言うのだ。

サーシャは急いで携帯を取り出し、ファニィたちに電話をかけた。

ジェリー曰く、マヤと自分はマーキングした相手の生命力を読み取れる。

範囲はたかが知れているが、このえぷしーたうんの建物内ならばなんとか把握できる。

パラボランの3人はマーキングをしていないので全くわからない。

と言うか、会話すらしたことがないのだ。


「アカン…!!!出ぇへん!!!ナトリンもヤバいし、パラボランはどうなってんのかわからんし、利用者助けなアカンし…!!!アアアアアアァァァァァァァァァッッッッッッッッッー!!!!!!」


キレながら走るサーシャ。

モチェットがどうにか宥めつつ、マヤにナトリの位置を尋ねた。

どうやら、地下6階の一番左端の部屋あたりだという。

ナトリをここまで追い詰めた相手はどうかも聞いたが、生命反応無し。

つまり生きていないということになる。


「ナトリ………。」


自警団になり、人を殺さないように頑張っていた。

しかし、やはりと言うか。

殺害以外の選択肢を取れなかったか。

もしくは、捕縛など出来ないほどの強敵だったのか。


「なにしょうもない顔しとんねんモチモチィ゙!!!どうでもええやろそんなやつ!!!死んで当然やろがいッッッ!!!それよりもナトリンじゃよ!!!」


歯茎が剥き出し、瞳の様子もおかしい。

サーシャの雰囲気が全体的にいつもと比べ、なにか違う。

頭にきているのだろうが、なにかそれだけでは説明がつかない気がするのだ。


「ちょっとサーシャ、アンタ落ち着き……………。」


キキイイィィーーーーッッッッッッ!!!!!


急にジェリーが止まった。

それに続き、マヤとモチェットが走るのをやめ横の廊下奥を見つめた。

これ絶対廊下にヒールアウトついてる。


「…………………。」


「どないしたんよみんなッッッ!!!なに!??!なによ!???」


マヤがポケットからメモ帳とペンを取り出し、とてもわかりやすい地図を描いた。


ペラッ


「え…なによマヤちゃん…。」


「サっちゃんこれ持ってどうにかナトリのとこまでいける?」


「いけるって…なんとかするしか…。てか、どないしたんよ???」


「あの廊下の奥…。いる。状態こそわからないけど、何人か電磁波も感じる…。弱ってる…。」


マヤとジェリーの電遁。

マーキングをしていなくとも、近距離ならば相手から発せられる電磁波をキャッチ出来るのだ。

その数人の電磁波がかなり弱まっているとのこと。


「ここは私ら、スペシャリストに任せてよ。………ごめんねこんなこと頼んで。」


クシャッ!!!


サーシャはメモを力強く受け取り、マヤの肩に手を置く。


「みんな死んだらアカンでッッッ!!!」


サーシャは全力で、走ってきた道に戻っていった。

そこがナトリの居場所までの最短ルートなのだ。


「………行ったか…サーシャ氏。心強い…。」


「そだね。でもモチェット…こっちもうかうかしてらんないよ。アンタは左側の廊下お願い。」


「………任せろ。死ぬなよ2人とも。」


「だ〜れにもの言ってんのさ?スペシャリストのマヤちゃんよ?」


「私はゲームマスターのジェリーなんだけど〜。モチェット、アンタは?」


モチェットは少しだけ口角を上げる。


「俺はプロフェッショナルだ。」


そして3人は一気に駆け出した。






ドンッッッッッッッッッ!!!!!


鉄扉を蹴り飛ばし、部屋の中に入ったモチェット。

なにやら部屋が薄暗い。


「暗いな…灯りをつけよう。」


ボウッ


掌に小さな炎を出し、周りを見渡す。

世間では火遁扱いだが、攻撃力がほとんどない灯りなので一部からは灯遁と呼ばれている。

銀河政府はこの呼び名を嫌っている。

しょーもな。


「また廊下…。どこまで続いているんだ…。」


壁伝いに歩くモチェット。 

灯りを少し強めたいが、極力魔力の消費は抑えたい。


ヌチャッ


「???」


壁になにか付着していた。

灯りを近づけ確認すると、血だった。

足下も先ほどからピチャピチャと音がしている。

 

「………………。」


ゆっくりと拳を握り、また歩き始めた。 

すると廊下の壁が直角に折れ曲がっていた。

曲がり角か?

