↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペース・ロック  作者: 祈鈴銀
悪虐搾取組織殲滅編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/101

第86話 Natori・The・Killer

小鳥がさえずり、緑色の太陽がキラキラと光る。

周りには歪な形をした建物や謎のオブジェクト。

グニグニ動く不可思議な生き物。

大丈夫。心配はいらない。

これが惑星ジェフの日常風景だ。


「兄ちゃ〜ん。」


「ん………なに…。」


「朝だっての〜。学校!」


布団の上から揺さぶられ、寝ぼけ眼で起き上がるナトリ。

苦しそうな顔をしている。

朝は苦手なのだ。


「ご飯できてるから、下りてきてね。」


「ん…………。」


こうやって、毎朝弟のタイトに起こして貰っているのだ。

頼れる弟に可愛い兄である。

時計を見ると、学校に行くまで一時間ほど余裕がある。

もう一眠りしたいが、やってしまったら最後。

アホみたいに寝てしまうだろう。

カーテンを開け、光を浴び無理やり体を動かした。 


「…………………。」


死にかけのお婆ちゃんのような顔をしつつ、しっかりと手すりを握り階段を下りる。

ダイニングのテーブルには、チンコーンフレークとミリュリュナリリサナ乳が置いてある。

すぐに食えるし、栄養満点である。

てかなにそれ。


「おはよナトリ。そろそろ受験だね。」


「無理せずに、自分のペースでな。」


朝飯をジャリジャリ食べながら頷くナトリ。

タイトはなにか本を読んでいる。

ナトリの家庭は決して裕福ではないが、悪いわけでもない。

母は優しく見守ってくれる、父はマイペースが口癖で頼りになる。

タイトは頭もよく、運動もできて気遣いも完璧。

容姿も整っており、女子たちの間で密かに人気があるほどだ。

ナトリはスポーツこそできるが勉強が苦手で常に赤点回避ギリギリ。

受験予定の高校もかなり偏差値が低い。

親に負担をかけさせたくないとの理由で、私立は避け公立を目指しているが、ナトリには荷が重かった。


「いってきまーす!兄ちゃん行こう!」


「あ〜い…行ってきま〜す…。」


ナトリは15歳、タイトは2つ下の13歳。

同じ中学に通っている。

今はまだ中1の範囲とは言え、タイトは常に学年成績トップ10には入っていた。

ナトリはケツから数えたほうが早い。


「兄ちゃん今日もすぐに家帰るの?」


「そだよ、なんで?」


「たまには遊ぼうよ。家帰って、家事やったり掃除してくれるのは嬉しいけどさ。」


「少しでもタイトに負担かけたくないからね。僕ちゃん、頭悪いからそんな期待できるもんでもないし。」


「そうだけどさぁ…。まだ俺も中1だから大丈夫だよ。カラオケ行こうぜ。みんな誘ってさ!」


ナトリは少し考えたが、笑顔になりタイトの誘いにのった。

2人の仲はとても良く、毎日一緒に登校している。

途中で、お互い友達に会ったらその場で別れている。

それが平日の日課である。


「じゃね兄ちゃん!」


「あ〜い、気をつけて〜。」


タイトに手を振るナトリ。

友達に、仲良くて羨ましいと肘でつつかれ、笑い合うのだ。

男子中学生の青春である。






学校生活。

ナトリは授業中ほぼ寝ている。

部活は前までサッカー部に入っていた。

理由はモテるかもしれないからだ。

しかし全然モテなかった。

タイトは兄のナトリと正反対で、真面目である。

常に女子たちから視線を浴びせられるも、笑顔で手を振り応えるような優男。

人気なのも頷ける。