しかし、その割には左手の廊下の壁も見えない。

広い空間に出たのだろう。


ヒュンッッッッッッッッッ…………


暗闇からなにか飛んできた。

モチェットは躊躇うことなく、首を傾けそれを回避。

廊下奥の壁に当たったのか、カキンッと音が響いた。

スペツナズ・ナイフだった。


「投げナイフ…。えぷしー…いや、ヴィルホーンの幹部だな。」


「御名答…。流石はあのゴルズの右腕とも呼ばれたプロフェッショナル。歓迎はせんぞ。」


暗闇から姿を現す男。


「俺はヘロシティー。奇しくも、お前と同様右腕の立場だ。」


まるでヘンテコな歌舞伎役者のような姿。

しかしヘロシティーから、肌でピリピリと感じられるほどのオーラが滲みでる。

見てくれだけの大道芸人ではなさそうだ。


「俺はモチェット。………ここに来る道中、壁や床が血まみれだった。随分と趣味が悪いんだな?」


少しだけ腕をブラン…とあげるモチェット。

いつどんな攻撃を仕掛けられても対応するためだろう。

それに対するヘロシティー。

表情を変えることなく、無表情。


「まるで表情がひとつしかない人形みたいだな。最近のフィギュアでも表情パーツぐらいあるぞ?Figmaというんだがな。」


「笑止。敵を前にして、表情が変わることすなわちそれ心の動き。くだらん。」


笑止の使い方間違ってませんかね。

笑ってねぇじゃんお前。

まぁもっと言ったら今の使い方も本来の使い方ちゃうけどね。

もう笑うなり笑わんなり好きにしてくれ。


「しかし…本来お前は前に出るようなタイプではなかったはず。あの足を洗った男は自称エリートなどとほざいていたが…奴のほうが前に出ていた。」


「ボーナのことか。というか、足を洗ったのはアイツだけじゃない。俺ら全員だ。」


モチェットのセリフを聞いたヘロシティーはゆっくりと笑い始めた。

表情変わっとるやん。


「ハハハ……ハッハッハッ………アーハッハッハッハッ!!!!!」


「なにがおかしい…!!!」


「貴様らも足を洗っただと?ボーナ含め貴様ら全員カタギに戻ったつもりか?今まで散々暴力、恐喝、みかじめ料、ここ泉北をシマとして仕切っていたやつらが?まるでお笑いだ。」


「そんなことわかっている。【変わる】など口だけではいくらでも言える…。だからこそ、認めてもらうというのは途方もないほど難しいことなんだ。」


「それで我々を倒すと?市民に認めてもらうために実績を重ねると?どこまで浅はかなのだ貴様らは。」


空気が変わった。

まるで、おしゃべりはここまでだと言わんばかりに。


「少しお遊びが過ぎたな。反省せねば。おしゃべりはここまでだ。」


同じこと言うなボケ。

モチェットもしっかりと構えなおす。

どこから仕掛けてくるのか。

どんな攻撃をするのか。

頭をフル回転させ、どんな状況にも対応できるよう静かに覚悟を決めた。


ガコンッッッッッッッッッ!!!!!


「なんだ…………!??!」


部屋の薄暗さが一変。

暗黒空間へと変貌。

なにも見えない。

ジェリーやマヤほどではないが、モチェットも人から発せられる電磁波を読み取ることはできる。

それに熱感知能力も備わっている。

暗闇なぞ関係ない。

モチェットはヘロシティーの位置を確認しようとした。


「な…………!!!!!」


なにも感じない。

熱も電磁波も読み取れないのだ。

モチェットはとっさにピーカブースタイルで頭部を庇った。


ズバァッッッッッッッッッ!!!