勉強でわからないところがあれば、差別することなく教えたり、悩み事を聞いたりもしてくれる。

ここまで聞くと、ナトリが劣等感を抱きそうなものである。

しかし、実を言うとそこまでは抱いていない。

それはなぜか。


「え、だって僕ちゃんタイトじゃないし。クローンでもないのに、比べること自体なんかナンセンスと思うんだよな。」


なぜか哲学的な男だったからだ。

そんな考えのお陰か、ナトリにはちゃんとバカをやれる友達にも恵まれていた。

ナトリはナトリ。

タイトはタイト。

上も下もないのだ。

そして放課後。

カラオケに行った帰りのことである。

友達とは既に解散。

時刻は20時を回っており、ナトリは久々の息抜きができてリラックスできたにも関わらず、はやく帰って家のことをやりたがっていた。

それでも楽しかったことは事実。


「楽しかったね〜。また行こうよ!」


「僕ちゃんも楽しかったよ。たまには息抜きもいいね。へへへ。」


2人仲良く家路を辿っていた。

すると、前から3人組みの男がこちらに向かい歩いてくる。

目的地が自分たちと反対なのだろうと思い、2人は邪魔にならないように端に寄った。

しかし、そのうちの一人がタイトの肩にぶつかり胸ぐらをつかみ因縁をつけてきた。


「痛いんだけど?あ?てかお前タイトじゃん。なにしてんのお前ここで?」


「前からコイツキモかったし、1回しめようぜ〜。なんか頭いいとか運動できるとかでイキってるっしょ。」


「モテてるからって調子のってるよな。殺そ殺そ。」


タイトはスポーツ万能ではあるが、喧嘩はしたことがない。

苦しみながら何度も謝るが、カスどもの耳には一切入らない。


ガシッ


「あ?誰お前?」


ミシッ……

ギギギギ…


腕を思いっきり握られ苦しむカス。


「ナトリ。タイトの兄貴だけど。なにやってんのお前ら?」


パッと腕を離す。

カスは腕を押さえ、顔中汗まみれになっていた。


「や、やんのかお前ゴルァァァッッッ!!!」


「やってもいいけど、怪我すんぞ。」


兄を心配するタイト。

ナトリとタイトの大きな違い。

ナトリは喧嘩が強いのだ。


「調子のんやなクソッッッッッッ!!!」


タイトを避難させ、路上喧嘩。

所謂ストリートファイト。

カスども3人は、ただ力任せに腕や足を振るうだけでナトリに掠りもしない。

コンビネーションもグチャグチャ。

ナトリは容易く反撃。

3人はボコボコにされた。


「別にこれ以上どーこーとかしないから。でも二度とすんなよ。ほら帰れ。シッシッ。」


掌であっちに行けとジェスチャー。

カスども3人はそのまま逃げていった。


「お前マジで覚えとけよッッッ!!!」


「あ〜はいはい。大丈夫タイト?」


ナトリは切り替えが早い。

すぐにタイトを心配した。


「うん…ビックリしたけど…。ありがと兄ちゃん。」


「自慢の弟に手出されておいて黙ってるほど賢くないからね〜。帰ろうぜ。」


今度こそ、2人は家路を辿っていった。

これが悪夢の始まりとも知らずに。






(なんで祝日なのに見学なんか…。平日にしてくれよ…。)


この日ナトリは高校の見学に行っていた。

乗り気ではなかったが、学校の見学を少なくとも三校行かなければ宿題が埋まらない。

学校行ってどうだった、なんてものを宿題にするのもどうかと思う。

惑星ジェフでは中学で既に留年という概念が存在する。

だから卒業のための義務に近い。

行く学校なんて決まっている。

地元で最も偏差値の低い学校だ。

しかし、ナトリはもう少し自分の頭が良ければ…と教室を見渡していた。


タッタッタッタッ!!!