「グフッッッッッッッッッ!!!!!」


やはりきた。

斬撃。

最初から頭は狙っていなかったかのような動き。

モチェットは横腹を斬られた。


「ほぉ…これはこれは。貴様…そういえば、土属性の鉄遁を使えるんだったな。確か資料に載っていたはずだ…。」


モチェットの脇腹。

スチールグレーに変色しており、鉄独特の香りが漂う。

ヘロシティーに斬られた箇所も、皮一枚軽く出血しているだけだ。

しかし、逆を言えば…


「把握。とっさに出したからかもしれんが、鉄遁もその程度か。つまらん。」


鉄をも斬り裂くという斬撃ということになる。


(なんという斬撃…!!!しかし…斬られた瞬間、わずかにだが気配を感じた………!!!!!)


なんとなく感覚は掴めたモチェット。

しかしまたもや気配が消えた。


「さて、お次はどこを斬ろうか?」


(マズイ…………ッッッ!!!!!)


ズバババババババババッッッッッッ!!!!!


四方八方からの斬撃の嵐。

モチェットはたまらず全身を鉄化。

硬度を上げ、鋼鉄と化したいがその余裕がない。

少しでも気を緩めれば一気に攻め込まれる。


(印さえ結べれば…!!!クソ………!!!)


「悲しいものだな…。プロフェッショナルが何もできずに縮こまるだけか…。それに………」


ザシュッッッ!!!

ブシッッッッッッ!!!

バシュッッッッッッッッッ!!!


「いつかは綻ぶというもの。これもまた運命。」


口酸っぱくなるが、魔法というものは所詮身体能力の延長である。

鉄遁で全身を固めているが、言わば鏡の前でマッスルポーズを取るように力を入れているようなもの。

次第に筋肉は乳酸がたまり、疲労。

いつしか限界を迎える。

練度の問題もあるだろうが、あのモチェットの鉄遁を斬り裂く斬撃。

緩めた瞬間どうなるかなど想像に難くない。

いつまでも守りに徹するわけにはいかない。

それにそれだけではない。

モチェットはとある疑問を抱いていた。


(なぜ………なぜコイツはこれほど余裕なんだ………!???!)


現在、この地下空間はC.Bによってロックされている。

出口は現時点で、えぷしーたうんの正面玄関のみ。

警察にも通報済みである。

普通に考えれば、確実にヴィルホーンを追い詰めているはず。

なのになぜ自分に、これほど時間をかけているのだろうか。

確実に倒すためだろうか。

もしくは、右腕として絶対的な自信があるのかもしれない。

しかし、それだけではとても説明ができない。

他に空間魔法を使える存在がいるのだろうか?

モチェットは、形容しがたい気持ち悪さを感じていた。


ザンッッッッッッッッッ!!!


「ーーーーッッッッッッッッッ!!!!!」


余計なことを考えてしまったせいか、鉄遁が緩み脛を大きく斬られてしまった。

膝をつき、ついピーカブースタイルを解いてしまった。


「御臨終だ。」


一閃。







ガキィィィィンッッッッッッッッッッッッ!!!


フルルルルルルル……………


カランカラン………


「な…………なんとッッッッッッッッッ!!!」


モチェットの後頭部。

全身に回していた魔力をそこにだけ集中させ、硬度を極限までに高めていた。

そしてわざと脛を斬られた流れをつくり、誘い込んだのだ。

ヘロシティーは気分がよかったのかそれに気づかず、刃を振るったが叩き折れたのだ。


ガシッッッッ!!!


「むぅ!???!」


「捕まえたぞ傾奇者。」


スパァァァァァァァンッッッッッッッッッ!!!


モチェット渾身のコークスクリューブロー。

拳はヘロシティーの顔面にめり込んだ。


「ガバハァァァァッッッッッッ!!!」


ヒュンッッッッッッ!!!!!