「ナトリくん!!!ナトリくんは居ますか!??!」


教室の戸をガラガラと勢いよく開ける先生。

ナトリ含め、学校説明役の先生や見学に来ている学生たちがなにごとだと驚いた。


「あの…僕ちゃん…ですけど…。」


「君かッッッ!!!ナトリくん!!!ナトリくんの家がッッッッッッッッッーーーーーー」






ナトリは先生の車に乗せられ、その場を後にした。

今日は祝日。

タイトは今、家に居るはずだ。

いつもなら遊びに行ってるのだが、両親は仕事でナトリは学校見学。

勉強したいとの理由もあり、留守番をしてくれている。

頼むからタイトだけは………

そしてナトリが目にしたのは、ゴウゴウと燃え上がるナトリの家だった。


「……………え……。」


周りには野次馬。

近所の人が通報してくれたのだろうか、警察や消防隊が必死に現場対応をしている。

救急車がいるのも、たまたまだろう。

そう思いたかったが、ナトリは警察に声をかけられた。

タイトの兄と伝えると、警察同行のもと、病院まで連れて行かれた。  

案内されたのは、ICU。

なぜこんなところに…そう思うナトリの疑問に答えるように医者が挨拶をしてきた。

よくわからないまま挨拶を返す。

待合室まで行くと、既に両親がソファに座っていた。

母親は泣いていた。

父親は慰めていた。

そしてナトリは医者から聞きたくもない現実を叩きつけられた。






「大丈夫かタイト。兄ちゃんやろうか。」


「大丈夫!なんとかできるよ。」


タイトは自分で一生懸命体を捻ったり動かしたりしてパンツを履いていた。


「………………。」


あの日、例の不良がナトリ宅に襲撃。

趣味のガーデニングをやっていたタイトは何もできず、されるがままだった。

不良は散々タイトを痛めつけた後、火をつけて逃げたのだろう。

タイトは救急車で運ばれ、一命を取り留めた。

その代わり、顔右半分が潰れ左手の中指と小指欠損。そして下半身不随になった。

ナトリは相変わらず、ずっとタイトとは仲良しであった。

以前は兄弟として。

今は介護者と障害者として。

もしかしたら、周りからはそう見られているかもしれない。

あの日以来、一家から笑顔が消えた。

厳密に言えば、だんだん取り戻してはいる。

ナトリは自分のせいだと責めた。

だが、タイトは首を横に振るのだ。

兄ちゃんのせいではないと。

それに、タイトのポジティブな性格は変わらずだった。

それで、少しずつ笑みが戻ってきた。

そしてとある日の夜。

ナトリは寝付けず、あくびをしながら冷蔵庫からお菓子を取り出し部屋に戻った。

自分の部屋ではない。

タイトの部屋である。

寝てたらもうそのままにしておこう。

起きていたら、少し喋ろう。

そして部屋の前に立った時であった。


「………ぅ…………うぅ………」


咽び泣く声が聞こえる。


「なんで………なんで俺が……こんな目に…あわなきゃなんねぇんだよ…………。」


タイトは頑張って声を押し殺し、泣いていたのだ。

当然である。

部活も辞めた。

学校も支援学級に変えた。

顔が崩れたせいで、モテることもなくなった。

なにもかもが壊れたのだから。

それでも、それでもナトリの悪口が聞こえてこない。

ここでそれが聞けたらどれだけ楽だっただろう。

ナトリはトボトボと階段を下り、洗面所に向かった。

その時のギィ…という階段の軋み。

タイトはナトリかと気になったが、確認する術はなかった。


「……………………。」


鏡を見つめるナトリ。

電気もつけずに、暗がりでなにを思うのか。


「ムカつく顔してんなぁ僕ちゃん…。」


カミソリを手に取る。


「寝付けないってなんだよ。寝るんじゃねぇよお前なんか。綺麗な面してんじゃねぇよ。」


そして顔に近づけた。


ポタ…………ポタタ…………


「アハ………アハハハ………アッハッハハッハッハッハッ!!!!!!!」


一人、暗闇の中笑うナトリ。

鏡にはまぶたが切り刻まれた血まみれのナトリが映っていた。


「完璧じゃんかッッッッッッッッッ!???!!」






「お!あったあった!……て、このノコギリ欠けてんじゃん…。切り口綺麗な方が高く売れるんだけどな…。他になんかねえのかよ…。」


デイドリーはやっと見つけたノコギリにがっかり。

他にないのかと、また探し始めた。


「おー!!!これだよこれ!!!なんだよあんじゃねえか!!!」


「ノコギリ見つかったか?」


「おう!!!あったあった!!!いやぁ〜、いつお前が目覚め……………え?」


ゆっくりと体を起こすナトリ。


「痛ってぇ〜………ほんとお前めちゃくちゃしてくれるよな…。」


「な………なんでお前………ッッッッッッ!!!麻酔も兼ねた超強力な睡眠薬打ち込んだんだぞおいッッッ!!!なんで寝てねえんだよッッッ!!!」


「いや…お陰で久々に寝たよ…。10秒くらいか…。あの日以来…一睡もしてなかった…。ほんとに久々だよ…。」


真っ赤に染まったナトリの瞳。

目が合った瞬間、デイドリーの全身の細胞が警告音を発した。


「気持ち悪いんだよクソガキがよおおおおおおおおおぉぉぉッッッッッッッッッッッッッッッッッッーーーーー!!!!!!!!」


ブオンッッッッッッッッッッッッ!!!


手に持っていたノコギリを全力でぶん投げたデイドリー。


ドブッッッッッッッッッッッッ!!!!!


見事にナトリの喉元にぶっ刺さった。

ドバドバと流れゆく鮮血。

呼吸もままならないはずである。


「そのまま動くなよクソガキッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」


近くに落ちていたナタ包丁を拾い上げ、思いっきりナトリの右腕に振り下ろす。

すると、綺麗に切断され、床に力なくボトッと腕が落ちた。


「なんだよなんだよッッッ!!!ナタでも十分じゃねぇかッッッ!!!最初からこうすりゃ良かったぜッッッッッッ!!!!!イーヒャッハッハッハッハッ!!!!!!」


今度こそとどめ。

デイドリーは全身に力を込め、ナトリの脳天に拳を叩き込んだ。


ゴンッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!


ボタ…………ボタボタ…………


「な………なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」


ナトリの頭部。

真っ赤なバリアがしっかりとデイドリーの拳を受け止めていた。

バリアから滴り落ちる液体。


「お…………お前…………これ…ま、まさか……ッッッッッッッッッ!!!!!」


(へっへへへ…………血遁・死利有斬螺朱《シリアルキラー》)


ズバッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!


「ゴブフッッッッッッッッッ!!!!!」


デイドリーの腹は横一線に切れ目が入り、血が噴き出した。

腹を押さえ、膝をつきつつもナトリを睨みつける。


「お………お前……なんで………印も結ばずに………!!!どうやって魔法…………ハッ!!!!!」


ナトリは喉が潰れているので声は出せない。

しかし、そこがポイントである。

ノコギリが刺さり、潰れた喉。

その時、ナトリの首に巻いていたチョーカーも切断されたのだ。

ナトリのチョーカーは、ヴィルホーンのマジックチョーカーではない。

溢れ出る力をセーブするためだけのものである。

決して、魔力漏れではない。

ナトリは昔から力も魔法も強かった。

なので両親は大金をはたいて、チョーカーを買ってあげた。

その制約がなくなった今、ナトリは魔道具を持たずとも印を結ばずとも魔法が使えるというわけである。


カンッッッッッッッッッ!!!


血遁でナタを天井に弾く。

斬り落とされた右腕。

そこから血が形となり、巨大な血の刀と化していた。


…………………………


睨み合う2人。

お互いに限界である。

いくら血遁で傷を塞いでるとは言え、ナトリは最後の一撃を放つので精一杯である。

これですべてが決まる。


「…………………。」


「…………………。」


ガラ…………


瓦礫が崩れ、床に接触。

同時に閃光が走った。






ドチャァッッッッッッッッッッッッ!!!!!


ナトリの血刃はデイドリーの両足を切断。

太ももから下がなくなったデイドリーは、床に這いつくばった。

ナトリはデイドリーに近づき、刃を突きつける。


「た…………す………け……て…………たすけ……てぇ……………。」


もがくデイドリー。

先ほどまでのイキリ散らかした姿はない。


「お………前ぇ………ヤクザじゃ……なくなった……んだろ…………!!!自警団がぁ…………人殺しなんかして………い……いいの………かよぉ………!!!」


「…………………。」


スッ………………


ナトリは刃をどかし、トボトボと歩き始めた。


(……………キヒ……キヒヒヒ………!!!バ〜〜〜〜カ!!!どこまでいってもテメェはアホのドチビだボケッッッ!!!)


震える体で印を組むデイドリー。

掌には、土でつくられた鋭利な塊。

力なく歩くナトリの後ろ姿に狙いを定めようと、手を前に出そうとした。


(死ねや…………ッッッッッッッッッッッッ!!!)


ガラッッッ…………


ズブッッッッッッッッッッッッ!!!!!!


「パギャッッッッッッッッッッッッ!!!!!」


なにか降ってきた。

そして首に突き刺さった。

なんなんだ。

なにが起きた。


(な………………ナタ………!!!)


そう、ナトリに弾き飛ばされ天井に刺さったナタ包丁。

それが落ち、デイドリーの首に突き刺さったのだ。

だが、まだ下がり具合が浅い。

引き抜いて、これも武器にしてやろう。

そう思い、手を回すとカンッとなにか当たった。


(あ。)


自分で出した土塊。

次の瞬間、勢いよく土塊が発射。

ナタはより深く突き刺さり、土塊の威力でデイドリーの首は切断された。

体は痙攣したが、すぐに静まった。

ナトリは後ろを振り向かず、顔を上に向ける。


(やると思ったよ…………流石に僕ちゃんも学習したさ…。…………残念…。)


ナトリvsデイドリー


ナトリ 勝利

デイドリー 死亡






(……………ごめんよタイト……。僕ちゃん…もう…一緒にカラオケ歌えないや………。)


ドサァッ……………






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。