できれば、掴んだ腕を離さずにそのまま連続で攻撃を叩き込みたかった。

しかし、ヘロシティーはスルスルと掴んでいる腕から離れていったのだ。


「この感触…………まさか…お前……!!!!!」


「グゥ………油断したか…。そうだ…お前の想像通りだ…。」


ヘロシティーの体はまるで蛇のようにヌルヌルと動く。


「俺は軟体異星人。この姿…地球の日本の歌舞伎よりも美しいだろう。」


「……………いや、暗くて全く見えん。」


「………………。」


殴った拳に残った気持ちの悪い感触。

確かに顔面にはめり込んだ。

しかし、手応えがそこまでなかった。

これでは殴打による攻撃は通用しないだろう。


「ナトリなら血遁で斬れるだろうが…面倒だな…。」


「ナトリ…?狂犬ナトリか。しかし、飛び抜けたアホと聞く。奴では無理だろう。」


「あまりなめないでもらいたいな。資料で見たのかもしれないが、所詮データなんてものはデータに過ぎない。地球の日本には、百聞は一見にしかずという言葉がある。」


「そう………か。それよりも貴様…………」


「…………?」


「随分と余裕だな。」


ズバァァァァァァッッッッッッッッッッッッ!!!


「ーーーッッッッッッッッッ!????!!?!」


モチェットの全身は斬り裂かれ、大量に出血。

一体どこから?どうやって?

ヘロシティーの姿形こそ、見えはしないものの油断せずに注意していた。

気配が全くしなかった。


「ガ…………ガハッ……!!!!!」


ドサッ!!!


「哀れだな。地球でUMAとして、名が広がっていた時のほうが輝いていたんじゃないか?なぁ、フラットウッズモンスター?」


「……………!!!!!」


「UMA…まだ地球が宇宙貿易をしていなかった時代…。懐かしいな。そのほとんどが異星人や宇宙生物だというのに、なんだなんだと騒いでいた…。」


「………………。」


「科学的には存在を証明できない。下等種族の常套句。科学的には存在を証明できないのではない。それを証明できるほどの科学力を持ち合わせていないだけというのに。とんだ勘違いどもだ。」


部屋に響くようにヘロシティーの語りが続く。

前方にいるはずだが、まるで部屋そのものがヘロシティーと感じる。


「魔力も低ければ知能も低い…。まぁ、なにも地球人に限った話ではないが…。そんな単細胞どもが障害などを背負い、この先宇宙の存続になにを貢献できる?バカバカしい。偶発的に生まれただけの宇宙の灰汁。存在自体が間違いなのだ。利用されて当然だろう。」


「黙れ…………ゲス野郎…。」


ヘロシティーの演説は続く。


「ボスは本当に美しい…。そんな価値のない存在に価値を与えているのだ…。なにも生まない便所の隅にあるカビ以下の存在が、ここでは需要となる…。ボスは本当に尊いお方なのだ…。」


暗闇なので見えないが、ヘロシティーは本気で惚れ込んでいるのだろう。

吐き気がする。

陶酔そのもの。


「それ以上しゃべるな………!!!虫唾が走る………ッッッ!!!」


「それしか言えんのか?呆れたものだ…。まぁ仕方あるまい。フラットウッズモンスターであるにも関わらず、毒遁も使えなければ身長も低い。さぞ肩身が狭かっただろうな。」


モチェットは眉間に皺を寄せ、怖い顔をしていた。

フラットウッズモンスターの毒遁。

これは、マスタードガスのおよそ5倍の殺傷能力があると言われる。

モチェットは生まれつき毒遁が使えなかった。

決して、ハンデなどではない。

そういうタイプだっただけの話。

フラットウッズモンスターは、毒や腐臭の強さを誇りにしており、それが出来ないならば迫害されるのだ。

フラットウッズモンスターの基本魔力数値は350万〜600万ほど。

モチェットの魔力は620万パワー。

にも関わらず、毒遁とは相性が悪かった。

これがかえって一族に気味悪がられたのだ。


「そして、母星を離れ違う惑星や星雲で就職活動。運よく警察になれたが………その矢先にアレだからな。」


「…………………………。」


眉間に皺が寄ったままではあるが、苦虫を噛み潰したような表情。

モチェットの過去。

なぜ、警察からポーズトッポという極道の世界に足を踏み入れたのか。

ヘロシティーの言葉を聞き、モチェットは昔の痛みを思い出していた。


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